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12:思考遊戯
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レイが撫でていた馬は気が済んだのか。ファラルの周りをうろついていた馬を誘って別の場所へ移動していった。つられるようにして、他の馬たちも移動を始める。とは言っても、移動範囲が指示されているのか、この辺り一角から出ることはなかった。
馬たちが移動した後には、レイたちと草が綺麗に無くなった地面だけが残されていた。
開放的になったところで周囲を見回せば、騎士達は賊の監視よりと施設の被害状況の確認の為に走り回る者とで半々だった。
また別の違和感を抱いたのはその時だった。
(無力化した賊に対して監視が厳しい。そもそも粒ぞろいの帝国の騎士隊が追いかける賊にしては実力に差があり過ぎたのに)
アズマール帝国は大陸唯一、そして随一と呼ばれる覇権国である。騎士隊ひとつをとっても、大陸全土の粋を集めたような人材で構成されていると言っても過言ではない。
そんな騎士隊が、逃げるばかりでまともな抵抗ひとつできないような賊をわざわざ追いかけるだろうか。
見えるものと聞こえるものを知覚の中心に据えていたレイが、取り零しているのは何か。
消去法で浮かんだ考えが正しいかを確かめるため、レイはファラルに近づいてひとつ問いを投げかける。
「ねえ、ここ潮の匂いしてる?」
「ああ。海が目の前にあるからな」
間髪を入れずに返された言葉に、レイはずいぶんと蔑ろにしてしまっていた感覚を研ぎ澄ませることに意識を向ける。
まず感じたのは、吸い込む空気に当たり前に混じっている潮の匂い。それから足元からのぼる土の匂いと、残り香としてわずかに漂う馬の獣臭さ。
そこから目を瞑り波の音にも耳を塞いで、もっともっと研ぎ澄ませていく。
そして全てを理解した。
「……そういうことね」
目を開けたレイが見た先には、拘束されている賊がいる。
「気づいたか」
平然と言い放ったファラルをレイは軽く睨む。ファラルはとうに気づいていたらしい。しかし、ファラルの顔に動揺は浮かばず、塑像のように眉一つ動かない。
なおもレイが視線を投げ続けていれば、ようやく口を開いて、
「教えるほどの相手でもないと判断した」
「あなたがそれを言うと、大抵の相手がそうなるわよ」
帝国の騎士隊がわざわざ賊を追っていた理由は分かった。
15年前の出来事を思えば、過剰反応でもないのだろう。
けれど知ったからと言って今のレイに出来ることはない。
彼らに力を預けている状態で、ファラルの言う『教えるほどの相手でもない』ような存在にだって、レイが対抗するのは少し厳しい。
それすらも分かったうえで、ファラルも発言しているのだろう。大した自信だと思うが、それは大言壮語でもなんでもない客観的な事実であることを、レイは知っている。
だからこそ、レイはファラルの実力に全幅の信頼を寄せ、どんな状況であろうと自らを揺るがすことなく存在していられる。
(でも、こうも制限されるものが多いと少し面倒ね)
課せられたすべてを投げ出して、一足飛びに目的を果たすのはとても簡単なことだ。
この煩わしさも、無力感も、時間も、不安も、絶望すらをも一瞬で終わる。
でも、それをしてはいけない。
レイの葛藤を知ってか知らずか、ファラルが珍しく妖艶な笑みを浮かべて聞いてきた。
「答え探しは楽しかったか?」
レイにとって、未知を知るとは大切な人から教えられた享楽であり、思考するとは共有できた唯一の遊戯だった。
だからこそ、返す言葉の真意はどんな時でも変わらない。
「腹が立つほどね」
と、ひねくれた言葉とは裏腹に、レイの口元には小さな愉悦の笑みが浮かんでいた。
馬たちが移動した後には、レイたちと草が綺麗に無くなった地面だけが残されていた。
開放的になったところで周囲を見回せば、騎士達は賊の監視よりと施設の被害状況の確認の為に走り回る者とで半々だった。
また別の違和感を抱いたのはその時だった。
(無力化した賊に対して監視が厳しい。そもそも粒ぞろいの帝国の騎士隊が追いかける賊にしては実力に差があり過ぎたのに)
アズマール帝国は大陸唯一、そして随一と呼ばれる覇権国である。騎士隊ひとつをとっても、大陸全土の粋を集めたような人材で構成されていると言っても過言ではない。
そんな騎士隊が、逃げるばかりでまともな抵抗ひとつできないような賊をわざわざ追いかけるだろうか。
見えるものと聞こえるものを知覚の中心に据えていたレイが、取り零しているのは何か。
消去法で浮かんだ考えが正しいかを確かめるため、レイはファラルに近づいてひとつ問いを投げかける。
「ねえ、ここ潮の匂いしてる?」
「ああ。海が目の前にあるからな」
間髪を入れずに返された言葉に、レイはずいぶんと蔑ろにしてしまっていた感覚を研ぎ澄ませることに意識を向ける。
まず感じたのは、吸い込む空気に当たり前に混じっている潮の匂い。それから足元からのぼる土の匂いと、残り香としてわずかに漂う馬の獣臭さ。
そこから目を瞑り波の音にも耳を塞いで、もっともっと研ぎ澄ませていく。
そして全てを理解した。
「……そういうことね」
目を開けたレイが見た先には、拘束されている賊がいる。
「気づいたか」
平然と言い放ったファラルをレイは軽く睨む。ファラルはとうに気づいていたらしい。しかし、ファラルの顔に動揺は浮かばず、塑像のように眉一つ動かない。
なおもレイが視線を投げ続けていれば、ようやく口を開いて、
「教えるほどの相手でもないと判断した」
「あなたがそれを言うと、大抵の相手がそうなるわよ」
帝国の騎士隊がわざわざ賊を追っていた理由は分かった。
15年前の出来事を思えば、過剰反応でもないのだろう。
けれど知ったからと言って今のレイに出来ることはない。
彼らに力を預けている状態で、ファラルの言う『教えるほどの相手でもない』ような存在にだって、レイが対抗するのは少し厳しい。
それすらも分かったうえで、ファラルも発言しているのだろう。大した自信だと思うが、それは大言壮語でもなんでもない客観的な事実であることを、レイは知っている。
だからこそ、レイはファラルの実力に全幅の信頼を寄せ、どんな状況であろうと自らを揺るがすことなく存在していられる。
(でも、こうも制限されるものが多いと少し面倒ね)
課せられたすべてを投げ出して、一足飛びに目的を果たすのはとても簡単なことだ。
この煩わしさも、無力感も、時間も、不安も、絶望すらをも一瞬で終わる。
でも、それをしてはいけない。
レイの葛藤を知ってか知らずか、ファラルが珍しく妖艶な笑みを浮かべて聞いてきた。
「答え探しは楽しかったか?」
レイにとって、未知を知るとは大切な人から教えられた享楽であり、思考するとは共有できた唯一の遊戯だった。
だからこそ、返す言葉の真意はどんな時でも変わらない。
「腹が立つほどね」
と、ひねくれた言葉とは裏腹に、レイの口元には小さな愉悦の笑みが浮かんでいた。
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