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第三部
29 エレナのスパイ活動
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「……何言ってるか聞こえます?」
「全然」
ユーゴに聞かれて、わたしは首を振る。
扉に耳をくっつけても、殿下とお兄様が二人でなにか話しているみたいだということがわかるだけで、さすが話している内容までは聞こえない。
「……僕、コップ持ってきますね」
業を煮やしたのか、ユーゴが扉から離れる。
そうね。なんか漫画とかでコップを使って盗み聞きするのを見たことあるわ。
わたしはユーゴの提案に頷く。
ユーゴが戻るまで、一人扉に張り付き、聞き耳を立てる。
もちろん話してる内容なんて聞こえない。
何で、わたしがこんなことしないといけないのかしら。
そりゃ、お兄様がなにをしでかしたかは、気になるところだけど。
間諜なんて、侯爵家のお嬢様がやらされることではないわ。
今さらだけど、バカらしくなってきた。
ユーゴが戻ってきたら、ここはユーゴに任せて、わたしは部屋でくつろいで待っていようかな。
あ、だめだ。わたしがお借りしているはずの部屋は、アイラン様に乗っ取られている。
どこか他にくつろげる場所はあるかしら。
刺繍したいところだけど、裁縫箱はメリーが部屋に運んだだろうし、図書室で本でも借りようかしら……
「──好きなら好きって、言えばいいじゃないかっ!」
考え事をしていたら急に、ドン! と、テーブルかなにかを叩く音と一緒に、お兄様の怒声が聞こえた。
心臓がドクンと跳ねる。
え? どうしたの?
普段、ヘラヘラ……じゃなかった、温厚でにこやかなお兄様が激昂するなんて……
それに「好きなら好きって言えばいい」ってどういうこと?
扉に密着して耳を澄ましても、殿下がなにを言っているかは聞こえない。
「──はあ⁈ エレナが傷つく? 何いってんの⁈ エレナを言い訳に使わないで!」
突如聞こえた自分の名前に、心臓は早鐘を打つ。
エレナが傷つく?
なんで? どうして?
「──僕は、エレナに『殿下と何があったの?』って聞かれるたびに、苦しい思いをしてるんだ!」
ここ数日のお兄様の様子を思い出す。
確かに、わたしがお兄様を問い詰めるたび「何も言えない」の回答ばかりだった。
「──殿下のせいじゃないか! 殿下が気持ちを公に表明してれば、こんなことにならなかったんだ!」
怒りだけでなく、苦痛や悲しみも入り混じるお兄様の叫び声を聞いていると、背中に嫌な汗が流れる。
部屋からは話し声が聞こえなくなった。
お兄様は「言ってはいけないことを口走ってしまいそう」と言っていた。
言い過ぎてしまったことに気がついて、黙ってしまったんだろう。
これ以上の話にならないようにお兄様は自制するはず。
この場にいてもこれ以上の収穫はないわ。
それに、もし、お兄様が自制できなかったとしたら……その話は、盗み聞きなんてしない方がいいに違いない。
早くここから離れなくちゃ。
危険信号が頭の中で鳴り響く。
わたしが部屋から離れると、ちょうどユーゴが戻ってきた。
バレないようにの配慮なのか、あたかも給仕をするかのように、銀盆にコップと水差しを載せている。
意外と間諜の素質があるのかしら。
「エレナ様ったらコップ取りにきたんですか? 待っててもよかったのに」
わたしに満面の笑みでコップを渡そうとする。
ユーゴはこの状況を楽しんでいるみたいだった。
「ユーゴ。コップを扉に押し付けても話なんて聞こえないわ。そのまま先入捜査をしてきなさい」
ユーゴが部屋に入れば、お兄様もこれ以上は殿下に対して感情的にならないはず。
「ええっ。エレナ様もアイラン様に命じられたじゃないですか」
ユーゴは唇を尖らせる。
「王都の礼拝堂に一緒に行ってあげる」
「本当ですか! ちゃんと女神様の格好もしてくださいよ!」
「うっ……わかったわ……」
「約束ですよ!」
意気揚々と部屋に入ろうとするユーゴに別れを告げて、わたしは安息の地を求めて歩き始めた。
「全然」
ユーゴに聞かれて、わたしは首を振る。
扉に耳をくっつけても、殿下とお兄様が二人でなにか話しているみたいだということがわかるだけで、さすが話している内容までは聞こえない。
「……僕、コップ持ってきますね」
業を煮やしたのか、ユーゴが扉から離れる。
そうね。なんか漫画とかでコップを使って盗み聞きするのを見たことあるわ。
わたしはユーゴの提案に頷く。
ユーゴが戻るまで、一人扉に張り付き、聞き耳を立てる。
もちろん話してる内容なんて聞こえない。
何で、わたしがこんなことしないといけないのかしら。
そりゃ、お兄様がなにをしでかしたかは、気になるところだけど。
間諜なんて、侯爵家のお嬢様がやらされることではないわ。
今さらだけど、バカらしくなってきた。
ユーゴが戻ってきたら、ここはユーゴに任せて、わたしは部屋でくつろいで待っていようかな。
あ、だめだ。わたしがお借りしているはずの部屋は、アイラン様に乗っ取られている。
どこか他にくつろげる場所はあるかしら。
刺繍したいところだけど、裁縫箱はメリーが部屋に運んだだろうし、図書室で本でも借りようかしら……
「──好きなら好きって、言えばいいじゃないかっ!」
考え事をしていたら急に、ドン! と、テーブルかなにかを叩く音と一緒に、お兄様の怒声が聞こえた。
心臓がドクンと跳ねる。
え? どうしたの?
普段、ヘラヘラ……じゃなかった、温厚でにこやかなお兄様が激昂するなんて……
それに「好きなら好きって言えばいい」ってどういうこと?
扉に密着して耳を澄ましても、殿下がなにを言っているかは聞こえない。
「──はあ⁈ エレナが傷つく? 何いってんの⁈ エレナを言い訳に使わないで!」
突如聞こえた自分の名前に、心臓は早鐘を打つ。
エレナが傷つく?
なんで? どうして?
「──僕は、エレナに『殿下と何があったの?』って聞かれるたびに、苦しい思いをしてるんだ!」
ここ数日のお兄様の様子を思い出す。
確かに、わたしがお兄様を問い詰めるたび「何も言えない」の回答ばかりだった。
「──殿下のせいじゃないか! 殿下が気持ちを公に表明してれば、こんなことにならなかったんだ!」
怒りだけでなく、苦痛や悲しみも入り混じるお兄様の叫び声を聞いていると、背中に嫌な汗が流れる。
部屋からは話し声が聞こえなくなった。
お兄様は「言ってはいけないことを口走ってしまいそう」と言っていた。
言い過ぎてしまったことに気がついて、黙ってしまったんだろう。
これ以上の話にならないようにお兄様は自制するはず。
この場にいてもこれ以上の収穫はないわ。
それに、もし、お兄様が自制できなかったとしたら……その話は、盗み聞きなんてしない方がいいに違いない。
早くここから離れなくちゃ。
危険信号が頭の中で鳴り響く。
わたしが部屋から離れると、ちょうどユーゴが戻ってきた。
バレないようにの配慮なのか、あたかも給仕をするかのように、銀盆にコップと水差しを載せている。
意外と間諜の素質があるのかしら。
「エレナ様ったらコップ取りにきたんですか? 待っててもよかったのに」
わたしに満面の笑みでコップを渡そうとする。
ユーゴはこの状況を楽しんでいるみたいだった。
「ユーゴ。コップを扉に押し付けても話なんて聞こえないわ。そのまま先入捜査をしてきなさい」
ユーゴが部屋に入れば、お兄様もこれ以上は殿下に対して感情的にならないはず。
「ええっ。エレナ様もアイラン様に命じられたじゃないですか」
ユーゴは唇を尖らせる。
「王都の礼拝堂に一緒に行ってあげる」
「本当ですか! ちゃんと女神様の格好もしてくださいよ!」
「うっ……わかったわ……」
「約束ですよ!」
意気揚々と部屋に入ろうとするユーゴに別れを告げて、わたしは安息の地を求めて歩き始めた。
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