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第一部
50 魔法少女スピカは王子様と対峙する【サイドストーリー】
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「そこのソファーに座るように」
指示を受けて、わたしはまだ解放されないことを知らされる。
座ると王子に負けず劣らず表情の読めない側近の男が、王子とわたしの前に水の入ったグラスを置いた。
普段使ってる木のコップとあまりに違って、綺麗なガラスのコップは何かあったらすぐ割れてしまいそうで、触れるのをためらう。
「毒など入っていませんよ」
わたしがためらった理由を勘違いした側近の男から告げられる。
そんなこと言われると、逆に毒が入っているんじゃないかと勘繰ってしまう。
でも、わたしが嘘を制限させる魔法を使えることを知っているはずだし、大丈夫かな。
なかなか手を出せないわたしを見かねたのか、王子が先にグラスを手に取り水を飲む。
恐る恐る手を伸ばして一口飲むと普通の水だった。
それにしてもなんで水なんだろう。物語の王子様ってだいたい優雅に高級な紅茶を飲んでるのに。
王子は目の前で水を飲み干すと深い深いため息をつく。
わたしに向かって何か言おうと口をパクパクさせると頭を抱えた。
はめられた。
わたしが使う魔法にかかったような、王子の仕草に恐怖する。
王子に魔法をかけるなんてことしたら、捕まるどころの騒ぎじゃない。確実に殺される。
わたしは慌てて側近の男に顔を向ける。
側近の男は、王子に冷ややかな視線を浴びせていた。
えっ? ……どういうこと?
側近の男が「私からお話ししましょうか」と王子に向かって確認しているのを眺めながら、わたしの頭は疑問符でいっぱいになった。
「つまり君は、侍女の真似事は続けるのだな」
王子は再びため息をついてそう言った。
「はい。エレナ様のお許しがある限り」
「……では、ひとつ忠告しておこう」
わたしのことはまだ信じていないと断言している王子は、わたしを睨む。
「侍女の真似事を続けるのであれば、エレナの髪を結ぶとき、高い位置で一つにまとめるのはやめてくれないか」
……ポニーテールのこと?
「聖女様と同じ髪型だからですか?」
わたしは思いついた理由を尋ねた。
昨年異世界から現れた聖女様は、王都の教会に保護された後も、全国各地にいる聖女の癒しを求める人たちのために、旅を続けている。
颯爽と髪を一つに結んだ姿は聖女様のシンボルにもなっている。
今までポニーテールは幼ない少女がする髪型だったけど、聖女様が現れてからは、聖女様に憧れる若い女性たちもこぞってポニーテールにしている。
エレナ様はポニーテールを気に入ってらっしゃるけれど、王子の婚約者が聖女様の真似事をしているのは外聞が悪いのかしら。
「聖女と同じ髪型かどうかなど、どうでもいい。あの髪型ではエレナが歩くたびに髪が束で揺れるだろう? あれはよくない」
わたしの思いついた理由は違うらしく、ぶった斬られる。
「いいか。男なんて獣だ。動く物に惹かれ襲い掛かろうとする本能には抗えない。私の小栗鼠を獣ばかりの野に放つなどおぞましい」
わたしがたまらず「小栗鼠……ってエレナ様?」と呟くと王子は遠い目をしていた。
「そう。幼い頃のエレナは外遊びをするときはよくあの髪型をしていた。木登りをする時に揺れる髪は、まるで小栗鼠の尻尾のようだったのだ。私の小栗鼠は胡桃の木の上に登ると揺すって実を落としたりしてね。あまりにお転婆なものだから侍女に心配ばかりかけていた──」
側近の男は呆れた顔で王子を見ると、わたしにおかわりの水を注ぐ。
「間諜かもと疑っていましたもので、ろくなおもてなしも出来ませんで申し訳ありません」
「あ、いえ、その平民のわたしにおもてなしだなんてとんでもない。王太子殿下にお目通しいただくだけで光栄でございます」
わたしと側近の男が社交辞令を交わす間も王子の思い出話は止まらない。
幼ない頃のエレナ様がどれほど可愛らしかったか立板に水の勢いで話し続ける。
わたしは遠慮なく水を飲むことにした。
「──つまり、揺れる髪束から覗く、私のエレナの真っ白く華奢なうなじは、まるで野に咲く花のように清らかであり、手折ることは許されない。私はエレナを妹のように大切に思っているから自らを律することができるが、多くの男どもには難しいだろう。私の腕の中に匿えればよいが、エレナはそれを良しとはしないはずだ」
王子はそう言って両手で顔を覆い、首を横に振る。
「あの髪型は、エレナ様のお気に入りの髪形です」
「そうか」
「王太子殿下にいただいたイヤリングがよく見えるからとおっしゃっていました」
ヒュッと息を呑む音が静かな部屋に鳴り響く。
顔を手で隠し、眉間を揉むふりなんてしながら、口元を緩ませている王子の姿を見て、世の中の噂なんて本当にあてにならないなと思った。
──そして、あんな啖呵をきっておきながらエレナ様を一番傷つけて泣かせているのは枷にがんじからめになって日和ってばかりの王太子殿下だと知るのも、枷がはずれた王太子殿下が誰よりも獣だと思い知らされるのもまた別のお話だ。
指示を受けて、わたしはまだ解放されないことを知らされる。
座ると王子に負けず劣らず表情の読めない側近の男が、王子とわたしの前に水の入ったグラスを置いた。
普段使ってる木のコップとあまりに違って、綺麗なガラスのコップは何かあったらすぐ割れてしまいそうで、触れるのをためらう。
「毒など入っていませんよ」
わたしがためらった理由を勘違いした側近の男から告げられる。
そんなこと言われると、逆に毒が入っているんじゃないかと勘繰ってしまう。
でも、わたしが嘘を制限させる魔法を使えることを知っているはずだし、大丈夫かな。
なかなか手を出せないわたしを見かねたのか、王子が先にグラスを手に取り水を飲む。
恐る恐る手を伸ばして一口飲むと普通の水だった。
それにしてもなんで水なんだろう。物語の王子様ってだいたい優雅に高級な紅茶を飲んでるのに。
王子は目の前で水を飲み干すと深い深いため息をつく。
わたしに向かって何か言おうと口をパクパクさせると頭を抱えた。
はめられた。
わたしが使う魔法にかかったような、王子の仕草に恐怖する。
王子に魔法をかけるなんてことしたら、捕まるどころの騒ぎじゃない。確実に殺される。
わたしは慌てて側近の男に顔を向ける。
側近の男は、王子に冷ややかな視線を浴びせていた。
えっ? ……どういうこと?
側近の男が「私からお話ししましょうか」と王子に向かって確認しているのを眺めながら、わたしの頭は疑問符でいっぱいになった。
「つまり君は、侍女の真似事は続けるのだな」
王子は再びため息をついてそう言った。
「はい。エレナ様のお許しがある限り」
「……では、ひとつ忠告しておこう」
わたしのことはまだ信じていないと断言している王子は、わたしを睨む。
「侍女の真似事を続けるのであれば、エレナの髪を結ぶとき、高い位置で一つにまとめるのはやめてくれないか」
……ポニーテールのこと?
「聖女様と同じ髪型だからですか?」
わたしは思いついた理由を尋ねた。
昨年異世界から現れた聖女様は、王都の教会に保護された後も、全国各地にいる聖女の癒しを求める人たちのために、旅を続けている。
颯爽と髪を一つに結んだ姿は聖女様のシンボルにもなっている。
今までポニーテールは幼ない少女がする髪型だったけど、聖女様が現れてからは、聖女様に憧れる若い女性たちもこぞってポニーテールにしている。
エレナ様はポニーテールを気に入ってらっしゃるけれど、王子の婚約者が聖女様の真似事をしているのは外聞が悪いのかしら。
「聖女と同じ髪型かどうかなど、どうでもいい。あの髪型ではエレナが歩くたびに髪が束で揺れるだろう? あれはよくない」
わたしの思いついた理由は違うらしく、ぶった斬られる。
「いいか。男なんて獣だ。動く物に惹かれ襲い掛かろうとする本能には抗えない。私の小栗鼠を獣ばかりの野に放つなどおぞましい」
わたしがたまらず「小栗鼠……ってエレナ様?」と呟くと王子は遠い目をしていた。
「そう。幼い頃のエレナは外遊びをするときはよくあの髪型をしていた。木登りをする時に揺れる髪は、まるで小栗鼠の尻尾のようだったのだ。私の小栗鼠は胡桃の木の上に登ると揺すって実を落としたりしてね。あまりにお転婆なものだから侍女に心配ばかりかけていた──」
側近の男は呆れた顔で王子を見ると、わたしにおかわりの水を注ぐ。
「間諜かもと疑っていましたもので、ろくなおもてなしも出来ませんで申し訳ありません」
「あ、いえ、その平民のわたしにおもてなしだなんてとんでもない。王太子殿下にお目通しいただくだけで光栄でございます」
わたしと側近の男が社交辞令を交わす間も王子の思い出話は止まらない。
幼ない頃のエレナ様がどれほど可愛らしかったか立板に水の勢いで話し続ける。
わたしは遠慮なく水を飲むことにした。
「──つまり、揺れる髪束から覗く、私のエレナの真っ白く華奢なうなじは、まるで野に咲く花のように清らかであり、手折ることは許されない。私はエレナを妹のように大切に思っているから自らを律することができるが、多くの男どもには難しいだろう。私の腕の中に匿えればよいが、エレナはそれを良しとはしないはずだ」
王子はそう言って両手で顔を覆い、首を横に振る。
「あの髪型は、エレナ様のお気に入りの髪形です」
「そうか」
「王太子殿下にいただいたイヤリングがよく見えるからとおっしゃっていました」
ヒュッと息を呑む音が静かな部屋に鳴り響く。
顔を手で隠し、眉間を揉むふりなんてしながら、口元を緩ませている王子の姿を見て、世の中の噂なんて本当にあてにならないなと思った。
──そして、あんな啖呵をきっておきながらエレナ様を一番傷つけて泣かせているのは枷にがんじからめになって日和ってばかりの王太子殿下だと知るのも、枷がはずれた王太子殿下が誰よりも獣だと思い知らされるのもまた別のお話だ。
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