もう二度と乙女ゲームはしない

こうやさい

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すとんと胸に落ちた

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 けど。
「恋じゃないかもしれなかったのに?」
 周りへの興味を取り戻したときにたまたま側にいたから錯覚したのかもしれない。
 あるいはただ長く一緒にいたことを。
 それとも嫌なことからの逃避で。
 過去を知らないはずなのにそんなことばかりを思いつく。
 それはもしかしなくとも自身がそうじゃないかと疑ったせいかもしれない。
「なのに結婚したの?」

「ずいぶんとこだわるね」
 困ったような微笑を見て、確かに無茶を言っているなと思う。
 気持ちを他人に示すなんて言葉か態度かそういうものになるだろうし。
 器用な人ならばそれすら偽れてしまう。
 そもそも普段の態度なんてまだまだ知らないことが多いだろうし。
 ……ゲームで知ったアレが恋をしている状態ではなかったんだろうって事は分かったけど。
 たとえばツンデレだったとしたら、優しいとデレた後か、まるでそういう対象でないかのどちらかになってしまう。
 そして援助を盾にしたという噂を考えると……いや、そもそもツンデレ自体がたとえだから意味がない考えだけど。

 そもそも気持ちを上手く形に出来ないとか、自分でも分からない事があるなんてあたしが一番知っているのに。
 もしかしたら愛の言葉が欲しくてこんな事を言ったのかもしけないけど。
 いくら慣れてきていようと、いくら転生の可能性か高くても。
 今あたしがこの身体を使っているというだけで、過去には別の人格が宿っていたし、未来もこのままだとは限らない。

 望んだ言葉が聞けたとしても、それが過去の人格に向かっているのなら、本当に嬉しいと思う?
 そして過去の人格は本当に消えていると思う?
 少なくともあちこちに影響は残している。
 彼のことは好きだけど、好きだと思っているけれど。
 影響が絶対なかったと言い切ることはきっと出来ない。

 聞きたがっているのは本当にだろうか?

「正直に言うのなら僕は今でもそういう事に疎いから、自信をもって恋情とはとは言いづらい」
 今、痛んだのは誰の胸だろう。
「それでも彼女に持っている感情は――」
 そう言いながら彼はちらりと絵に視線を向ける。
「作品をある程度完成させればとりあえずは満足してしまうものだと思う」
 それからあたしに視線を戻す。
「けれど君には絵に残すより本物と近くでずっと一緒にいたいと思う」

 その言葉がすとんと胸に落ちた。

 あたしのじゃない。
 あたしは徐々に薄くなる意識をつなぎ止めるのに必死になっていた。

「だから――」

 身体が彼に覆い被さる勢いで飛びついた。
 それを抱き止められた感触は確かにするのに、遠い。
 ……そんな風にふれ合える関係なんだ。

 あたしの知らないあたしのことを身体が話す。
 ううん、もうあたしじゃない。
 この身体の本来の、仮にあたしが前世だとしても、それでも今を生きている人格が動かしている。

 あの言葉がそこまで響くものなのかあたしには分からない。
 きっと本来の人格に向けられたものだからだろう。
 やっぱりあたしが愛されている訳じゃなかった。
 分かっていたのに悲しい。

 身体からあふれている涙はあたしの感情だろうか?
 それとも本来の人格かのじょの流す嬉し涙だろうか?
 きっと、後者なのだろう。

 溶けかかっているせいか考えがまとまらない。
 あたしがいなくった事に少しは気づいてくれるだろうか?
 それは望んでいいことなのだろうか?
 それはあたしにとっての幸せだろうか?
 彼にとって幸せなのだろうか?

 彼は今、本当に幸せそうだった。
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