【完結】破滅フラグを回避したいのに婚約者の座は譲れません⁈─王太子殿下の婚約者に転生したみたいだけど転生先の物語がわかりません─

江崎美彩

文字の大きさ
218 / 276
第五部

12 エレナの市井での評価

しおりを挟む
「もう。エレナったら、わかってないのもいい加減にしてよ。エレナに振り回されてたら僕の命がいくつあっても足りなくなっちゃうじゃない。女神様の礼拝堂で殿下のお気持ちを伺ったのはなんだったの」
「殿下のお気持ちは伺いましたけど、だからと言って浮かれてはいけないことくらい理解してます」
「ええっ。今日、朝からあんだけアピールされて、この期に及んでまだそんなこと言ってるの?」

 嘆き節のお兄様は中庭に向かう道の途中で立ち止まるとわたしの顔をまじまじと見つめる。
 お兄様は相変わらず無駄に整ってイケメンだ。わたしの返事を待っている。

「殿下のお気持ちと市井でのわたしの評価は別の話でしょう? わたしは『小太りの醜女で物知らずな癇癪持ちで愚鈍でわがままな令嬢』なのよ?」

 だから、殿下は噂を覆そうとおっしゃった。
 わたしや殿下の評価が変わるのはこれからだ。
 それに……評価が変わるのはそう簡単なことじゃない。
 そのくらいわたしだって理解している。評価が変わらなければ……その時は……
 わたしは公表を先延ばしにされているような、かりそめの婚約者なのだから、その時は身を引かなくてはいけない。
 さっきから堂々巡りするばかりの思考にとらわれて苦しい。泣きそうなわたしに気がついたお兄様は優しく頭を撫でる。
 温かい手にホッとしてわたしはその手に身を委ねた。

「いい? エレナ。森ばかり見てないで木を見てごらん? 森というのは木々の集まりなんだから」
「木を見る? どういうこと?」
「物事は細部の積み重ねでしょう? ほら中庭に向かいながら話そう」

 お兄様がわたしの手をとって歩き出す。

「エレナは市井だ世間だのの評判なんて言うけれど、もっと近いところを見てご覧よ。僕も父上も母上も、エレナのことを『小太りの醜女で物知らずな癇癪持ちで愚鈍でわがままな令嬢』だなんて思ってないでしょう?」

 優しいのはお兄様だけじゃない。
 侯爵家なんていう立派な家柄なんだからエレナのことを駒のように扱ってもおかしくないのに、お父様もお母様も、エレナのことを心の底から大切にしてくれる。
 もちろん二人ともわたしに対して『小太りの醜女で物知らずな癇癪持ちで愚鈍でわがままな令嬢』だなんて思ってないのはわかってる。

「……でも、お兄様はわたしのこと『すぐ怒って騒ぎだす』とか仰るじゃない。それに今だってわたしのこと『何もわかってない』って物知らずな扱いをしていらっしゃるわ」

 肯定するのが気恥ずかしくて、つい言い返す。

「それとこれは別じゃないか」
「どうして? 市井での評価とお兄様の評価は一致してるわ」
「……僕の日頃の発言でエレナを傷つけていたなら謝るよ」

 悲しげに揺れるエメラルドの瞳に、慌ててかぶりを振る。
 お兄様はエレナの一番の味方だ。そんなことちゃんとわかってる。

「別にお兄様の発言に不満はありますけど、傷ついたりはしていないわ。お兄様は市井の噂をご存知だからこそ、窘めてくださってるんでしょ?」

 お兄様はホッとしたようなため息をつく。
 気恥ずかしいからと言い返してしまったことが後ろめたくて、お兄様の腕に自分の腕を絡める。
 優しくて甘いお兄様の微笑みにわたしも笑顔を返した。

「とにかく僕たちはエレナのことを大切な家族だと思っているし、メリーやノヴァだけじゃなく使用人みんなエレナのことを可愛い我が家のお嬢様だって思ってる。それにトワイン領の領民達はエレナのことを女神様だって思ってくれているでしょう?」

 つい、お菓子を配る時に子供たちがそう思ってくれるだけよなんて言いたくなるけれど、同じ轍は踏まない。わたしは首を縦に振る。
 子供たちだけじゃない。
 領地のおじいちゃんおばあちゃんたちが若い頃、水害や干ばつが立て続けに起こってトワイン侯爵家が没落寸前だった。だからおじいちゃんおばあちゃんたちはわたしが生まれてから豊作続きなのは、エレナが女神様の生まれ変わりだからだと信じている。

 お兄様のいうことは間違っていないけれど……
 でも、そんな狭い世界でチヤホヤされて調子に乗っていたエレナは、王立学園アカデミーに通うために王都に来て現実に打ちのめされた。
 その推測は失われている記憶のピースを埋めるのにちょうどいいものだった。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

【完結】第一王子の婚約者になりましたが、妃になるにはまだまだ先がみえません!

風見ゆうみ
恋愛
「王族に嫁いだ者は、夫を二人もつ事を義務化とする」  第二王子の婚約者である私の親友に恋をした第三王子のワガママなお願いを無効にするまでのもう一人の夫候補として思い浮かんだのは、私に思いを寄せてくれていた次期公爵。  夫候補をお願いしたことにより第一王子だけでなく次期公爵からも溺愛される事に?!  彼らを好きな令嬢やお姫様達ともひと悶着ありですが、親友と一緒に頑張ります! /「小説家になろう」で完結済みです。本作からお読みいただいてもわかるようにしておりますが、拙作の「身を引いたつもりが逆効果でした」の続編になります。 基本はヒロインが王子と次期公爵から溺愛される三角関係メインの甘めな話です。揺れるヒロインが苦手な方は、ご遠慮下さい。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

【完結】狂愛の第二皇子は兄の婚約者を所望する

七瀬菜々
恋愛
    兄の婚約者を手に入れたい第二皇子ジェレミーと、特に何も考えていない鈍感令嬢リリアンの執着と苦悩の物語。

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

処理中です...