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第四部
48 エレナと届かなかった手紙
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「とりあえず、エレナが訳わからないこと言うのはいつものことだし、一回置いておくね」
「お兄様だってわたしの扱いがひどいわ!」
「あれは先日のこと……」
「聞いてください!」
胸に手を当て芝居がかって話出そうとするお兄様に文句を言う。
「いいからエレナが僕の話を聞くの」
お兄様の人差し指がむぎゅっと唇に押し付けられる。殿下がわたしをお兄様から引き剥がした。
「……あれは先日のこと。ネリーネ嬢が王宮に来た時だったかな? 殿下が婚約してからエレナに手紙を何度も送ってるのにエレナに手紙が届いていないなんて言いだしたんだ。僕はユーゴからは殿下からの音沙汰はなんもないって聞いていたけど、それは殿下がエレナになんも送ってきてないんだと思ってたんだ。でも殿下の言い分通り送ったのに届いてないってことなら随分と話しが変わってくる。そうでしょう?」
殿下の手紙が届いていない? どう言うこと? 殿下はエレナに手紙を送っていたの?
「それでね、話を聞いていたら殿下にもエレナから手紙が届いていないことも分かった。おかしいよね。エレナは殿下に手紙を送ってるでしょ?」
お兄様に聞かれても正直記憶はないけど。でも、でも、エレナは領地のお祭りのお誘いをしているのは確実だ。
去年も胡桃のケーキを作って待っていたのにいらっしゃらなかった。
手紙も送らずに「きっと殿下はいらっしゃる」なんて信じているほど夢見る少女ではないはず。
わたしは曖昧に微笑みながら頷くと、頭上から喉がなる音が聞こえる。
「本当に、エレナが……私に手紙を……送って」
片手で私の腰を抱き寄せたまま、空いた片手で顔を隠す。殿下の口元は緩んでいた。
「嬉しいのは分かったから殿下も黙って僕の話を聞いて。お互い送ってるのに手紙が届かないってことは、まぁ、誰かが届かないようにしてるってことでしょ? 妨害してるのは王宮のどこの誰かなのか、我が家の誰かなのか。我が家の線だけど、去年はエレナは本邸にいたからエレナ宛ての手紙は全て家令のノヴァが管理してる。そのノヴァもユーゴももちろん一番近くにいたメリーも殿下からの手紙が届いたことはないと証言している。そうそう。うっかりメリーに聞いちゃったもんだから、エレナが手紙を送ってるのになんの音沙汰もないことめちゃくちゃ恨んでたよ。殿下のこと恩知らずって詰ってたからね」
「お兄様! メリーがそんなこと言ってたなんてどうして知らせるの! 不敬罪で捕らえられたらお兄様のせいよ!」
お兄様は肩をすくめるだけだ。見上げた殿下は首を横に振る。
「殿下が婚約者としての役割を果たしてれば、そんなことメリーは言わないよ。殿下のせいだもの」
「……でも、殿下は手紙を送ってくださってたんでしょう?」
「エレナの手元に手紙なんて届いてないのに信じてあげるの?」
……信じたいけど、素直に信じられない。
でも……
「殿下は嘘をつくような方ではないわ。ね、殿下。そうでしょう?」
これだけは確信を持って言える。
殿下は私からの問いにため息で返事をした。
「まあ、それは僕も同意する。それにメリーが殿下に悪感情を抱いててもお互い様だから」
「お互い様って?」
「まあ、聞いてよ。つまり王宮のどこかで殿下のエレナ宛ての手紙はエレナに届かないように、エレナの殿下宛ての手紙が殿下に届かないようになってるってことだよね。まず殿下の身近なところが止めてるのはあり得ない。ウェードは最近までエレナに対して感じ悪かったでしょ? あれはエレナが殿下からの手紙に返事を出さない無作法者だって思ってたからだもの。ね、お互い様でしょ?」
「……そうなのかしら」
「そうそうそんなもんだよ。忠誠心って怖いね。で、邪魔してるのは文書係かなとも思ったんだよね。ほらモーガンって覚えてる?」
「モーガン? どなたか知らないわ」
「えっと、ハロルドの前に殿下宛付きの文書係だったけど覚えてない?」
「それなら覚えているわ」
あの、祭りの最中領地まで押しかけてきた感じの悪い役人だ。思い出しただけで腹立たしい。
「エレナ。顔くしゃくしゃにしないの。可愛い顔が台無しだよ? で、モーガンが何かしてるかとも思ったんだけど、モーガンに書類を私的なものと公的なものに分けるほど能力はないし、そもそもハロルドに変わった時点で殿下の私的な手紙が増えたりはしてない。まあ、そもそも最近は直接顔を合わせることもあったし手紙を送ることもしてなかっただろうけど。とにかく文書係でもなさそう」
確かに手紙を送ったりはしていない。わたしも殿下も頷く。
「で、ある程度手紙が届かないようにしている場所の目星はついたから、今度は誰が誰宛てに送ると届いて、誰が誰宛てに送ると届かないのか試すことにしたんだ。で、結果がこれって訳」
──お兄様の話によると、領地の事業のあれこれだとわたしに書かせていた中に何枚か殿下宛ての封筒も紛れ込ませていたそうで。
わたしの名前とお兄様の名前で殿下とランス様とウェード宛てに六通の手紙と、お兄様の名前でリリィさん宛ての手紙の合計七通を準備した。それぞれにわたしの予定を書いて送り、殿下が来るかを調べていた。
わたしの名前で送った手紙はもちろん、お兄様の名前で送った手紙に書いた日付に殿下は現れなかったことから三人には届かないことが確実になった。
お兄様が唯一届くだろうと推測したのが、お兄様の名前でリリィさんに送ったものだった。
それで、今日確認のためにお兄様が一緒についてきたということだった。
「お兄様だってわたしの扱いがひどいわ!」
「あれは先日のこと……」
「聞いてください!」
胸に手を当て芝居がかって話出そうとするお兄様に文句を言う。
「いいからエレナが僕の話を聞くの」
お兄様の人差し指がむぎゅっと唇に押し付けられる。殿下がわたしをお兄様から引き剥がした。
「……あれは先日のこと。ネリーネ嬢が王宮に来た時だったかな? 殿下が婚約してからエレナに手紙を何度も送ってるのにエレナに手紙が届いていないなんて言いだしたんだ。僕はユーゴからは殿下からの音沙汰はなんもないって聞いていたけど、それは殿下がエレナになんも送ってきてないんだと思ってたんだ。でも殿下の言い分通り送ったのに届いてないってことなら随分と話しが変わってくる。そうでしょう?」
殿下の手紙が届いていない? どう言うこと? 殿下はエレナに手紙を送っていたの?
「それでね、話を聞いていたら殿下にもエレナから手紙が届いていないことも分かった。おかしいよね。エレナは殿下に手紙を送ってるでしょ?」
お兄様に聞かれても正直記憶はないけど。でも、でも、エレナは領地のお祭りのお誘いをしているのは確実だ。
去年も胡桃のケーキを作って待っていたのにいらっしゃらなかった。
手紙も送らずに「きっと殿下はいらっしゃる」なんて信じているほど夢見る少女ではないはず。
わたしは曖昧に微笑みながら頷くと、頭上から喉がなる音が聞こえる。
「本当に、エレナが……私に手紙を……送って」
片手で私の腰を抱き寄せたまま、空いた片手で顔を隠す。殿下の口元は緩んでいた。
「嬉しいのは分かったから殿下も黙って僕の話を聞いて。お互い送ってるのに手紙が届かないってことは、まぁ、誰かが届かないようにしてるってことでしょ? 妨害してるのは王宮のどこの誰かなのか、我が家の誰かなのか。我が家の線だけど、去年はエレナは本邸にいたからエレナ宛ての手紙は全て家令のノヴァが管理してる。そのノヴァもユーゴももちろん一番近くにいたメリーも殿下からの手紙が届いたことはないと証言している。そうそう。うっかりメリーに聞いちゃったもんだから、エレナが手紙を送ってるのになんの音沙汰もないことめちゃくちゃ恨んでたよ。殿下のこと恩知らずって詰ってたからね」
「お兄様! メリーがそんなこと言ってたなんてどうして知らせるの! 不敬罪で捕らえられたらお兄様のせいよ!」
お兄様は肩をすくめるだけだ。見上げた殿下は首を横に振る。
「殿下が婚約者としての役割を果たしてれば、そんなことメリーは言わないよ。殿下のせいだもの」
「……でも、殿下は手紙を送ってくださってたんでしょう?」
「エレナの手元に手紙なんて届いてないのに信じてあげるの?」
……信じたいけど、素直に信じられない。
でも……
「殿下は嘘をつくような方ではないわ。ね、殿下。そうでしょう?」
これだけは確信を持って言える。
殿下は私からの問いにため息で返事をした。
「まあ、それは僕も同意する。それにメリーが殿下に悪感情を抱いててもお互い様だから」
「お互い様って?」
「まあ、聞いてよ。つまり王宮のどこかで殿下のエレナ宛ての手紙はエレナに届かないように、エレナの殿下宛ての手紙が殿下に届かないようになってるってことだよね。まず殿下の身近なところが止めてるのはあり得ない。ウェードは最近までエレナに対して感じ悪かったでしょ? あれはエレナが殿下からの手紙に返事を出さない無作法者だって思ってたからだもの。ね、お互い様でしょ?」
「……そうなのかしら」
「そうそうそんなもんだよ。忠誠心って怖いね。で、邪魔してるのは文書係かなとも思ったんだよね。ほらモーガンって覚えてる?」
「モーガン? どなたか知らないわ」
「えっと、ハロルドの前に殿下宛付きの文書係だったけど覚えてない?」
「それなら覚えているわ」
あの、祭りの最中領地まで押しかけてきた感じの悪い役人だ。思い出しただけで腹立たしい。
「エレナ。顔くしゃくしゃにしないの。可愛い顔が台無しだよ? で、モーガンが何かしてるかとも思ったんだけど、モーガンに書類を私的なものと公的なものに分けるほど能力はないし、そもそもハロルドに変わった時点で殿下の私的な手紙が増えたりはしてない。まあ、そもそも最近は直接顔を合わせることもあったし手紙を送ることもしてなかっただろうけど。とにかく文書係でもなさそう」
確かに手紙を送ったりはしていない。わたしも殿下も頷く。
「で、ある程度手紙が届かないようにしている場所の目星はついたから、今度は誰が誰宛てに送ると届いて、誰が誰宛てに送ると届かないのか試すことにしたんだ。で、結果がこれって訳」
──お兄様の話によると、領地の事業のあれこれだとわたしに書かせていた中に何枚か殿下宛ての封筒も紛れ込ませていたそうで。
わたしの名前とお兄様の名前で殿下とランス様とウェード宛てに六通の手紙と、お兄様の名前でリリィさん宛ての手紙の合計七通を準備した。それぞれにわたしの予定を書いて送り、殿下が来るかを調べていた。
わたしの名前で送った手紙はもちろん、お兄様の名前で送った手紙に書いた日付に殿下は現れなかったことから三人には届かないことが確実になった。
お兄様が唯一届くだろうと推測したのが、お兄様の名前でリリィさんに送ったものだった。
それで、今日確認のためにお兄様が一緒についてきたということだった。
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