【完結】破滅フラグを回避したいのに婚約者の座は譲れません⁈─王太子殿下の婚約者に転生したみたいだけど転生先の物語がわかりません─

江崎美彩

文字の大きさ
208 / 276
第五部

2 エレナ、殿下と王立学園に通う

しおりを挟む
「うへっ」

 物思いにふけっていたわたしとは逆側の窓の外を眺めていたお兄様が貴公子らしくない声を出す。
 お兄様の視線を追うと、王立学園アカデミーの馬車止めに人だかりができていた。

 なんだろう。

 馬車はゆっくりとスピードを落として止まる。

「エレナ。早く馬車から降りなよ」
「ひどいわ。お兄様ったらエスコートしてくださらないの?」
「無理無理。僕がエスコートなんてしたら、呪われそうだもん。勘弁してよ」

 お兄様は身震いする。

 この世界は魔法も呪いもあるけれど……
 いつもしてくださるのに今日に限ってなんで急にそんなこと言い出したのかしら。

 考え事をしているとドアが開いてイケオジが頭を下げた。我が家の従僕達は横で助けを求めるようにわたしを見ている。

「おはよう」

 イケオジのウェードの後ろから凛とした声が聞こえる。

「私のマーガレットは、今日も愛らしく咲き誇っているね」

 さらっさらの淡い金色の髪にまるで湖のような深い青の瞳。整った顔を破顔させてわたしに手を差し出した殿下の後ろで、女生徒達の悲鳴が上がる。

 えっと。確認するまでもなく「私のマーガレット」ってわたしのことよね。
 どうしよう……
 殿下がエレナのことを好きだと言ってくれたからって、エレナの悪評が消えたわけじゃない。
 小太りで醜女で癇癪持ちのわがままなご令嬢だって周りはみんな思ったままなのに。
 ようやくイスファーンとの交易が片付いて久しぶりに殿下が王立学園アカデミーにいらっしゃった。
 女生徒達からしたら、なかなかお会いできない憧れの王子様が久しぶりに顔をせたと思ったら、悪評高い婚約者に甘言を囁いているなんて許せないに違いないわ。
 どうしていいかわからなくてわたしが戸惑っていると、殿下はわかりやすく肩を落とした。

「……私よりもエリオットのエスコートの方がいいのだろうか」
「ちょっと! そんなところで拗ねないでください! ほら、エレナ早く殿下の手をとって」
「えっ⁈  あっ、はい」

 後ろからお兄様に急かされてわたしは慌てて殿下の手を取り馬車を降りる。

 キラキラの王子様然とした殿下の笑顔を浴びて、わたしもご令嬢らしい微笑みを浮かべる。

「殿下。おはようございます」
「愛くるしいエレナの笑顔を今日誰よりも先に見ることが出来るだなんて、私はこの世で一番の果報者だ」

 殿下はわたしの手を握ったまま離さない。

 お兄様は「エレナの笑顔を真っ先に見たのは殿下じゃなくて僕ですけどね」なんて家族なんだから当たり前なことを言いながら、私に続いて馬車を降りる。
 そもそも、そんなこと言い出したらわたしが今日朝一番先に笑顔を向けたのは、お兄様じゃなくてメリーだわ。
 殿下はお兄様の発言は聞く気がないらしい。握ったままのわたしの手の甲を撫でる。

 ひえぇぇ。

 女生徒達の悲鳴が止まらない中、殿下はようやく手を離すとわたしの腰を抱き寄せる。

 ひょえぇぇ。

 顔が熱い。鏡を見なくても顔が赤いのがわかる。

「エレナ」

 顔を覗き込み、名前を呼ぶ声は甘い。

「はっはい」
「今日も私の最愛は可愛いらしいね」

 そう言って空いている手でわたしの髪の毛を一房すくい、唇を落とす。

 …………!

 周りの女生徒達は悲鳴だけでなく、とうとう目眩を起こしたかのように倒れたり、座り込んでいる。

 ちょっと待って! わたしだって倒れたい!

 でも、残念ながら食いしん坊のお兄様につられて朝からしっかりと食事をとってしまった。貧血なんて起きたりしないし、目眩を起こして倒れることもない。

 殿下は周りを気にすることもなく、我が家の従僕にわたしのバッグをウェードに渡すよう指示を出し、歩き始める。
 わたしの腰を抱き寄せたまま庭に咲く花を愛でたりとゆっくりのペースだ。
 わたしが急足にならないように気を遣ってくれているんだろうけど、いまそんな配慮はいらない。
 前世の記憶を思い出したばかりの時に、殿下と手を繋いで歩くのを夢みたけれど……
 こんな大注目を浴びながらしたいわけじゃない!

「……殿下ったらどういうおつもりなんですか」

 意を決してわたしは顔を上げ、小さな声で殿下に尋ねる。

「どういうって……エレナは私と一緒に噂話を覆してくれるんだろう?」

 わたしを見返す顔はキョトンとしていて悪気なんてこれっぽっちもなかった。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

【完結】第一王子の婚約者になりましたが、妃になるにはまだまだ先がみえません!

風見ゆうみ
恋愛
「王族に嫁いだ者は、夫を二人もつ事を義務化とする」  第二王子の婚約者である私の親友に恋をした第三王子のワガママなお願いを無効にするまでのもう一人の夫候補として思い浮かんだのは、私に思いを寄せてくれていた次期公爵。  夫候補をお願いしたことにより第一王子だけでなく次期公爵からも溺愛される事に?!  彼らを好きな令嬢やお姫様達ともひと悶着ありですが、親友と一緒に頑張ります! /「小説家になろう」で完結済みです。本作からお読みいただいてもわかるようにしておりますが、拙作の「身を引いたつもりが逆効果でした」の続編になります。 基本はヒロインが王子と次期公爵から溺愛される三角関係メインの甘めな話です。揺れるヒロインが苦手な方は、ご遠慮下さい。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

【完結】狂愛の第二皇子は兄の婚約者を所望する

七瀬菜々
恋愛
    兄の婚約者を手に入れたい第二皇子ジェレミーと、特に何も考えていない鈍感令嬢リリアンの執着と苦悩の物語。

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

処理中です...