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第五部
44 王太子付き騎士候補ジェレミーの姉弟の密談【サイドストーリー】
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「そうと決まったら王都の視察について僕たちからご進言させていただかなくてはね。まずは視察先としてうちに来るより別の商会から始めた方がいいね。うちの商会はエレナ様からの依頼を受けてカフスボタンをお作りしたり、父さんが蒸留所に目がくらんでトワイン侯爵領の村を管理することになったし、トワイン侯爵家と関わりが深いと思われている。我が家を無視しているように見せた方が、よりエレナ様の正体がエレナ様だってバレにくくなるだろうからね」
「それがいいわね。きっと王太子殿下ならわたしたちの意図を組んで成し遂げて下さるはずよ」
メアリとアイザックが勝手に話を進めるのをジェレミーは眺める。
(やっぱこいつらは俺と違って頭いいよな)
もちろん、王立学園には学業が優秀な生徒がいることも、王宮の役人たちが皆優秀なことも知っている。
それでもメアリとアイザックの頭の回転の速さは群を抜いている。
ひとしきりジェレミーを揶揄うのが終わると、王太子の伝言から察して計画を立てていく。
蚊帳の外に置かれたジェレミーはふとあることを思いついた。
「……でもさぁ、エレナ様を連れまわすなんていいのかな。しかもエリオット様にバレないように、イスファーンの大使館設立なんて大仕事を依頼して奔走していただく間にだぜ?」
ジェレミーの呟きにメアリは目を丸くする。
「自分が王太子様に頼まれたのに今更なにいってんのよ。どうせジェレミーのことだから、王太子様に請われて意気揚々とここに来たんじゃないの?」
「いや……別にそんなこと……」
「違うの? ……あ。あれだ片想いのあの子に、いい顔できるような条件でもつけてもらったんでしょ」
図星を突かれて顔を伏せたが、ニヤニヤした顔が二つ覗き込むだけだった。
「……そうだけどさ。でもほらそもそもバレそうじゃん。エリオット様は王都で有名で絵姿だって国内にたくさん出回ってるし。エレナ様はエリオット様にそっくりなんだし、変装したって街をうろついたりしたらみんなさすがに気がつくんじゃないのか? って思ってさ」
「絶対バレないわよ」
「まぁバレないだろうね」
「なんで自信満々なんだよ。俺はエレナ様が変装してたって、気がつく自信があるぜ?」
「みんなあんたみたいに匂いかいで判断しないのよ」
「人のこと犬みたいに。目の色や髪の色も判断材料にするさ。匂いは最後の決め手だ」
「ジェレミー。エレナ様の匂いがわかるなんて王太子様の耳に入ったらものすごーく嫉妬されてめんどくさいわよ」
「メアリが言い出したんだろ!」
「だって本当に匂いでわかるなんて思わなかったんだもの。やっぱりあんた前世は犬だったんじゃない?」
「まあまあ」
姉弟喧嘩にアイザックがわざとらしく眉をひそめて割って入る。
「ジェレミーが変装したエレナ様のことがわかるのはそもそもそれだけエレナ様の情報を持っているからですよ。我々市井の民が知るエレナ様の情報は『王太子殿下の婚約者に内定している侯爵令嬢で、噂によると小太りの醜女で癇癪持ちの苛烈なご令嬢らしい』ってくらいだ」
否定せずアイザックの話を促す。
「都合の悪い事実は過小評価して自分に都合の良い情報ばかり取捨選択するのが人間ってもんですからね。王太子殿下の婚約者であるトワイン侯爵家のご令嬢はデブの不細工だって信じて叩き続けていたわけだから、王立学園の制服を着たエリオット様に顔だちも目の色も髪の色もそっくりな女性が街を歩いていてもトワイン侯爵家のご令嬢だなんて思いつかないでしょうね。街の人々には王立学園の制服は女官見習いの制服と見分けがつかないでしょうから王太子殿下が女官を連れていると考えるはずです」
「そんなもんなのか」
「そんなものなんです。だからこそ王太子殿下が連れ歩く女性にみな夢を抱くでしょうね。流行りの芝居みたいなことが起きるんじゃないかと」
(頭のいい奴らはきちんと理解できるんだな)
王太子が「民草が夢中になっている芝居のように、我が国の感情がない人形みたいな王子が女官見習いの少女を連れて王都を歩けば何が起こるだろうね?」と側近たちに問いかけていたのを思い出す。
瞬時に察してうごきだした側近たちに満足そうな笑みを浮かべていた。
ジェレミー自身が説明を受けてもいまいち納得がいっていないというのにジェレミーの拙い説明で理解し動き出すメアリたちに感心するしかなかった。
(俺ももう少し頭が良かったらな)
そうすれば好きな女を振り向かせるのに苦労しないのだろうなどとジェレミーは考える。
「で、アイザック。王太子殿下には最初の視察先としてどこの商会をお勧めするのがいいかしら」
「ほら。最近百貨店を建てたのを鼻にかけてうちを馬鹿にしてるあそこがいい」
「いいわね。きっとあのゲスおやじのことだから『我が国の王太子殿下にも流行りの舞台みたいに最愛の少女がいて、嫌われ者のトワイン侯爵令嬢との婚約が破談になるかも』なんて情報かぎつけたらジェームズ商会を引きずり下ろす好機だって飛びつくに違いないわよ。ジェームズ商会がトワイン侯爵家の後ろ盾を得たって聞いてから嫉妬であの芝居小屋に出資してるくらいだし、益々エレナ様の悪口を言いふらして民を扇動するんでしょうね」
「そんなことしたあかつきには、あとで王太子殿下の最愛の少女の正体がばれた時にゲスおやじに投資していた貴族たちは株を売却したり資金回収を始めるだろうね」
「あら、じゃあ底に落ちたゲスおやじを救う騎士になるような人物が必要ね」
「そうだね。専門家のふりをして近づく必要があるからなぁ。うちの従業員でそういうのが得意な人間を何人か見繕っておかないと」
「で信じてすがって百貨店をいただいたら種明かししましょう」
(なんでこいつらはこんなに悪知恵が働くんだよ。俺は俺のまんまでいいや)
王太子の依頼にかこつけて、自分たちの利益まで得ようとする姿にジェレミーは呆れ果てた。
「それがいいわね。きっと王太子殿下ならわたしたちの意図を組んで成し遂げて下さるはずよ」
メアリとアイザックが勝手に話を進めるのをジェレミーは眺める。
(やっぱこいつらは俺と違って頭いいよな)
もちろん、王立学園には学業が優秀な生徒がいることも、王宮の役人たちが皆優秀なことも知っている。
それでもメアリとアイザックの頭の回転の速さは群を抜いている。
ひとしきりジェレミーを揶揄うのが終わると、王太子の伝言から察して計画を立てていく。
蚊帳の外に置かれたジェレミーはふとあることを思いついた。
「……でもさぁ、エレナ様を連れまわすなんていいのかな。しかもエリオット様にバレないように、イスファーンの大使館設立なんて大仕事を依頼して奔走していただく間にだぜ?」
ジェレミーの呟きにメアリは目を丸くする。
「自分が王太子様に頼まれたのに今更なにいってんのよ。どうせジェレミーのことだから、王太子様に請われて意気揚々とここに来たんじゃないの?」
「いや……別にそんなこと……」
「違うの? ……あ。あれだ片想いのあの子に、いい顔できるような条件でもつけてもらったんでしょ」
図星を突かれて顔を伏せたが、ニヤニヤした顔が二つ覗き込むだけだった。
「……そうだけどさ。でもほらそもそもバレそうじゃん。エリオット様は王都で有名で絵姿だって国内にたくさん出回ってるし。エレナ様はエリオット様にそっくりなんだし、変装したって街をうろついたりしたらみんなさすがに気がつくんじゃないのか? って思ってさ」
「絶対バレないわよ」
「まぁバレないだろうね」
「なんで自信満々なんだよ。俺はエレナ様が変装してたって、気がつく自信があるぜ?」
「みんなあんたみたいに匂いかいで判断しないのよ」
「人のこと犬みたいに。目の色や髪の色も判断材料にするさ。匂いは最後の決め手だ」
「ジェレミー。エレナ様の匂いがわかるなんて王太子様の耳に入ったらものすごーく嫉妬されてめんどくさいわよ」
「メアリが言い出したんだろ!」
「だって本当に匂いでわかるなんて思わなかったんだもの。やっぱりあんた前世は犬だったんじゃない?」
「まあまあ」
姉弟喧嘩にアイザックがわざとらしく眉をひそめて割って入る。
「ジェレミーが変装したエレナ様のことがわかるのはそもそもそれだけエレナ様の情報を持っているからですよ。我々市井の民が知るエレナ様の情報は『王太子殿下の婚約者に内定している侯爵令嬢で、噂によると小太りの醜女で癇癪持ちの苛烈なご令嬢らしい』ってくらいだ」
否定せずアイザックの話を促す。
「都合の悪い事実は過小評価して自分に都合の良い情報ばかり取捨選択するのが人間ってもんですからね。王太子殿下の婚約者であるトワイン侯爵家のご令嬢はデブの不細工だって信じて叩き続けていたわけだから、王立学園の制服を着たエリオット様に顔だちも目の色も髪の色もそっくりな女性が街を歩いていてもトワイン侯爵家のご令嬢だなんて思いつかないでしょうね。街の人々には王立学園の制服は女官見習いの制服と見分けがつかないでしょうから王太子殿下が女官を連れていると考えるはずです」
「そんなもんなのか」
「そんなものなんです。だからこそ王太子殿下が連れ歩く女性にみな夢を抱くでしょうね。流行りの芝居みたいなことが起きるんじゃないかと」
(頭のいい奴らはきちんと理解できるんだな)
王太子が「民草が夢中になっている芝居のように、我が国の感情がない人形みたいな王子が女官見習いの少女を連れて王都を歩けば何が起こるだろうね?」と側近たちに問いかけていたのを思い出す。
瞬時に察してうごきだした側近たちに満足そうな笑みを浮かべていた。
ジェレミー自身が説明を受けてもいまいち納得がいっていないというのにジェレミーの拙い説明で理解し動き出すメアリたちに感心するしかなかった。
(俺ももう少し頭が良かったらな)
そうすれば好きな女を振り向かせるのに苦労しないのだろうなどとジェレミーは考える。
「で、アイザック。王太子殿下には最初の視察先としてどこの商会をお勧めするのがいいかしら」
「ほら。最近百貨店を建てたのを鼻にかけてうちを馬鹿にしてるあそこがいい」
「いいわね。きっとあのゲスおやじのことだから『我が国の王太子殿下にも流行りの舞台みたいに最愛の少女がいて、嫌われ者のトワイン侯爵令嬢との婚約が破談になるかも』なんて情報かぎつけたらジェームズ商会を引きずり下ろす好機だって飛びつくに違いないわよ。ジェームズ商会がトワイン侯爵家の後ろ盾を得たって聞いてから嫉妬であの芝居小屋に出資してるくらいだし、益々エレナ様の悪口を言いふらして民を扇動するんでしょうね」
「そんなことしたあかつきには、あとで王太子殿下の最愛の少女の正体がばれた時にゲスおやじに投資していた貴族たちは株を売却したり資金回収を始めるだろうね」
「あら、じゃあ底に落ちたゲスおやじを救う騎士になるような人物が必要ね」
「そうだね。専門家のふりをして近づく必要があるからなぁ。うちの従業員でそういうのが得意な人間を何人か見繕っておかないと」
「で信じてすがって百貨店をいただいたら種明かししましょう」
(なんでこいつらはこんなに悪知恵が働くんだよ。俺は俺のまんまでいいや)
王太子の依頼にかこつけて、自分たちの利益まで得ようとする姿にジェレミーは呆れ果てた。
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