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26 庭園
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王妃アニータ様からの手紙に書かれた、わかりやすいお達しはこうだ。
『現状維持せよ』
待って。この状態で、私はあと半年過ごせということ? 嘘でしょう。
今年だけ特別に、デビュタントの時期が早まらないかしら……難しいわよね。それって私しか望んでないと思うし、難しいことはわかってはいるけど。
このままギャレット様との仲を、深める訳にもいかない。だって、本当の婚約者でもないもの。
まるで彼に騙すつもりで近付いたのに、被害者に惚れてしまった馬鹿な詐欺師みたいだわ。
それに、すぐに逃げ出す訳にもいかない。私には、彼の婚約者である期間が定められている。短いようで、とても長い半年間になりそうだった。
住んでいる宮にほど近い庭園にある長いベンチに座っていた私は、差出人の書かれていない手紙を封筒に仕舞うとため息をつき、季節の花々が花咲く公園へ目を向けた。
このベンチが用意されているということは、ここを世話する庭師はきっとこの美しい風景を見て欲しいということだろう。確かに、綺麗だわ。
抜けるような青空だったのに、いきなり視界に影が出来て、私は何気なく左上を見上げた。
「……ギャレット様? どうしたのですか?」
「いや、この前調子を崩していただろう? ローレンがここに居るのを見たから、日傘を持って来たんだ」
確か闘技大会の時に……本当は金が肌に合わなくて気分を悪くしたんだけど、日差しが強すぎて体調を崩してしまったようだと言った。
ギャレット様はあんな嘘を、律儀に覚えていてくれたんだ。
「ありがとう……ございます……」
「どういたしまして……その手紙は? 何か良い知らせでも?」
ギャレット様は白いレースで出来た日傘を私へと差し掛け、私は慌てて手に持っていた手紙を小さく折りたたみ、隠しポケットへとそれを隠した。
「いいえ。親しい友人からですわ。ギャレット様は……今日は?」
王太子は、特にご多忙なのでは? という意味で聞いたのだけど、どうやら彼はそうは思わなかったようだ。
「ああ。少しだけ時間が出来たので、ローレンに会いに来た。庭園に居ると聞いたから、以前に作らせていた日傘を持って来たんだ。どう? 気に入った?」
「そうなんですね……はい。軽くて可愛くて、ありがとうございます」
私は彼から日傘を受け取り、ギャレット様は隣に腰掛けた。私のドレスの裾はパニエで広がり、それに触れまいとするなら、少し距離を必要とする。
それなのに、ギャレット様は完全に触れているし、息が掛かりそうなほどほど近くに居る。
私はそれとなく彼が居る逆方向に移動すれば、ギャレット様も同じようにそうする。
「あの……」
「何?」
素知らぬ顔のギャレット様だって、私の言いたいことがわかっているはずだ。近過ぎるって思うから、こうして離れようとしているのに。
移動しては彼が近付いて、何度かそれを繰り返して、いよいよ私はベンチの美しく装飾された手すりにまで辿り着いてしまった。
「……ギャレット様。もう。近過ぎます」
無言の応酬に我慢が出来なくなって私がそう言うと、ギャレット様は肩を竦めた。
「そうだね。なんで、ローレンは俺から離れようとするの?」
「な、なんで? えっと……」
離れるべき理由に、どう言うべきか困ってしまった。ギャレット様が好きで彼も好きで……ええ。そうよね。そんな二人に、離れる理由って、もしかしてないかも。
王妃様……これって、私は……本当に、このまま現状維持は無理があり過ぎないですか……? 一時的に席を埋めておくためだけなのに、本当に良くわからない関係になってしまった。
混乱して黙ったままの私の顎を掴み、ギャレット様は触れるだけの軽いキスをした。驚きに目を見開いた私を見て、ギャレット様は照れたように言った。
『現状維持せよ』
待って。この状態で、私はあと半年過ごせということ? 嘘でしょう。
今年だけ特別に、デビュタントの時期が早まらないかしら……難しいわよね。それって私しか望んでないと思うし、難しいことはわかってはいるけど。
このままギャレット様との仲を、深める訳にもいかない。だって、本当の婚約者でもないもの。
まるで彼に騙すつもりで近付いたのに、被害者に惚れてしまった馬鹿な詐欺師みたいだわ。
それに、すぐに逃げ出す訳にもいかない。私には、彼の婚約者である期間が定められている。短いようで、とても長い半年間になりそうだった。
住んでいる宮にほど近い庭園にある長いベンチに座っていた私は、差出人の書かれていない手紙を封筒に仕舞うとため息をつき、季節の花々が花咲く公園へ目を向けた。
このベンチが用意されているということは、ここを世話する庭師はきっとこの美しい風景を見て欲しいということだろう。確かに、綺麗だわ。
抜けるような青空だったのに、いきなり視界に影が出来て、私は何気なく左上を見上げた。
「……ギャレット様? どうしたのですか?」
「いや、この前調子を崩していただろう? ローレンがここに居るのを見たから、日傘を持って来たんだ」
確か闘技大会の時に……本当は金が肌に合わなくて気分を悪くしたんだけど、日差しが強すぎて体調を崩してしまったようだと言った。
ギャレット様はあんな嘘を、律儀に覚えていてくれたんだ。
「ありがとう……ございます……」
「どういたしまして……その手紙は? 何か良い知らせでも?」
ギャレット様は白いレースで出来た日傘を私へと差し掛け、私は慌てて手に持っていた手紙を小さく折りたたみ、隠しポケットへとそれを隠した。
「いいえ。親しい友人からですわ。ギャレット様は……今日は?」
王太子は、特にご多忙なのでは? という意味で聞いたのだけど、どうやら彼はそうは思わなかったようだ。
「ああ。少しだけ時間が出来たので、ローレンに会いに来た。庭園に居ると聞いたから、以前に作らせていた日傘を持って来たんだ。どう? 気に入った?」
「そうなんですね……はい。軽くて可愛くて、ありがとうございます」
私は彼から日傘を受け取り、ギャレット様は隣に腰掛けた。私のドレスの裾はパニエで広がり、それに触れまいとするなら、少し距離を必要とする。
それなのに、ギャレット様は完全に触れているし、息が掛かりそうなほどほど近くに居る。
私はそれとなく彼が居る逆方向に移動すれば、ギャレット様も同じようにそうする。
「あの……」
「何?」
素知らぬ顔のギャレット様だって、私の言いたいことがわかっているはずだ。近過ぎるって思うから、こうして離れようとしているのに。
移動しては彼が近付いて、何度かそれを繰り返して、いよいよ私はベンチの美しく装飾された手すりにまで辿り着いてしまった。
「……ギャレット様。もう。近過ぎます」
無言の応酬に我慢が出来なくなって私がそう言うと、ギャレット様は肩を竦めた。
「そうだね。なんで、ローレンは俺から離れようとするの?」
「な、なんで? えっと……」
離れるべき理由に、どう言うべきか困ってしまった。ギャレット様が好きで彼も好きで……ええ。そうよね。そんな二人に、離れる理由って、もしかしてないかも。
王妃様……これって、私は……本当に、このまま現状維持は無理があり過ぎないですか……? 一時的に席を埋めておくためだけなのに、本当に良くわからない関係になってしまった。
混乱して黙ったままの私の顎を掴み、ギャレット様は触れるだけの軽いキスをした。驚きに目を見開いた私を見て、ギャレット様は照れたように言った。
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