【完結】破滅フラグを回避したいのに婚約者の座は譲れません⁈─王太子殿下の婚約者に転生したみたいだけど転生先の物語がわかりません─

江崎美彩

文字の大きさ
39 / 276
第一部

39 エレナとツンデレ公爵令嬢と誓いのイヤリング

しおりを挟む
「殿下。恐れ入りますが、伺ってもよろしいでしょうかっ!」

 自分がきっかけで睨み合いが始まったことなど微塵も気にしていないかの様なダスティン様の凛とした声が響く。

「構わない」
「ありがとうございます! 殿下はコーデリア様が私に好意を持っていらっしゃるとお思いなのはなぜですか?」
「思ってねぇよ。適当に言ってるに決まってるだろ」

 ダスティン様が真っ直ぐな眼で殿下に質問したのに、オーウェン様が答える。

「オーウェン。ダスティンは私に質問をしている。なぜお前が答えるんだ」
「上っ面だけで適当に答えてる様にしか思えないからだよ」
「適当ではない。見ていればわかる」
「へぇ。ちっとも俺にはわかりませんけど」
「常に冷静なコーデリア嬢があんなに激しく感情をあらわにするなど尋常ではない。感情が揺れ動き、抑えきれぬ程の好意を持っているのだろう事は想像に難くない。だからダスティン、自信を持つといい」

 殿下がダスティン様を励ましておっしゃる言葉の端々から、他人に興味がなさそうに思っていた殿下が、誰よりもコーデリア様の心を深く理解しているという事実が伝わり、わたしの心を重くする。

 コーデリア様が殿下を毛嫌いしていたから油断していた。
 殿下は、やっぱりコーデリア様に特別な感情をお持ちなんだ。

 わたしと同じくらい落ち込まれてるのでは? とダスティン様の様子を窺ってみると、殿下の事を尊敬の眼差しで見つめているのが見えた。
 ダスティン様は素直にその言葉の通り殿下のおっしゃる事を受け入れている。
 きっとコーデリア様はこういうダスティン様の素直で実直なところがお好きなのよね。

 なかなか気持ちが晴れないので、さっさとイヤリングをお渡しして屋敷に帰ろう。
 お兄様は一緒に帰ってくださるかしら。
 そう考えながらイヤリングをハンカチに包み直す。

「あの。ダスティン様。コーデリア様から受け取れないとお預かりしたイヤリングなので、ダスティン様にお返ししますね」
「……コーデリア様が受け取っていただけないにしろ、私がイヤリングを持っていても仕方がない。よろしければエレナ様受け取っていただけますか?」
「へ?」

 曇りのない眼でダスティン様に想定していない事を言われて、なんて答えればいいかわからない。

「ちょっと待ってダスティン! 本当に意味がわからない! なんで今度はエレナにイヤリングをプレゼントすることになるの⁈」

 お兄様のいいところは、こういう時に思った事をそのまま口に出して言うところだと思う。
 それを言ったら、まぁオーウェン様も思った事をすぐ言うのだけれど。

「このイヤリングを見て多くの方が殿下を想像されるというのなら、婚約者であるエレナ様が持たれているのが自然です」
「これを殿下がエレナに贈ったのなら自然だけど、ダスティンが贈ってたら不自然でしょ」
「私も貴族の端くれ。殿下の臣下です。私のものは全て主である殿下のものです。そう思えば何の問題もないですよ」

 いいこと思いついたみたいな晴れやかな顔してるダスティン様の感性には、やっぱりちょっと着いていけない。

 でもコーデリア様はこのイヤリングをダスティン様に返す様に言ってたし、ダスティン様も返されても困るのもよくわかる……

 この世界にもクーリングオフってあるのかしら……
 あったにしても、貴族は「買ったもの返すから返金しろ」なんて言わないか。
 捨てられちゃうのかな。
 素敵なイヤリングなのにもったいない。

 うーん。でも、絶対わたしが受け取るのはおかしいし。

 なんかうまいこと活用できないのかしら。
 リメイクとか。
 いろいろ考えていたら、すごくいい事思いついてしまった。

「ダスティン様! とりあえず、このイヤリングわたしがお預かりしていてもよろしいですか?」
「私は持っていても仕方のないものなので、エレナ様がよろしければお持ちください」
「いえいえ。お預かりするだけですから!」

 わたしはそそくさとハンカチにイヤリングを包み、お兄様に向き合う。

「お兄様! 明日、わたしの事を街に連れていってください!」
「駄目っ!」

 普段なら「エレナの頼みならしょうがないな」って言ってくれるお兄様が、ものすごい勢いで拒絶する。

「ねぇ。お兄様。お願いします」
「駄目なものはダメ! エレナは何を考えてるの? こないだ階段から足を踏み外したのだって、街にでて辛い思いしてフラフラだったからでしょ。なんでまた街に出ようとするの!」

 お兄様のいいところは思った事をそのまま口に出して言うところだと思う。

 階段から落ちたのは事故だけど、事故が起きたのには原因がある事がわかった。
 エレナは街で辛い思いをした。
 なんだろう。何があったんだろう。

 思い出そうとすると心に真っ黒な靄がたまっていく感じがして、心の中のエレナが思い出さないで! って叫んでる気がする。

「……わかりました。街に行かないで済む方法を考えてみます」
「よかった。エレナが何したいのかわからないけど、とにかく街に行かないでね」

 わたしの言葉に安心したお兄様が強くわたしを抱きしめる。
 お兄様の肩の向こうに、眉間に皺を寄せる殿下の顔が見えた。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

侯爵令嬢リリアンは(自称)悪役令嬢である事に気付いていないw

さこの
恋愛
「喜べリリアン! 第一王子の婚約者候補におまえが挙がったぞ!」  ある日お兄様とサロンでお茶をしていたらお父様が突撃して来た。 「良かったな! お前はフレデリック殿下のことを慕っていただろう?」  いえ! 慕っていません!  このままでは父親と意見の相違があるまま婚約者にされてしまう。  どうしようと考えて出した答えが【悪役令嬢に私はなる!】だった。  しかしリリアンは【悪役令嬢】と言う存在の解釈の仕方が……  *設定は緩いです  

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///) ※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。 《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

【完結】初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが

藍生蕗
恋愛
 子供の頃、一目惚れした相手から素気無い態度で振られてしまったリエラは、異性に好意を寄せる自信を無くしてしまっていた。  しかし貴族令嬢として十八歳は適齢期。  いつまでも家でくすぶっている妹へと、兄が持ち込んだお見合いに応じる事にした。しかしその相手には既に非公式ながらも恋人がいたようで、リエラは衆目の場で醜聞に巻き込まれてしまう。 ※ 本編は4万字くらいのお話です ※ 他のサイトでも公開してます ※ 女性の立場が弱い世界観です。苦手な方はご注意下さい。 ※ ご都合主義 ※ 性格の悪い腹黒王子が出ます(不快注意!) ※ 6/19 HOTランキング7位! 10位以内初めてなので嬉しいです、ありがとうございます。゚(゚´ω`゚)゚。  →同日2位! 書いてて良かった! ありがとうございます(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)

成人したのであなたから卒業させていただきます。

ぽんぽこ狸
恋愛
 フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。  すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。  メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。  しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。  それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。  そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。  変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。

悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。

三谷朱花
恋愛
私、クリスティアーヌは、ゼビア王国の皇太子の婚約者だ。だけど、学院の卒業を祝うべきパーティーで、婚約者であるファビアンに悪事を突き付けられることになった。その横にはおびえた様子でファビアンに縋り付き私を見る男爵令嬢ノエリアがいる。うつむきわなわな震える私は、顔を二人に向けた。悪役令嬢になるために。

死に戻りの悪役令嬢は、今世は復讐を完遂する。

乞食
恋愛
メディチ家の公爵令嬢プリシラは、かつて誰からも愛される少女だった。しかし、数年前のある事件をきっかけに周囲の人間に虐げられるようになってしまった。 唯一の心の支えは、プリシラを慕う義妹であるロザリーだけ。 だがある日、プリシラは異母妹を苛めていた罪で断罪されてしまう。 プリシラは処刑の日の前日、牢屋を訪れたロザリーに無実の証言を願い出るが、彼女は高らかに笑いながらこう言った。 「ぜーんぶ私が仕組んだことよ!!」 唯一信頼していた義妹に裏切られていたことを知り、プリシラは深い悲しみのまま処刑された。 ──はずだった。 目が覚めるとプリシラは、三年前のロザリーがメディチ家に引き取られる前日に、なぜか時間が巻き戻っていて──。 逆行した世界で、プリシラは義妹と、自分を虐げていた人々に復讐することを誓う。

処理中です...