【完結】破滅フラグを回避したいのに婚約者の座は譲れません⁈─王太子殿下の婚約者に転生したみたいだけど転生先の物語がわかりません─

江崎美彩

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第一部

47 恵玲奈は転生先の物語がわからないまま(第一部最終話)

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「シーワード子爵による、真珠養殖の研究における成果改竄の不正とイスファーン王国への密貿易事件ついての解決は、ダスティンに全て任せようと思っている」

 ある日、王立学園アカデミー内にある殿下の執務室に呼ばれたわたしは、そう殿下に告げられた。

「今回の件はシーワード子爵に長期間騙されていた貴族も多い。社交の場で糾弾したり、私が公爵領に内政干渉するよりも、正式な手続きに則って次期公爵となるダスティンが訴え、然るべき方法で貴族院で裁かれ、権利関係を詳らかにするべきだ」

 いつも多くの人がいたこの執務室も、今日はわたしと殿下の他はランス様とウェードが部屋の端に控えているだけだった。

 二人きりと言っても過言ではない。

 静かな執務室で殿下はわたしをソファに座らせると、隣に座り、じっと見つめる。
 真剣な眼差しは、どこまで話の理解できるのか様子を窺っているみたいで、いつもなら見つめられたらドキドキするけれど、今は緊張がまさっている。

 わたしも背筋を伸ばして、殿下の顔を見る。

「……殿下は、最初から糾弾するおつもりはなかったのですよね?」
「……そうだね。元々糾弾するつもりはなかったが、糾弾するくらいにコーデリア嬢に思わせないと、身内の悪事を認めることはなかったろうからね。ここでダスティンが手続きをしっかり手順を踏んで、シーワード子爵の悪事を訴えるという結果を出せば、子爵に苦しめられていた領民達がダスティンが爵位を継ぐことを歓迎するだろう」

 一瞬考えた様子の殿下は、わたしの質問に表面上の回答をする。

 ダスティン様が領民に認められるように。なんていうのは殿下にとって瑣末なことだ。

 わたしは殿下の目をじっと見ると、殿下は顔をそむけることもなく、愉快そうに目を細める。

「なにか、言いたいことがあるのかな?」

 わたしにはチート能力はないけれど、エレナの蓄えた知識のおかげで殿下の企みの背景が理解できてしまった。

「真珠養殖やイスファーン王国への輸出に関わる不正について、シーワード公爵がなにも知らないのは不自然です。貴族院で裁く準備を踏むことで公爵に時間を与えて、子爵の廃嫡でトカゲの尻尾切りをさせて恩を売るのですね?」
「エレナはそう考えるんだね。続きも聞きたいな」

 目の前のイケメンは否定も肯定もせずに私の話を楽しそうに聞く。

「最終的には殿下の息のかかったダスティン様がシーワード公爵になることにより、反王室派のシーワード公爵家を殿下の手中におさめることができます。それに領主達の中には、シーワード子爵に騙されて真珠養殖に投資し、斜陽の憂き目にあった方達もいると聞きました。公爵家次期当主が訴えるのならと同調して訴え始め、貴族院をシーワード公爵家だけで牛耳るのは難しくなるでしょう。いつからこんな画策をされてらしたのですか?」

 殿下は「国のためなんて大義名分振りかざして自分が上に立つ事ばかり考えている計算高い性悪男」なんてコーデリア様に言われていたけど、本当に腹黒いと思う。

「画策? 心外だな。私はエレナに言われたから自分の考えを改めて、この国の未来のために動いただけだよ。ただ『私と親しいダスティンが、次期公爵になる事を、多くの人間が歓迎することになること』になるのも『子爵の不正という弱みを握って、公爵を揺さぶること』も『貴族院で発言権のある領主達が真珠養殖の権利を主張するために、揃って子爵を訴えるだろうこと』も、偶然私に都合のいい結果としてついてきただけだ。それにダスティンは私の意のままに動くだけの男ではないよ」

 そういうと殿下は嬉しそうにニッコリと笑った。

 殿下が急にエレナを認めてくださったように振る舞われるのは、わたしが殿下の思惑通りに動く便利な駒だから?
 いろんな事が、殿下の思うがままに進んでいる様な気がする。
 やっぱり、殿下はこの世界のシナリオを知っているんじゃないか。って疑いが晴れない。

「……なんだか、わたしたちは物語の中に住んでいて、殿下だけが、その物語の行く末がわかっていて事が進んでいる様に感じます」

 意を決して殿下に伝えるけれど、殿下はキョトンとした顔をしている。
 相変わらずイケメンのキョトン顔は可愛い。

「物語? 本とか歴史的書の事かな? ……もし、そうであれば、歴史書に名を残せる様な治世者になりたいと思っているよ」

 わたしの質問にそう殿下は答えたけれど、はぐらかされたのかどうかは判断つかない。
 じっと殿下の顔を見つめる。

「残念ながら私には行く末なんてわからない。今回はエレナが背中を押してくれた結果だ。だからエレナ。私が良き治世者として歴史書に名を残せるように、迷っているときには背中を押しておくれ」

 目線を外さずに私に笑いかけた殿下はその大きな手の平にエレナの小さな手を乗せる。
 そっと指先に口づけをすると、窓から差す光で殿下の手元のカフスボタンがきらめいた。

 私は真っ赤に顔を染めながら、転生先この世界の物語も役割もわからないまま、まだまだ生きていかなくちゃいけない事は理解した。


第一部・完
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