46 / 276
第一部
46 エレナとマーガレットのカフスボタン
しおりを挟む
「ねぇ。エレナ。本当にこのカフスボタンをもらってもいいの?」
「……殿下さえよろしければどうぞ」
殿下は、満足げに身に付けたカフスボタンを眺めている。
どういうつもりなんだろう。
殿下はコーデリア様のことがお好きなのかと思っていたのに今日の振る舞いからはそんなことは感じない。
むしろダスティン様の恋路を応援していらした。
なんならエレナが作ったカフスボタンを喜んでつけてくれている。
もしかして殿下もエレナの事を好きだったりして……
なんて、都合の良い事を考えてみても、エレナには悪いけど、殿下が子供みたいなエレナを好きになる要素は何も思いつかない。
きっと、このカフスボタンをつけていれば、殿下とエレナは円満に見える。
エレナに直接嫌がらせをする人は表面上はいなくなったけど、噂によると今でもエレナは殿下にふさわしくない、他にもふさわしいご令嬢がいると言っている人がたくさんいるらしい。
王室に仕える重臣達は自分達に都合のいい家のご令嬢と殿下を結婚させようと未だに画策したりしていて、殿下はそういうのを煩わしく思っていらっしゃっているそうだ。
正式に婚約発表するのは殿下のお誕生日なので、最低でもあと半年近くはその画策が続く。
エレナと円満なんだ、入る隙などない。と殿下を陥れようとする人物達を牽制するために、身につけたいんだ。
多分そういう事だ。
殿下はカフスボタンに触れる手を止めて、ベンチから立ち上がり、わたしに向き合う。
「エレナに謝らなくてはいけないことがある」
「謝らなくてはいけないこと?」
殿下は思い詰めた様な顔をして、わたしを見つめる。
王族である殿下が謝るなんて滅多にない事だ。
嫌な想像ばかりが頭の中にどんどんと浮かんでくる。
「毎年エレナの誕生日には私がその一年で読んで興味深かった本を贈ることになっていただろう。今までは空いている時間は読書をして過ごしていたが、この一年間は、空いている時間はエレナの事を考えているばかりで本を読むのが疎かになっていた。いつもの年のように誕生日に本を贈ることは叶わない」
何かと思ったらそんな事か。
エレナがボロボロになるほど教科書みたいな本を読み込んでいたのは、殿下が誕生日プレゼントに贈ってくださっていたから。
そうか誕生日かぁ。
きっと、エレナは今年も楽しみにしてただろうなぁ……
って。え?
エレナの事ばかり考えて本を読めなかったって……
「エレナはあまりアクセサリーを身につけるのが好きではないのは分かってはいるが……今年の贈り物はこれでいいかな」
殿下はひざまずいて、わたしの耳にイヤリングをつける。
「誕生日おめでとうエレナ。いつもそばにいるよ。私はお伽話の王子様かもしれないが、これくらいならしても許されるかな?」
耳元で囁くと、今まで見たことのないくらい穏やかな笑顔でわたしを見つめ手を取る。
ちょっと待って?
殿下はお伽話の王子様なの? というか物語の登場人物って自覚があるの?
えっ! もしかして殿下も転生者なの?
殿下は物語のこの先の展開を知っていて、だからなんだか殿下の都合のいい様に話が進んでいるの?
わたしのパニックを知らない殿下は、穏やかな笑顔を浮かべるとわたしの指先に唇を落とした。
お伽話の王子様みたいなポーズで殿下にキスされたことや、うっとりとする穏やかな笑顔とエレナの事ばかり考えていたなんて甘い囁きにときめく。
それと同時に、殿下も転生者かもしれないという疑いでわたしはキャパオーバーで倒れ……られなかった。
貧血でもないし。
わたしの演技力だと、倒れたふりもできる気がしない。
リーンゴーン
パニックになったわたしに助け舟を出す様に昼休みが終わる事を告げる鐘が鳴り響く。
わたしはベンチから立ち上がると、殿下に挨拶をして、脱兎の如く四阿を逃げ去ることしか出来なかった。
そして、逃げ戻って受けた午後の講義は記憶にないし、気がついたら屋敷に戻ってた。
髪の毛で耳を隠すようにしていたのに、隣に座っていたスピカさんにめざとくイヤリングを見つけられて「素敵」と微笑まれた事だけ、鮮明に記憶に残った。
「……殿下さえよろしければどうぞ」
殿下は、満足げに身に付けたカフスボタンを眺めている。
どういうつもりなんだろう。
殿下はコーデリア様のことがお好きなのかと思っていたのに今日の振る舞いからはそんなことは感じない。
むしろダスティン様の恋路を応援していらした。
なんならエレナが作ったカフスボタンを喜んでつけてくれている。
もしかして殿下もエレナの事を好きだったりして……
なんて、都合の良い事を考えてみても、エレナには悪いけど、殿下が子供みたいなエレナを好きになる要素は何も思いつかない。
きっと、このカフスボタンをつけていれば、殿下とエレナは円満に見える。
エレナに直接嫌がらせをする人は表面上はいなくなったけど、噂によると今でもエレナは殿下にふさわしくない、他にもふさわしいご令嬢がいると言っている人がたくさんいるらしい。
王室に仕える重臣達は自分達に都合のいい家のご令嬢と殿下を結婚させようと未だに画策したりしていて、殿下はそういうのを煩わしく思っていらっしゃっているそうだ。
正式に婚約発表するのは殿下のお誕生日なので、最低でもあと半年近くはその画策が続く。
エレナと円満なんだ、入る隙などない。と殿下を陥れようとする人物達を牽制するために、身につけたいんだ。
多分そういう事だ。
殿下はカフスボタンに触れる手を止めて、ベンチから立ち上がり、わたしに向き合う。
「エレナに謝らなくてはいけないことがある」
「謝らなくてはいけないこと?」
殿下は思い詰めた様な顔をして、わたしを見つめる。
王族である殿下が謝るなんて滅多にない事だ。
嫌な想像ばかりが頭の中にどんどんと浮かんでくる。
「毎年エレナの誕生日には私がその一年で読んで興味深かった本を贈ることになっていただろう。今までは空いている時間は読書をして過ごしていたが、この一年間は、空いている時間はエレナの事を考えているばかりで本を読むのが疎かになっていた。いつもの年のように誕生日に本を贈ることは叶わない」
何かと思ったらそんな事か。
エレナがボロボロになるほど教科書みたいな本を読み込んでいたのは、殿下が誕生日プレゼントに贈ってくださっていたから。
そうか誕生日かぁ。
きっと、エレナは今年も楽しみにしてただろうなぁ……
って。え?
エレナの事ばかり考えて本を読めなかったって……
「エレナはあまりアクセサリーを身につけるのが好きではないのは分かってはいるが……今年の贈り物はこれでいいかな」
殿下はひざまずいて、わたしの耳にイヤリングをつける。
「誕生日おめでとうエレナ。いつもそばにいるよ。私はお伽話の王子様かもしれないが、これくらいならしても許されるかな?」
耳元で囁くと、今まで見たことのないくらい穏やかな笑顔でわたしを見つめ手を取る。
ちょっと待って?
殿下はお伽話の王子様なの? というか物語の登場人物って自覚があるの?
えっ! もしかして殿下も転生者なの?
殿下は物語のこの先の展開を知っていて、だからなんだか殿下の都合のいい様に話が進んでいるの?
わたしのパニックを知らない殿下は、穏やかな笑顔を浮かべるとわたしの指先に唇を落とした。
お伽話の王子様みたいなポーズで殿下にキスされたことや、うっとりとする穏やかな笑顔とエレナの事ばかり考えていたなんて甘い囁きにときめく。
それと同時に、殿下も転生者かもしれないという疑いでわたしはキャパオーバーで倒れ……られなかった。
貧血でもないし。
わたしの演技力だと、倒れたふりもできる気がしない。
リーンゴーン
パニックになったわたしに助け舟を出す様に昼休みが終わる事を告げる鐘が鳴り響く。
わたしはベンチから立ち上がると、殿下に挨拶をして、脱兎の如く四阿を逃げ去ることしか出来なかった。
そして、逃げ戻って受けた午後の講義は記憶にないし、気がついたら屋敷に戻ってた。
髪の毛で耳を隠すようにしていたのに、隣に座っていたスピカさんにめざとくイヤリングを見つけられて「素敵」と微笑まれた事だけ、鮮明に記憶に残った。
14
あなたにおすすめの小説
【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
侯爵令嬢リリアンは(自称)悪役令嬢である事に気付いていないw
さこの
恋愛
「喜べリリアン! 第一王子の婚約者候補におまえが挙がったぞ!」
ある日お兄様とサロンでお茶をしていたらお父様が突撃して来た。
「良かったな! お前はフレデリック殿下のことを慕っていただろう?」
いえ! 慕っていません!
このままでは父親と意見の相違があるまま婚約者にされてしまう。
どうしようと考えて出した答えが【悪役令嬢に私はなる!】だった。
しかしリリアンは【悪役令嬢】と言う存在の解釈の仕方が……
*設定は緩いです
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。
《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》
【完結】初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが
藍生蕗
恋愛
子供の頃、一目惚れした相手から素気無い態度で振られてしまったリエラは、異性に好意を寄せる自信を無くしてしまっていた。
しかし貴族令嬢として十八歳は適齢期。
いつまでも家でくすぶっている妹へと、兄が持ち込んだお見合いに応じる事にした。しかしその相手には既に非公式ながらも恋人がいたようで、リエラは衆目の場で醜聞に巻き込まれてしまう。
※ 本編は4万字くらいのお話です
※ 他のサイトでも公開してます
※ 女性の立場が弱い世界観です。苦手な方はご注意下さい。
※ ご都合主義
※ 性格の悪い腹黒王子が出ます(不快注意!)
※ 6/19 HOTランキング7位! 10位以内初めてなので嬉しいです、ありがとうございます。゚(゚´ω`゚)゚。
→同日2位! 書いてて良かった! ありがとうございます(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)
成人したのであなたから卒業させていただきます。
ぽんぽこ狸
恋愛
フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。
すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。
メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。
しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。
それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。
そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。
変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。
悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。
三谷朱花
恋愛
私、クリスティアーヌは、ゼビア王国の皇太子の婚約者だ。だけど、学院の卒業を祝うべきパーティーで、婚約者であるファビアンに悪事を突き付けられることになった。その横にはおびえた様子でファビアンに縋り付き私を見る男爵令嬢ノエリアがいる。うつむきわなわな震える私は、顔を二人に向けた。悪役令嬢になるために。
死に戻りの悪役令嬢は、今世は復讐を完遂する。
乞食
恋愛
メディチ家の公爵令嬢プリシラは、かつて誰からも愛される少女だった。しかし、数年前のある事件をきっかけに周囲の人間に虐げられるようになってしまった。
唯一の心の支えは、プリシラを慕う義妹であるロザリーだけ。
だがある日、プリシラは異母妹を苛めていた罪で断罪されてしまう。
プリシラは処刑の日の前日、牢屋を訪れたロザリーに無実の証言を願い出るが、彼女は高らかに笑いながらこう言った。
「ぜーんぶ私が仕組んだことよ!!」
唯一信頼していた義妹に裏切られていたことを知り、プリシラは深い悲しみのまま処刑された。
──はずだった。
目が覚めるとプリシラは、三年前のロザリーがメディチ家に引き取られる前日に、なぜか時間が巻き戻っていて──。
逆行した世界で、プリシラは義妹と、自分を虐げていた人々に復讐することを誓う。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる