90 / 276
第二部
40 エレナと祭りの最終日
しおりを挟む
「ユーゴ。どういうつもりであんなこと言ったの!」
「駆け落ちはダメだって言うから正攻法です」
ユーゴはなぜか自慢げだ。
「どこが正攻法なの! 王室に喧嘩売る様な事言って、じっちゃま達のこと煽ってあんなに盛り上げちゃって、盛り上がりすぎて収集つかなくなっちゃったじゃない! じっちゃま達にユーゴが優勝しても認めないなんて言ったら暴動になりかねないよ。駆け落ち以上にダメに決まってるじゃないか!」
「じゃあ、駆け落ちならしてもいいですか?」
「『じゃあ』じゃない! 絶対にダメ!」
盛り上がりまくった領民達に「決勝戦はお昼を食べた後に開催する」と宣言した後、わたしを引き連れて屋敷に戻ったお兄様はユーゴを部屋に呼んだ。
わたしの事をソファに座らせると、お兄様は自分の机に座り目の前にユーゴを立たせる。
珍しくお兄様が怒りを露わにしてユーゴを問い詰めるけど、ユーゴは全く反省の色がない。
それにお兄様が怒ってもちっとも迫力がない。
お兄様は頭を抱えて天を仰ぐと小さな声で「もううっ」と呟いた。
お兄様とわたしと兄弟みたいに育ったユーゴは、まるで小さいお兄様みたいだ。
ロマンチストで芝居がかってて、調子がいい。
調子のいいお兄様やユーゴにエレナはいつも振り回されている。
「だいたいエレナもユーゴにされるがままになってないで毅然とした態度を取りなさい」
ユーゴと話してても埒が開かないと思ったお兄様の矛先がわたしに向かう。
「だって……」
「だってじゃないよ。エレナは王太子妃になるんでしょ。未来の国母だよ。ユーゴなんかに振り回されたりしてエレナに務まるの?」
「……務まるわけないわ。だからわたしはかりそめの婚約者なんでしょう?」
「ねぇ、エレナ。こないだから何を言ってるの? かりそめな訳ないでしょ」
お兄様はエレナを可愛がっているからそんなことを言うけれど、かりそめの婚約者なことくらいわたしが一番わかってる。
「かりそめじゃなきゃ、いつわりだわ! きっと婚約は無かったことにされちゃうのよ。だから、殿下はわたしのこと放っておいたんでしょ?」
「そんな事ないよ! ほら、婚約発表用のドレスやアクセサリーだって贈ってくれたし、今年はお誕生日に読み古した本じゃなくて、イヤリングをもらったんでしょ? あ、ほらあと春に倒れた時にお見舞いも来てくれたし、その時に花束もらって喜んでたじゃない。アカデミーでも殿下はエレナと会ってくださるでしょ?」
落ち込んだ声を出すわたしにお兄様は慌ててフォローしてくれる。
「でも、昨年婚約者に内定した後、エレナ様が王都に行かれるまで何もありませんでしたよ」
「もう! ユーゴは黙ってて!」
「いいのよ。お兄様。ユーゴの言う通りなのよ。わかってるわ。わたしが一人で婚約者になって浮かれていただけなんでしょ? だって、一昨日いらした時も、殿下は胡桃のケーキ召し上がらなかったわ。殿下と子供の頃に、次は一緒に食べようって約束したのよ。それなのに……」
一昨日メリーが殿下が別荘に戻られた後にお茶の片付けに行ったら、胡桃のケーキには手がついていなかったそうだ。
その事をわたしに告げるメリーの顔があまりに切なくて、小さい頃に殿下と交わした約束を思い出した。
──胡桃を集めるために木登りしていたお転婆なエレナを心配していたメリーに「お嫁に行けなかったら僕のお嫁さんになればいい」なんて言ってくれた幼い頃。
結局拾った胡桃でケーキを作る前に殿下は王宮に戻ることになって、今度うちの領地にいらした時に食べられなかった胡桃のケーキを食べるって約束をした。
殿下はそんな子供の頃にした約束なんて、覚えてないのかしら。
それとも、覚えているから召し上がりたくなかったのかしら。
わたしは勝手にこぼれ落ちそうになる涙をグッとこらえる。
「もぅ。だから胡桃のケーキはやだったんだ」
「……お兄様は食べていただけないのわかっていたのね? わたしが勝手に約束だなんて固執しているのを殿下は負担に思われてるって、お兄様はご存じだったんでしょ?」
「違うよ。単に殿下はいつも甘いものなんて召し上がらないから、エレナの期待を裏切ることになったら嫌だなって思っただけだよ。違うお菓子なら殿下が食べなくても気にならないでしょ」
「やっぱりお兄様は、召し上がらないのご存じだったんじゃない」
「だから、故意に召し上がらないのと単純に甘いものを召し上がらないのは違うよ。約束のケーキだけど甘いから食べられなかったんだよ……きっと」
お兄様は一生懸命に慰めてくれようとしているけど、無理があるわ。
「エリオット様はエレナ様を人質として差し出して王宮内の地位を確立させたいから、そんな事をおっしゃって誤魔化そうとしてるんじゃないですか?」
「ユーゴ!」
ユーゴを諌めた後は押し黙るお兄様を見て、図星なのだと合点する。
お兄様はお喋りだけど、自分の気持ちに嘘をつくのは下手なので都合が悪いと黙り込んだり大袈裟に振る舞ってしまう癖がある。
わたしはお兄様を見つめる。
机から立ち上がったお兄様はわたしの隣に腰を下ろした。
「僕は、エレナを人質にしてまで王宮内の地位なんて欲しくない。そもそも考えてごらんよ。僕はエレナが殿下と婚約する前から殿下の幼馴染で殿下の一番の学友だもの。エレナが王室に輿入れしようがしまいが僕自身の力で実績を作って、地位は確立させられるよ。そうでしょ?」
「でも、わたしが殿下から婚約破棄されたりしたら困るでしょ」
「婚約破棄されることなんてないよ」
「あるわ!」
ため息をつくお兄様を尻目に今度はユーゴがわたしの足元にひざまづいて、手を握る。
「婚約破棄されたら、僕と結婚しましょう。そうすればエレナ様はお祖父様のいる礼拝堂で幸せにくらせます。僕はエレナ様に手を出したりしませんから、安心して領地の女神様で居続けてくださいね」
そういったユーゴの目は真剣だった。
「駆け落ちはダメだって言うから正攻法です」
ユーゴはなぜか自慢げだ。
「どこが正攻法なの! 王室に喧嘩売る様な事言って、じっちゃま達のこと煽ってあんなに盛り上げちゃって、盛り上がりすぎて収集つかなくなっちゃったじゃない! じっちゃま達にユーゴが優勝しても認めないなんて言ったら暴動になりかねないよ。駆け落ち以上にダメに決まってるじゃないか!」
「じゃあ、駆け落ちならしてもいいですか?」
「『じゃあ』じゃない! 絶対にダメ!」
盛り上がりまくった領民達に「決勝戦はお昼を食べた後に開催する」と宣言した後、わたしを引き連れて屋敷に戻ったお兄様はユーゴを部屋に呼んだ。
わたしの事をソファに座らせると、お兄様は自分の机に座り目の前にユーゴを立たせる。
珍しくお兄様が怒りを露わにしてユーゴを問い詰めるけど、ユーゴは全く反省の色がない。
それにお兄様が怒ってもちっとも迫力がない。
お兄様は頭を抱えて天を仰ぐと小さな声で「もううっ」と呟いた。
お兄様とわたしと兄弟みたいに育ったユーゴは、まるで小さいお兄様みたいだ。
ロマンチストで芝居がかってて、調子がいい。
調子のいいお兄様やユーゴにエレナはいつも振り回されている。
「だいたいエレナもユーゴにされるがままになってないで毅然とした態度を取りなさい」
ユーゴと話してても埒が開かないと思ったお兄様の矛先がわたしに向かう。
「だって……」
「だってじゃないよ。エレナは王太子妃になるんでしょ。未来の国母だよ。ユーゴなんかに振り回されたりしてエレナに務まるの?」
「……務まるわけないわ。だからわたしはかりそめの婚約者なんでしょう?」
「ねぇ、エレナ。こないだから何を言ってるの? かりそめな訳ないでしょ」
お兄様はエレナを可愛がっているからそんなことを言うけれど、かりそめの婚約者なことくらいわたしが一番わかってる。
「かりそめじゃなきゃ、いつわりだわ! きっと婚約は無かったことにされちゃうのよ。だから、殿下はわたしのこと放っておいたんでしょ?」
「そんな事ないよ! ほら、婚約発表用のドレスやアクセサリーだって贈ってくれたし、今年はお誕生日に読み古した本じゃなくて、イヤリングをもらったんでしょ? あ、ほらあと春に倒れた時にお見舞いも来てくれたし、その時に花束もらって喜んでたじゃない。アカデミーでも殿下はエレナと会ってくださるでしょ?」
落ち込んだ声を出すわたしにお兄様は慌ててフォローしてくれる。
「でも、昨年婚約者に内定した後、エレナ様が王都に行かれるまで何もありませんでしたよ」
「もう! ユーゴは黙ってて!」
「いいのよ。お兄様。ユーゴの言う通りなのよ。わかってるわ。わたしが一人で婚約者になって浮かれていただけなんでしょ? だって、一昨日いらした時も、殿下は胡桃のケーキ召し上がらなかったわ。殿下と子供の頃に、次は一緒に食べようって約束したのよ。それなのに……」
一昨日メリーが殿下が別荘に戻られた後にお茶の片付けに行ったら、胡桃のケーキには手がついていなかったそうだ。
その事をわたしに告げるメリーの顔があまりに切なくて、小さい頃に殿下と交わした約束を思い出した。
──胡桃を集めるために木登りしていたお転婆なエレナを心配していたメリーに「お嫁に行けなかったら僕のお嫁さんになればいい」なんて言ってくれた幼い頃。
結局拾った胡桃でケーキを作る前に殿下は王宮に戻ることになって、今度うちの領地にいらした時に食べられなかった胡桃のケーキを食べるって約束をした。
殿下はそんな子供の頃にした約束なんて、覚えてないのかしら。
それとも、覚えているから召し上がりたくなかったのかしら。
わたしは勝手にこぼれ落ちそうになる涙をグッとこらえる。
「もぅ。だから胡桃のケーキはやだったんだ」
「……お兄様は食べていただけないのわかっていたのね? わたしが勝手に約束だなんて固執しているのを殿下は負担に思われてるって、お兄様はご存じだったんでしょ?」
「違うよ。単に殿下はいつも甘いものなんて召し上がらないから、エレナの期待を裏切ることになったら嫌だなって思っただけだよ。違うお菓子なら殿下が食べなくても気にならないでしょ」
「やっぱりお兄様は、召し上がらないのご存じだったんじゃない」
「だから、故意に召し上がらないのと単純に甘いものを召し上がらないのは違うよ。約束のケーキだけど甘いから食べられなかったんだよ……きっと」
お兄様は一生懸命に慰めてくれようとしているけど、無理があるわ。
「エリオット様はエレナ様を人質として差し出して王宮内の地位を確立させたいから、そんな事をおっしゃって誤魔化そうとしてるんじゃないですか?」
「ユーゴ!」
ユーゴを諌めた後は押し黙るお兄様を見て、図星なのだと合点する。
お兄様はお喋りだけど、自分の気持ちに嘘をつくのは下手なので都合が悪いと黙り込んだり大袈裟に振る舞ってしまう癖がある。
わたしはお兄様を見つめる。
机から立ち上がったお兄様はわたしの隣に腰を下ろした。
「僕は、エレナを人質にしてまで王宮内の地位なんて欲しくない。そもそも考えてごらんよ。僕はエレナが殿下と婚約する前から殿下の幼馴染で殿下の一番の学友だもの。エレナが王室に輿入れしようがしまいが僕自身の力で実績を作って、地位は確立させられるよ。そうでしょ?」
「でも、わたしが殿下から婚約破棄されたりしたら困るでしょ」
「婚約破棄されることなんてないよ」
「あるわ!」
ため息をつくお兄様を尻目に今度はユーゴがわたしの足元にひざまづいて、手を握る。
「婚約破棄されたら、僕と結婚しましょう。そうすればエレナ様はお祖父様のいる礼拝堂で幸せにくらせます。僕はエレナ様に手を出したりしませんから、安心して領地の女神様で居続けてくださいね」
そういったユーゴの目は真剣だった。
6
あなたにおすすめの小説
【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
【完結】第一王子の婚約者になりましたが、妃になるにはまだまだ先がみえません!
風見ゆうみ
恋愛
「王族に嫁いだ者は、夫を二人もつ事を義務化とする」
第二王子の婚約者である私の親友に恋をした第三王子のワガママなお願いを無効にするまでのもう一人の夫候補として思い浮かんだのは、私に思いを寄せてくれていた次期公爵。
夫候補をお願いしたことにより第一王子だけでなく次期公爵からも溺愛される事に?!
彼らを好きな令嬢やお姫様達ともひと悶着ありですが、親友と一緒に頑張ります!
/「小説家になろう」で完結済みです。本作からお読みいただいてもわかるようにしておりますが、拙作の「身を引いたつもりが逆効果でした」の続編になります。
基本はヒロインが王子と次期公爵から溺愛される三角関係メインの甘めな話です。揺れるヒロインが苦手な方は、ご遠慮下さい。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ
しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”――
今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。
そして隣国の国王まで参戦!?
史上最大の婿取り争奪戦が始まる。
リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。
理由はただひとつ。
> 「幼すぎて才能がない」
――だが、それは歴史に残る大失策となる。
成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。
灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶……
彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。
その名声を聞きつけ、王家はざわついた。
「セリカに婿を取らせる」
父であるディオール公爵がそう発表した瞬間――
なんと、三人の王子が同時に立候補。
・冷静沈着な第一王子アコード
・誠実温和な第二王子セドリック
・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック
王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、
王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。
しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。
セリカの名声は国境を越え、
ついには隣国の――
国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。
「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?
そんな逸材、逃す手はない!」
国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。
当の本人であるセリカはというと――
「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」
王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。
しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。
これは――
婚約破棄された天才令嬢が、
王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら
自由奔放に世界を変えてしまう物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる