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第五部
58 エレナと殿下のデート
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以前贈ったカフスボタンと同じデザインで作るのを勧められて、気がつくといつの間にかマーガレットのブローチをオーダーしていた。しかも今度は殿下の瞳の色に似た濃い青の宝石まであしらわれている。
お揃いという事実に顔が赤くなるけれど、殿下は何事もないように最近の流行りなんて雑談で話を弾ませてすまし顔だ。
商談がまとまるとニコニコとしたアイザックさんに「今後もメアリと仲良くしてください」なんて言われて見送られた。
落ち着くまもなく今度はレストランに連れて行かれる。
ずっと周りの視線を浴びながらじゃ、食べた気にもならないと思うけど。お店に入って何も頼まないで出るわけにはいかない。
殿下は事前に勧められたメニューだとか言ってどんどん注文してしまう。
テーブルを埋め尽くすほどの品数が運ばれた。
お兄様もいないのに、こんなに食べ切れるかしら。
どの料理も毒味をしてから殿下に召し上がっていただがなくちゃと思うのに、大量の料理を目の前にランス様達や護衛の人達は同席してくれなくてテーブルは二人きりだ。
殿下は珍しくお腹が減っているのか口を開けて待っている。
いつもまともに食事を召し上がらない殿下に栄養をしっかり取って欲しい。そうすると、わたしが毒味をするしかない。
そもそも毒味の仕方なんて知らないのに、市場の視察中に胡桃を見つけた時も味見したいという殿下に、とりあえず警戒してる事を見せることが大切だから毒味の振りだけでもとリリィさんに言われてやることになった。
仕方なし具入りのスープを飲み込んで問題なさそうな事を確認してから殿下の口にスプーンを運ぶ。
もぐもぐと咀嚼して再び口を開けた。繰り返しスープを口に運ぶ。
自分でスプーンを持つつもりはなさそうだ。
「まるで餌が運ばれるのを待つ雛鳥みたいだわ」
「私の美しい金糸雀がなにか言っているようだが、残念ながら可愛いさえずりにしか聞こえないな」
あきれて雛鳥扱いすると目の前のイケメンは悪戯っぽく笑って鳥扱いする。そういえばマーガレットの妖精だとか小栗鼠だとか殿下はすぐに何かにたとえたがる。
そういえば金糸雀も幼い頃殿下に呼ばれていたあだ名だったのを思い出す。そしてそれを聞いたお兄様に揶揄われたことも。
「お兄様が聞いたらムクドリのわめき声だって言うわ」
「そうかな? 子守唄を唄うのは金糸雀なんだろう? まあムクドリもそれはそれで可愛らしいと思うけどね」
そういうと殿下はまた口を開ける。
スープのスプーンを置いて、次はパンを手に取る。
半分にちぎって一口かじる。口をつけていない方のパンが載った皿を差し出すと、殿下の手がわたしの手首を掴み寄せかじりかけの方を食べる。
「……そんなに警戒されなくても、元は一つのパンなのですから、ちぎったパンの方にも毒なんて入ってないですよ」
「もしかして本当に毒味なんかやらせるって思ってるの?」
「しー!」
わたしは慌てて殿下の唇に空いた方の人差し指を押し付ける。
「……毒味だなんて大きな声で言ったら正体がバレてしまいます」
目配せをして手を離す。
「ああ、そうだね。ここで正体がバレたら元も子もない。仕方ない。自分の手で食べるか。金糸雀を野に放つこともせず鳥籠に囲った挙句、毒味をさせてるだなんて思われるわけにいかないものな」
「金糸雀にさせるのは毒味じゃなくて炭鉱の毒ガス検知ですよ? それに金糸雀のような愛玩鳥はムクドリのような野生の鳥ではないのですから鳥籠から逃したらすぐに他の肉食獣の餌食になるだけです。鳥籠が窮屈そうに思うなら大きな鳥籠にしてあげればいいと思うわ」
「あはは。そうだな。他の肉食獣の餌食になっては困る。そうか大きな鳥籠ね。ふふ」
なぜか笑い出す殿下にわたしは戸惑う。
絶世のイケメンな殿下はただでさえ目立って注目を浴びてるのに、これじゃあ本当にバレてしまう。
「はい。あーんしてください」
わたしは残ったパンを殿下の口に運び静かにしてもらう。
「……バレてしまったら視察は終わりになってしまいます」
せっかく身分がバレずに視察できる機会だもの。
もぐもぐと口を動かすイケメンをじっと見つめる。目の前でごくりと喉が鳴った。
「最後にもう一箇所行く場所がある。そこに行かずに終わらせるわけにいかないからな」
そういうと殿下はスプーンを手に取り自分で食事を始めた。
なんだかんだいいながらテーブルの上のお皿は全て空になった。
お揃いという事実に顔が赤くなるけれど、殿下は何事もないように最近の流行りなんて雑談で話を弾ませてすまし顔だ。
商談がまとまるとニコニコとしたアイザックさんに「今後もメアリと仲良くしてください」なんて言われて見送られた。
落ち着くまもなく今度はレストランに連れて行かれる。
ずっと周りの視線を浴びながらじゃ、食べた気にもならないと思うけど。お店に入って何も頼まないで出るわけにはいかない。
殿下は事前に勧められたメニューだとか言ってどんどん注文してしまう。
テーブルを埋め尽くすほどの品数が運ばれた。
お兄様もいないのに、こんなに食べ切れるかしら。
どの料理も毒味をしてから殿下に召し上がっていただがなくちゃと思うのに、大量の料理を目の前にランス様達や護衛の人達は同席してくれなくてテーブルは二人きりだ。
殿下は珍しくお腹が減っているのか口を開けて待っている。
いつもまともに食事を召し上がらない殿下に栄養をしっかり取って欲しい。そうすると、わたしが毒味をするしかない。
そもそも毒味の仕方なんて知らないのに、市場の視察中に胡桃を見つけた時も味見したいという殿下に、とりあえず警戒してる事を見せることが大切だから毒味の振りだけでもとリリィさんに言われてやることになった。
仕方なし具入りのスープを飲み込んで問題なさそうな事を確認してから殿下の口にスプーンを運ぶ。
もぐもぐと咀嚼して再び口を開けた。繰り返しスープを口に運ぶ。
自分でスプーンを持つつもりはなさそうだ。
「まるで餌が運ばれるのを待つ雛鳥みたいだわ」
「私の美しい金糸雀がなにか言っているようだが、残念ながら可愛いさえずりにしか聞こえないな」
あきれて雛鳥扱いすると目の前のイケメンは悪戯っぽく笑って鳥扱いする。そういえばマーガレットの妖精だとか小栗鼠だとか殿下はすぐに何かにたとえたがる。
そういえば金糸雀も幼い頃殿下に呼ばれていたあだ名だったのを思い出す。そしてそれを聞いたお兄様に揶揄われたことも。
「お兄様が聞いたらムクドリのわめき声だって言うわ」
「そうかな? 子守唄を唄うのは金糸雀なんだろう? まあムクドリもそれはそれで可愛らしいと思うけどね」
そういうと殿下はまた口を開ける。
スープのスプーンを置いて、次はパンを手に取る。
半分にちぎって一口かじる。口をつけていない方のパンが載った皿を差し出すと、殿下の手がわたしの手首を掴み寄せかじりかけの方を食べる。
「……そんなに警戒されなくても、元は一つのパンなのですから、ちぎったパンの方にも毒なんて入ってないですよ」
「もしかして本当に毒味なんかやらせるって思ってるの?」
「しー!」
わたしは慌てて殿下の唇に空いた方の人差し指を押し付ける。
「……毒味だなんて大きな声で言ったら正体がバレてしまいます」
目配せをして手を離す。
「ああ、そうだね。ここで正体がバレたら元も子もない。仕方ない。自分の手で食べるか。金糸雀を野に放つこともせず鳥籠に囲った挙句、毒味をさせてるだなんて思われるわけにいかないものな」
「金糸雀にさせるのは毒味じゃなくて炭鉱の毒ガス検知ですよ? それに金糸雀のような愛玩鳥はムクドリのような野生の鳥ではないのですから鳥籠から逃したらすぐに他の肉食獣の餌食になるだけです。鳥籠が窮屈そうに思うなら大きな鳥籠にしてあげればいいと思うわ」
「あはは。そうだな。他の肉食獣の餌食になっては困る。そうか大きな鳥籠ね。ふふ」
なぜか笑い出す殿下にわたしは戸惑う。
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「はい。あーんしてください」
わたしは残ったパンを殿下の口に運び静かにしてもらう。
「……バレてしまったら視察は終わりになってしまいます」
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「最後にもう一箇所行く場所がある。そこに行かずに終わらせるわけにいかないからな」
そういうと殿下はスプーンを手に取り自分で食事を始めた。
なんだかんだいいながらテーブルの上のお皿は全て空になった。
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