【完結】破滅フラグを回避したいのに婚約者の座は譲れません⁈─王太子殿下の婚約者に転生したみたいだけど転生先の物語がわかりません─

江崎美彩

文字の大きさ
128 / 276
第三部

27 エレナと白馬の王子様の襲来

しおりを挟む
 お兄様と別れてお借りした部屋に向かうと、ソファでふんぞり返って座ったアイラン様がメリーにあれこれわがままを言っていた。
 イスファーン語が分からず困っているメリーに、わたしの分もお茶を出したら荷解きに戻るように指示を出す。

 わたしもソファに座りお茶を飲む。

『エレナ。いつまでここにいる気なのよ』
『屋敷の工事が終わるまでとお兄様が言っておりましたよ。十日ほどだと思います』
『そんなことじゃないのよ』
『と、おっしゃいますと?』

 アイラン様は持っていた茶器をテーブルに置くと、やれやれと肩をすくめる。ユーゴもお兄様もそっくりな仕草をするけれど、アイラン様もいつのまにかお兄様と仕草が似てきた。

『わたしとエリオットは新婚なのだから、気を使いなさいよ』

 アイラン様はそう言ってため息をつく。

『だから、エレナ様にも一緒にいていただいているのです。放っておいたら碌なことにならない。よろしいですか? 結婚ではなく婚約です。二年強何も起きないように──』

 ネネイのお小言がはじまると、急にドアがあく。

「エレナ! どうしよう! 追いかけてきた!」

 お兄様が飛び込んできて叫ぶ。

「追いかけてきたって、誰が?」

 返事もせずに、慌ててアイラン様の座るソファの裏に逃げ込むお兄様を見て、思考を巡らせる。

 こんなに慌てるなんて誰が来たって言うの?

 お兄様を狙っていたご令嬢?

 だって、お兄様はとんでもなくおモテになる。

 上位貴族の子女達はみな齢十六になり婚約が解禁されれば、内々に打診していた家同士で婚約が決まることがほとんどで。
 相手の年齢で少し待つことはあるだろうけど、相手が全くいないなんてことは普通あり得ない。
 なのにお兄様は十八歳の成人を迎えても、婚約者どころか特定のお相手もいなかった。
 お兄様自身は、王宮に働きに出て働き者の女官を娶ろうと考えていたらしいけど、婚約者が決まっていない年頃のイケメン侯爵令息は、多くの貴族令嬢の注目の的だった。
 しかも、イケメンなだけじゃなく、お兄様は勉強が出来る。
 王立学園アカデミー内でもトップクラスに頭がよい。
 それに勉強だけじゃなく、小さい頃から馬に慣れ親しんでいたお兄様は馬術も得意だし、ダンスのリードも上手だし、ヴァイオリンも弾けたりする。
 殿下の幼馴染な上、未来の王妃の兄なんだから、王室に関わる時の地位も確約されたも同然。
 そんな釣書だけでモテるのが間違いないのに、上辺は紳士的で優しいなんて、とんでもない優良物件なので常日頃お兄様を狙う……じゃなくて、慕うご令嬢達にお兄様は囲まれていた。
 そしておモテになるお兄様は、そんなご令嬢達とちょっとした火遊びもされていたのは自明の理だ。
 お兄様が社交界にデビューしてすぐ、お兄様といい雰囲気だと主張するご令嬢達がひっきりなしに領地の屋敷まで押しかけてきて、大騒ぎだったんだから。

 お兄様の突然の婚約にいてもたってもいられずにここまで乗り込んでくるご令嬢がいてもおかしくない。

「ご自身が蒔いた種でしょう? 逃げずに立ち向かわれたらどうですか」

 わたしもソファの裏に周る。両手で顔を覆い、座り込んでいるお兄様を見下ろす。

「そりゃ僕が蒔いた種かもしれないけれど、僕だってずっとずっと後悔していたんだよ。それなのに、今さらあんなこと言うなんて裏切りでしかないのに……」
「裏切りもなにもお兄様が火遊びなんてされるからいけないのよ」
「……火遊び? 何のこと?」

 キョトンとした顔でわたしを見上げるお兄様に、何でも許してあげたくなるけれど、ここは心を鬼にする。

「お兄様が手を出したご令嬢が乗り込んできたのでしょう?」
「ちょっとエレナ、違うから! アイラン様がいるのになんてこと言うの! 僕は身を滅ぼすような遊び方はしていないからね!」
「じゃあ、誰が追いかけてきてるっていうのよ」

 わたしはそう言って窓辺に向かう。

「エレナ! 待って!」

 お兄様の叫び声を無視して覗き込んだ窓の下では、白馬に乗った殿下王子様がこちらを見上げていた。


しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

侯爵令嬢リリアンは(自称)悪役令嬢である事に気付いていないw

さこの
恋愛
「喜べリリアン! 第一王子の婚約者候補におまえが挙がったぞ!」  ある日お兄様とサロンでお茶をしていたらお父様が突撃して来た。 「良かったな! お前はフレデリック殿下のことを慕っていただろう?」  いえ! 慕っていません!  このままでは父親と意見の相違があるまま婚約者にされてしまう。  どうしようと考えて出した答えが【悪役令嬢に私はなる!】だった。  しかしリリアンは【悪役令嬢】と言う存在の解釈の仕方が……  *設定は緩いです  

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///) ※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。 《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

【完結】初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが

藍生蕗
恋愛
 子供の頃、一目惚れした相手から素気無い態度で振られてしまったリエラは、異性に好意を寄せる自信を無くしてしまっていた。  しかし貴族令嬢として十八歳は適齢期。  いつまでも家でくすぶっている妹へと、兄が持ち込んだお見合いに応じる事にした。しかしその相手には既に非公式ながらも恋人がいたようで、リエラは衆目の場で醜聞に巻き込まれてしまう。 ※ 本編は4万字くらいのお話です ※ 他のサイトでも公開してます ※ 女性の立場が弱い世界観です。苦手な方はご注意下さい。 ※ ご都合主義 ※ 性格の悪い腹黒王子が出ます(不快注意!) ※ 6/19 HOTランキング7位! 10位以内初めてなので嬉しいです、ありがとうございます。゚(゚´ω`゚)゚。  →同日2位! 書いてて良かった! ありがとうございます(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)

成人したのであなたから卒業させていただきます。

ぽんぽこ狸
恋愛
 フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。  すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。  メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。  しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。  それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。  そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。  変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。

悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。

三谷朱花
恋愛
私、クリスティアーヌは、ゼビア王国の皇太子の婚約者だ。だけど、学院の卒業を祝うべきパーティーで、婚約者であるファビアンに悪事を突き付けられることになった。その横にはおびえた様子でファビアンに縋り付き私を見る男爵令嬢ノエリアがいる。うつむきわなわな震える私は、顔を二人に向けた。悪役令嬢になるために。

死に戻りの悪役令嬢は、今世は復讐を完遂する。

乞食
恋愛
メディチ家の公爵令嬢プリシラは、かつて誰からも愛される少女だった。しかし、数年前のある事件をきっかけに周囲の人間に虐げられるようになってしまった。 唯一の心の支えは、プリシラを慕う義妹であるロザリーだけ。 だがある日、プリシラは異母妹を苛めていた罪で断罪されてしまう。 プリシラは処刑の日の前日、牢屋を訪れたロザリーに無実の証言を願い出るが、彼女は高らかに笑いながらこう言った。 「ぜーんぶ私が仕組んだことよ!!」 唯一信頼していた義妹に裏切られていたことを知り、プリシラは深い悲しみのまま処刑された。 ──はずだった。 目が覚めるとプリシラは、三年前のロザリーがメディチ家に引き取られる前日に、なぜか時間が巻き戻っていて──。 逆行した世界で、プリシラは義妹と、自分を虐げていた人々に復讐することを誓う。

処理中です...