「ざまぁしないで下さい」とヒロインが土下座してきた

こうやさい

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「ざまぁしないで下さい」とヒロインが土下座してきた

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「お願いですっ、しないで下さいっ」
「は?」
 いけない、驚きのあまり貴族らしくない対応をしてしまいましたわ。
 慌てて扇で顔を隠して表情を見えなくします。
 けれど、廊下を歩いていたヒロインが、わたくしを認識していきなりスライディング土下座なんてしてくれば、驚くのが普通ですわよね?
 見下すつもりはないけれど、何せ相手が土下座をしているものだから見下ろすしかないわけで。
「……意味が分からないのだけれど?」

 いえ、本当は分かりますけれど。
 この国には土下座に近い格好はあってもそうは呼ばれませんし、スライディング土下座なんて概念もないんじゃないかしら。それとも市井にはあるのかしら?
 ましてや彼女をヒロインと思うのは完全に人ですわ。

 いわゆる前世で言う『乙女ゲー転生』というシロモノですわね。
 中世ヨーロッパ風学園物ので乙女ゲー、特待生であるヒロインが幾人かの攻略対象相手に恋を繰り広げるマルチエンディングの……まぁ、その辺りに適当にあるものの何番煎じかだと思ってくだされば恐らく間違いではありませんわ。
 彼女はプレイヤーキャラであるそのヒロインで、わたくしは大半のルートでの悪役令嬢です。一応メインは婚約者である王太子様ルートですけれど。婚約破棄もされますのよ、皆の前で。プレイしている最中は盛り上がりましたわ。
 けれどバッドエンドで悪役令嬢にいじめられた結果というのは見たことがないうえ、『ざまぁ』と表現した以上悪役令嬢に転生した人が調子に乗った本来勝者であるはずのヒロインを下す展開の小説か何かをお読みだったのでしょう。
 同じ乙女ゲーを知っていて、ざまぁ小説を読んでいた……趣味が合いそうですし、の可能性が高いのですから是非お友達にと言いたいところですけど。
 ただ。

 

 わたくしがヒロインかのじょと同じ市井の小娘なら。
 あるいは記憶が戻ってすぐの幼い頃なら嬉しさのあまり即座に転生者相手であることを前提に話を始めるところでしょうけれど。
 今のわたくしは作中で悪役令嬢扱いされた女。
 悪役はまだやっていませんけれど、令嬢であることは間違いございませんわ。
 周りには取り巻きもいれば敵もいますの。

 もし、彼女は何も知らなくて。
 わたくしの不興をかった、こんな風な格好でこんな風に言わなければ恐らく許してもらえない……などと誰かに吹き込まれていたら。王太子様ルートのようなことになっていたらかっていてもおかしくはないわけですし。
 この場で下手なことを口走れば評判が落ちるのはわたくしのほう。
 それが吹き込んだ人の狙いだとしたら?
 転生者だとしても不用意にそれを尋ねることは令嬢として許されません。
 なのに利用された、あるいは彼女自身がわたくしを騙すつもりならば、得られるものすらありませんわ。

「とりあえずお立ちなさいな」
 土下座という言葉はなくとも、わたくしが座り込んで視線を下げようとすればはしたないと言われると分かっている現状。
 それよりも下に頭を置かせているというのは本当に悪役のようですわ。作中でもこんなシーンはありませんのに。
「場所を変えましょう? そこでゆっくり話を聞かせて下さる?」
 ……優しい声音を心がけたけれども貴族ではないヒロインには怒っているように聞こえたらしく。
 立つどころか顔も上げませんし、肩がびくりと震えるのが確かに見えました。
 前世の感覚ではどうだったかしら? 戻ったばかりでそちらに引きずられているという可能性もありますし。
 本当に転生者なのか、あるいは利用されているのなら利用している人物を知りたいので本当に話を聞きたいだけのですけど。
 この構図は充分憶測を呼びそうですわ。
 どうすればよいのでしょう?

 まさかこれが強制力だなんて言いませんわよね?
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