【完結】破滅フラグを回避したいのに婚約者の座は譲れません⁈─王太子殿下の婚約者に転生したみたいだけど転生先の物語がわかりません─

江崎美彩

文字の大きさ
250 / 276
第五部

44 王太子付き騎士候補ジェレミーの姉弟の密談【サイドストーリー】

しおりを挟む
「そうと決まったら王都の視察について僕たちからご進言させていただかなくてはね。まずは視察先としてうちに来るより別の商会から始めた方がいいね。うちの商会はエレナ様からの依頼を受けてカフスボタンをお作りしたり、父さんが蒸留所に目がくらんでトワイン侯爵領の村を管理することになったし、トワイン侯爵家と関わりが深いと思われている。我が家を無視しているように見せた方が、よりエレナ様の正体がエレナ様だってバレにくくなるだろうからね」
「それがいいわね。きっと王太子殿下ならわたしたちの意図を組んで成し遂げて下さるはずよ」

 メアリとアイザックが勝手に話を進めるのをジェレミーは眺める。

(やっぱこいつらは俺と違って頭いいよな)

 もちろん、王立学園アカデミーには学業が優秀な生徒がいることも、王宮の役人たちが皆優秀なことも知っている。
 それでもメアリとアイザックの頭の回転の速さは群を抜いている。
 ひとしきりジェレミーを揶揄うのが終わると、王太子の伝言から察して計画を立てていく。
 蚊帳の外に置かれたジェレミーはふとあることを思いついた。

「……でもさぁ、エレナ様を連れまわすなんていいのかな。しかもエリオット様にバレないように、イスファーンの大使館設立なんて大仕事を依頼して奔走していただく間にだぜ?」

 ジェレミーの呟きにメアリは目を丸くする。

「自分が王太子様に頼まれたのに今更なにいってんのよ。どうせジェレミーのことだから、王太子様に請われて意気揚々とここに来たんじゃないの?」
「いや……別にそんなこと……」
「違うの? ……あ。あれだ片想いのあの子に、いい顔できるような条件でもつけてもらったんでしょ」

 図星を突かれて顔を伏せたが、ニヤニヤした顔が二つ覗き込むだけだった。

「……そうだけどさ。でもほらそもそもバレそうじゃん。エリオット様は王都で有名で絵姿だって国内にたくさん出回ってるし。エレナ様はエリオット様にそっくりなんだし、変装したって街をうろついたりしたらみんなさすがに気がつくんじゃないのか? って思ってさ」
「絶対バレないわよ」
「まぁバレないだろうね」
「なんで自信満々なんだよ。俺はエレナ様が変装してたって、気がつく自信があるぜ?」
「みんなあんたみたいに匂いかいで判断しないのよ」
「人のこと犬みたいに。目の色や髪の色も判断材料にするさ。匂いは最後の決め手だ」
「ジェレミー。エレナ様の匂いがわかるなんて王太子様の耳に入ったらものすごーく嫉妬されてめんどくさいわよ」
「メアリが言い出したんだろ!」
「だって本当に匂いでわかるなんて思わなかったんだもの。やっぱりあんた前世は犬だったんじゃない?」
「まあまあ」

 姉弟喧嘩にアイザックがわざとらしく眉をひそめて割って入る。

「ジェレミーが変装したエレナ様のことがわかるのはそもそもそれだけエレナ様の情報を持っているからですよ。我々市井の民が知るエレナ様の情報は『王太子殿下の婚約者に内定している侯爵令嬢で、噂によると小太りの醜女で癇癪持ちの苛烈なご令嬢らしい』ってくらいだ」

 否定せずアイザックの話を促す。

「都合の悪い事実は過小評価して自分に都合の良い情報ばかり取捨選択するのが人間ってもんですからね。王太子殿下の婚約者であるトワイン侯爵家のご令嬢はデブの不細工だって信じて叩き続けていたわけだから、王立学園アカデミーの制服を着たエリオット様に顔だちも目の色も髪の色もそっくりな女性が街を歩いていてもトワイン侯爵家のご令嬢だなんて思いつかないでしょうね。街の人々には王立学園アカデミーの制服は女官見習いの制服と見分けがつかないでしょうから王太子殿下が女官を連れていると考えるはずです」
「そんなもんなのか」
「そんなものなんです。だからこそ王太子殿下が連れ歩く女性にみな夢を抱くでしょうね。流行りの芝居みたいなことが起きるんじゃないかと」

(頭のいい奴らはきちんと理解できるんだな)

 王太子が「民草が夢中になっている芝居のように、我が国の感情がない人形みたいな王子が女官見習いの少女を連れて王都を歩けば何が起こるだろうね?」と側近たちに問いかけていたのを思い出す。
 瞬時に察してうごきだした側近たちに満足そうな笑みを浮かべていた。
 ジェレミー自身が説明を受けてもいまいち納得がいっていないというのにジェレミーの拙い説明で理解し動き出すメアリたちに感心するしかなかった。

(俺ももう少し頭が良かったらな)

 そうすれば好きな女を振り向かせるのに苦労しないのだろうなどとジェレミーは考える。

「で、アイザック。王太子殿下には最初の視察先としてどこの商会をお勧めするのがいいかしら」
「ほら。最近百貨店デパートを建てたのを鼻にかけてうちを馬鹿にしてるあそこがいい」
「いいわね。きっとあのゲスおやじのことだから『我が国の王太子殿下にも流行りの舞台みたいに最愛の少女がいて、嫌われ者のトワイン侯爵令嬢との婚約が破談になるかも』なんて情報かぎつけたらジェームズ商会を引きずり下ろす好機だって飛びつくに違いないわよ。ジェームズ商会がトワイン侯爵家の後ろ盾を得たって聞いてから嫉妬であの芝居小屋に出資してるくらいだし、益々エレナ様の悪口を言いふらして民を扇動するんでしょうね」
「そんなことしたあかつきには、あとで王太子殿下の最愛の少女の正体がばれた時にゲスおやじに投資していた貴族たちは株を売却したり資金回収を始めるだろうね」
「あら、じゃあ底に落ちたゲスおやじを救う騎士になるような人物が必要ね」
「そうだね。専門家のふりをして近づく必要があるからなぁ。うちの従業員でそういうのが得意な人間を何人か見繕っておかないと」
「で信じてすがって百貨店デパートをいただいたら種明かししましょう」

(なんでこいつらはこんなに悪知恵が働くんだよ。俺は俺のまんまでいいや)

 王太子の依頼にかこつけて、自分たちの利益まで得ようとする姿にジェレミーは呆れ果てた。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

【完結】第一王子の婚約者になりましたが、妃になるにはまだまだ先がみえません!

風見ゆうみ
恋愛
「王族に嫁いだ者は、夫を二人もつ事を義務化とする」  第二王子の婚約者である私の親友に恋をした第三王子のワガママなお願いを無効にするまでのもう一人の夫候補として思い浮かんだのは、私に思いを寄せてくれていた次期公爵。  夫候補をお願いしたことにより第一王子だけでなく次期公爵からも溺愛される事に?!  彼らを好きな令嬢やお姫様達ともひと悶着ありですが、親友と一緒に頑張ります! /「小説家になろう」で完結済みです。本作からお読みいただいてもわかるようにしておりますが、拙作の「身を引いたつもりが逆効果でした」の続編になります。 基本はヒロインが王子と次期公爵から溺愛される三角関係メインの甘めな話です。揺れるヒロインが苦手な方は、ご遠慮下さい。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

【完結】狂愛の第二皇子は兄の婚約者を所望する

七瀬菜々
恋愛
    兄の婚約者を手に入れたい第二皇子ジェレミーと、特に何も考えていない鈍感令嬢リリアンの執着と苦悩の物語。

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

処理中です...