異世界でカイゼン

soue kitakaze

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第184話 旋盤とボール盤

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「痛い痛い、ウエモンは足を踏むなっての!」
「がしがしがし。だってなんか怖かったもん」
「怖いのと俺の足を踏むのとなんの関係があるんだよ!」

「私も怖かったよぉぉ」
「いや、スクナも抱きつかないで」
「ユウさん、モテモテですね」

 ちびっ子にモテても全然嬉しくないのだが。せめてウエモンだけはゼンシンが担当してもらいたい。

 端から見たら子供が子供をつれて遊びに来たとしか見えない集団が、珠作り現場にやってきた。サバエ家である。

「あらあら。可愛いらしいお子さんたちだこと。太守様のお子さんですか?」
「ちげぇよ! 俺は独身だ。ってか俺だってまだ12才だっての」

「それは失礼しました。ちょっと早いなとは思ったんですが。それじゃお嫁さんですか?」
「だから独身だと言っておるだろうが」
「それもちょっと早いかな、とは思ったんですが」

 ちょっと、じゃないだろ。12才で結婚もないが、子持ちなんてもっとあるものか。

「この世界ではまったくないわけじゃないと思うよ?」
「スクナはあっちでウエモンと遊んでなさい」

 なんでくっついて来ちゃったのかなぁ、もう。

「今日は縦型ろくろとドリルを持ってきたんだ。これを使えば穴開け加工はずっと楽になるぞ」
「旋盤のおかげで珠削りはすごく楽になってます。今はこの穴開けが一番時間がかかっています。それをこの機械でするのですか?」

「ゼンシン、やってみせてくれ」
「はい。動かし方は旋盤と同じです。まだこのドラムは材料が届いていませんので、足で回し続ける必要がありますが、こう踏んで回転させます。ここまではいいですね」
「ええ、その辺はもうすっかり慣れました。しかし、旋盤と違って回っているのは上の部分ですか?」

「そうです。これはボール盤というそうで、回転軸が上にあります。そこに、このドリルというものを装着します」

「ドリルすんのかーい」
「かーい」

 お前ら邪魔だっての。ボケは禁止な。

「は、はぁ」
「このドリルはこちらのレバー操作で上下に移動します。こんな感じです」

「おぉぉ。なるほど。分かってきました。それで穴を開けるのですね」
「そうです。旋盤に比べれば構造は簡単で扱いもずっと簡単です。ドリルをこの穴に差し込んでからこのレバーを引くと固定されます」
「ふむふむ」
「そしてこの治具に外側加工をした製品をセットしてください」
「治具? というのですか。ちょうど珠がはまるくぼみがありますね」

「そうです。そこに製品をはめ込んで、あとはろくろを回しながらこのレバーをゆっくり下ろせば」

 きゅるきゅるっ。と音がして加工が終わった。

「完成です」
「すごぉい。ゼンシンさん、格好いい!」
「うんうん。私の作ったドリルだからね。そのぐらい当然よ」

 お前らはいいからあっちで遊んでいなさいって。お祭りに子連れで来たおとーさんの気持ちが良く分かる。

「でも確かにすごいです。1秒とかからずに穴が開きましたよ。おいお前、今の見たか?」
「見たわよ、あなた。これはすごい。これなら力のない私でも楽に穴開けができるわね」
「治具の位置を決めてしまえば、必ず中央に穴が開きます。もう抜き取り検査をする必要はありません」

 製品の取り替えなどでタクトは1秒にはならないが、それでもキリによる手作業で開けていた従来と比べれば、遙かに早いであろう。また、疲れることもない。

「え? 抜き取り検査も必要ないのですか?!」
「この治具でセンター出しをするから不要だ。ただ、作業を開始した最初の1個だけは例の方法でチェックしてもらいたい。それが正しければ、あとはひたすら作業だけでいい」
「はい、それはもう楽になります。ありがとうございます」

「じゃあ、ちょっとこの作業を実際にやってみてくれ。ある程度やり方に慣れたらタクトタイムを測定する」
「たくとたいむ?」
「ああ、気にしないで。作業時間のことな」

 そして10分ほどすると明らかに作業に慣れてきた。旋盤に比べるとずっと容易な作業だけに慣れるのも早かった。手順としては以下の通りである。

 治具に珠を入れる。レバーを下ろす。珠を取り出す。削りカスがときどき溜まるのでそれを払う。そして珠を入れる。以下繰り返し。

 慣れたようなので、タクトタイムの測定を開始する。

 珠を手で持つところから、加工を終えて次の珠を持つまでの時間がタクトである。

 このとき、1個だけの加工では正確なタクトがとれない。このぐらいの単純作業でもいろいろなことが起こるし、付帯作業もあるからである。

 珠を落とすこともあるだろう。削りカスを払う作業もある。加工前の箱や完成品の箱を交換する手間もある。

「あ、あっちになんか変なものがあるよ?」
「なんだろう、これ。クシみたいだね」
「ちょっとスクナ、これで髪をといてみなよ」
「ウエモンの髪に挿したらかんざしみたいにならない?」

 子供が邪魔することもあ……ヽ(`Д´)ノごらぁ。静かに遊んでろっ!!!

 だから100個の加工をやってもらう。そうするとだいたいのことは発生する。
 それらをトータルしてかかった時間を100で割れば、それが1個あたりのタクトタイムである。工数と言い換えてもいい。

 その結果は以下の通りとなった。

 従来のキリで行う方法:1個→20秒
 ボール盤使用する方法:1個→ 3秒

 1個あたりの加工時間は、20秒から3秒に短縮された。85%の工数削減である。うむ、だいたい予想通りである。

「すごい。機械って、すごい。太守様、ほんとにこんなもの使わせていただいて良いのですか」
「良いから持ってきたんだよ。費用のことはオオクニにまかせておけ。ちゃんと穴が開くように作ったんだからできて当然だ。だが、これはほんとに良くできているな。さすがはゼンシンだ。これで2,000個ぐらいなら、ひとりで2時間もやれば終わる」
「「ほぇぇぇぇぇ」」

「どんなもんよ、えっへん」
「お前はウエモンだろ。はいはいドリルも良くできてるよ、だからあっち行ってなさい」

「それで、旋盤のほうはどうだ?」
「使わせていただいてます。あれで外周加工が一度にできてしまうので、こちらもすごく楽になってます」
「じゃ、そちらもついでにタクトを計らせてもらおう」

 そして珠の加工タクトは以下のようであることが分かった。

 従来のノミで加工する方法:1個→25秒
 旋盤で外周加工をする方法:1個→ 8秒

 こちらは68%の工数削減である。珠の加工はこのふたつの工程で全体の約8割を占めている。それが1個あたり、310秒から87秒に削減できたという結果である。全体の工数を一覧にしてみよう。

 最初の1個当たりの工数はこのようであった。
・ノコギリで2cm角に切る   5秒(角材の状態で)
・ノミで削る       25秒
・穴開け         20秒
・磨き           5秒
   計         55秒

それをユウが改善して、このようになった
・角材の丸加工       3秒(30個取れる)
・ノコギリで2cm角に切る   5秒
・ノミで削る        8秒
・穴開け          3秒
・磨き           5秒
   計          24秒

 工数は57%削減である。これで、いままで通常作業で日に2,000個であった珠の生産数は、約4,600個を作れる会社になったことになる。
 無理(従来法で3,000個作るぐらいの残業)をすれば7,000個近い生産が可能になったのである。

 ……あれ? ちょっと待てよ、なにか計算がおかしい気がするぞ。

「サバエさん。この珠の加工がふたりで日に2,000個というのは本当か?」
「え? そりゃまあ。多少のばらつきはありますけど、毎日そのぐらいは作ってます」
「測定結果では、完成までのタクトは1個55秒なので、1時間に65個ぐらいしかできないはずだ。それを8時間やっても520個。それがふたりだから1,000個ちょっとという計算になるんだけど?」

「なんで8時間で止めないといけないのですが? 普段は15時間くらいやってますよ」
「私は食事の支度とかあるので、もう少し少ないですけどね。多忙なときはふたりして徹夜になることもあります」
「えええええっ!!??」

 って驚いたの俺だけ!?

「だって寝るのは6時間もあれば充分でしょ。それなら18時間ぐらいは働けるじゃないですか」
「18時間だと……。65×18時間=1,170個か、ふたりで2,300個。なるほど。65個×24時間=3,120個。わぁぁお、ほんとだ。こちらはそういう土地柄ってことで?!」

「そのぐらいですよね。僕も毎日そのぐらいは窯の前にいますよ?」
「あら。私は15時間くらいしかできないわ」
「私なんか14時間しか働いていない。もっと頑張らないといけないのね」

「ダメよ。あなたたちはまだ幼いんだから、食事も睡眠もたっぷり摂らないといけないわ。それ以上働いちゃダメよ。いくら太守様の命令でもね」

「はぁぁぁぁぁぁ!??!?」

 これは完全に俺の認識不足であった。ここは社会がブラックなのだ。いや、そうではない。それが普通なのだ。俺は知らないうちに、ゼンシンもヤッサンも酷使していたことになる。

「我もされていたノだ?」
「お前はべつにいいけど」
「酷いノだ!!!」

 久しぶりの異世界常識に打ちのめされたユウであった。
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