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前編
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――それは王侯貴族が学ぶ学園の卒業式終了後の出来事。
卒業生である王太子殿下が、周りを見回し、一人の在校生の令嬢を見つけると、駆け寄りその前に跪く。
王太子殿下ともなれば、当然のように身分は高い。
殿下の母君である王妃様亡き今、その殿下が跪かなければ女性はこの国にはいない。
それでも跪いた女性がいるというなら、それはこれからしきたりに則りその女性に求婚をするという意味に他ならない。
まだ周りに残っていた、そのことを分かっている、たくさんの生徒や職員、来賓までもがざわめきを隠しきれない。
周りの反応を意に介さず、殿下が口を開く。
「ずっと王太子のために努力する姿を見ていた。わたしにふさわしい女性はそなたしかいない」
完璧な微笑みでそういって令嬢を見上げる。
「婚約をしている間柄ではあるが、改めて言わせて欲しい。そなたが卒業したらわたしと結婚してほしい」
突然そう言われた令嬢は、驚いた後麗しのかんばせを上気させ嬉しそうにはにかんだ……りはしなかった。
ひどく冷静かつ優雅に王族に対する礼を取る。
それでも殿下の頭の方が低い。
「恐れながら殿下」
そして、口調も冷静に告げた。
「わたくしたちの婚約は十年前にすでに破棄されております」
「は?」
殿下はそのままの格好で固まった。
十年前といえば婚約がなされたばかりの頃だと殿下は記憶している。
一目見て恋に落ちた人形のようにかわいらしい少女の笑顔を未だ忘れていない。
あまりの急激な感情の揺れに戸惑い、いささか素直でない対応をしてしまったような記憶は確かにあるが。
破棄なんて断じてしていない。
顔が引きつらないように頑張り笑顔のまま言葉を続けた殿下はある意味立派だったともいえよう。
「……何を持ってそう判断を?」
自身にその記憶がない以上、何かしら誤解があるはず。
なにぶん子供の頃の話だし、そのいささかに傷ついて嫌われていると考え、婚約もなくなったと思い込んだのかもしれない。
ならば説明しなければ。
「殿下はその時『この程度で僕と結婚しようとは。結婚したければせいぜいふさわしくなれるようもっと努力するんだな』とおっしゃいました」
令嬢の言葉に、周りの野次馬の幾人かは、少なくとも殿下は好かれてはいないなと判断した。
細部は多少は違っている可能性があるにしろ、これだけはっきり覚えているということは、よほど記憶力がいいのでなければ未だわだかまりがあるか、連想して思い出すような出来事が複数回有ったのだろう。
何もかもを子供がやったことだと納得出来るわけではない。そもそも殿下はそれでも令嬢より年上な訳だし。
「なので、そのまま父に報告したところ、それは殿下が婚約を破棄したいと言うことだと」
もちろん殿下にそんなつもりはなかった。
さては最初から反対していたんだなと思ったが、真実がどうであれ既に遅い。
「それを陛下に報告したところ、陛下もそう判断なさり、婚約はなくなっております」
話はきっちりついていたらしい。
「聞いてない!!」
思わず殿下は立ち上がって叫ぶ。重要な事なのに本当に欠片も心当たりがない。それに王族の婚約がこんな簡単に覆るなんてありえないと思う。
「婚約者をどうするか訊ねたときに『そのままでいい』とおっしゃられたとうかがっておりますが?」
なのにあっさりと解答が返ってくる。
確かに殿下はそう訊かれた記憶はあった。
けれど説明がなかったのか聞き飛ばしていたのか「彼女が婚約者でいいのか?」と聞かれたと思い込んでいた。まさか「新しい婚約者をどうするか?」だったなんて考えもしなかった。それ以前の婚約破棄の意思を確認された記憶がない。
破棄した自覚もなかったのだから、婚約者をいないままでいいと言ったつもりなんて欠片もなかった。
そもそも誰でもいいわけじゃない。
卒業生である王太子殿下が、周りを見回し、一人の在校生の令嬢を見つけると、駆け寄りその前に跪く。
王太子殿下ともなれば、当然のように身分は高い。
殿下の母君である王妃様亡き今、その殿下が跪かなければ女性はこの国にはいない。
それでも跪いた女性がいるというなら、それはこれからしきたりに則りその女性に求婚をするという意味に他ならない。
まだ周りに残っていた、そのことを分かっている、たくさんの生徒や職員、来賓までもがざわめきを隠しきれない。
周りの反応を意に介さず、殿下が口を開く。
「ずっと王太子のために努力する姿を見ていた。わたしにふさわしい女性はそなたしかいない」
完璧な微笑みでそういって令嬢を見上げる。
「婚約をしている間柄ではあるが、改めて言わせて欲しい。そなたが卒業したらわたしと結婚してほしい」
突然そう言われた令嬢は、驚いた後麗しのかんばせを上気させ嬉しそうにはにかんだ……りはしなかった。
ひどく冷静かつ優雅に王族に対する礼を取る。
それでも殿下の頭の方が低い。
「恐れながら殿下」
そして、口調も冷静に告げた。
「わたくしたちの婚約は十年前にすでに破棄されております」
「は?」
殿下はそのままの格好で固まった。
十年前といえば婚約がなされたばかりの頃だと殿下は記憶している。
一目見て恋に落ちた人形のようにかわいらしい少女の笑顔を未だ忘れていない。
あまりの急激な感情の揺れに戸惑い、いささか素直でない対応をしてしまったような記憶は確かにあるが。
破棄なんて断じてしていない。
顔が引きつらないように頑張り笑顔のまま言葉を続けた殿下はある意味立派だったともいえよう。
「……何を持ってそう判断を?」
自身にその記憶がない以上、何かしら誤解があるはず。
なにぶん子供の頃の話だし、そのいささかに傷ついて嫌われていると考え、婚約もなくなったと思い込んだのかもしれない。
ならば説明しなければ。
「殿下はその時『この程度で僕と結婚しようとは。結婚したければせいぜいふさわしくなれるようもっと努力するんだな』とおっしゃいました」
令嬢の言葉に、周りの野次馬の幾人かは、少なくとも殿下は好かれてはいないなと判断した。
細部は多少は違っている可能性があるにしろ、これだけはっきり覚えているということは、よほど記憶力がいいのでなければ未だわだかまりがあるか、連想して思い出すような出来事が複数回有ったのだろう。
何もかもを子供がやったことだと納得出来るわけではない。そもそも殿下はそれでも令嬢より年上な訳だし。
「なので、そのまま父に報告したところ、それは殿下が婚約を破棄したいと言うことだと」
もちろん殿下にそんなつもりはなかった。
さては最初から反対していたんだなと思ったが、真実がどうであれ既に遅い。
「それを陛下に報告したところ、陛下もそう判断なさり、婚約はなくなっております」
話はきっちりついていたらしい。
「聞いてない!!」
思わず殿下は立ち上がって叫ぶ。重要な事なのに本当に欠片も心当たりがない。それに王族の婚約がこんな簡単に覆るなんてありえないと思う。
「婚約者をどうするか訊ねたときに『そのままでいい』とおっしゃられたとうかがっておりますが?」
なのにあっさりと解答が返ってくる。
確かに殿下はそう訊かれた記憶はあった。
けれど説明がなかったのか聞き飛ばしていたのか「彼女が婚約者でいいのか?」と聞かれたと思い込んでいた。まさか「新しい婚約者をどうするか?」だったなんて考えもしなかった。それ以前の婚約破棄の意思を確認された記憶がない。
破棄した自覚もなかったのだから、婚約者をいないままでいいと言ったつもりなんて欠片もなかった。
そもそも誰でもいいわけじゃない。
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