【完結】破滅フラグを回避したいのに婚約者の座は譲れません⁈─王太子殿下の婚約者に転生したみたいだけど転生先の物語がわかりません─

江崎美彩

文字の大きさ
202 / 276
第四部 

52 王太子妃殿下付き筆頭侍女候補リリアンナの回想【サイドストーリー】

しおりを挟む
「あとは、殿下からも手紙送ってもらわないとね。お互い手紙が届かないのか、それともやっぱり殿下はエレナに送ってないのかわからないから。殿下から僕宛てと、リリアンナを送り主にした封筒で僕宛てに手紙を送ってね」
「私の言うことを信じてないのか」

 ムッとした顔のシリルに対して、珍しくエリオットもムッとした顔で見返している。リリアンナは様子見をすることにした。

「信じてあげたいから頼んでるんでしょ。そもそも僕は殿下のために手紙が届くか確認したいわけじゃない。エレナがまた『頭の中のエレナ』とばかりおしゃべりして話が拗れ出したから、エレナのために助け舟を出してるだけだよ。だいたい殿下がエレナの昔からの理解者ぶって語るなら、エレナが幼い頃からすぐ『頭の中のエレナ』とおしゃべり始めちゃうのだって知ってるだろうし、おしゃべりして出した結論がいつも突飛なのだってわかってるでしょ? エレナが『頭の中のエレナ』とおしゃべりして話を拗らせる前に、きちんと殿下はエレナと話をしてあげてよ」
「それはわかっているが……」
「待って! 『頭の中のエレナ』ってなんのことなの?」

 聞き慣れない言葉に困惑しているのはリリアンナだけで、シリルもランスも普通に受け止めている。

「ほら、頭の中で自問自答することがあるでしょう? エレナはそれを『頭の中のエレナとおしゃべりする』って表現するんだ。エレナが言うには『頭の中のエレナ』は、こことは異なる世界で生きていた前世のエレナなんだってさ。前世のエレナは僕たちと常識が違うから『エレナ』と『頭の中のエレナ』がおしゃべりを始めると思ってもない方向に話が拗れるんだよね。で、僕はそのこねくり回して拗れきった結末だけいつも聞かされる」
「前世?」
「そう。エレナには前世の記憶を持ってるんだ」

 エリオットはたいしたことじゃないようにそう言って肩をすくめる。

 世の中には「前世の記憶」を持つ人がいるのはリリアンナも聞いたことがある。
 それは何十年も前の記憶だったり、神代の時代にまで遡ったり、この国とは別の国であったり。稀に全く別の世界から来たと人もいるらしい。魂だけ使わされる場合も身体ごと使わされる場合もある。
 いま正教会がやたらと「聖女様」に傾倒しているのも、「聖女様は『異世界からの使者』で我が国の窮地を救う」なんていう伝説があるからだ。
 正教会で匿っている「噂の聖女様」はその伝説通り「異世界からの使者」だという。

(つまり、エレナ様は魂だけ異世界から来て、聖女様は御身ごと異世界から来たと言うこと?)

「じゃあ、この『水着』も前世の記憶によるものなの?」

 リリアンナは水着を再び手に取る。

「多分ね。さすがに最近はエレナも人前で『頭の中のエレナ』だとか『前世の記憶』がとか騒いだりしないから、はっきりは言ってなかったけど、そうだと思うよ」

 海で水遊びをする風習があるイスファーンで流行っているものかと思っていたリリアンナは、感心する。

「ちょっと殿下。エレナが着た水着に触らないでよ。嫌らしい」

 エリオットはシリルから水着を奪い、睨みつける。

「違う! 誤解だ!」
「ふーん。じゃあ、どうして何枚もある中からわざわざエレナが着ていた水着を手に取るわけ?」
「それはその、マーガレットのモチーフが見事だなと思い、目についたから手を伸ばしただけで、嫌らしい気持ちがあったわけでは……」
「で、手に取ったら、ボルボラ諸島で水着を着て波打ち際ではしゃいでいたエレナを思い出すんでしょう?」
「それは……」

 シリルがごくりと喉を鳴らし背中を丸めた。

「ほら! 嫌らしい気持ちで見てるじゃないか!」
「エリオットが思い出させたんじゃない。さすがにそれでシリルを責めるのは可哀想よ」

 リリアンナは糾弾するエリオットの頭を小突き机の上に広げた水着や茶器を片付ける。

「ほら。そろそろ官吏たちが休憩から戻ってくる時間だわ。私も業務に戻らなくっちゃ」
「そうだね。僕もそろそろエレナを連れて帰ろうかな? じゃあ次に会うのはリリィの手紙で伝えた日かな? まあ、その前に一回くらいは王宮に来て様子伺いでもするか」
「ああ」
「いい? 殿下。エレナに会ったら手紙を送ったけど届かなかったことをきちんと説明してね?」

 エリオットはそう言って部屋を後にした。


***

(まあ、なにしに来たもなにも……確かにエリオットはエレナ様を連れてくる約束しかしていないわね。後はシリル次第か……)

  リリアンナはそんなことを考えながら二つ目の胡桃ケーキを手に取る。

「エリオットさま! 大変! ユーゴさまが王子様とケンカをしているわ!」

 バタバタと廊下を走る音が聞こえ、いきなりドアが開く。
 息を切らしてエリオットに助けを求めに少女が走り込んできた。

「えー。僕は殿下にエレナと話せって言ったのに、どうしてユーゴとケンカになっちゃう訳?」

 エリオットはぶつくさ文句を言いながらも、迎えに来てくれた少女に微笑みを浮かべて近づくと慇懃にお礼をする。
 赤くなった少女に導かれて出向いた先は、予想外の光景が繰り広げられていた。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

【完結】第一王子の婚約者になりましたが、妃になるにはまだまだ先がみえません!

風見ゆうみ
恋愛
「王族に嫁いだ者は、夫を二人もつ事を義務化とする」  第二王子の婚約者である私の親友に恋をした第三王子のワガママなお願いを無効にするまでのもう一人の夫候補として思い浮かんだのは、私に思いを寄せてくれていた次期公爵。  夫候補をお願いしたことにより第一王子だけでなく次期公爵からも溺愛される事に?!  彼らを好きな令嬢やお姫様達ともひと悶着ありですが、親友と一緒に頑張ります! /「小説家になろう」で完結済みです。本作からお読みいただいてもわかるようにしておりますが、拙作の「身を引いたつもりが逆効果でした」の続編になります。 基本はヒロインが王子と次期公爵から溺愛される三角関係メインの甘めな話です。揺れるヒロインが苦手な方は、ご遠慮下さい。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

【完結】狂愛の第二皇子は兄の婚約者を所望する

七瀬菜々
恋愛
    兄の婚約者を手に入れたい第二皇子ジェレミーと、特に何も考えていない鈍感令嬢リリアンの執着と苦悩の物語。

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

処理中です...