246 / 276
第五部
40 エレナ、殿下からデートに誘われる
しおりを挟む
お兄様は殿下が乗ってきた馬車に乗り込む。
車内から見慣れた役人達がわたしに向かって頭を下げる。わたしもお辞儀を返す。
「では、わたしは我が家の馬車で先に向かっていますね」
バイラム王子殿下は王都のホテルにご滞在されている。旧市街にある女神様の礼拝堂までの通り道だ。お兄様を降ろしてから向かうのだろう。
「いいや。私もトワイン家の馬車に乗るよ」
殿下は私の手を引いたまま我が家の馬車に向かって歩き始める。
馬車を覗き込むと既に乗り込んでいるランス様とリリィさんの間にユーゴが挟まれて座っている。殿下のことを怖がっていたはずなのに、なんだか鼻息が荒くて頬は紅潮している。
目が合うと膝に乗せたバスケットを自慢げに持ち上げた。
「さあ、エレナ様! 用意したお菓子を早く配りに行きましょう!」
「ユーゴなにしてるの。貴方はお兄様の侍従見習いなのだから、お兄様についていかなくてはいけないのよ。職務を放棄してはいけないわ」
「いいえ。わたくしは女神様の使徒ですからっ! 女神様の礼拝堂にお伺いするのが最優先です!」
キリリとした返事にため息をつく。
「降りなさい」
「いやですぅ」
「かわいこぶっても許されないわよ。いい? ユーゴの態度がお兄様の評価に関わるのよ。殿下もいらっしゃるところでやりたい放題していい訳ないわ」
「あまり怒らないでやってくれないか? 私がユーゴに同行を願ったのだ」
キラキラとした声に見上げると殿下が微笑んでいる。
「えっ殿下がですか?」
「ああ。エレナが子ども達に菓子を配るのは祭事だからね。祭事に詳しいものの同行が必要だろう?」
「……祭事じゃなくて慈善事業ですよ?」
「子ども達はみなエレナを女神だと思っているのに?」
殿下の言葉にユーゴと何故かリリィさんまで深く頷いている。
だめだわ。冷静なのはランス様しかいない。
ここはわたしが落ち着かなくては。
「……子ども達は、お菓子に喜んでいるだけですよ。わたしじゃなくてもお菓子を配ってくれるなら女神様扱いしてくれると思います」
「そうかな? まあ、エレナがそう思うならそういうことにしておこう。ほら早く向かわなくては。子ども達が待っている」
殿下のエスコートで馬車に乗り込んだ。
そして動き出した馬車の中ではユーゴの妄想女神様トークがずっと続いている。
殿下が話を聞いてくださるものだから、ユーゴの早口オタトークは止まらない。
隣を見上げると殿下の凛とした横顔。綺麗な顎のラインに長いまつ毛が滑らかな頬に影を落としている。
視線に気づいてわたしを見つめ返すと、とろけるような笑顔に変わる。
ああ、カッコいいけど、無理っ!
顔が良すぎるのも良くないわ。
恥ずかしいから窓の外でも眺めたいのに、レースのカーテンは閉めきられていて。
開けようとするとリリィさんに止められた。
そうね。わかってる。
もうすぐ殿下の誕生日だもの。
わたしが殿下の婚約者として公になる日までカウントダウンが始まっている。
発表されてないけど、わたしが婚約者だっていうのは市井の人々は知っていて……
いくら殿下に好かれていても、わたしが嫌われ者の事実は変わらない。
嫌われ者のわたしが、婚約者として殿下を振り回しているのは外聞が悪いもの。
殿下がトワイン侯爵家の馬車に乗ってるのなんてバレたらなにが起きるかわからない。
いくら殿下と両思いだからって……物語じゃないからそれでめでたしめでたしではないんだわ。
物語の登場人物だって思いこんで、物語に抗おうとしてたのに。
物語じゃないって理解したいまは、物語のようにハッピーエンドで終わらないことが辛いなんて本当にわがままだわ。
殿下の笑顔にときめいて高くなった体温は急転直下冷めていく。
わたしは女神様の礼拝堂に着くまで、下を向いて座っているしかなかった。
車内から見慣れた役人達がわたしに向かって頭を下げる。わたしもお辞儀を返す。
「では、わたしは我が家の馬車で先に向かっていますね」
バイラム王子殿下は王都のホテルにご滞在されている。旧市街にある女神様の礼拝堂までの通り道だ。お兄様を降ろしてから向かうのだろう。
「いいや。私もトワイン家の馬車に乗るよ」
殿下は私の手を引いたまま我が家の馬車に向かって歩き始める。
馬車を覗き込むと既に乗り込んでいるランス様とリリィさんの間にユーゴが挟まれて座っている。殿下のことを怖がっていたはずなのに、なんだか鼻息が荒くて頬は紅潮している。
目が合うと膝に乗せたバスケットを自慢げに持ち上げた。
「さあ、エレナ様! 用意したお菓子を早く配りに行きましょう!」
「ユーゴなにしてるの。貴方はお兄様の侍従見習いなのだから、お兄様についていかなくてはいけないのよ。職務を放棄してはいけないわ」
「いいえ。わたくしは女神様の使徒ですからっ! 女神様の礼拝堂にお伺いするのが最優先です!」
キリリとした返事にため息をつく。
「降りなさい」
「いやですぅ」
「かわいこぶっても許されないわよ。いい? ユーゴの態度がお兄様の評価に関わるのよ。殿下もいらっしゃるところでやりたい放題していい訳ないわ」
「あまり怒らないでやってくれないか? 私がユーゴに同行を願ったのだ」
キラキラとした声に見上げると殿下が微笑んでいる。
「えっ殿下がですか?」
「ああ。エレナが子ども達に菓子を配るのは祭事だからね。祭事に詳しいものの同行が必要だろう?」
「……祭事じゃなくて慈善事業ですよ?」
「子ども達はみなエレナを女神だと思っているのに?」
殿下の言葉にユーゴと何故かリリィさんまで深く頷いている。
だめだわ。冷静なのはランス様しかいない。
ここはわたしが落ち着かなくては。
「……子ども達は、お菓子に喜んでいるだけですよ。わたしじゃなくてもお菓子を配ってくれるなら女神様扱いしてくれると思います」
「そうかな? まあ、エレナがそう思うならそういうことにしておこう。ほら早く向かわなくては。子ども達が待っている」
殿下のエスコートで馬車に乗り込んだ。
そして動き出した馬車の中ではユーゴの妄想女神様トークがずっと続いている。
殿下が話を聞いてくださるものだから、ユーゴの早口オタトークは止まらない。
隣を見上げると殿下の凛とした横顔。綺麗な顎のラインに長いまつ毛が滑らかな頬に影を落としている。
視線に気づいてわたしを見つめ返すと、とろけるような笑顔に変わる。
ああ、カッコいいけど、無理っ!
顔が良すぎるのも良くないわ。
恥ずかしいから窓の外でも眺めたいのに、レースのカーテンは閉めきられていて。
開けようとするとリリィさんに止められた。
そうね。わかってる。
もうすぐ殿下の誕生日だもの。
わたしが殿下の婚約者として公になる日までカウントダウンが始まっている。
発表されてないけど、わたしが婚約者だっていうのは市井の人々は知っていて……
いくら殿下に好かれていても、わたしが嫌われ者の事実は変わらない。
嫌われ者のわたしが、婚約者として殿下を振り回しているのは外聞が悪いもの。
殿下がトワイン侯爵家の馬車に乗ってるのなんてバレたらなにが起きるかわからない。
いくら殿下と両思いだからって……物語じゃないからそれでめでたしめでたしではないんだわ。
物語の登場人物だって思いこんで、物語に抗おうとしてたのに。
物語じゃないって理解したいまは、物語のようにハッピーエンドで終わらないことが辛いなんて本当にわがままだわ。
殿下の笑顔にときめいて高くなった体温は急転直下冷めていく。
わたしは女神様の礼拝堂に着くまで、下を向いて座っているしかなかった。
30
あなたにおすすめの小説
【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
【完結】第一王子の婚約者になりましたが、妃になるにはまだまだ先がみえません!
風見ゆうみ
恋愛
「王族に嫁いだ者は、夫を二人もつ事を義務化とする」
第二王子の婚約者である私の親友に恋をした第三王子のワガママなお願いを無効にするまでのもう一人の夫候補として思い浮かんだのは、私に思いを寄せてくれていた次期公爵。
夫候補をお願いしたことにより第一王子だけでなく次期公爵からも溺愛される事に?!
彼らを好きな令嬢やお姫様達ともひと悶着ありですが、親友と一緒に頑張ります!
/「小説家になろう」で完結済みです。本作からお読みいただいてもわかるようにしておりますが、拙作の「身を引いたつもりが逆効果でした」の続編になります。
基本はヒロインが王子と次期公爵から溺愛される三角関係メインの甘めな話です。揺れるヒロインが苦手な方は、ご遠慮下さい。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ
しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”――
今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。
そして隣国の国王まで参戦!?
史上最大の婿取り争奪戦が始まる。
リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。
理由はただひとつ。
> 「幼すぎて才能がない」
――だが、それは歴史に残る大失策となる。
成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。
灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶……
彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。
その名声を聞きつけ、王家はざわついた。
「セリカに婿を取らせる」
父であるディオール公爵がそう発表した瞬間――
なんと、三人の王子が同時に立候補。
・冷静沈着な第一王子アコード
・誠実温和な第二王子セドリック
・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック
王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、
王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。
しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。
セリカの名声は国境を越え、
ついには隣国の――
国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。
「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?
そんな逸材、逃す手はない!」
国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。
当の本人であるセリカはというと――
「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」
王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。
しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。
これは――
婚約破棄された天才令嬢が、
王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら
自由奔放に世界を変えてしまう物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる