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第一部
27 エレナ、殿下に花園へ誘われる
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コーデリア様とお会いしてから何日も経ったというのに、わたしのチート能力が開花する予兆は微塵もない。
ただ日にちだけが過ぎていく。
そしてなぜか一日一日とわたしに対する嫌がらせは減り、今は遠巻きにジロジロと見られる程度だ。
たっぷりある昼休みに、お兄様や殿下がわざわざ時間を割いてわたしを守ろうとしてくださっている事が申し訳なく思うくらい、本当に平穏な日々を過ごしている。
──そんなある日。
今日の昼はいつも待ち合わせている中庭に、お兄様がいらしていない。
朝はそんなこと何も言っていなかったのに。
「どうしてもエリオットが外せない急用があるらしい。私と二人で退屈じゃないかな?」
あの感情のない笑顔の殿下が、私を見つめている。
お兄様お一人の時はあっても、殿下お一人でいらっしゃる事は初めてなので緊張する。
そりゃ、お一人といっても少し離れたところにランス様もいらっしゃる。
いらっしゃるけれどあくまで側近として護衛されているだけなので、話しかけられることもない。
つまり二人きりと言っても過言ではない。
「退屈だなんてそんな」
殿下の整った顔をドキドキしながら見つめる。
感情のない笑顔でもイケメンだからもちろんドキドキするわけだけれど。
それ以上に、エレナとして殿下の事が好きで好きで仕方なくてドキドキする。
うっとりと見つめていたら、そっと殿下に視線を外されてしまった。
見つめられるのご迷惑だったかしら……
エレナの気持ちを否定された気分になって、ギュッと胸が苦しくなる。
「……裏庭の花園で躑躅が見頃だと聞いた。そこまで少し歩いて話をしよう」
「はい」
殿下に少し気まずそうな声で提案され、わたしは頷く。
歩き出した殿下の後ろをわたしも続く。
中庭から裏庭の花園に抜ける。
殿下がきっと近衛騎士候補の生徒達でも使って人払いでもさせたのだろう。
すれ違う人もほとんどいない。
たどり着いた花園を歩く殿下の歩みはゆっくりで、わたしが歩くペースを意識してくださっているのがわかる。
殿下が時おり花を愛でる為に動かす手を、食い入る様に見つめる。
大きくてゴツゴツ骨張った男らしい手。
そもそも殿下は見た目はキラキラしているけど、中性的な印象は全くない。
肩幅もしっかりある。
背が低くて子供みたいなエレナとは大違い。
あの男らしい大きな手に指を絡めたい。
見つめていただけで迷惑そうだったのに、手を繋ぐなんて無理に決まっている。
夢のまた夢だ。
エレナの願いを叶えてあげたい気持ちはあるけれど、わたしにはどうにもしてあげられない。
こんな時リア充女子なら自分から手を繋げるんだろうな。
ごめんね、エレナ。
「木陰で休もう」
そう言って木陰に置かれたベンチに向かう殿下の後を、手持ち無沙汰に追う。
ベンチの前で立ち止まった殿下は、胸ポケットからハンカチを取り出して広げると、わたしに座る様促した。
さすが本物の王子様は、やる事がスマートだわ……
「ありがとうございます」
お辞儀をして、座ろうと視線を落とすと、見たことのあるハンカチが目に入った。
「あ、あの。このハンカチ……」
「あぁ。以前エレナ嬢からもらった物だ」
去年、殿下のお誕生日に贈ったハンカチだ。
縁飾りのレースを編み、刺繍の図案を考え丁寧に何度も何度も布に針を運んだ記憶が蘇る。
「使っていただいているのですね!」
「もちろん」
これ以上好きになっても報われない事が分かっているのに、微笑む殿下の顔を見ると、胸の鼓動が速くなる。
ベンチに殿下と並んで二人座ると、心臓の音が聞こえちゃわないか心配。
ちらりと横顔を覗き見ると長いまつ毛が頬に影を落としているのがよく見える。
何一つ欠点のない完全無欠な王子様。
殿下が目を軽く閉じて、息を吸い込み喉を鳴らすのが見えた。
「エレナ嬢」
「はっはい!」
覗き見たのがバレたかと思って慌てたわたしの返事は、声が裏返っていた。
ただ日にちだけが過ぎていく。
そしてなぜか一日一日とわたしに対する嫌がらせは減り、今は遠巻きにジロジロと見られる程度だ。
たっぷりある昼休みに、お兄様や殿下がわざわざ時間を割いてわたしを守ろうとしてくださっている事が申し訳なく思うくらい、本当に平穏な日々を過ごしている。
──そんなある日。
今日の昼はいつも待ち合わせている中庭に、お兄様がいらしていない。
朝はそんなこと何も言っていなかったのに。
「どうしてもエリオットが外せない急用があるらしい。私と二人で退屈じゃないかな?」
あの感情のない笑顔の殿下が、私を見つめている。
お兄様お一人の時はあっても、殿下お一人でいらっしゃる事は初めてなので緊張する。
そりゃ、お一人といっても少し離れたところにランス様もいらっしゃる。
いらっしゃるけれどあくまで側近として護衛されているだけなので、話しかけられることもない。
つまり二人きりと言っても過言ではない。
「退屈だなんてそんな」
殿下の整った顔をドキドキしながら見つめる。
感情のない笑顔でもイケメンだからもちろんドキドキするわけだけれど。
それ以上に、エレナとして殿下の事が好きで好きで仕方なくてドキドキする。
うっとりと見つめていたら、そっと殿下に視線を外されてしまった。
見つめられるのご迷惑だったかしら……
エレナの気持ちを否定された気分になって、ギュッと胸が苦しくなる。
「……裏庭の花園で躑躅が見頃だと聞いた。そこまで少し歩いて話をしよう」
「はい」
殿下に少し気まずそうな声で提案され、わたしは頷く。
歩き出した殿下の後ろをわたしも続く。
中庭から裏庭の花園に抜ける。
殿下がきっと近衛騎士候補の生徒達でも使って人払いでもさせたのだろう。
すれ違う人もほとんどいない。
たどり着いた花園を歩く殿下の歩みはゆっくりで、わたしが歩くペースを意識してくださっているのがわかる。
殿下が時おり花を愛でる為に動かす手を、食い入る様に見つめる。
大きくてゴツゴツ骨張った男らしい手。
そもそも殿下は見た目はキラキラしているけど、中性的な印象は全くない。
肩幅もしっかりある。
背が低くて子供みたいなエレナとは大違い。
あの男らしい大きな手に指を絡めたい。
見つめていただけで迷惑そうだったのに、手を繋ぐなんて無理に決まっている。
夢のまた夢だ。
エレナの願いを叶えてあげたい気持ちはあるけれど、わたしにはどうにもしてあげられない。
こんな時リア充女子なら自分から手を繋げるんだろうな。
ごめんね、エレナ。
「木陰で休もう」
そう言って木陰に置かれたベンチに向かう殿下の後を、手持ち無沙汰に追う。
ベンチの前で立ち止まった殿下は、胸ポケットからハンカチを取り出して広げると、わたしに座る様促した。
さすが本物の王子様は、やる事がスマートだわ……
「ありがとうございます」
お辞儀をして、座ろうと視線を落とすと、見たことのあるハンカチが目に入った。
「あ、あの。このハンカチ……」
「あぁ。以前エレナ嬢からもらった物だ」
去年、殿下のお誕生日に贈ったハンカチだ。
縁飾りのレースを編み、刺繍の図案を考え丁寧に何度も何度も布に針を運んだ記憶が蘇る。
「使っていただいているのですね!」
「もちろん」
これ以上好きになっても報われない事が分かっているのに、微笑む殿下の顔を見ると、胸の鼓動が速くなる。
ベンチに殿下と並んで二人座ると、心臓の音が聞こえちゃわないか心配。
ちらりと横顔を覗き見ると長いまつ毛が頬に影を落としているのがよく見える。
何一つ欠点のない完全無欠な王子様。
殿下が目を軽く閉じて、息を吸い込み喉を鳴らすのが見えた。
「エレナ嬢」
「はっはい!」
覗き見たのがバレたかと思って慌てたわたしの返事は、声が裏返っていた。
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