もう二度と乙女ゲームはしない

こうやさい

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「君だけが君のままだった」

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 ふと引っかかる。
「また?」
 何かあったんだろうか? そういうのはイベントで全部知ってるかと思ってたけど。
「君は忘れて……もしかしたらそれ以前に元々気づいていなかったかもしれないが」
 そう言って彼はあたしの正面に回り込むと跪いた。
「昔、まだ君の家に下宿をしていた頃、描けなくなったことがあった」
 慌てるより先に続けられた言葉に興味を引っ張られる。支援ってそこまでするんだ。
「一応見たものをほぼそのまま描くことは出来たけれど、それは僕の目指すものから遠ざかるだけのシロモノだった」
 絵のことは分からないけれど、確かに筆が動かせれば何かしらは出来るものだろう。充分凄いと思うけど、元の世界ならカメラとアプリで出来るといえば出来る。
「それまで働きながら独学で勉強していて、これからは日々の雑事から解放されて好きなだけ絵に没頭できる――そう思った矢先にこんなことになって画家としての、いや絵を描く事自体の未来は閉ざされたかと絶望した」
 確かにこの場所を見て、絵が嫌いなんだろうなとは思わない。
 他人の評価も辛いけれど、自分で目指していたものに見切りをつけなければならないと思ったときの恐怖はどれほどのものだろう。

「そんなときに君が『遊んで』とやってきた」
 ……何年前の話だろ、それ。
「これだけ年が離れていれば当時は本当に子供としか思えなかったし、実際君は子供扱いされる年齢だった」
 ……そういや、年齢差ってどれくらいなんだろう?
 この世界は十五で成人で、他人の家に下宿は、家族が何らかの理由で面倒を見られないとか職人の内弟子になるとか何か事情のない場合は公には成人後しか出来ないのよね? どこで知った設定だっけ。
 で、確か設定では支援はするけど絵を教えているわけでもないし、そもそも画家は職人扱いされないから早いうちからとは言われず成人後のはず。
 ヒロインがアリだったんだからこの身体あたしがそれより少し上ぐらいだと十歳は離れてないぐらい? 小学生と大人と考えると確か子供の相手だよね。現代あたしの感覚からすると今でもまだヤバいけど。
「絵で大成できないのならせめて子守でもして恩を返さないとと、正直いやいや付き合っていた」
 自虐入ってるなぁ。そしていやいやだったのかと記憶もないのに軽くへこむ。
「そうやって、ただ振り回されていると思っていた間に、草の匂いを思い出した。風の温度や水の流れる音も。少しずつ変わっていく何かも」
 それは今あたしが忘れているものかもしれない。
「そういう本来の意味では絵に残らないものをどうにか形にして残したいと思っていたことも」
 ……ヒロインといたとき、ホントに病んでたんだなこの人、違う意味で。

「その時、その世界で、君だけが君のままだった。君のまま変わり続けた」
 話は続く。
「最初は君に興味がないからそう見えるのだと思っていた」
 記憶にない前の話でもそれはさみしい。
「それが続いてさすがに疑問を持った。興味がないなら忘れてしまえばいいのにと」
「まとわりついてたからとか?」
 覚えはないけれどそうしていそうな気がする。
「どうだろう? 気がついた時には既に僕の方が目で追っていたから」
 苦笑のような自嘲のような表情を浮かべる。
「それなのに興味がないと思っていたのだから、自覚した時には今度は感性に自信をなくしかけたよ」
 ……確かに観てたのに気づかないって観察眼が微妙そうだけど。
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