【完結】破滅フラグを回避したいのに婚約者の座は譲れません⁈─王太子殿下の婚約者に転生したみたいだけど転生先の物語がわかりません─

江崎美彩

文字の大きさ
271 / 276
第五部

65 魔法少女スピカ、王太子殿下の命令を遂行する【サイドストーリー】

しおりを挟む
真実の口ボッカ・デラ・ベリタ!」

 言い慣れない、意味のわからないその言葉を叫んで腕を精一杯伸ばす。
 手のひらに隠し持っていた何面にも削られたガラス玉が、明かりとりの窓から入る光に照らされてキラキラと光る。

 驚いたエレナ様は目を見開く。エメラルドみたいな瞳もキラキラと輝いてきれいだ。
 こんなに純粋なエレナ様にこれから嘘をつくことに後ろめたさを感じる。

 ううん。エレナ様を幸せにするためには必要なことだもん。

「これで魔法が展開されました」

 わたしはエレナ様に嘘をついた。



──数日前。

「エレナ様が観客の発言を信じられるように魔法をかける。ですか?」

 王太子殿下から突然執務室に呼び出しを受けて何事かと思えば、そんなことを命じられた。
 もちろん王太子殿下から命令を断るわけにもいかいし、それにそもそもエレナ様のためならなんでもする。
 わたしは「御意」なんてカッコよく返事をしたはいいけれど困り果てていた。

 わたしは嘘をつくときに耐えられない痛みを与える魔法をかけることができる。
 それはエレナ様もご存知だ。
 以前感じの悪いご令嬢達に「魔女」って蔑まれて魔法を使った時はエレナ様も一緒だった。
 わたしの魔法は対象範囲を広げれば広げるほど効果のある時間は短くなる。対象範囲を絞らないと効果はほとんどない。

 いまさら出来ませんなんて言えない……

 困ったわたしは、メアリ先輩とリリアンナ様に相談をすることにした。
 お二人は王立学園アカデミーや王宮で水面下で広がる「エレナ王太子妃殿下推進派」通称「エレ推し会」の活動でお会いした、エレ推し会の発起人。
 メアリ先輩もリリアンナ様もエレナ様が王室に嫁がれた際に王太子妃付きの侍女としてお仕えになるらしく、王立学園アカデミーで「王太子妃付きの騎士」を目指している私たちに声をかけてくださり、度々会合によばれている。

 会のメンバー経由で言伝を頼むとすぐ時間を作ってくれた。

「わたしの魔法はそんな広範囲に長い時間効果を発揮できるものじゃないんです」

 わたしは王太子殿下からの命令を説明する。
 リリアンナさんは「エレナ様のためと言われれば断れないのをいいことに無理難題言って! あんの傲慢男!」と罵る。
 エレ推し会の中でも過激派なリリアンナ様の発言は最初は戸惑ったけれど、いつものことなので軽く流すのが最適解だ。

「何かいい案はありませんか?」

 思案顔のメアリ先輩に尋ねる。

「うーん。要は、エレナ様とあわよくば観客も魔法がかかってると信じる環境さえ用意できれば実際に魔法が効いてなくてもいいってことでしょう?」
「効いてないのにかかってるって信じさせるなんて無理じゃないですか?」
「エレナ様ってほら、単純だからめちゃくちゃド派手に魔法使ってますって演出をしたら絶対に騙されると思うの。しかもエレナ様なら騙された上に『みんなに魔法がかかってるのね! すごーい!』ってあの無駄に通る声で、感動して騒ぐと思うのよね。単純だから。エレナ様がいつものキラキラで騒いだらみんなも信じちゃうんじゃない?」

 メアリさんはエレ推し会の発起人になるくらいなのに、少しエレナ様を軽んじてらっしゃる気がする。
 エレナ様は単純なんじゃなくて純粋なのに。

「メアリさん。エレナ様は単純だから信じるのではありません。私たちのことを信用してくださっているからこそ疑わないのです」

 リリアンナ様がメアリ先輩をピシャリと叱る。
 けど、要はリリアンナ様もエレナ様は疑わずに信じちゃうって思ってるってことだ。

「でも……そんなうまくいくでしょうか」
「じゃあエレナ様には魔法をかけよう。一人に向けてなら効果はあるんでしょう? とにかくエレナ様が観客の言葉を信じられたらいいんでしょ?」

 頷くとなんだかメアリ先輩はワクワクし始めた。

「呪文詠唱してエフェクトっぽい光ピカピカさせたいなぁ」
「呪文詠唱? エフェクト?」
「ああ、そうか通じないんだ……」
「なんでメアリさんは聖女様たちと同じようなこと言ってるの?」

 なんか呟いているメアリさんに疑問をぶつける。
 わたしは聖女様たちの第一発見者のうちの一人だ。初めて会った時に聖女様たちに魔法をかけて驚かれたのを思い出す。

「あ、そういや聖女様たちって異世界からきたんだよね」
「そうです」
「聖女様たちも現代日本から来たのかぁ。まぁ、名前からして日本人っぽいもんね……」
「ゲンダイニホン? ニホンジン?」
「ああ、気にしないで、それより呪文ってどうやって唱えるの?」

 メアリ先輩の発言は気になるけれどいまはそれを追求している場合じゃない。

「名前とか、まあ名前が分からなくてもここにいる人とか範囲を決めて、嘘をつけないって指示をするだけです。そう意図して指示をすればいいので、例えば『あなた答えて』でも魔法がかかります」
「えー。地味!」
「それでいいんです。だって、尋問相手にバレないように魔法をかけたいのに光ったらダメじゃないですか」
「確かに。まあ今回はエレナ様と周りが素直に信じちゃうくらい、はったりがきいた呪文とキラキラエフェクトを考えよう」



 そう言ってメアリ先輩とリリアンナ様が準備してくれたのがいま手に握ってるガラスの多面体と、不可思議な詩だった。
 そう。本当は用意してくれた呪文の詩はもっと長かったけど最後の単語しか覚えられなかったんだ。

 キラキラ輝くエレナ様と目が合う。

「もうみんな嘘をつけないの?」
「エレナ様は心にもないことは言えません」

 範囲を絞り指示を出す。これでエレナ様にだけ魔法がかかる。

「本当に?」
「はい。これから何か嘘をついてみてください」
「えっ、ええ? 急に言われても思いつかないわ」

 観客も自分たちにも魔法がかかってると思い込んでいるみたい。効果がどれくらいなのか気になってるのか固唾を飲んで見守っている。

「じゃあ……わたしに嫌いって言ってみてください」
「スピカさん、き……痛い!」

 痛みで顔をしかめるエレナ様を見ているのは苦しいのに、わたしを嫌いと言えないことに喜んでしまいそうになる。

「すごい! 言えないわ! 本当に心にもないことは言えないのね!」

 後ろめたい気持ちを吹き飛ぶくらい嬉しそうに興奮するエレナ様を見てホッとする。
 そう言えば初めてエレナ様の前で魔法を使った時も魔法にかかったか確認するために嘘をついてみたいっておっしゃっていた。

「よかった。魔法がしっかりとかかったみたいで。これからここにいるみんなの言葉は信じられますか?」

 ここから先は「エレ推し会」の出番だ。

 深呼吸をして、観客に向かい顔を上げた。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

【完結】第一王子の婚約者になりましたが、妃になるにはまだまだ先がみえません!

風見ゆうみ
恋愛
「王族に嫁いだ者は、夫を二人もつ事を義務化とする」  第二王子の婚約者である私の親友に恋をした第三王子のワガママなお願いを無効にするまでのもう一人の夫候補として思い浮かんだのは、私に思いを寄せてくれていた次期公爵。  夫候補をお願いしたことにより第一王子だけでなく次期公爵からも溺愛される事に?!  彼らを好きな令嬢やお姫様達ともひと悶着ありですが、親友と一緒に頑張ります! /「小説家になろう」で完結済みです。本作からお読みいただいてもわかるようにしておりますが、拙作の「身を引いたつもりが逆効果でした」の続編になります。 基本はヒロインが王子と次期公爵から溺愛される三角関係メインの甘めな話です。揺れるヒロインが苦手な方は、ご遠慮下さい。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

【完結】狂愛の第二皇子は兄の婚約者を所望する

七瀬菜々
恋愛
    兄の婚約者を手に入れたい第二皇子ジェレミーと、特に何も考えていない鈍感令嬢リリアンの執着と苦悩の物語。

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

処理中です...