80 / 276
第二部
30 エレナ、領地のお祭りに向かう
しおりを挟む
屋敷に到着すると入れ違いで屋敷を出るお父様とお母様を見送り、メリーに部屋へ押し込まれる。
サイズ合わせのためにメリーの手によって着せられた女神様の衣装は、真っ白な綿紗生地をたっぷり使ったハイウェストのシュミーズドレスで、まるでギリシャ神話とかの世界から出てきた様な雰囲気がある。
もちろん貴族の奥方様であるお母様やお嬢様のエレナが着るものだからいやらしい感じではないけれど、体のラインを拾うので結構恥ずかしい。
着終わると、毎年お母様が女神様の格好をする時に身につけている金メッキの腕輪や冠、ネックレスそれにイヤリングなんかのアクセサリーと麦の穂を模した杖を、家令のノヴァが仰々しく運び込む。
メイド達が嬉々としながらわたしを飾り付けていくのを暖かな眼差しでノヴァとメリーが眺めている。
アクセサリーがめちゃくちゃ重い。
確か今までエレナはこんなにアクセサリーはつけてなかったと思うんだけど……
「これ全部わたしがつけるの? お母様の分は?」
わたしの質問にノヴァとメリーが目を丸くする。
「エレナ様。何をおっしゃってるんですか。奥様はもう着られませんよ。今年の祭りからはエレナ様がお一人で女神様として振る舞っていただくことになっていらっしゃるじゃないですか」
ノヴァの発言に今度はわたしが目を丸くするしかなかった。
「お兄様! わたしが一人で女神様の格好をするなんて聞いてないわ!」
わたしは、女神様の衣装のままお兄様の部屋のドアをノックと同時に勢いよく開ける。
「え? 去年のお祭りの時に父上がエレナに「来年からはエレナが一人でやるんだよ」って言ってたよ。どうせエレナの事だから、頭の中で誕生日に殿下からもらった歴史論文の討論会でも開催してて、父上の話をちゃんと話を聞いてなかったんでしょ。みんなのことを困らせたらダメだよ。それに似合ってるから、大丈夫。大丈夫。できる。できる」
お兄様はわたしの事をろくに見もしないで、ユーゴにいれてもらったお茶を飲みながら祭りで子供達に配る胡桃のケーキを味見している。
「ユーゴのいれるお茶はいつも渋いね」
「仕方ないじゃないですか。だって、いつもお茶を抽出している最中にエリオット様が急に僕に用を言いつけるから、戻った頃には砂時計が落ちきっていて渋くなるんですからね」
ユーゴは拗ねたようにお兄様を見上げる。あざとい。
「あはは。僕のせいか」
暢気に笑うイケメンが腹立たしい。
「ユーゴは用意しながらお茶をいれるから、用意してる最中にお兄様から違うお菓子も食べたいとか、ミルクを入れたいだとか、砂糖じゃなくて蜂蜜の気分だとか好き勝手にわがままを言われるんだわ。メリーみたいに先に聞いてからお茶をいれてしまえばいいのよ。お兄様にわがままを言わせる隙なんて与えちゃだめよ。そりゃメリーのお茶がこの世で一番美味しいけれど、ユーゴだって普通にすれば一応は飲めるお茶をいれられるわ」
「……エレナ様は僕にばかり厳しい」
美少年が唇を尖らすのは可愛いけれど、いまはほだされない。
「違うよユーゴ。エレナは僕にも厳しいよ」
「違うわ。わたしはお兄様がユーゴにわがままばかり言うからユーゴに助言をしているだけよ。ユーゴに厳しい訳じゃないわ」
「ははっ。エレナは僕にばかり厳しい」
お兄様はそういって肩をすくめる。
「ねぇ、お兄様わざと話を逸らしてるでしょう? 本当に今年はわたしが一人で女神様の格好をしないといけないの? お母様はご一緒くださらないの?」
「くださらないよ。だってほら今年から母上は父上と祭りに来るのが難しい村の慰問に行かれてるでしょ? 母上はいつも父上が一人で行かれるのを心配なさっていたから、今年はご一緒できるって喜んでご出立されたのをさっき見送ったじゃない」
そうよね。さっき見送って祭りの最終日に戻るっ聞いたばかりだった。
「あっ、メリー。そういえば今年も子供達に配るのは胡桃のケーキなの?」
私の後を追いかけてきたメリーにお兄様は声をかける。
「もう! お兄様、そうやってまたすぐ話を逸らさないで」
「だから去年から決まってたことだって言ってるじゃない。祭りは実質ノヴァが取り仕切ってくれてるけれど、もう今年からは名目上僕とエレナが祭りの主催者なんだから。今更女神様をやりたくないなんて、それこそエレナのわがままだ」
「でも……」
去年のエレナの記憶が曖昧すぎて、去年から決まった話と言われてしまうと何も言い返せない。
わたしが恨みがましくお兄様の事を見つめていても、お兄様は取りあってくれる気はないみたい。
素知らぬ顔で紅茶を飲んであまりの渋さに顰めっ面をする。
「ねぇ、メリー。もう胡桃のケーキはいっぱい焼いちゃったの? いまから僕の好きなクッキーに変えるのはどう? 主催者の僕が好きなクッキーを子供達に配るのもありだと思わない?」
お兄様はまた話を逸らす。
「もう準備は終わっているので無理ですよ。いくらエリオット坊ちゃんからのお願いでも聞けません」
「やっぱり駄目か」
「駄目だって分かってるのに仰っているのはメリーにはお見通しですからね。それに今年は、シリル殿下が祭りにお越しになるんですから……やっと胡桃のケーキを食べていただけますからね」
そう言ってメリーは泣きそうな顔でわたしの事をギュッと抱きしめる。
殿下がお越しになるから?
「……だからやめておきたいのに」
メリーの胸の中で聞いたお兄様の呟きの意味はこの時のわたしには理解ができなかった。
サイズ合わせのためにメリーの手によって着せられた女神様の衣装は、真っ白な綿紗生地をたっぷり使ったハイウェストのシュミーズドレスで、まるでギリシャ神話とかの世界から出てきた様な雰囲気がある。
もちろん貴族の奥方様であるお母様やお嬢様のエレナが着るものだからいやらしい感じではないけれど、体のラインを拾うので結構恥ずかしい。
着終わると、毎年お母様が女神様の格好をする時に身につけている金メッキの腕輪や冠、ネックレスそれにイヤリングなんかのアクセサリーと麦の穂を模した杖を、家令のノヴァが仰々しく運び込む。
メイド達が嬉々としながらわたしを飾り付けていくのを暖かな眼差しでノヴァとメリーが眺めている。
アクセサリーがめちゃくちゃ重い。
確か今までエレナはこんなにアクセサリーはつけてなかったと思うんだけど……
「これ全部わたしがつけるの? お母様の分は?」
わたしの質問にノヴァとメリーが目を丸くする。
「エレナ様。何をおっしゃってるんですか。奥様はもう着られませんよ。今年の祭りからはエレナ様がお一人で女神様として振る舞っていただくことになっていらっしゃるじゃないですか」
ノヴァの発言に今度はわたしが目を丸くするしかなかった。
「お兄様! わたしが一人で女神様の格好をするなんて聞いてないわ!」
わたしは、女神様の衣装のままお兄様の部屋のドアをノックと同時に勢いよく開ける。
「え? 去年のお祭りの時に父上がエレナに「来年からはエレナが一人でやるんだよ」って言ってたよ。どうせエレナの事だから、頭の中で誕生日に殿下からもらった歴史論文の討論会でも開催してて、父上の話をちゃんと話を聞いてなかったんでしょ。みんなのことを困らせたらダメだよ。それに似合ってるから、大丈夫。大丈夫。できる。できる」
お兄様はわたしの事をろくに見もしないで、ユーゴにいれてもらったお茶を飲みながら祭りで子供達に配る胡桃のケーキを味見している。
「ユーゴのいれるお茶はいつも渋いね」
「仕方ないじゃないですか。だって、いつもお茶を抽出している最中にエリオット様が急に僕に用を言いつけるから、戻った頃には砂時計が落ちきっていて渋くなるんですからね」
ユーゴは拗ねたようにお兄様を見上げる。あざとい。
「あはは。僕のせいか」
暢気に笑うイケメンが腹立たしい。
「ユーゴは用意しながらお茶をいれるから、用意してる最中にお兄様から違うお菓子も食べたいとか、ミルクを入れたいだとか、砂糖じゃなくて蜂蜜の気分だとか好き勝手にわがままを言われるんだわ。メリーみたいに先に聞いてからお茶をいれてしまえばいいのよ。お兄様にわがままを言わせる隙なんて与えちゃだめよ。そりゃメリーのお茶がこの世で一番美味しいけれど、ユーゴだって普通にすれば一応は飲めるお茶をいれられるわ」
「……エレナ様は僕にばかり厳しい」
美少年が唇を尖らすのは可愛いけれど、いまはほだされない。
「違うよユーゴ。エレナは僕にも厳しいよ」
「違うわ。わたしはお兄様がユーゴにわがままばかり言うからユーゴに助言をしているだけよ。ユーゴに厳しい訳じゃないわ」
「ははっ。エレナは僕にばかり厳しい」
お兄様はそういって肩をすくめる。
「ねぇ、お兄様わざと話を逸らしてるでしょう? 本当に今年はわたしが一人で女神様の格好をしないといけないの? お母様はご一緒くださらないの?」
「くださらないよ。だってほら今年から母上は父上と祭りに来るのが難しい村の慰問に行かれてるでしょ? 母上はいつも父上が一人で行かれるのを心配なさっていたから、今年はご一緒できるって喜んでご出立されたのをさっき見送ったじゃない」
そうよね。さっき見送って祭りの最終日に戻るっ聞いたばかりだった。
「あっ、メリー。そういえば今年も子供達に配るのは胡桃のケーキなの?」
私の後を追いかけてきたメリーにお兄様は声をかける。
「もう! お兄様、そうやってまたすぐ話を逸らさないで」
「だから去年から決まってたことだって言ってるじゃない。祭りは実質ノヴァが取り仕切ってくれてるけれど、もう今年からは名目上僕とエレナが祭りの主催者なんだから。今更女神様をやりたくないなんて、それこそエレナのわがままだ」
「でも……」
去年のエレナの記憶が曖昧すぎて、去年から決まった話と言われてしまうと何も言い返せない。
わたしが恨みがましくお兄様の事を見つめていても、お兄様は取りあってくれる気はないみたい。
素知らぬ顔で紅茶を飲んであまりの渋さに顰めっ面をする。
「ねぇ、メリー。もう胡桃のケーキはいっぱい焼いちゃったの? いまから僕の好きなクッキーに変えるのはどう? 主催者の僕が好きなクッキーを子供達に配るのもありだと思わない?」
お兄様はまた話を逸らす。
「もう準備は終わっているので無理ですよ。いくらエリオット坊ちゃんからのお願いでも聞けません」
「やっぱり駄目か」
「駄目だって分かってるのに仰っているのはメリーにはお見通しですからね。それに今年は、シリル殿下が祭りにお越しになるんですから……やっと胡桃のケーキを食べていただけますからね」
そう言ってメリーは泣きそうな顔でわたしの事をギュッと抱きしめる。
殿下がお越しになるから?
「……だからやめておきたいのに」
メリーの胸の中で聞いたお兄様の呟きの意味はこの時のわたしには理解ができなかった。
5
あなたにおすすめの小説
【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
【完結】第一王子の婚約者になりましたが、妃になるにはまだまだ先がみえません!
風見ゆうみ
恋愛
「王族に嫁いだ者は、夫を二人もつ事を義務化とする」
第二王子の婚約者である私の親友に恋をした第三王子のワガママなお願いを無効にするまでのもう一人の夫候補として思い浮かんだのは、私に思いを寄せてくれていた次期公爵。
夫候補をお願いしたことにより第一王子だけでなく次期公爵からも溺愛される事に?!
彼らを好きな令嬢やお姫様達ともひと悶着ありですが、親友と一緒に頑張ります!
/「小説家になろう」で完結済みです。本作からお読みいただいてもわかるようにしておりますが、拙作の「身を引いたつもりが逆効果でした」の続編になります。
基本はヒロインが王子と次期公爵から溺愛される三角関係メインの甘めな話です。揺れるヒロインが苦手な方は、ご遠慮下さい。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ
しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”――
今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。
そして隣国の国王まで参戦!?
史上最大の婿取り争奪戦が始まる。
リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。
理由はただひとつ。
> 「幼すぎて才能がない」
――だが、それは歴史に残る大失策となる。
成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。
灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶……
彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。
その名声を聞きつけ、王家はざわついた。
「セリカに婿を取らせる」
父であるディオール公爵がそう発表した瞬間――
なんと、三人の王子が同時に立候補。
・冷静沈着な第一王子アコード
・誠実温和な第二王子セドリック
・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック
王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、
王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。
しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。
セリカの名声は国境を越え、
ついには隣国の――
国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。
「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?
そんな逸材、逃す手はない!」
国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。
当の本人であるセリカはというと――
「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」
王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。
しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。
これは――
婚約破棄された天才令嬢が、
王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら
自由奔放に世界を変えてしまう物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる