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第五部
20 エレナ、役人たちの報告会に参加する
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王太后様は前の国王陛下の後妻だ。まだまだお若い方だし、王太后様が産んだ息子はまだ王弟殿下として王族に名を連ねている。
王弟殿下はイケメンで人気も高くてまだ二十代半ばと若い。
王位継承権だって殿下の次だし、王太后様が自分の産んだ息子を玉座に……なんて野望を抱いているなんて噂も聞く。
でも……噂は噂だ。
王太后様は殿下にとって前国王の後妻というだけで済ませられる関係ではないはず。
殿下の母親である身罷られた王妃様は、王太后様の妹君だ。
王太后様は殿下と血の繋がった伯母と甥なのに……
殿下の手紙が届かないように謀略を図っていた黒幕だということ?
パラパラと報告書の頁をめくる殿下の表情からは感情が読めない。
やっぱりショックを受けてらっしゃるかしら。
じっと殿下を見つめているとふと視線が合う。
「ご覧」
殿下はご自身が読まれていた逓信省の内偵結果の報告書をわたしの前に置く。
頷いて手に取り、目を通す。
資料には王妃様だけではなく軍部のお偉い様だ国王陛下直属の家臣だ大臣達だと国を支える重鎮たちの配下の者達の名が連なっていた。
重鎮達がどんな関与をしていたのか調べてあるけれど……
「これって……」
わたしは目を通した報告書を机に置く。
「誰も明確な指示をしていないってこと?」
誰に問いかけるでもなくそう呟いた。空気が重い。
落ち着くために紅茶を一口飲む。
「……さようです。重鎮たちの配下に置かれるような上級官吏達は上司の顔色を伺い媚を売るのがうまい奴らです。例えば『王太子殿下の婚約は今回も進展していないのだろう。確認してきてくれないか?』などと含みを持たせて尋ねられれば、『うまくいかないのを願っているのだな』と言葉の裏を汲み取り手を回し始めてしまうのです」
報告書に書かれていた膨大な名前は王太后様はじめこの国の重鎮達の誰かに繋がっているけれど、それだけだ。
大元にいる重鎮達はなんの指示もしていない。
要は忖度ってやつだ。
表舞台で動き回る人物達の後ろに巨大な黒幕が控えていると調査を始めたにも関わらず、幕裏には誰もいなかった。
報告書をまとめたステファン様は気まずそうな顔をする。
「じゃあ王太后様も、特にご指示をされたわけではないのね?」
「ええ。王太后殿下付きの侍女達が『王弟殿下を次期国王にと考えてらっしゃるはずの王太后様なら、王太子殿下の婚約がうまくいかないことを願ってらっしゃるに違いない』と斟酌したんです」
いつのまにかソファに座り込んでいたリリィさんは吐き捨てるようにそういうと焼き菓子を頬張った。
戸惑っているのはステファン様だけで、殿下もお兄様も気にしていない。
「そうなのね。王太后様は殿下の廃位を願っていらっしゃるなんていうのは噂だけなのね。よかったわ。血の繋がった甥伯母ですものね」
「嫌ですわ。エレナ様ったら。もちろん狙ってらっしゃいますよ」
リリィさんの発言にわたしは手に持っていた紅茶をこぼしそうになる。
「そうだな。王弟殿下は権力に興味のない方だが、その母親は権力に目が眩み進んで前国王の後妻に入るような御仁だからな」
「当時王太子殿下だった国王陛下と隣国の姫君の縁談が無くなって、自分の妹である殿下のお母様が王太子妃になったのを妬んでたって話でしょう? 当時の王太子殿下に婚約者がいるから王太子妃になるのを諦めたのに、結局下に見ていた妹が王太子妃になって未来の国母になるなんて気位の高い御仁には許せなかったんだろうね」
殿下もお兄様も動揺一つしていない。ドロドロした話もあっけらかんとしている。
「お兄様ってばどうしてそんなこと詳しいの?」
「どうしてって母上は王妃殿下付きの女官だったし、メリーは王妃殿下の侍女だったじゃない。母上に会いに来る友人達だって王妃派のご婦人ばかりだし、思い出話が盛り上がればそんな話になるさ」
「……わたしは、ご婦人ばかりのお茶会なんて参加したことないから知らないわ。なんでお兄様はそんなお茶会に参加なさってるの」
「だって参加したら可愛がっていただけるでしょ」
屈託なく笑うお兄様を半目で見つめる。
「エレナ。そんな表情したら可愛い顔が台無しだよ?」
「どんな表情をしていてもエレナの愛らしさが損なわれることはない」
殿下の断言に何故かリリィさんとウェードが深く頷く。
変な空気に戸惑っていると、近づいてくる足跡が聞こえた。
「さっさと手紙お出ししてよろしいですかねぇ? はぁ。いつまで待たせれば気が済むんだか」
「モーガン! 口を慎め!」
ステファン様が慌てて悪い役人の頭を掴んで下げさせた。
「手紙?」
「はい。手紙について届けない方がいいと判断してもどう処分すればいいと指示をするものはいなかったのです。ですので、王太子殿下からの手紙などは全て保管されていました。モーガン。お渡ししろ」
モーガンと呼ばれた感じの悪い男は抱え込んでいた書類箱をテーブルの上に置いた。
王弟殿下はイケメンで人気も高くてまだ二十代半ばと若い。
王位継承権だって殿下の次だし、王太后様が自分の産んだ息子を玉座に……なんて野望を抱いているなんて噂も聞く。
でも……噂は噂だ。
王太后様は殿下にとって前国王の後妻というだけで済ませられる関係ではないはず。
殿下の母親である身罷られた王妃様は、王太后様の妹君だ。
王太后様は殿下と血の繋がった伯母と甥なのに……
殿下の手紙が届かないように謀略を図っていた黒幕だということ?
パラパラと報告書の頁をめくる殿下の表情からは感情が読めない。
やっぱりショックを受けてらっしゃるかしら。
じっと殿下を見つめているとふと視線が合う。
「ご覧」
殿下はご自身が読まれていた逓信省の内偵結果の報告書をわたしの前に置く。
頷いて手に取り、目を通す。
資料には王妃様だけではなく軍部のお偉い様だ国王陛下直属の家臣だ大臣達だと国を支える重鎮たちの配下の者達の名が連なっていた。
重鎮達がどんな関与をしていたのか調べてあるけれど……
「これって……」
わたしは目を通した報告書を机に置く。
「誰も明確な指示をしていないってこと?」
誰に問いかけるでもなくそう呟いた。空気が重い。
落ち着くために紅茶を一口飲む。
「……さようです。重鎮たちの配下に置かれるような上級官吏達は上司の顔色を伺い媚を売るのがうまい奴らです。例えば『王太子殿下の婚約は今回も進展していないのだろう。確認してきてくれないか?』などと含みを持たせて尋ねられれば、『うまくいかないのを願っているのだな』と言葉の裏を汲み取り手を回し始めてしまうのです」
報告書に書かれていた膨大な名前は王太后様はじめこの国の重鎮達の誰かに繋がっているけれど、それだけだ。
大元にいる重鎮達はなんの指示もしていない。
要は忖度ってやつだ。
表舞台で動き回る人物達の後ろに巨大な黒幕が控えていると調査を始めたにも関わらず、幕裏には誰もいなかった。
報告書をまとめたステファン様は気まずそうな顔をする。
「じゃあ王太后様も、特にご指示をされたわけではないのね?」
「ええ。王太后殿下付きの侍女達が『王弟殿下を次期国王にと考えてらっしゃるはずの王太后様なら、王太子殿下の婚約がうまくいかないことを願ってらっしゃるに違いない』と斟酌したんです」
いつのまにかソファに座り込んでいたリリィさんは吐き捨てるようにそういうと焼き菓子を頬張った。
戸惑っているのはステファン様だけで、殿下もお兄様も気にしていない。
「そうなのね。王太后様は殿下の廃位を願っていらっしゃるなんていうのは噂だけなのね。よかったわ。血の繋がった甥伯母ですものね」
「嫌ですわ。エレナ様ったら。もちろん狙ってらっしゃいますよ」
リリィさんの発言にわたしは手に持っていた紅茶をこぼしそうになる。
「そうだな。王弟殿下は権力に興味のない方だが、その母親は権力に目が眩み進んで前国王の後妻に入るような御仁だからな」
「当時王太子殿下だった国王陛下と隣国の姫君の縁談が無くなって、自分の妹である殿下のお母様が王太子妃になったのを妬んでたって話でしょう? 当時の王太子殿下に婚約者がいるから王太子妃になるのを諦めたのに、結局下に見ていた妹が王太子妃になって未来の国母になるなんて気位の高い御仁には許せなかったんだろうね」
殿下もお兄様も動揺一つしていない。ドロドロした話もあっけらかんとしている。
「お兄様ってばどうしてそんなこと詳しいの?」
「どうしてって母上は王妃殿下付きの女官だったし、メリーは王妃殿下の侍女だったじゃない。母上に会いに来る友人達だって王妃派のご婦人ばかりだし、思い出話が盛り上がればそんな話になるさ」
「……わたしは、ご婦人ばかりのお茶会なんて参加したことないから知らないわ。なんでお兄様はそんなお茶会に参加なさってるの」
「だって参加したら可愛がっていただけるでしょ」
屈託なく笑うお兄様を半目で見つめる。
「エレナ。そんな表情したら可愛い顔が台無しだよ?」
「どんな表情をしていてもエレナの愛らしさが損なわれることはない」
殿下の断言に何故かリリィさんとウェードが深く頷く。
変な空気に戸惑っていると、近づいてくる足跡が聞こえた。
「さっさと手紙お出ししてよろしいですかねぇ? はぁ。いつまで待たせれば気が済むんだか」
「モーガン! 口を慎め!」
ステファン様が慌てて悪い役人の頭を掴んで下げさせた。
「手紙?」
「はい。手紙について届けない方がいいと判断してもどう処分すればいいと指示をするものはいなかったのです。ですので、王太子殿下からの手紙などは全て保管されていました。モーガン。お渡ししろ」
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