【完結】破滅フラグを回避したいのに婚約者の座は譲れません⁈─王太子殿下の婚約者に転生したみたいだけど転生先の物語がわかりません─

江崎美彩

文字の大きさ
183 / 276
第四部 

33 王太子妃付き筆頭侍女候補リリアンナの奔走【サイドストーリー】

しおりを挟む
「発言を撤回してよ! 謝罪を要求します!」

 ドンっ!
 エリオットが拳で机を叩くとガチャリと食器が鳴る。
 シリルは声を発さない。部屋の中は静まりかえった。
 王太子になるべくして育てられたシリルが、安易に発言を撤回する事も謝罪をする事もできないのは理解している。
 だからと言って何も言わないなんていうのはもってのほかだ。リリアンナはため息をつく。

「弁明くらいしたらどう? シリルだってエレナ様が官吏を労うのを、男を漁るためのものだなんて思っていないのでしょう?」
「……それは、まぁ……そうなのだが」

 歯切れの悪い返事にリリアンナの苛立ちは膨れ上がる。リリアンナが責めようと口を開く前に、エリオットが声を上げた。

「いい? エレナは小さい頃から、領地のじっちゃまやばっちゃま達から『女神様』である事を期待されて『女神様』を演じてきたんだ。作物を育てるのは好き勝手にはできないんだよ。だから子供達が規則を守れば褒めるように、大人たちか勤勉に働くものを労うのも『女神様』の振る舞いが染み付いてるエレナにとって当たり前のことなの。別にエレナは領地で過ごしている時のまんまなのに、自分以外の人間がエレナにチヤホヤされてることにくだらない嫉妬しちゃってさ」
「そうよ。エレナ様にご出仕いただいてから官吏達の仕事の効率も士気も上がっているわ。エレナ様が身を尽くされて官吏たちから『王宮に舞い降りた我らが女神』と呼ばれるまでになったのに、それを──」
「エレナは『官吏たちの女神』ではない。『私の女神』だ」

 反論したかと思えば浅ましいまでの独占欲をむき出しにするシリルを、リリアンナは半目で見つめる。

「エレナは官吏や殿下の女神様じゃないよ。トワイン領の女神様だからね」
「トワイン領の女神は『恵みの女神』だろう。この国を建立された『創世の神』のつがいとなる夫婦神なのだ。エレナがトワイン領の女神だというのなら『創世の神の子』である王族の私のためのつがいの女神で間違いない」

 リリアンナはあまりの一方的な主張に頭を抱えた。

「そう思うんだったらエレナにそういえばいいじゃない」
「ちょっとエリオット、無責任なこと言わないでよ」

 エリオットの話に便乗してシリルを責めていたリリアンナもさすがに釘を刺す。

「……なあ、エリオット。兄のようにしか思っていない男にそんな事を言われてもエレナは受け入れてくれるだろうか」
「そんなの僕はエレナじゃないから知らないよ。僕が殿下のこと気持ち悪いなって思うからってエレナがそう思うとは限らないでしょ」

 シリルは「気持ち悪い……」と呟きこうべを垂れる。リリアンナは無遠慮で無責任な幼馴染を睨んだ。

「あっ。でもごめんね。明日からエレナはしばらく出仕しないんだ。領地でやる新しい事業の件でいろいろ詰めることがあるからエレナにはそっちの手伝いしてもらわなくちゃいけないんだ。しばらくは殿下の思いをエレナに伝えるのは無理だったね」

 リリアンナに睨まれているのシリルが落ち込んでいるのも無視して、エリオットは饒舌だ。

「あとほら領地の事業は家令にも関わってもらうことになるから、ノヴァとユーゴが王都までやってくるんだよ。あ、リリィはノヴァとユーゴのこと覚えてる? 覚えてないか。うちの家令とその息子で、一応ユーゴは僕の侍従になる予定なんだけど、女神様の熱狂的な信者でさぁ。前にエレナがユーゴに王都の礼拝堂に女神様の格好して連れて行ってあげる約束しちゃって、ユーゴの気が済むまで礼拝堂に通うことになるからエレナも忙しいんだよ。しばらくは来れないと思うよ」
「──! トワイン家の家令の息子が王都に来るなんて聞いてない!」

 やっと顔を上げたシリルをエリオットはキョトンとした顔で見つめている。

「家令を王都に呼ぶのに王宮に申し立ては必要ないはずですけど?」

 ギリリッ。目の前で歯を噛み締める音が鳴るのも気にもせず、エリオットはお茶を飲み、差し入れのクッキーを食べはじめた。

(シリルもエリオットもあてにならないわ。わたしがエレナ様のためにしてあげられることはあるのかしら……)

 リリアンナもクッキーを一口かじる。少しだけ頭が働き始めた気がした。


***


 次の日から、エリオットの宣言通りエレナの出仕はぴたりと止まった。
 いろんな部署を回るたび官吏たちの落胆した顔がリリアンナを迎える。

「いつも書類を届けに来ていた『見習い女官の少女』は最近見かけないが、元気にしてるだろうか」

(来た!)

 いままでなら聞こえないふりをしていた独り言にリリアンナは飛びつく。

「お元気ですよ。兄上様のためにイスファーン王国との交易が首尾よく進むようにとご協力いただいていましたけど、決議も無事終わりましたしね。また近いうちに登城されますけど、しばらくの間はいらっしゃらない予定なんです」
「……兄上……イスファーン王国……」

 いくら仕事をするしか能のない官吏達も、流石にここまで示唆されれば少女の正体を理解したらしい。
 目の前の顔がみるみる青くなる。
 自分たちの女神である少女を崇拝するがあまり、少女の耳に入るのも気にせず王太子殿下の婚約者を揶揄していたのだから当然だ。

「もしかしてあの見習い女官の少女は……」
「あら! やだ! わたくしったらエレナ様からご自身が見習い女官として王宮で働いたら官吏達が緊張するだろうからとお気遣いいただいて内緒にするお約束でしたのに! この話は内密にしておいてくださいね。よろくお願いしますね」

 普段なら振りまかない笑顔を浮かべてお願いしたのもむなしく、リリアンナの計画通り少女の正体は『王宮に舞い降りた女神』の信奉者達の間に瞬く間に広がっていた。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

【完結】第一王子の婚約者になりましたが、妃になるにはまだまだ先がみえません!

風見ゆうみ
恋愛
「王族に嫁いだ者は、夫を二人もつ事を義務化とする」  第二王子の婚約者である私の親友に恋をした第三王子のワガママなお願いを無効にするまでのもう一人の夫候補として思い浮かんだのは、私に思いを寄せてくれていた次期公爵。  夫候補をお願いしたことにより第一王子だけでなく次期公爵からも溺愛される事に?!  彼らを好きな令嬢やお姫様達ともひと悶着ありですが、親友と一緒に頑張ります! /「小説家になろう」で完結済みです。本作からお読みいただいてもわかるようにしておりますが、拙作の「身を引いたつもりが逆効果でした」の続編になります。 基本はヒロインが王子と次期公爵から溺愛される三角関係メインの甘めな話です。揺れるヒロインが苦手な方は、ご遠慮下さい。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

【完結】狂愛の第二皇子は兄の婚約者を所望する

七瀬菜々
恋愛
    兄の婚約者を手に入れたい第二皇子ジェレミーと、特に何も考えていない鈍感令嬢リリアンの執着と苦悩の物語。

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

処理中です...