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第185話 製鉄所を買収?
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>工数は62%削減である。これで、いままで通常作業で日に2,000個であった珠の生産数は、約5,200個を作れる会社になったことになる。
「前章では上のように言っておったノだが」
「言ったよ?」
「最初、お主は2万個作れるようにすると言ってなかったノか?」
「ひゅふーひゅゅう~」
「あぁっ、それは我の誤魔化し方なノ……ではないな。お主は口笛も吹けないノか?」
ええいもう、この不器用な身体め!
ということで、設備の導入は終わった。カイゼンはこれからである。問題は、ここからはノープランであるということである。
「ノープランなノか!?」
「ざっつ、らいと」
「それは明るいノだ」
「やかましいよ」
「しばらくはこの方式で作業をやってくれ。これ以上の改善はしばらく様子を見てからにする。まずはこの機械に慣れて貰わないとな」
「はい、そうさせていただきます。でもこれで、今年は無事に年が越せそうです」
「年が越せる?」
「ええ、もう5年くらい1日も休みを取ってないのです。ひたすら仕事に追われる日々で、盆も正月もありませんでした。それが、それが今年は、久しぶりに、仕事をしなくていいお正月を……向かえ、むかうぅぅぅぅっ」
ばーさんが泣くなよ。
「ばあちゃん、泣かないで」
「これからはうんと楽ができるから。ユウにまかせなさい!」
そういうとこだけ俺に振るな。
「これで出稼ぎに行っている息子夫婦を、何年がぶりに呼び寄せることもできます。太守様のおかげです。ありがとうございます」
「いや、まだそれほどのことは」
してないのだが、あれ? なんか心にひっかかるものが? なんだろう?
「ところで、増産をして欲しいという話がまだ」
はあ゛っ!? という目で睨まれた。スクナとウエモンに。
はい、来年からでいいです。それまでに機械の取り扱いに慣れておいてくださいね。
「あら、太守様。その作務衣の袖のところ、ほつれていますわよ。ちょっと貸してくださいな。すぐ繕って差し上げます」
「まだ、作務衣なんか着ていたノだ?」
「作者も忘れていたようだけどな」
サバエばあさんは自分の裁縫箱から針を取りだし、器用にほつれ部分を縫ってくれた。こちらもなかなかの腕である。
「あ、ばあちゃん、その針。ヒロシマ針だね」
「おや、あんたは分かるのかい。そう、この辺ではヒロシマ針が主流なのよ。でも原料はここイズモの鉄だけどね」
「待った!? その話、もっと詳しくお願いしたい」
「え? どうしたんですか、太守様」
「ユウ、ヒロシマ針は有名だけど、ミノでも買えるぞ?」
「まさか針にまで手を出すおつもりですか?」
「レンチョン、いつのまにここに来た?!」
「レクサスです。この地域の物産調査の続きをしておりました。ユウコどのの言われたシジミやノリも食べてきました。ここにはその帰りに立ち寄ったのです」
「そうだったのか。なにかものになりそうなのはあったか?」
「難しいですね。シジミは確かに絶品かと思いましたが、保存の利かないシジミを遠くまで運ぶのはデメリットのほうが多いと思います。ノリは乾燥させられますが、それだけにすでにカンサイ方面に販路が広がっていました。付け入る隙は見つけられません」
「なるほど。同じように食べていても、その分析結果はユウコとまるで違うな。エースは幸せものだ」
「それより、見慣れない機械が入っているようですが?」
「ああ、あれは珠の加工用の旋盤とボール盤だ。まだ試作段階だが、もう少しこなれたら、シキ研の一大事業となるだろう」
「それほどのものですか!? 加工用の機械とおっしゃいましたか?」
「そう。あれはすごいぞ。木の加工ならいますぐでもできる。これからは鉄を加工できるものを作るつもりだ」
「鉄を加工する? それは型に鉄を流し込んで、おおよその形に成形してから、というのではなくて?」
「それじゃ、いまの包丁作りと同じだ。そうじゃない。ムクの鉄に穴が開けられるんだ。たとえば、住宅なら蝶番(ちょうつがい)や鍵など細かいものなら今すぐにでも需要があるだろう。馬車には鉄製のシャーシや、もっともっと重要な板バネだって作ることができるようになるぞ」
「穴が開けられるのであれば、蝶番なんて複雑な形状のものが簡単にできるわけですね。シャーシは分かりますが、板バネとはなんですか? それが重要とは?」
「トヨタの作っている馬車は、俺の尻を守る構造がない。だから最重要課題と心得よ」
「いや、心得よと言われましても」
「以前に言ったことがあるだろ。サスペンションだよ。振動を吸収する板バネだ。それがないから馬車の乗り心地が最悪なんだよ」
「うちの馬車は、乗り心地では最上級の品質と世間では言われているのですが?」
「あれでか?! じゃあ、それをもっと良くしてやる。そうすればニホン中の馬車市場を席巻できるぞ。シキ研にバラしてもいい馬車を1台用意しておいてくれ。それを見ながら構造や設置する場所を俺が考える」
「良く分かりませんが、所長の言うことなら確かなのでしょう。改造はおまかせします。何台か馬車を手配しておきます」
いつ戻れるのかは分からんが、なるべく早いうちに板バネを設置しよう。
馬車は近距離を移動するのに必要だ。遠距離ならオウミやミノウを使うが、運べる荷物や人数には制限がある。視察や納品には馬車のほうがいい。それはさておき。
「鉄の板に穴を開けたり削ったりする機械を作る目処はついている。ただ、穴を開けるドリルは原料の問題があってとん挫していたんだ。そしたらいま、針の話を聞いた」
「針するんかーい」
「かーい」
お前らは漫才師にでもなりたいのか。
「それで所長は、針をどうするつもりですか?」
「針なんか興味ないよ?」
「がしがしがしがし」
「なんでここでウエモンがでてくるんだよ。足癖の悪いやっちゃなもう」
「さっき、ヒロシマ針の話をしかけていただろ?」
「そうじゃないよ、俺が聞きたいのはイズモ鉄の話だ」
「ああ、それなら奥イズモでたたらをやっていますよ。案内が必要なら私がしますけど」
「知り合いがいるならぜひ頼む。レンチョン。ついに見つけたぞ。ここには極めて優秀な鉄があったんだ。これこそイズモ国の救世主になる事業だ」
「鉄ですか? でも、鉄ならミノでもオワリでも作ってますが」
「そうじゃない。ここの鉄は別格だ。鉄鉱石じゃなくて、砂鉄から鉄を作るんだ。原料が違うんだよ。酸化第二鉄じゃなくて、四酸化三鉄が原料なんだ」
それがどうした? って顔をしているが、いまは放っておこう。まずはそこに行こう。そしてそこに窯を作ろう。砂鉄が大量に入手できる場所はニホン中にそうはあるまい。
「もしかしてシキ研の事業として、鉄をここで作ろうというお話ですか?」
「その通りだ。そして必要な人材が、うまいぐあいにここに来ている」
「誰? スクナじゃないの?」
「私? 私は鉄なんか作ったことないよ。ユウコさん?」
「私はユウさんの秘書だから無理。レンチョンじゃない?」
「レクサスです。私は侯爵様の執事ですよ。それにもうじき帰らないといけません」
ユウコは宮殿に置いていったはずなのだが、知らないうちにこっちに参加している。宮殿から追い出されたのか、それとも逃げてきたのか。
「なあオウミ。中級魔法というのは中級にならないと覚えられないのか?」
「魔法の分類というのは極めて適当なものなノだ。初級魔法師でも上級魔法は無理にしても中級魔法ぐらい使えるものはいくらでもいるノだ。その辺は本人の資質によるノだ」
「ウエモンとスクナは中級魔法を使えると思うか?」
「あのふたりなら問題なく使えると思うノだ。ただまだ若いだけに、容量が少し足りないかもしれないノだ……が、ユウはなにを考えている?」
「この地に、シキ研の製鉄所を作ってそこでスクナに働いてもらおうと思っている」
「え? 私? やったことないけど?」
「お前の仕事は鉄を還元することだ。たたらの場合は鉄は錬鉄・銑鉄・軟鉄といろいろ混ざって生産される。だが、俺が必要なのは炭素のたっぷり入った銑鉄だ。そのためにはある段階で覚醒魔法をかける必要がある。その役割だ。やってくれるか?」
「えっと。私は来年の2月までしかいられないけど」
「それまででいい。ともかく製鉄所の立ち上げに力を貸して欲しい。魔法に関してはオウミに面倒を見て貰う。それで初級ベルのお前の魔法を、中級レベルに引き上げてもらうんだ。オウミ、できるだろ?」
「スクナさえその気になれば、すぐになれるノだ」
「分かりました。それ、ぜひやらせてください。でも」
「でも?」
「えっと、ユウさんも一緒にいてくれるんですよね。私ひとりじゃいくらなんでも寂しい」
「それはもちろんだ。6才児をひとり残してはいけない。俺もオウミも、それに交代でゼンシンやヤッサンにも来て貰う。彼らにとっても貴重な体験になるはずだ」
「がしがしがしがしがしがし」
「いつもよりがしが多いぞ。分かったよ。お前もここでスクナと一緒に働けるように、じじいには話しておくよ」
「ゼンシンだってたたら製鉄なんて見たことないだろう?」
「はい、ありません。ぜひ見たいです。ただ」
「ただ?」
「今日は納品ですからいいですが、僕たちは基本、タケウチの社員なので簡単に来られるかどうか」
「じじいには、出張旅費ははずむと言っておくから大丈夫だ」
「分かりました、お願いします!!」
よし、なんとか話はついた。
「私にはよく分かりませんが、ここには優秀な鉄があるのですね?」
「その通り。鉄作りには持ってこいの場所だ。この旋盤やボール盤は現状ではただのそろばんを作る機械だが、これはあらゆる場所で使えるものになる。だがタケウチの窯はキャパがもう一杯だ」
「確かに、これは家内工業というものが存在しなくなるほどの影響力を秘めていますね」
「ええ!? そんなことが?」
「サバエさんとこは心配する必要はないぞ。ニホンで最初に工作機械を導入した最先端企業になるんだから」
「「はぁぁぁ!!?」」
生産性の上げられない会社は淘汰される。それが自由競争だ。競争がないと進歩も革新も起こらない。モチベーションも上がらない。それは人も企業も同じだ。堕落するだけだ。
それが嫌なら、この機械を買えばいいだけさうっはうはうは。
そして何故か珍しく思考に沈むレンチョン。なにを考えている?
「いいでしょう。製鉄所もひとつ、買収しましょう」
「はぁぁぁ!?!??」
今度はこっちが驚く番だった。こいつに驚かされたのは初めてだと思う。俺は窯だけあればいいと言ったつもりだったのだが。製鉄屋ごと買っちゃうのか? トヨタってそんな大胆な経営するのか?
素人の俺が考えても、その買収費用は、そろばんのアッセンブリ屋などとは桁違いの金額になることは間違いないのだ。
設備だけじゃない。在庫、燃料、それに人件費だってどのくらいの費用になるのか、俺には見当もつかない。
それは1執事が独断できるほどのことなのだろうか。
「それは、公式に発表してもよろしいですか? まもなくトヨタ家の決算報告会があるので、そこで発表ネタにしたいのですが」
「あ、ああ、かまわない。そろばんも発表ネタになっているんだろ?」
「つい先ほどまでは入ってましたが、もう外します」
「外すのか。その代わりに、製鉄所を入れるということか」
「ええ、そのほうが圧倒的にインパクトがありますからね。正直、そろばんくらいではちょっと弱かったのです。ポテチとイテコマシで誤魔化して、ニホン刀がシキ研の商品だというフリをしようかと思っていたのですが、製鉄所ならこれはもう堂々と発表できますよ」
「そ、そうか。それはよかったな、あははは」
「それで、どのくらいの規模の製鉄所を買収しましょうか」
「タケウチよりは多くしたいな。ゼンシンは1バッチで最大5Kgって言ってたな?」
「はい。あの窯では3日がかりでそれが限度です」
「ということは、最大でも月に50Kgか。年に600Kgは難しということだな」
「実際にはその半分くらいになるでしょう。窯のメンテが必要ですし、試験でいろいろ使いますので、100%量産稼働というわけにはいきません」
「そうだった。試験は必要だな。じゃあ年に300Kgぐらいということになるか。それなら年に1トン作れるぐらいのところがあったらいいな」
「そこまで大きいと、トヨタ家の上の承認が必要になりますので、ちょっと時間がかかります。それまでお待ちください」
「分かった。それはまかせる。まずは、視察に行こう」
「ユウ、ユウ、ユウ。ちょっと聞きたいのだゾヨ」
「お前、いたんか?!」
「最初からずっとおるゾヨ。その製鉄所とやらを買収したら、ワシのニホン刀を」
「作らない。じゃあ、すぐでかけよう」
「ワシの話を別の話のついでにするでないゾヨ!! その製鉄所に心当たりがあると言ったらどうするゾヨ?」
「一番近いとこから順に回って……え? どんな心当たりだ?」
「やっと聞く気になったか。タナベ製鉄というところを知っておるか」
「そこなら有名ですから、私も知っています。しかしそこは、トヨタ家といえどもとても手が出る企業ではありませんよ」
「その子会社にキスキという会社があるゾヨ。その社長がワシの古い友人なのだ」
「キスキって聞いたことないがどんなやつだ? お前の知りあいなら人間じゃないよな?」
「ヤマタノオロチの化身だゾヨ」
「そんな物騒なやつを紹介すんな!!!」
「前章では上のように言っておったノだが」
「言ったよ?」
「最初、お主は2万個作れるようにすると言ってなかったノか?」
「ひゅふーひゅゅう~」
「あぁっ、それは我の誤魔化し方なノ……ではないな。お主は口笛も吹けないノか?」
ええいもう、この不器用な身体め!
ということで、設備の導入は終わった。カイゼンはこれからである。問題は、ここからはノープランであるということである。
「ノープランなノか!?」
「ざっつ、らいと」
「それは明るいノだ」
「やかましいよ」
「しばらくはこの方式で作業をやってくれ。これ以上の改善はしばらく様子を見てからにする。まずはこの機械に慣れて貰わないとな」
「はい、そうさせていただきます。でもこれで、今年は無事に年が越せそうです」
「年が越せる?」
「ええ、もう5年くらい1日も休みを取ってないのです。ひたすら仕事に追われる日々で、盆も正月もありませんでした。それが、それが今年は、久しぶりに、仕事をしなくていいお正月を……向かえ、むかうぅぅぅぅっ」
ばーさんが泣くなよ。
「ばあちゃん、泣かないで」
「これからはうんと楽ができるから。ユウにまかせなさい!」
そういうとこだけ俺に振るな。
「これで出稼ぎに行っている息子夫婦を、何年がぶりに呼び寄せることもできます。太守様のおかげです。ありがとうございます」
「いや、まだそれほどのことは」
してないのだが、あれ? なんか心にひっかかるものが? なんだろう?
「ところで、増産をして欲しいという話がまだ」
はあ゛っ!? という目で睨まれた。スクナとウエモンに。
はい、来年からでいいです。それまでに機械の取り扱いに慣れておいてくださいね。
「あら、太守様。その作務衣の袖のところ、ほつれていますわよ。ちょっと貸してくださいな。すぐ繕って差し上げます」
「まだ、作務衣なんか着ていたノだ?」
「作者も忘れていたようだけどな」
サバエばあさんは自分の裁縫箱から針を取りだし、器用にほつれ部分を縫ってくれた。こちらもなかなかの腕である。
「あ、ばあちゃん、その針。ヒロシマ針だね」
「おや、あんたは分かるのかい。そう、この辺ではヒロシマ針が主流なのよ。でも原料はここイズモの鉄だけどね」
「待った!? その話、もっと詳しくお願いしたい」
「え? どうしたんですか、太守様」
「ユウ、ヒロシマ針は有名だけど、ミノでも買えるぞ?」
「まさか針にまで手を出すおつもりですか?」
「レンチョン、いつのまにここに来た?!」
「レクサスです。この地域の物産調査の続きをしておりました。ユウコどのの言われたシジミやノリも食べてきました。ここにはその帰りに立ち寄ったのです」
「そうだったのか。なにかものになりそうなのはあったか?」
「難しいですね。シジミは確かに絶品かと思いましたが、保存の利かないシジミを遠くまで運ぶのはデメリットのほうが多いと思います。ノリは乾燥させられますが、それだけにすでにカンサイ方面に販路が広がっていました。付け入る隙は見つけられません」
「なるほど。同じように食べていても、その分析結果はユウコとまるで違うな。エースは幸せものだ」
「それより、見慣れない機械が入っているようですが?」
「ああ、あれは珠の加工用の旋盤とボール盤だ。まだ試作段階だが、もう少しこなれたら、シキ研の一大事業となるだろう」
「それほどのものですか!? 加工用の機械とおっしゃいましたか?」
「そう。あれはすごいぞ。木の加工ならいますぐでもできる。これからは鉄を加工できるものを作るつもりだ」
「鉄を加工する? それは型に鉄を流し込んで、おおよその形に成形してから、というのではなくて?」
「それじゃ、いまの包丁作りと同じだ。そうじゃない。ムクの鉄に穴が開けられるんだ。たとえば、住宅なら蝶番(ちょうつがい)や鍵など細かいものなら今すぐにでも需要があるだろう。馬車には鉄製のシャーシや、もっともっと重要な板バネだって作ることができるようになるぞ」
「穴が開けられるのであれば、蝶番なんて複雑な形状のものが簡単にできるわけですね。シャーシは分かりますが、板バネとはなんですか? それが重要とは?」
「トヨタの作っている馬車は、俺の尻を守る構造がない。だから最重要課題と心得よ」
「いや、心得よと言われましても」
「以前に言ったことがあるだろ。サスペンションだよ。振動を吸収する板バネだ。それがないから馬車の乗り心地が最悪なんだよ」
「うちの馬車は、乗り心地では最上級の品質と世間では言われているのですが?」
「あれでか?! じゃあ、それをもっと良くしてやる。そうすればニホン中の馬車市場を席巻できるぞ。シキ研にバラしてもいい馬車を1台用意しておいてくれ。それを見ながら構造や設置する場所を俺が考える」
「良く分かりませんが、所長の言うことなら確かなのでしょう。改造はおまかせします。何台か馬車を手配しておきます」
いつ戻れるのかは分からんが、なるべく早いうちに板バネを設置しよう。
馬車は近距離を移動するのに必要だ。遠距離ならオウミやミノウを使うが、運べる荷物や人数には制限がある。視察や納品には馬車のほうがいい。それはさておき。
「鉄の板に穴を開けたり削ったりする機械を作る目処はついている。ただ、穴を開けるドリルは原料の問題があってとん挫していたんだ。そしたらいま、針の話を聞いた」
「針するんかーい」
「かーい」
お前らは漫才師にでもなりたいのか。
「それで所長は、針をどうするつもりですか?」
「針なんか興味ないよ?」
「がしがしがしがし」
「なんでここでウエモンがでてくるんだよ。足癖の悪いやっちゃなもう」
「さっき、ヒロシマ針の話をしかけていただろ?」
「そうじゃないよ、俺が聞きたいのはイズモ鉄の話だ」
「ああ、それなら奥イズモでたたらをやっていますよ。案内が必要なら私がしますけど」
「知り合いがいるならぜひ頼む。レンチョン。ついに見つけたぞ。ここには極めて優秀な鉄があったんだ。これこそイズモ国の救世主になる事業だ」
「鉄ですか? でも、鉄ならミノでもオワリでも作ってますが」
「そうじゃない。ここの鉄は別格だ。鉄鉱石じゃなくて、砂鉄から鉄を作るんだ。原料が違うんだよ。酸化第二鉄じゃなくて、四酸化三鉄が原料なんだ」
それがどうした? って顔をしているが、いまは放っておこう。まずはそこに行こう。そしてそこに窯を作ろう。砂鉄が大量に入手できる場所はニホン中にそうはあるまい。
「もしかしてシキ研の事業として、鉄をここで作ろうというお話ですか?」
「その通りだ。そして必要な人材が、うまいぐあいにここに来ている」
「誰? スクナじゃないの?」
「私? 私は鉄なんか作ったことないよ。ユウコさん?」
「私はユウさんの秘書だから無理。レンチョンじゃない?」
「レクサスです。私は侯爵様の執事ですよ。それにもうじき帰らないといけません」
ユウコは宮殿に置いていったはずなのだが、知らないうちにこっちに参加している。宮殿から追い出されたのか、それとも逃げてきたのか。
「なあオウミ。中級魔法というのは中級にならないと覚えられないのか?」
「魔法の分類というのは極めて適当なものなノだ。初級魔法師でも上級魔法は無理にしても中級魔法ぐらい使えるものはいくらでもいるノだ。その辺は本人の資質によるノだ」
「ウエモンとスクナは中級魔法を使えると思うか?」
「あのふたりなら問題なく使えると思うノだ。ただまだ若いだけに、容量が少し足りないかもしれないノだ……が、ユウはなにを考えている?」
「この地に、シキ研の製鉄所を作ってそこでスクナに働いてもらおうと思っている」
「え? 私? やったことないけど?」
「お前の仕事は鉄を還元することだ。たたらの場合は鉄は錬鉄・銑鉄・軟鉄といろいろ混ざって生産される。だが、俺が必要なのは炭素のたっぷり入った銑鉄だ。そのためにはある段階で覚醒魔法をかける必要がある。その役割だ。やってくれるか?」
「えっと。私は来年の2月までしかいられないけど」
「それまででいい。ともかく製鉄所の立ち上げに力を貸して欲しい。魔法に関してはオウミに面倒を見て貰う。それで初級ベルのお前の魔法を、中級レベルに引き上げてもらうんだ。オウミ、できるだろ?」
「スクナさえその気になれば、すぐになれるノだ」
「分かりました。それ、ぜひやらせてください。でも」
「でも?」
「えっと、ユウさんも一緒にいてくれるんですよね。私ひとりじゃいくらなんでも寂しい」
「それはもちろんだ。6才児をひとり残してはいけない。俺もオウミも、それに交代でゼンシンやヤッサンにも来て貰う。彼らにとっても貴重な体験になるはずだ」
「がしがしがしがしがしがし」
「いつもよりがしが多いぞ。分かったよ。お前もここでスクナと一緒に働けるように、じじいには話しておくよ」
「ゼンシンだってたたら製鉄なんて見たことないだろう?」
「はい、ありません。ぜひ見たいです。ただ」
「ただ?」
「今日は納品ですからいいですが、僕たちは基本、タケウチの社員なので簡単に来られるかどうか」
「じじいには、出張旅費ははずむと言っておくから大丈夫だ」
「分かりました、お願いします!!」
よし、なんとか話はついた。
「私にはよく分かりませんが、ここには優秀な鉄があるのですね?」
「その通り。鉄作りには持ってこいの場所だ。この旋盤やボール盤は現状ではただのそろばんを作る機械だが、これはあらゆる場所で使えるものになる。だがタケウチの窯はキャパがもう一杯だ」
「確かに、これは家内工業というものが存在しなくなるほどの影響力を秘めていますね」
「ええ!? そんなことが?」
「サバエさんとこは心配する必要はないぞ。ニホンで最初に工作機械を導入した最先端企業になるんだから」
「「はぁぁぁ!!?」」
生産性の上げられない会社は淘汰される。それが自由競争だ。競争がないと進歩も革新も起こらない。モチベーションも上がらない。それは人も企業も同じだ。堕落するだけだ。
それが嫌なら、この機械を買えばいいだけさうっはうはうは。
そして何故か珍しく思考に沈むレンチョン。なにを考えている?
「いいでしょう。製鉄所もひとつ、買収しましょう」
「はぁぁぁ!?!??」
今度はこっちが驚く番だった。こいつに驚かされたのは初めてだと思う。俺は窯だけあればいいと言ったつもりだったのだが。製鉄屋ごと買っちゃうのか? トヨタってそんな大胆な経営するのか?
素人の俺が考えても、その買収費用は、そろばんのアッセンブリ屋などとは桁違いの金額になることは間違いないのだ。
設備だけじゃない。在庫、燃料、それに人件費だってどのくらいの費用になるのか、俺には見当もつかない。
それは1執事が独断できるほどのことなのだろうか。
「それは、公式に発表してもよろしいですか? まもなくトヨタ家の決算報告会があるので、そこで発表ネタにしたいのですが」
「あ、ああ、かまわない。そろばんも発表ネタになっているんだろ?」
「つい先ほどまでは入ってましたが、もう外します」
「外すのか。その代わりに、製鉄所を入れるということか」
「ええ、そのほうが圧倒的にインパクトがありますからね。正直、そろばんくらいではちょっと弱かったのです。ポテチとイテコマシで誤魔化して、ニホン刀がシキ研の商品だというフリをしようかと思っていたのですが、製鉄所ならこれはもう堂々と発表できますよ」
「そ、そうか。それはよかったな、あははは」
「それで、どのくらいの規模の製鉄所を買収しましょうか」
「タケウチよりは多くしたいな。ゼンシンは1バッチで最大5Kgって言ってたな?」
「はい。あの窯では3日がかりでそれが限度です」
「ということは、最大でも月に50Kgか。年に600Kgは難しということだな」
「実際にはその半分くらいになるでしょう。窯のメンテが必要ですし、試験でいろいろ使いますので、100%量産稼働というわけにはいきません」
「そうだった。試験は必要だな。じゃあ年に300Kgぐらいということになるか。それなら年に1トン作れるぐらいのところがあったらいいな」
「そこまで大きいと、トヨタ家の上の承認が必要になりますので、ちょっと時間がかかります。それまでお待ちください」
「分かった。それはまかせる。まずは、視察に行こう」
「ユウ、ユウ、ユウ。ちょっと聞きたいのだゾヨ」
「お前、いたんか?!」
「最初からずっとおるゾヨ。その製鉄所とやらを買収したら、ワシのニホン刀を」
「作らない。じゃあ、すぐでかけよう」
「ワシの話を別の話のついでにするでないゾヨ!! その製鉄所に心当たりがあると言ったらどうするゾヨ?」
「一番近いとこから順に回って……え? どんな心当たりだ?」
「やっと聞く気になったか。タナベ製鉄というところを知っておるか」
「そこなら有名ですから、私も知っています。しかしそこは、トヨタ家といえどもとても手が出る企業ではありませんよ」
「その子会社にキスキという会社があるゾヨ。その社長がワシの古い友人なのだ」
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そんな寄り道優先の自由気ままなトウマの旅は、今日も新たな出会いと波乱を連れてくる。
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