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08 欠けたもの
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離れたくなかった。長い間、欠けていたものが、ようやく戻ってきた。そんな不思議な錯覚がしていたから。
体の奥へとじんわりしたものが広がり、ノエルが熱を放って果てたことを知った。
ゆっくりと口を離した私たちは、結構な時間を息を整えるのに使った。激しい運動をしつつのキスは、とても疲れるものであるのを知った。
「ミフユ……異世界に行きたい?」
「行きたい! だって、私たち……恋人なんでしょう? 離れたくない」
だから、私たちはこういうことをしているはずだと言質を求めるように言えば、ノエルは明るく笑った。
「うん。俺たちは結婚前提の恋人同士。一緒に暮らすのなら、住んでいる世界も一緒じゃないと」
「当たり前だよ」
私は彼の胸へとしなだれて、ほっと息をついた。
「ねえ。本当に……覚えてないの? 俺のこと」
「……? 何言ってるの? 私たち、初対面でしょ?」
ノエルのような人を一眼でも見れば、絶対に覚えているはずだと思う。
それくらいに目を引く人だし……そもそも、日本は島国で単一民族に近いから、彼のような人は絶対に少ない。だから、会ったことはないはず。
「うん……まあ、そうなんだけど……ね」
◇◆◇
ようやく、待ち侘びたこの日がやって来た。
異世界から来た聖女が世界を滅ぼす魔獣を撃ち倒す旅に同行して世界を救ってくれて、元の世界には家族も居ない彼女はこの世界に残りたいと希望した。
だが、それにはひとつ大きな障害があった。
大国の王太子が聖女がもしこの世界に残るのなら、王族である自分と結婚するべきだと言い始めたのだ。これまでの先例から、異世界に残った聖女はそうすべきなんだと。
聖女は救世の旅を共にした護衛騎士……俺と恋仲であることを、わかりつつだ。これは流石に、悪趣味過ぎる。
そうするべきだという、無責任な世論だってある。俺はどうするべきかと悩み苦しんだ。だが、愛しい彼女を、人身御供のようにするわけにはいかない。だから、聖女ミフユへとこう伝えた。
「この問題が解決したら、絶対に迎えに行くから」と。元の世界に帰ることを泣いて嫌がった彼女のこの世界での記憶を魔法使いに消して貰うように頼んだのは俺だ。
あまりに俺と離れるのが嫌だと泣いて泣いて可哀想で、とても見ていられなかった。だから、思ったのだ。別離の悲しみに耐えるのは、俺一人だけで良いと。
「……聖女を、ようやく迎えに行くのか?」
ミフユの居る異世界への転移を魔法使いに頼めば、彼は穏やかな笑みを浮かべて頷いた。
「ああ。ようやく……色々と、片付いたし、今は俺がミフユと結婚しても、文句言うやつも居ない。なかなかしぶとかった。政略結婚必須の王太子は、さっさと身分の高い女と結婚しろ」
体の奥へとじんわりしたものが広がり、ノエルが熱を放って果てたことを知った。
ゆっくりと口を離した私たちは、結構な時間を息を整えるのに使った。激しい運動をしつつのキスは、とても疲れるものであるのを知った。
「ミフユ……異世界に行きたい?」
「行きたい! だって、私たち……恋人なんでしょう? 離れたくない」
だから、私たちはこういうことをしているはずだと言質を求めるように言えば、ノエルは明るく笑った。
「うん。俺たちは結婚前提の恋人同士。一緒に暮らすのなら、住んでいる世界も一緒じゃないと」
「当たり前だよ」
私は彼の胸へとしなだれて、ほっと息をついた。
「ねえ。本当に……覚えてないの? 俺のこと」
「……? 何言ってるの? 私たち、初対面でしょ?」
ノエルのような人を一眼でも見れば、絶対に覚えているはずだと思う。
それくらいに目を引く人だし……そもそも、日本は島国で単一民族に近いから、彼のような人は絶対に少ない。だから、会ったことはないはず。
「うん……まあ、そうなんだけど……ね」
◇◆◇
ようやく、待ち侘びたこの日がやって来た。
異世界から来た聖女が世界を滅ぼす魔獣を撃ち倒す旅に同行して世界を救ってくれて、元の世界には家族も居ない彼女はこの世界に残りたいと希望した。
だが、それにはひとつ大きな障害があった。
大国の王太子が聖女がもしこの世界に残るのなら、王族である自分と結婚するべきだと言い始めたのだ。これまでの先例から、異世界に残った聖女はそうすべきなんだと。
聖女は救世の旅を共にした護衛騎士……俺と恋仲であることを、わかりつつだ。これは流石に、悪趣味過ぎる。
そうするべきだという、無責任な世論だってある。俺はどうするべきかと悩み苦しんだ。だが、愛しい彼女を、人身御供のようにするわけにはいかない。だから、聖女ミフユへとこう伝えた。
「この問題が解決したら、絶対に迎えに行くから」と。元の世界に帰ることを泣いて嫌がった彼女のこの世界での記憶を魔法使いに消して貰うように頼んだのは俺だ。
あまりに俺と離れるのが嫌だと泣いて泣いて可哀想で、とても見ていられなかった。だから、思ったのだ。別離の悲しみに耐えるのは、俺一人だけで良いと。
「……聖女を、ようやく迎えに行くのか?」
ミフユの居る異世界への転移を魔法使いに頼めば、彼は穏やかな笑みを浮かべて頷いた。
「ああ。ようやく……色々と、片付いたし、今は俺がミフユと結婚しても、文句言うやつも居ない。なかなかしぶとかった。政略結婚必須の王太子は、さっさと身分の高い女と結婚しろ」
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