秋月の鬼

凪子

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二、

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秋月氏の領国、吉野の国。

風光明媚と謳われる景色と、果てなく広がる内海に面したこの国は、豊かな恵みを受けた土地であり、農業と漁業が盛んだった。

西から取り寄せた蚕から繊維を撚り、見事な綾織や染め粉を使った目にも鮮やかな反物を創り上げる。

城下町・白鴎はくおうでは、行商人の行き交いで大通りは溢れ返り、市場のそこかしこで商人の呼び込みの声がする。人々の顔は活気に満ちていた。

座と呼ばれる商人組合を組織し、定期市を設けて物資や人の流通を図ったのは先代領主、秋月政信であった。

西方の小国でしかなかった秋月氏が交易によって莫大な富をなし、出雲から仕入れた鉄で武器を鋳造し、瞬く間に戦国の覇を競う一大国家となったのも、先代の辣腕によるところが大きい。

西国から集まった物資や富は、必ずこの吉野の港を通って京の都や鎌倉へ運ばれる。

自然、交通と貿易の要衝となったこの都は、旅人の落とす潤沢な利益の恩恵に与れるというわけだ。

万世に渡る富貴の約束されたこの街、その至る道、至る辻に立てられた立札。

そこに貼られた触れ書きこそが、今、国中を賑わす一大事であった。

書かれた文はこのようなものである。

『この度安曇城城主となられた秋月京次郎あきづき・きょうじろう様は、正室を一人迎えられることと相成った。
よって、この国の妙齢の女子から広く募ることとする。我こそはと思うものあらば、卯月二十日に安曇城星陵門に来られたし。
なお、この吉野の国の女子であらば、身分如何は一切問わず』
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