【完結】破滅フラグを回避したいのに婚約者の座は譲れません⁈─王太子殿下の婚約者に転生したみたいだけど転生先の物語がわかりません─

江崎美彩

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第二部

37 エレナと駆け落ちのお誘い

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 ……? うわっ! あまっ!
 口にした紅茶があまりに甘すぎて、意識が飛びかけた。

「お兄様。ユーゴにちゃんとお茶を入れるように注意なさって。ユーゴは一度メリーに弟子入りして、お茶のいれ方を習った方がいいと思うわ」

 顔を顰めたわたしを見て苦笑いするお兄様にそう告げると、廊下をバタバタ走る音が聞こえる。

 バンッ!

 勢いよく開いたドアの向こうに、肩で息をするユーゴがいた。

「どういうことですか!」
「もうユーゴったら。僕の許可が無いのにドアを勝手に開けちゃダメだよ? きちんと僕の誰何の声を聞いて、自分の名前を名乗って、許可を得てから開けるんだよ。それに廊下を走ったり勢いよくドアをあけたり行儀が悪いよ。ユーゴがきちんとできないと、僕の評価に関わるんだからね? いい? ユーゴは僕の従者なんだから僕が恥をかくようなことが無い様に目を光らせないといけないんだ。それなのに自分から恥をかきにいくような事をしちゃいけないよ? あと、僕の代わりにアイラン様をお部屋にお連れする誘導をしたんだから、戻ってきたらすぐ僕に報告しないと。それから、お茶がびっくりするほど甘いんだけど、砂糖何杯入れたの? 砂糖だって無駄に使ったらいけな……」
「お兄様! ユーゴは聞きたいことがあって急いで戻ってきたのよ? お兄様ばかり言いたいことを言ってないでユーゴの話聞いてあげたら?」

 お兄様に一気に指摘されて口を挟むタイミングをはかって口をパクパクさせていたユーゴは、わたしの助け舟に目を輝かせてこくこくとうなづく。

「エレナがユーゴにお茶のいれ方をちゃんと注意するようにいったんじゃない」
「今じゃなくていいわ」

 不満げなお兄様はため息をついてユーゴを見つめる。

「まだ言い足りないけどエレナがそういうなら聞いてあげるよ。どうしたのユーゴ」
「エレナ様が王太子様と仮初の婚約者ってどういうことなんですか! エレナ様は小さい頃からあんなに王太子様を慕っていらっしゃったのに結婚してもらえずに捨てられるっていうのですか⁈ 旦那様はご存知なんですか⁈ はっ! そうか! だから、王太子様はエレナ様と婚約したはずなのに、エレナ様がこの屋敷で過ごしてる間に一度も会いに来なかったし、手紙も寄越さないし、去年エレナ様が手紙でトワイン領の祭りにお誘いしても顔を出さないし、エレナ様を放って置いて平然としていたんですね!」

 去年ずっとエレナの近くにいたユーゴに告げられた事実は想像していたけれど、詳らかにされると悲しさが込み上げてくる。

「エレナ様。もう我慢する必要ありません! 僕と駆け落ちしましょう!」

 わたしもお兄様も口を挟む隙を与えずユーゴはそう言い切るとわたしの両手をぎゅっと握った。

 駆け落ち? ユーゴと?

「いい加減にしなさい!」

 普段怒らないお兄様が大きな声をあげた。



 お兄様によってわたしから引き剥がされたユーゴは、拗ねているのを隠しもせずにお茶をいれ直している。

 ブツブツと殿下への不満をこぼしているのが漏れ聞こえていて、もし誰かに聞かれていたらと気が気じゃない。

 ユーゴは、エレナとお兄様がイスファーン人の家庭教師から言葉を習う間は、ノヴァの隣で家令見習いとして部屋で控えていた。
 だから、家庭教師の先生を案内したりお茶を出したりの対応をしながら、授業の内容をなんとなく聞いていた。
 もちろん生徒としてみっちり習っていたわけじゃ無いから読み書きはできないし、話すこともできない。
 それでも単語を拾って、わたしたちがなんの話をしているのか、ニュアンスを掴むことくらいはできたんだろう。
 ネネイの言葉は聞き取りが難しかっただろうけど、わたしやお兄様がネネイに話してた内容や、エレナと殿下の婚約が決まった後のやり取りの少なさから『わたしが捨てられるのが前提の仮初の婚約者』だってユーゴは思い至ったのね。

 でも、そうか……
 ユーゴに確信を持ってエレナは捨てられると思われるくらいに、本当に殿下と婚約した後にやりとりがなかったんだ。
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