【完結】破滅フラグを回避したいのに婚約者の座は譲れません⁈─王太子殿下の婚約者に転生したみたいだけど転生先の物語がわかりません─

江崎美彩

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第三部

18 エレナ、ボルボラ諸島を観光する

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「デスティモナ殿。殿下がお呼びです」

 殿下の側近であるランス様が私たちのそばにやってきた。
 デスティモナと呼ばれた役人は黙りわたしにウィンクをする。
 さっきのこと考えといてねって言いたいのね。

「殿下がホテルの計画について聞きたいとおっしゃっています」
「本当ですか?」
「さあ、早く向かってください」

 ランス様に追い立てられてるっていうのに、目を輝かせて走り去る姿はまるで大型犬みたいだった。

「エレナ様。随分と楽しげにお話しされてましたがお気をつけくださいね」

 ランス様は冷ややかな視線をさっきの役人に向けたままわたしにそう告げた。
 役人が走っていった先にいる殿下は、相変わらず穏やかな微笑みを浮かべている。
 けれど、わたしと視線が絡まった目の奥は笑っていなかった。
 ドロリとした感情がわたしの心を覆う。

「申し訳ありません。迂闊でした」

 ランス様に頭を下げる。

 役人のお仕着せを着ているからと油断してはいけない。

 王国内の貴族でデスティモナの名を知らないものはいない。
 国内でも有力な伯爵家の家名だ。

 ヴァーデン王国の王宮で働く役人達は貴族が多い。
 貴族と言っても、もちろん代々王宮仕えをしている領地を持たない下級貴族や、領地を継ぐ予定のない嫡男以外が大半だ。
 でも、領主の後継者であっても国に忠誠を誓っていることを示すために一定期間は役人として国に仕えなくてはいけない。
 お兄様は侯爵家の跡取りだけど、王立学園アカデミーを卒業すれば、文官として殿下の側近になる予定らしいし、公爵家の跡取りであるオーウェン様やダスティン様だって武官として騎士団の所属になる。
 デスティモナ伯爵家の御令息が文官として王宮に仕えているのは何の違和感もない。

 デスティモナ伯爵家は国内随一の資産家で銀行業を営んでいる。
 その資産は国の予算を超えるとも言われている。
 今回対岸の島を落札しホテルを建設しているのもデスティモナ伯爵家だ。

 リゾートホテルを建設すれば、目新しい物好きな富裕層がヴァカンスに押し寄せる。
 ヴァーデン王国の富裕層は貴族だけじゃない。
 メアリさんが嫁ぐ予定のジェームズ商会は爵位はないけれど、役人として国からの給金をもらっているだけの下級貴族よりも資産が多い。
 それに商家であれば養殖真珠が売れるとわかれば仕入れの商談にも繋がり、貴族相手にアクセサリーひとつ売るよりも大きい金額が動く。

 つまり、ヴァカンスに来る商家の方々に養殖真珠の買い付けの商談をするときに、国内貴族やイスファーン王国で養殖真珠の需要が高まっていることを売りにしたいんだろう。
 イスファーン王国で養殖真珠の需要を高めるためにエレナを利用しようと近づいて来た。

「エレナ様は、シリル殿下のご婚約者なのですからお立場を弁えて頂かなくてはなりません」

 いくらかりそめでも、一応は殿下の婚約者であるエレナが利用される立場でいるのは都合が悪い。
 王族は人の上に立つべくして振る舞う。為政者として利用する立場だ。
 なのに、ランス様を使いにやらないと利用されそうになっていることに気がつけない、役立たずなエレナに、殿下は怒っているのだろう。

 デスティモナ伯爵家の御令息だとわかっていれば利用されないように振る舞えたはず。

 でも、社交界にデビューしていないエレナは本で得た知識はあっても、貴族達の顔はわからない。
 王立学園アカデミーの子息達だってまだ覚えきれていないくらいだ。

 こちらを見ていた殿下の視線が外され、周りの視線も冷ややかだ。
 わたしはデイ・ドレスの裾をギュッと握る。

「申し分けなく思っております」
「いえ、失礼しました。私も強く言いすぎました」
「ランス様が謝る必要なんてないわ」

 ランス様が頭を下げるのを見てわたしは首を横に振る。

「ただ、エレナ様にはご自身の振る舞いが殿下にどう思われるか、少しお考えいただきたく思った次第です」
「周りの方々は利用されようとしているのに気が付かないわたしに呆れていらっしゃったでしょう。それに気がつかないわたしにきっと失望されたわ」

 わたしの返事にランス様からため息が漏れた。
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