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第五部
21 エレナ、殿下の手紙を受け取る
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ドスンと乱暴に置かれたはずみで書類箱の蓋が外れる。
分厚い封筒の束がいくつもずり落ちた。
軽く見積もっても二十通……ううん。三十通はありそう。
殿下から送ってくださった手紙とエレナから送った手紙がこんなにいっぱい。
それにしてもこれだけの量の手紙が人知れずどこかに隠されていたってこと?
「うっわ……本当に送ってたんだ。しかもこんなに分厚いのをこんな大量に」
お兄様は身震いをしてから封筒を手に取り一つ一つ宛先と封蝋を確認する。
エレナ宛の手紙はわたしの前に置かれた。
「この手紙はどこに隠されていたの? その、どうして……モーガン? さんが持ってきてくださったの?」
執事みたいな服を着ているってことは、役人はもう辞めたってことよね?
まあ、そうよね。殿下に対して常に失礼で役人なんて向いてなかったもの。辞めたんじゃなくて辞めさせられたのかも知れない。
そんな感じ悪い元役人が、殿下付きとして報告に来たステファン様たちに同行している意味がわからないし、そもそも大切な手紙なのにぞんざいな扱いをするのは許せない。
「俺が持ってきたことが何か問題でも?」
嫌そうな顔をしていただろう私に感じの悪い元役人は嫌そうな顔を返す。相変わらず失礼極まりない。
慌ててステファン様が感じの悪い元役人の口を塞いだ。
「えっとエレナ様。モーガンは官吏の職を辞しマグナレイ侯爵家で使用人をしております。我が一族の長であるマグナレイ侯爵閣下は過去に大臣や宰相を歴任しており、いまだ王宮の官吏たちに強い影響力をお持ちの方です。マグナレイ侯爵閣下に逓信省の処分などを相談していたところ、使用人として働いていたモーガンが、文書係を担当していた際に殿下の手紙が保管されている場所を見たことがあると言い出したのです」
マグナレイ侯爵は殿下の教育係も務められた方だし、重鎮の中でも殿下の味方につかれているのね。
「そうなのね。それでどこに?」
「文書室の奥に錠前が壊れた扉があったのを覚えていますか? 開かずの間になっていたあの部屋に保管されておりました」
山積みにされていく封筒をわき目に、ステファン様とハロルド様の話を聞く。
小太りの醜女で癇癪持ちのわがまま令嬢だなんて市井で噂されていると聞いたあの日を思いだす。
リリィさんが泣いているわたしを慰めようと文書室の奥にあった小部屋に入ろうとしたら錠前が壊れて扉が開かなかったんだ。
ハロルド様があの時、この感じの悪い元役人が部屋に出入りしていたから開けるコツがあるはずだと言っていた。
感じの悪い元役人は自分が開けて手紙を持ってきてやったと言わんばかりの態度だ。
「あの時扉を壊してでも開けていればと後悔しております。どんな処罰でも受ける覚悟でおります」
リリィさんがギュッと下唇を噛み締める。処罰という単語を聞いたランス様まで沈鬱な表情を浮かべていた。
確かにあの時に扉をこじ開けていたらこの手紙の山を見つけていたかもしれない。
でもあの時はまだ殿下のお気持ちを伺う前だったもの。きっと手紙の山だけ受け取っても信じられなかったわ。
わたしは下を向くリリィさんの顔を覗き込む。
「処罰なんてするわけないわ。あの時のリリィさんはわたしのために最善を尽くしてくれていましたもの」
「ですよね! あ、焼き菓子がなくなりそうなので追加をお持ちいたしますね」
リリィさんは変わり身早くそう言って顔をあげると、まだ気持ちの切り替えができていないランス様に焼き菓子の補充を指示した。
気がつけばトレーのお菓子は残りわずかだ。
焼き菓子を頬張るお兄様を睨む。
「大切な手紙に油染みが着くじゃない」
「大丈夫だよ。お菓子を持った手では手紙を持ったりしてないから。ねえ、ここにあるのは殿下がエレナに送ったやつだけ? エレナが殿下に送った手紙は?」
「エレナ様がお送りになられた手紙は、先ほど私が代理でお受け取りしておきました」
お兄様の質問にウェードがそう答えると、どこからともなく出した銀盆を恭しく掲げた。
殿下の受け取った銀盆には薄い封筒が数通置いてある。
見慣れた字で書かれた宛名にトワイン侯爵家の封蝋はエレナが書いたことを証明する。
えっ? あれだけ? エレナは幼い頃から殿下のことが大好きだったはずなのに。
婚約者に内定したことに浮かれて、いっぱい手紙を送ったりしてないの?
「……ねぇ、もしかしてエレナが殿下に送った手紙ってあれだけなの? 量に差がありすぎない?」
お兄様に耳打ちされたけど、そんなのわたしが知りたい。
「まぁ、殿下は嬉しそうだからいいか」
チラリと殿下を見ると片手で口を覆い深いため息をついていた。
今までは呆れているように見えていたため息も、お兄様がいうように喜んでくれているように感じる。
恥ずかしいし、手紙が薄くて少ないのがなんだか後ろめたい。
「せっかくだし手紙読んでみなよ。はい」
わたしはお兄様の言葉に頷き、手渡された封筒を開けた。
──親愛なる私のマーガレットへ。
そう始まる手紙の美しく並んだ筆致は、幼い頃に約束してから毎年誕生日に贈っていただいた本に添えられた手紙と符合する。
見慣れた文字は、たくさんの思い出とたくさんの愛の言葉を紡いでいた。
分厚い封筒の束がいくつもずり落ちた。
軽く見積もっても二十通……ううん。三十通はありそう。
殿下から送ってくださった手紙とエレナから送った手紙がこんなにいっぱい。
それにしてもこれだけの量の手紙が人知れずどこかに隠されていたってこと?
「うっわ……本当に送ってたんだ。しかもこんなに分厚いのをこんな大量に」
お兄様は身震いをしてから封筒を手に取り一つ一つ宛先と封蝋を確認する。
エレナ宛の手紙はわたしの前に置かれた。
「この手紙はどこに隠されていたの? その、どうして……モーガン? さんが持ってきてくださったの?」
執事みたいな服を着ているってことは、役人はもう辞めたってことよね?
まあ、そうよね。殿下に対して常に失礼で役人なんて向いてなかったもの。辞めたんじゃなくて辞めさせられたのかも知れない。
そんな感じ悪い元役人が、殿下付きとして報告に来たステファン様たちに同行している意味がわからないし、そもそも大切な手紙なのにぞんざいな扱いをするのは許せない。
「俺が持ってきたことが何か問題でも?」
嫌そうな顔をしていただろう私に感じの悪い元役人は嫌そうな顔を返す。相変わらず失礼極まりない。
慌ててステファン様が感じの悪い元役人の口を塞いだ。
「えっとエレナ様。モーガンは官吏の職を辞しマグナレイ侯爵家で使用人をしております。我が一族の長であるマグナレイ侯爵閣下は過去に大臣や宰相を歴任しており、いまだ王宮の官吏たちに強い影響力をお持ちの方です。マグナレイ侯爵閣下に逓信省の処分などを相談していたところ、使用人として働いていたモーガンが、文書係を担当していた際に殿下の手紙が保管されている場所を見たことがあると言い出したのです」
マグナレイ侯爵は殿下の教育係も務められた方だし、重鎮の中でも殿下の味方につかれているのね。
「そうなのね。それでどこに?」
「文書室の奥に錠前が壊れた扉があったのを覚えていますか? 開かずの間になっていたあの部屋に保管されておりました」
山積みにされていく封筒をわき目に、ステファン様とハロルド様の話を聞く。
小太りの醜女で癇癪持ちのわがまま令嬢だなんて市井で噂されていると聞いたあの日を思いだす。
リリィさんが泣いているわたしを慰めようと文書室の奥にあった小部屋に入ろうとしたら錠前が壊れて扉が開かなかったんだ。
ハロルド様があの時、この感じの悪い元役人が部屋に出入りしていたから開けるコツがあるはずだと言っていた。
感じの悪い元役人は自分が開けて手紙を持ってきてやったと言わんばかりの態度だ。
「あの時扉を壊してでも開けていればと後悔しております。どんな処罰でも受ける覚悟でおります」
リリィさんがギュッと下唇を噛み締める。処罰という単語を聞いたランス様まで沈鬱な表情を浮かべていた。
確かにあの時に扉をこじ開けていたらこの手紙の山を見つけていたかもしれない。
でもあの時はまだ殿下のお気持ちを伺う前だったもの。きっと手紙の山だけ受け取っても信じられなかったわ。
わたしは下を向くリリィさんの顔を覗き込む。
「処罰なんてするわけないわ。あの時のリリィさんはわたしのために最善を尽くしてくれていましたもの」
「ですよね! あ、焼き菓子がなくなりそうなので追加をお持ちいたしますね」
リリィさんは変わり身早くそう言って顔をあげると、まだ気持ちの切り替えができていないランス様に焼き菓子の補充を指示した。
気がつけばトレーのお菓子は残りわずかだ。
焼き菓子を頬張るお兄様を睨む。
「大切な手紙に油染みが着くじゃない」
「大丈夫だよ。お菓子を持った手では手紙を持ったりしてないから。ねえ、ここにあるのは殿下がエレナに送ったやつだけ? エレナが殿下に送った手紙は?」
「エレナ様がお送りになられた手紙は、先ほど私が代理でお受け取りしておきました」
お兄様の質問にウェードがそう答えると、どこからともなく出した銀盆を恭しく掲げた。
殿下の受け取った銀盆には薄い封筒が数通置いてある。
見慣れた字で書かれた宛名にトワイン侯爵家の封蝋はエレナが書いたことを証明する。
えっ? あれだけ? エレナは幼い頃から殿下のことが大好きだったはずなのに。
婚約者に内定したことに浮かれて、いっぱい手紙を送ったりしてないの?
「……ねぇ、もしかしてエレナが殿下に送った手紙ってあれだけなの? 量に差がありすぎない?」
お兄様に耳打ちされたけど、そんなのわたしが知りたい。
「まぁ、殿下は嬉しそうだからいいか」
チラリと殿下を見ると片手で口を覆い深いため息をついていた。
今までは呆れているように見えていたため息も、お兄様がいうように喜んでくれているように感じる。
恥ずかしいし、手紙が薄くて少ないのがなんだか後ろめたい。
「せっかくだし手紙読んでみなよ。はい」
わたしはお兄様の言葉に頷き、手渡された封筒を開けた。
──親愛なる私のマーガレットへ。
そう始まる手紙の美しく並んだ筆致は、幼い頃に約束してから毎年誕生日に贈っていただいた本に添えられた手紙と符合する。
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