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5:追われる者
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「どうしようか?」
本当に困っているようには見えない顔で、レイはファラルに話しかけた。
「何もせずとも、なるようになる」
「それもそうね」
風が吹いた。
フードを煽り、そこからこぼれ落ちた薄茶色の髪をなびかせる風は、建物の窓を割っていく。
(魔法で作られた風だから、よっぽどのことがない限りこの風で怪我人は出ないだろうけど)
フードを被り直しながらそんなことを思った。
「なるようになる」
レイはファラルの言葉を復唱した。思えばこの状況も今までの出来事も随所随所でなるようになった結果の積み重ねだ。
そして、それはきっと、これからの未来すらも。
だって、未来を選ぶことなんて、レイは許していないのだから。
話は昨夜に遡る。
港町の中心から少し外れた岬に建てられた施設に宿をとっていたレイとファラルは、施設の上部にある鐘楼で何かが来るのを待っていた。
潮騒などの雑音が混じる中、レイはファラルに体を預けて目を瞑り、ピクリとも動かなかった。
しかし、ある時、
「来た」
と、目を瞑ってから初めて小さく呟いた。
呟いた途端に、聴覚を研ぎ澄ませなくても聞こえるようになった、物々しい音が段々と大きくなっていく。
潮騒とはまるで違うその音がだんだんとこの施設に近づいてくる。それは目を覚ましている者がいれば、やがて分かったことだろう。
けれど、レイは音の正体をもっと正確に理解していた。
あれは獣の足音。一番多いのは馬だ。
野生の馬が走っていると考えるには不自然な足音なので、馬には騎乗者が居る。
先ほどまで広く開放していた意識を耳に傾けようとした時、レイの耳が大きな手で塞がれた。
「すぐに分かる」
耳を塞がれていてもファラルの声は分かった。それに対して、
「確かに、あれだけ一生懸命逃げている状況で実のある話は出来ないでしょうね」
と答えて、ファラルの手を耳から外させてレイは立ち上がり、鐘楼から少し身を乗り出して音の正体が姿を見せるのを待った。
ほどなくして、レイの眼下には闇夜に紛れるには少々騒がしく馬で疾走して来た黒色の服を纏う男たちが姿を現す。
彼らは気が立っている様子で、話し合うというよりは怒鳴り合うと言う方が相応しいやりとりが、耳を傾けるまでもなく聞こえてきた。
「騎士団に追われている賊みたいね。人質を取ってこの施設で立てこもるって言ってるけど……」
その続きを口にする前に、賊たちは扉や窓を壊し、施設の中に無理矢理侵入した。
階下では、突然の騒音に驚く子供の泣き声や、女性の悲鳴が聞こえ始める。
人質となった者たちを威嚇するように賊たちが脅しの声を上げた。
施設内の恐慌状態を察しながら、なおも外を見続けていたレイは、ふとファラルを振り返って教えてあげた。
「もうひとつもそろそろ来るみたい」
それに言葉を返すことなく、ファラルは立ち上がり、レイと自分の間の空間を埋めた。
本当に困っているようには見えない顔で、レイはファラルに話しかけた。
「何もせずとも、なるようになる」
「それもそうね」
風が吹いた。
フードを煽り、そこからこぼれ落ちた薄茶色の髪をなびかせる風は、建物の窓を割っていく。
(魔法で作られた風だから、よっぽどのことがない限りこの風で怪我人は出ないだろうけど)
フードを被り直しながらそんなことを思った。
「なるようになる」
レイはファラルの言葉を復唱した。思えばこの状況も今までの出来事も随所随所でなるようになった結果の積み重ねだ。
そして、それはきっと、これからの未来すらも。
だって、未来を選ぶことなんて、レイは許していないのだから。
話は昨夜に遡る。
港町の中心から少し外れた岬に建てられた施設に宿をとっていたレイとファラルは、施設の上部にある鐘楼で何かが来るのを待っていた。
潮騒などの雑音が混じる中、レイはファラルに体を預けて目を瞑り、ピクリとも動かなかった。
しかし、ある時、
「来た」
と、目を瞑ってから初めて小さく呟いた。
呟いた途端に、聴覚を研ぎ澄ませなくても聞こえるようになった、物々しい音が段々と大きくなっていく。
潮騒とはまるで違うその音がだんだんとこの施設に近づいてくる。それは目を覚ましている者がいれば、やがて分かったことだろう。
けれど、レイは音の正体をもっと正確に理解していた。
あれは獣の足音。一番多いのは馬だ。
野生の馬が走っていると考えるには不自然な足音なので、馬には騎乗者が居る。
先ほどまで広く開放していた意識を耳に傾けようとした時、レイの耳が大きな手で塞がれた。
「すぐに分かる」
耳を塞がれていてもファラルの声は分かった。それに対して、
「確かに、あれだけ一生懸命逃げている状況で実のある話は出来ないでしょうね」
と答えて、ファラルの手を耳から外させてレイは立ち上がり、鐘楼から少し身を乗り出して音の正体が姿を見せるのを待った。
ほどなくして、レイの眼下には闇夜に紛れるには少々騒がしく馬で疾走して来た黒色の服を纏う男たちが姿を現す。
彼らは気が立っている様子で、話し合うというよりは怒鳴り合うと言う方が相応しいやりとりが、耳を傾けるまでもなく聞こえてきた。
「騎士団に追われている賊みたいね。人質を取ってこの施設で立てこもるって言ってるけど……」
その続きを口にする前に、賊たちは扉や窓を壊し、施設の中に無理矢理侵入した。
階下では、突然の騒音に驚く子供の泣き声や、女性の悲鳴が聞こえ始める。
人質となった者たちを威嚇するように賊たちが脅しの声を上げた。
施設内の恐慌状態を察しながら、なおも外を見続けていたレイは、ふとファラルを振り返って教えてあげた。
「もうひとつもそろそろ来るみたい」
それに言葉を返すことなく、ファラルは立ち上がり、レイと自分の間の空間を埋めた。
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