127 / 276
第三部
26 エレナ、逃避行先に着く
しおりを挟む
「予定よりも早くいらっしゃるのに、手紙一つで済ませるなんてひどいです」
王室の別荘で出迎えてくれた目の前の美少年は、そう言って頬を膨らませる。
使用人ではあるけれど、わたしたちと兄弟のように育ったユーゴは遠慮がない。
王室の別荘ではアイラン様が快適にお過ごしいただけるように、以前の滞在で対応した使用人達が再び集められた。
ユーゴは元々王室の別荘で働く使用人と、トワイン家から派遣された使用人の差配に目が回る忙しさだったと主張する。
後ろに控える使用人達は、あたかも一人で頑張ったように言い張るユーゴを、孫でも見るような暖かい眼差しで見つめていた。
そもそもアイラン様とお兄様の婚約はユーゴが起こした騒ぎが原因なはずなのに、愛されキャラのユーゴは騒ぎを起こしたことに対してお父様とユーゴの父であり家令のノヴァに反省を促されたくらいで、大したお咎めはなく、なんなら恋のキューピッド気取り。
エレナの破滅フラグに怯えるわたしとは、大違いだ。
そんな図々しいユーゴの頭をぐりぐりと撫でたお兄様は、とんでもないことを言い出した。
「じゃあ、ユーゴは頑張ってるから、ご褒美に、エレナに女神様の格好をさせて王都の礼拝堂へ慰問に行かせる時に、ユーゴも同行していいよ」
「本当ですか! 約束ですよ!」
「お兄様! ちょっと待って! 女神様の格好で王都の礼拝堂に行くなんて、勝手に決めないでください!」
冗談じゃない! そんなの無理よ!
のんびりした領地でおじいちゃんおばあちゃん達に可愛いと褒められ、子供達はお菓子が欲しいから女神様扱いしてくれる中で着るのだって恥ずかしかったのに。
陰キャのオタクに都会でコスプレなんてハードルが高すぎるわ!
女神様最推しのユーゴが興奮する中、わたしが声を上げるとお兄様は小首を傾げる。
「わたしにできることはなんでも言って、って今朝エレナが自分で言ったんじゃない」
悪びれずにそう言い放ったお兄様は、むしろわたしが悪いかのような反応だ。
確かに朝わたしはそんなこと言ったけど!
「昔からお兄様は贈り物やご褒美に他人を利用するようなことばかり!」
納得のいかないわたしはお兄様にくってかかる。
「そんなことないよ。僕だってエレナのために汗をかいてるじゃない。ほら、今年の誕生日プレゼントは、エレナのデイ・ドレスを僕が選んでコーディネートしてあげたでしょ。どれもエレナに似合ってて評判良かったはずだけど?」
「……お兄様は選んだだけで、買ってくださったのはお父様じゃない」
「やだなぁ。エレナが少しでもレディらしく見えるものなんて考えながら選んだんだから大変だったんだよ? お金なんて出すだけじゃない」
饒舌なお兄様はいつも通りだった。
心配していたのがバカらしくなってため息をつく。
そりゃ確かにお兄様の選んだデイ・ドレスは年頃のレディらしくって、普段のエレナなら選ばないようなものばかりだった。
子供っぽいエレナでもそれなりに見えて評判も悪くなかったと思う。
でも、お金を出すだけなんて言うなら買うまでしたらいいのに。
わたしはお兄様を睨み続ける。
「あと、ほらそうだ、カフスボタンのオーダーも手数料をもらえるようにってジェームズ商会に交渉もしてあげたじゃない。手数料はエレナに入るようにしてあげたでしょ?」
「わたしなんかが殿下に贈ったことを売り文句にしても誰も頼まないわ。メアリさんと話してて恥ずかしい思いをしたんだから」
「なんでエレナが恥ずかしく思わなくちゃいけないの⁈」
お兄様はわたしの肩を掴んだ。
「きゃっ! 急にどうなさったの?」
「あ、ごめん……」
慌てたようにお兄様は手を離し、わたしから顔を背ける。
「とにかくご褒美や贈り物に他人を巻き込むのはやめてください。去年のわたしの誕生日なんて殿下を連れてくるなんてしてご迷惑をおかけしたんだから、反省なさった方がいいわ」
「そんなことっ……ああ、そうだね。ユーゴへのご褒美はまた考えるよ。じゃあ僕はもう部屋に向かうね」
また何か言いたそうにしたお兄様は、そう言ってユーゴの頭をポンポンと叩いて部屋に向かった。
「僕は女神様の格好したエレナ様と王都の礼拝堂に伺えるのがいちばんのご褒美なんですけど……」
「絶対に嫌よ」
残されたユーゴの呟きを全力で拒否して、わたしも部屋に向かった。
王室の別荘で出迎えてくれた目の前の美少年は、そう言って頬を膨らませる。
使用人ではあるけれど、わたしたちと兄弟のように育ったユーゴは遠慮がない。
王室の別荘ではアイラン様が快適にお過ごしいただけるように、以前の滞在で対応した使用人達が再び集められた。
ユーゴは元々王室の別荘で働く使用人と、トワイン家から派遣された使用人の差配に目が回る忙しさだったと主張する。
後ろに控える使用人達は、あたかも一人で頑張ったように言い張るユーゴを、孫でも見るような暖かい眼差しで見つめていた。
そもそもアイラン様とお兄様の婚約はユーゴが起こした騒ぎが原因なはずなのに、愛されキャラのユーゴは騒ぎを起こしたことに対してお父様とユーゴの父であり家令のノヴァに反省を促されたくらいで、大したお咎めはなく、なんなら恋のキューピッド気取り。
エレナの破滅フラグに怯えるわたしとは、大違いだ。
そんな図々しいユーゴの頭をぐりぐりと撫でたお兄様は、とんでもないことを言い出した。
「じゃあ、ユーゴは頑張ってるから、ご褒美に、エレナに女神様の格好をさせて王都の礼拝堂へ慰問に行かせる時に、ユーゴも同行していいよ」
「本当ですか! 約束ですよ!」
「お兄様! ちょっと待って! 女神様の格好で王都の礼拝堂に行くなんて、勝手に決めないでください!」
冗談じゃない! そんなの無理よ!
のんびりした領地でおじいちゃんおばあちゃん達に可愛いと褒められ、子供達はお菓子が欲しいから女神様扱いしてくれる中で着るのだって恥ずかしかったのに。
陰キャのオタクに都会でコスプレなんてハードルが高すぎるわ!
女神様最推しのユーゴが興奮する中、わたしが声を上げるとお兄様は小首を傾げる。
「わたしにできることはなんでも言って、って今朝エレナが自分で言ったんじゃない」
悪びれずにそう言い放ったお兄様は、むしろわたしが悪いかのような反応だ。
確かに朝わたしはそんなこと言ったけど!
「昔からお兄様は贈り物やご褒美に他人を利用するようなことばかり!」
納得のいかないわたしはお兄様にくってかかる。
「そんなことないよ。僕だってエレナのために汗をかいてるじゃない。ほら、今年の誕生日プレゼントは、エレナのデイ・ドレスを僕が選んでコーディネートしてあげたでしょ。どれもエレナに似合ってて評判良かったはずだけど?」
「……お兄様は選んだだけで、買ってくださったのはお父様じゃない」
「やだなぁ。エレナが少しでもレディらしく見えるものなんて考えながら選んだんだから大変だったんだよ? お金なんて出すだけじゃない」
饒舌なお兄様はいつも通りだった。
心配していたのがバカらしくなってため息をつく。
そりゃ確かにお兄様の選んだデイ・ドレスは年頃のレディらしくって、普段のエレナなら選ばないようなものばかりだった。
子供っぽいエレナでもそれなりに見えて評判も悪くなかったと思う。
でも、お金を出すだけなんて言うなら買うまでしたらいいのに。
わたしはお兄様を睨み続ける。
「あと、ほらそうだ、カフスボタンのオーダーも手数料をもらえるようにってジェームズ商会に交渉もしてあげたじゃない。手数料はエレナに入るようにしてあげたでしょ?」
「わたしなんかが殿下に贈ったことを売り文句にしても誰も頼まないわ。メアリさんと話してて恥ずかしい思いをしたんだから」
「なんでエレナが恥ずかしく思わなくちゃいけないの⁈」
お兄様はわたしの肩を掴んだ。
「きゃっ! 急にどうなさったの?」
「あ、ごめん……」
慌てたようにお兄様は手を離し、わたしから顔を背ける。
「とにかくご褒美や贈り物に他人を巻き込むのはやめてください。去年のわたしの誕生日なんて殿下を連れてくるなんてしてご迷惑をおかけしたんだから、反省なさった方がいいわ」
「そんなことっ……ああ、そうだね。ユーゴへのご褒美はまた考えるよ。じゃあ僕はもう部屋に向かうね」
また何か言いたそうにしたお兄様は、そう言ってユーゴの頭をポンポンと叩いて部屋に向かった。
「僕は女神様の格好したエレナ様と王都の礼拝堂に伺えるのがいちばんのご褒美なんですけど……」
「絶対に嫌よ」
残されたユーゴの呟きを全力で拒否して、わたしも部屋に向かった。
6
あなたにおすすめの小説
【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
【完結】第一王子の婚約者になりましたが、妃になるにはまだまだ先がみえません!
風見ゆうみ
恋愛
「王族に嫁いだ者は、夫を二人もつ事を義務化とする」
第二王子の婚約者である私の親友に恋をした第三王子のワガママなお願いを無効にするまでのもう一人の夫候補として思い浮かんだのは、私に思いを寄せてくれていた次期公爵。
夫候補をお願いしたことにより第一王子だけでなく次期公爵からも溺愛される事に?!
彼らを好きな令嬢やお姫様達ともひと悶着ありですが、親友と一緒に頑張ります!
/「小説家になろう」で完結済みです。本作からお読みいただいてもわかるようにしておりますが、拙作の「身を引いたつもりが逆効果でした」の続編になります。
基本はヒロインが王子と次期公爵から溺愛される三角関係メインの甘めな話です。揺れるヒロインが苦手な方は、ご遠慮下さい。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ
しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”――
今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。
そして隣国の国王まで参戦!?
史上最大の婿取り争奪戦が始まる。
リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。
理由はただひとつ。
> 「幼すぎて才能がない」
――だが、それは歴史に残る大失策となる。
成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。
灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶……
彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。
その名声を聞きつけ、王家はざわついた。
「セリカに婿を取らせる」
父であるディオール公爵がそう発表した瞬間――
なんと、三人の王子が同時に立候補。
・冷静沈着な第一王子アコード
・誠実温和な第二王子セドリック
・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック
王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、
王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。
しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。
セリカの名声は国境を越え、
ついには隣国の――
国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。
「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?
そんな逸材、逃す手はない!」
国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。
当の本人であるセリカはというと――
「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」
王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。
しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。
これは――
婚約破棄された天才令嬢が、
王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら
自由奔放に世界を変えてしまう物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる