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十、
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「久しぶりだな。容花」
向かい合う京次郎の横顔が燈火に照り映えている。
容花は三つ指をついてしずしずと頭を下げた。
松尾家の長女容花姫は、表向きは京次郎の従妹にあたる。
父である老中実時に伴われて城を訪れたり、折に触れて京次郎が松尾家を来訪する際には挨拶など取り交わす間柄であった。
しかしながら京次郎は、この鉄面皮のように表情に乏しい少女が苦手だった。
「よろしいのですか」
面を上げるなり容花は端的に問うた。
「何がだ」
「次姫に、本当のことを教えて差し上げなくともよろしいのですか」
「構わん。あいつは俺を恨めばいい」
迷いのない表情だった。
初姫の死の真相を知る者は少ない。
容花も全てを承知しているわけではなかったが、巷で言われる京次郎が初姫を殺したという噂が間違いであることは分かっていた。
「姉をあんな形で失ったまま、後ろめたくない幸せを掴むことができましょうか。知らされぬままというのは惨いことです。あの娘は、どこまでも上様を追ってまいりますよ」
「結構。復讐を企むうちは、生きていることができるからな」
「一体誰のことをおっしゃっているのやら」
と容花は寸鉄を刺した。
京次郎は神妙な顔つきになる。
「この嫁御探し、初姫様を殺した者をおびき寄せるための布石だったのでございましょう。復讐に囚われているのは上様の方ではございませんか」
京次郎は苦笑した。
常盤といい容花といい、なかなか一筋縄ではいかない娘らしい。
盆に載った徳利が運ばれてきて、容花は丁寧な手つきで猪口に透明な酒を注いだ。
春の夜は深く、花の気配は遠ざかりゆく。
「初姫様のこと、お忘れになれませんか」
京次郎はぐいと一気に飲み干すと、
「仇を討つまではな」
容花は手早く次の酒を注ぎ、京次郎はいともあっさり杯を空にしていく。
気持ち良いほどの飲みっぷりであった。
「上様も酷なことをなさる」
結い上げた簪の精緻な美しさを、京次郎はとっくりと眺める。
先端は鋭利に尖り、翡翠や珊瑚の玉がちりばめられ、動けば玲瓏な鈴が鳴った。
向かい合う京次郎の横顔が燈火に照り映えている。
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しかしながら京次郎は、この鉄面皮のように表情に乏しい少女が苦手だった。
「よろしいのですか」
面を上げるなり容花は端的に問うた。
「何がだ」
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「構わん。あいつは俺を恨めばいい」
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「結構。復讐を企むうちは、生きていることができるからな」
「一体誰のことをおっしゃっているのやら」
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