【完結】破滅フラグを回避したいのに婚約者の座は譲れません⁈─王太子殿下の婚約者に転生したみたいだけど転生先の物語がわかりません─

江崎美彩

文字の大きさ
72 / 276
第二部

22 エレナ、お兄様の思惑に巻き込まれる

しおりを挟む
 結局、わたしは寝不足のまま通訳を行う羽目になった。

 昨晩アイラン様がおっしゃっていた様に今日の茶会は互いの国の特産品を売り込むプレゼンの場だ。
 この国の貴族達もイスファーンに色んなものを売り込みたいし、イスファーンの使者達もこちらに色んなものを売り込みたくてギラギラしてる。

 ちなみに我がトワイン領の特産品は農作物が中心だから、ワインやチーズくらいは輸出できるけど後は時間と輸送費をかけてわざわざ輸出しても赤字になりそうなものばかりだ。
 王都が近い地の利を活かして、新鮮なうちにとれたて野菜を王都に売りに行くので十分。
 そして多分うちの領地で一番お金になるのは馬なんだけど、馬は軍事力にも繋がるからおいそれと他国に輸出したりはしない。
 自領にメリットがない話だからお兄様は乗り気ではなくて、アイラン様をチヤホヤするのに忙しいふりをして貴族達の通訳をしてあげるつもりは全くないらしい。
 
 主催者として忙しくされているコーデリア様達は他の貴族達にわたしを紹介する様にせっつかれ、気を遣いながら橋渡しをしてくださる。
 紹介されたいろんな貴族達がイスファーンの使者達に通訳してほしいと媚びをうってくる。
 ……やっぱり、お兄様に騙された気がする。



『エレナ。きちんと紹介してる?』
『しております』

 通訳があらかた終わって疲れ果てたわたしがやっと椅子に座ると、アイラン様が殿下とお兄様の腕にまとわりついて登場してきた。

 イケメン×2に美少女。
 あ、後ろを歩くランス様とアイラン様の侍女も美しい。
 画面がまぶしい。
 モブも着飾った貴族ばかりだから、キラキラエフェクトで絵面がガチャガチャする。

『どう? イスファーンの品は』
『評判よろしいですよ』

 テーブルに置かれた金属加工品や陶芸品、毛織物などに宝飾品。
 デザインが異国情緒エキゾチックにあふれてるので、新しいものが好きな貴族には流行るだろうなって思う。

『エレナも何か気に入ったものがあればあげるわよ』

 アイラン様は茶会に飽きているのか、自分達が持ってきた品物の中からとりわけ絢爛豪華な宝飾品をわたしに飾り付け、鏡を差し出す。

 ……似合わない。

 自分でもそう思った途端、ブフッという笑い声が聞こえて振り返ると思い切り吹き出したお兄様と苦笑いの殿下がいた。

「ひどいわ」
「ごめんごめん。似合う似合う。可愛い可愛い」
「ちっとも心がこもってない」

『シリル殿下もエリオットもいかが?』

 そう言ってアイラン様は殿下とお兄様に毛糸で編まれた胴着ジレを渡す。

 お兄様が受け取ったジレをわたしも覗き込む。
 茶系が二色と白の三色の糸で雪の結晶模様が編み込まれたジレは裏を見ると糸が三重に渡っていて空気をたっぷり含んで暖かそう。

 それにしても海を挟んで南に位置するイスファーンの特産品が毛糸の編み物だなんて不思議。

『素敵なジレ。手編みですか? 目が揃ってて均一だわ。素晴らしい職人を抱えていらっしゃるのね』
『あら、職人なんかいないわ。これは編み機で編んでるのよ。シケで漁に出れない時に漁師達が収入源を確保するために作ってるのよ。編み機で作るからコツさえ掴めば誰が作っても目が揃いやすいのよ。まぁでも、うちの国はあまり羊がいないから高級品になっちゃうのよね。冬も寒くないから需要も少ないし。でもよその国なら欲しがる国もあるでしょ?』

 わたしの質問にアイラン様は答える。

 たしかに漁師は漁の網の補修をするから編み物が上手で、フィッシャーマンニットなんて言われてるとか、聞いたことがある。
 ……あれ? これってエレナの記憶? 恵玲奈の記憶?
 それに編み機を使うなら網の補修は関係ないような?
 っていうか編み機? 織り機は領地でも使ってるけど編み機?
 それにイスファーンは一年中温暖な気温で雪なんて降らないはず。
 雪の結晶模様って……

『アイラン様! よければ王都観光は取りやめて、うちの領地の祭りに来ませんか?』

 私が黙って考え込んでいると、お兄様がいきなりアイラン様の手を取りお祭りに誘っている。

「えっ? お兄様急に何を言ってるの?」
「ほら、うちにはいっぱい羊がいるじゃない。毎年使い道に困るほど羊毛が余るのをイスファーンに輸出するとか、そのなんだっけ、編み機? が輸入できる様なものなら、農閑期に毛糸でジレ作って北の方に売りつけようよ。オーウェンの領地は北の国境近くだし、僕がうまいこと取り入るよ」

 お兄様の思いつきに、ピンとくる。
 お兄様が大好きな金儲けのチャンスだ。

「それに、北の方の国に輸出してもいいと思うんだよね! ほら、北の街道も整備しないといけないのに利権争いで南の街道ばかり予算持っていかれて南ばかり栄えてるじゃない。交易が活発になれば街道整備もやりやすくなるし。父上ってば国土開発に携わる役職に着いているのに、治水事業ばかりに夢中なんだもの。せっかくうちの領地に通る街道も権力をかさに着て国の予算を引っ張って整備すればいいのにもったいない。……っていまはそれは置いといて、とにかくうちで有り余ってる羊毛を有効に活用するためにもイスファーンの使者に見てもらわないと!」
「そうね、羊毛がいっぱいあるのに、領地だけで使いきれなくて肥料にしちゃうものね。もちろん肥料も大切だけど、別に他にも肥料にできるものはたくさんあるし、少しでも羊毛が高く売れるならそれに越したことはないわ。しかも、もし編み機が手に入れば手編みと違って一定品質の物が量産できるから特産品として売りに出せるってことよね」
「でしょ! 任せてエレナ」

 お兄様は手に取っていたままのアイラン様の手を握りしめる。
 イスファーン語しかわからないアイラン様は捲し立てるようにわたしに話すお兄様の言っていることは理解できないのか戸惑っていた。

『これから始まる我が領地の祭りは麦の実りに感謝をし、夏から秋の作物の豊作を願い、女神に祈りを捧げます。活気があって毎年盛り上がるのですが、アイラン様の様な美しいお姫様がいらしたら領民達も皆喜びます。どうです? お祭りの視察しがてら羊を見に来ませんか?』

 腰をかがめてお兄様は戸惑っていたアイラン様の顔を上目遣いで覗き込む。
 相変わらずあざとい。
 アイラン様は近づいたお兄様の顔に赤面している。

『そっ、そこまで言うなら行ってあげるわ』
『ありがとうございます。祭りの期間中も私とエレナがアイラン様のそばでエスコートいたしますのでご安心ください』

 ……って、あれ?
 お祭り期間って、アイラン様の案内係から解放されるんじゃなかったっけ……
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

侯爵令嬢リリアンは(自称)悪役令嬢である事に気付いていないw

さこの
恋愛
「喜べリリアン! 第一王子の婚約者候補におまえが挙がったぞ!」  ある日お兄様とサロンでお茶をしていたらお父様が突撃して来た。 「良かったな! お前はフレデリック殿下のことを慕っていただろう?」  いえ! 慕っていません!  このままでは父親と意見の相違があるまま婚約者にされてしまう。  どうしようと考えて出した答えが【悪役令嬢に私はなる!】だった。  しかしリリアンは【悪役令嬢】と言う存在の解釈の仕方が……  *設定は緩いです  

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///) ※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。 《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

【完結】初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが

藍生蕗
恋愛
 子供の頃、一目惚れした相手から素気無い態度で振られてしまったリエラは、異性に好意を寄せる自信を無くしてしまっていた。  しかし貴族令嬢として十八歳は適齢期。  いつまでも家でくすぶっている妹へと、兄が持ち込んだお見合いに応じる事にした。しかしその相手には既に非公式ながらも恋人がいたようで、リエラは衆目の場で醜聞に巻き込まれてしまう。 ※ 本編は4万字くらいのお話です ※ 他のサイトでも公開してます ※ 女性の立場が弱い世界観です。苦手な方はご注意下さい。 ※ ご都合主義 ※ 性格の悪い腹黒王子が出ます(不快注意!) ※ 6/19 HOTランキング7位! 10位以内初めてなので嬉しいです、ありがとうございます。゚(゚´ω`゚)゚。  →同日2位! 書いてて良かった! ありがとうございます(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)

成人したのであなたから卒業させていただきます。

ぽんぽこ狸
恋愛
 フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。  すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。  メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。  しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。  それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。  そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。  変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。

悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。

三谷朱花
恋愛
私、クリスティアーヌは、ゼビア王国の皇太子の婚約者だ。だけど、学院の卒業を祝うべきパーティーで、婚約者であるファビアンに悪事を突き付けられることになった。その横にはおびえた様子でファビアンに縋り付き私を見る男爵令嬢ノエリアがいる。うつむきわなわな震える私は、顔を二人に向けた。悪役令嬢になるために。

死に戻りの悪役令嬢は、今世は復讐を完遂する。

乞食
恋愛
メディチ家の公爵令嬢プリシラは、かつて誰からも愛される少女だった。しかし、数年前のある事件をきっかけに周囲の人間に虐げられるようになってしまった。 唯一の心の支えは、プリシラを慕う義妹であるロザリーだけ。 だがある日、プリシラは異母妹を苛めていた罪で断罪されてしまう。 プリシラは処刑の日の前日、牢屋を訪れたロザリーに無実の証言を願い出るが、彼女は高らかに笑いながらこう言った。 「ぜーんぶ私が仕組んだことよ!!」 唯一信頼していた義妹に裏切られていたことを知り、プリシラは深い悲しみのまま処刑された。 ──はずだった。 目が覚めるとプリシラは、三年前のロザリーがメディチ家に引き取られる前日に、なぜか時間が巻き戻っていて──。 逆行した世界で、プリシラは義妹と、自分を虐げていた人々に復讐することを誓う。

処理中です...