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第189話 器用なんてもんじゃない
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「えいほえいほ、よいしょよいしょ。けっこうしんどいね、これ」
「よいしょ、ほいさ。ほいほいよいしょっと。うん、だけど楽しいねああははは」
本来ならひとりの人間が乗ってその両足で踏むたたらを、ふたりで乗って交代に踏んでいる。ウエモンとスクナの体重が軽いために取った処置である。
「よし、そろそろ良いぞ。ゼンシン、中央に砂鉄を入れてくれ」
「はい、ざざざぁぁぁ」
「今度は木炭を追加だ。全体に満遍なく」
「はい、ばささささ」
たたら(送風機)は窯の両側にある。片方をチームビ・スクエモンが踏み、もう片方をヨシジ(ゼンシンと仲良くなった作業者)が踏んでいる。
ヨシジは踏みながらゼンシンに砂鉄や木炭を投入する指示を出している。炎の色や火力を目で見て、投入する種類やタイミングを決めるのである。本釜ならキスキがやっている仕事である。
「温度が下がってきた。木炭を窯の回りに入れてくれ」
「はい、ばさささささ」
全行程が約3時間とヨシジは言った。それは2時間50分ほどが過ぎて、ヨシジの感覚ではもうそろそろ終わりだろうと思いかけた頃であった。
(ウエモン、この体勢で魔法は発動できるか?)
(え? どうしたの、イズナ。できると思うよ?)
(スクナはどうだ?)
(もちろん、できるよ)
(やるならいまゾヨ。お主らにはもう中級ぐらいの能力が備わっている。だがまだ強度が足りない。だからふたりで一緒に覚醒魔法を放て。きっと良いことがある)
「「ほいっとな!!」」
決断だけは早いウエモンである。そしてスクナもそれに従った。イズナがそう伝えるやいなや、ふたりは同時に覚醒魔法を放った。
そのとき、ゼンシンにとっては見慣れた光景が発生した。しかし、ヨシジには青天の霹靂とも言うべき衝撃であった。
じゅわ~んと湿った音がして、バチッバツッという猛烈な音を伴った真っ白の火花が飛び散ったのである。
「え? ま、まさか。まさか、この窯で、こんなことが!? いまなにが起こったんだ!?」
「沸き花、と僕たちのところでは呼んでいますが」
「ゼンシンは知っているのか?! まさしく、その通り沸き花だ。だ、だけど、あれはもっと遥かに高い温度でないと出ないものなのに。こんな窯で? こんな温度で? どうして?」
「えっへん。それは私が魔法をかけたからよ」
「えっへん。私もかけたのよ」
たたらを踏みながら自慢気なふたり。あっけにとられるヨシジ。あっちゃーそれを言っちゃったのか、という表情のゼンシン。三者三様の異世界模様。
「魔法だと? 鉄作りにどうして魔法をかける必要がある? どんな魔法をかけたら沸き花なんかが出るんだ。それとも、これは似ているだけで別の現象なのか」
「僕の経験では、これで銑鉄ができているはずです」
「銑鉄だと! ゼンシン、ミノ国ではこれが普通なのか? こんな方法で銑鉄を作っているのか? こんな温度でこんな窯で銑鉄ができるのか?」
「同じこと2回言ってますけど。いえ、ミノ国全部ではないと思います。これもユウさんの発明なのです」
「またあの子……いや、あの人か。ほんとにそれができるのなら、これは大発見だ。鉄の歴史が変わるぞ」
「ええっ?」
「いや、それよりもまずはできた鉄の確認だ。回収しよう。スクエモンたち、もうたたらは止めていいぞ」
「「はーい」」
覚醒魔法は、その物体が持つ本来の姿を呼び戻す魔法である。そのために、過剰に酸化された物質に使うと還元機能を持つ。それを溶けた鉄にかけると、リンやイオウなどの酸化物が還元され、気体となって放散してゆく。そのことを発見したのがユウであった。
その結果、鉄の不純物は激減するのである。ただし、その効果は原子量の小さい(気化しやすい)物質だけが対象であり、チタンやニッケルなどの金属には及ばない。
「大将、ちょっとこれを見てくれませんか」
「ん? おお、なんと大きい塊だ。これは全部銑鉄のようジャの。こんなものがまだ残っていたのか?」
キスキは、さきほど1週間かかりで作った鉄の回収忘れだと思った。それは5Kgほどの塊であった。
「いえ、ついさきほど小型たたらで作ったものです」
「さきほど? あの小型たたらでこれができるはずがあるまい。どこかに落ちていたのであろう?」
「いえ、違います。ほんとに、できたんです。できちゃったんです」
「そうだよ、キスキ。これ、私たちが作ったんだから」
「ウエモンか。これをお主らが作ったとな? いったいどうやって?」
そしてゼンシンとヨシジから詳しい話を聞くと、すぐ現場に向かった。
「ふむ。窯に異常はないようジャ。それに細かい破片も見当たらない。魔法をかけるとこんなことができるのか?」
「そうみたいです。あのユウ……太守様の発明だとかで」
「太守様の!! そうなのか! そういうことができるから太守様なのか? 関係あるのかそれが?」
「魔法かけたのは私だけどね」
「私もだけどね」
「そうだ、この子たちが魔法をかけたとき、あの沸き花が出たんですよ。それもものすごい勢いで」
「ほぉぉ。沸き花までもか!! いったいどんな魔法をかけたのジャ?」
「それは私の得意とするぎょわわわわぁぁぁぁぁぁ」
「ウエモン、それ以上は言ってはいけないゾヨ。これはとうきょときょきょかきょきょで守られたユウの権利だゾヨ」
「そうか、それはすまなんだ。イズナは知っておったのか」
「ワシもミノウに聞いて初めて知った。あの地では、これを使ったニホン刀や包丁をじゃかすか作っているゾヨ」
「そうなノだ。ユウはミノ国で革命を起こしているノだ。これを食べてみるノだ」
「なんだこれは? 焦げた板みたいジャの。ぽりぽり、おおっ!! なんと芳ばしくて甘くてしょっぱくてもっとくれジャ」
「慌てるでないノだ。それがポテチなノだ。それからこれもどうぞ」
「ふむ。これは柔らかいのか固いのか。ぽに、おっ。これも塩辛さの中に甘い香りと不思議な食感。これもいくらでも食べられるなぽにぽに」
「それが爆裂コーンなノだ。それにこれも食べてみるノだ」
「次々とでてくるのジャな。なんだこれは。薄いせんべいを重ねたような、さくっ、おおおっ。これもうまい!! なんという芳醇な味わい。適度の歯ごたえがまた嬉しい。さくさくさく。これはおかずが欲しくなるのジャ」
「それがユウご飯なノだ。全部、ユウの発明なノだ」
「鉄、だけではなかったのかさくさくさく」
「それだけのことを、こちらに来てからたったの3ヶ月で発明したのですか!?」
「それだけじゃないゾヨ。やたら切れ味のすごいダマク・ラカス包丁に鉄を斬るニホン刀、1秒でカバノキに穴を開けるドリル、それにみんなが楽しむイテコマシ」
(オウミヨシやミノオウハルの話はしても良いだろうか?)
(良くないノだ。ユウに怒られるのは間違いないノだ)
「良く分からん単語も出てきたが、ユウどのがすごいのは分かった。太守様に選ばれたのもそういうのと無縁ではないのジャろう。しかし、いまの問題はこの鉄だ。中を割って詳しく調べてみたいの」
「あ、それなら僕にもやらせてください」
「よし、ゼンシンもヨシジも来い。加工場のほうへ行ってそこで割ろう」
加工場とは、できた鉄を依頼者の注文に応じて加工する場所である。ここでは軟鉄もたくさん作っているので、針金や釘、延べ板なども商品ラインナップである。
加熱するための窯もある。ゼンシンにはなじみの風景である。
「その塊をこの岩の上に乗せて、ゼンシン、打ってみるか」
「はい」
ゼンシンが渡されたハンマーで力を込めてたたき割ると、それは3つに別れた。
「待て、その一番大きいのはちょっと見た目が違うぞ」
「ああ、これは接着鉄ですね」
断面を他の破片で叩いて音を確認したゼンシンが言った。
「なんだ接着鉄って?」
「ニホン刀を作るとき、これを錬鉄と軟鉄の間に入れるんですよ。そうするとびっくりするほど良くくっつくんです」
「「はぁぁ?!」」
「これがなかなかとれなくて苦労するんですけど、すごいです。全体の量の半分が接着鉄なんて」
「良く分からん。他のふたつはどうジャ」
「どちらも普通の銑鉄に見えますね」
「ふむ。そうじゃな。これなら上質の銑鉄ジャ。あの小型たたらで、しかもたった3時間で銑鉄ができるとは驚きじゃ」
「ねぇ、ゼンシン。その接着鉄ってさ、固いの?」
「うん、ウエモン。ものすごく固いよ。だけど熱をかけるとすぐ溶けて回りの鉄に馴染むんだ。それで接着鉄と呼んでいる」
「ということは、固いけど加工はわりと簡単、ということですね」
「スクナ、その通りだよ。これがたくさんとれたらもっと使いたいことがたくさんあるんだけど、現状ではニホン刀用に使うのが精一杯なんだ」
「「それでドリルを作ろうよ!」」
「は?」
「ここでなら、それたくさん作れるでしょ? ドリルに持ってこいじゃない?」
そういえばそうか。確かにドリルにこれは向いている。この塊は1Kgあるかないかだが、こんな簡単にできるのならここで量産できるかも知れない。
「キスキさん、ヨシジさん。ぶしつけなことをお願いしてもいいですか?」
「なんジャ?」
「これで鉄の棒を作りたいのです。この鉄を僕にいただけませんか。それとその窯とカナヅチも貸してください?」
「費用ならユウが出すから大丈夫だよ」
「ぼったくってやっても良いよ?」
「これは試験用ジャからな。費用は気にせんで良い。なにをするのか分からんがやってみるが良い」
「「「ありがとうございます!!!」」」
ゼンシンは加熱窯で接着鉄を加熱しながら、カナヅチで棒状に加工をする。
かんこんかんこら、ぺしぺし、かんこんこん。くるくるこんこんかん。
「どうすると、ただのカナヅチで丸い鉄棒が打てるんですかね?」
「器用、というのを通り越しておると思うのジャが」
ゼンシンにとってはさほど特別なことではない。打てる鉄とカナヅチがあれば、どんな形にだって加工する自信があるのだ。ただの丸い鉄棒など朝飯前である。
「よし、こんなもんだろ。本当ならここで磨きを入れるんだが、テストということでこれでやってみろ」
「「おかのした!!」」
「それじゃあ、私がここで固定しながら回転させるからね」
「鉄棒の位置を動かさないようにしてね。私はまっすぐこれでひっかくだけだから簡単よ。スクナのほうがずっと難しいね」
「うん。これも修行だと思ってやってみるね」
スクナは、できた鉄棒の片方に布を巻き、そこをVブロックの溝部分に置いた。そして鉄棒を固定するために上からV溝の上に三角ブロックを乗せて自分の体重をかける。
これで鉄棒の片方はそれなりに固定されたことになる。
「これで準備は完了よ。スクナ、回転させて」
「うん、オウミ様に習った流動魔法で、えええいっやぁ!!」
最初はカクカクした動きだった鉄棒は、スクナの魔法がかかるにつれてスムーズな動きに変わっていった。そして回転が安定した頃合いを見て、ウエモンが魔バイトをその上に走らせる。
すぅぅぅぅというスカしっ屁のような音とともに、回転している鉄はウエモンの魔鉄によってらせん状に削られた。
(もっと上品な表現はないノか)
「ふぅ。なんとかうまくいったな」
「はぁはぁ、疲れた。まだ細かい動作は苦手だよ。でも、できたよね?」
「うんうん、できている。たいしたものだよ。僕が手で回したときに比べれば、遥かにキレイな螺旋形状になっている。これならすごく良く斬れるドリルになる。すごいよ、ふたりとも」
「よし、じゃあ、スクナ、いつものあれな」
「うん、アレね。分かった。せぇのっ」
「「ドリルすんのかーい」」
「よいしょ、ほいさ。ほいほいよいしょっと。うん、だけど楽しいねああははは」
本来ならひとりの人間が乗ってその両足で踏むたたらを、ふたりで乗って交代に踏んでいる。ウエモンとスクナの体重が軽いために取った処置である。
「よし、そろそろ良いぞ。ゼンシン、中央に砂鉄を入れてくれ」
「はい、ざざざぁぁぁ」
「今度は木炭を追加だ。全体に満遍なく」
「はい、ばささささ」
たたら(送風機)は窯の両側にある。片方をチームビ・スクエモンが踏み、もう片方をヨシジ(ゼンシンと仲良くなった作業者)が踏んでいる。
ヨシジは踏みながらゼンシンに砂鉄や木炭を投入する指示を出している。炎の色や火力を目で見て、投入する種類やタイミングを決めるのである。本釜ならキスキがやっている仕事である。
「温度が下がってきた。木炭を窯の回りに入れてくれ」
「はい、ばさささささ」
全行程が約3時間とヨシジは言った。それは2時間50分ほどが過ぎて、ヨシジの感覚ではもうそろそろ終わりだろうと思いかけた頃であった。
(ウエモン、この体勢で魔法は発動できるか?)
(え? どうしたの、イズナ。できると思うよ?)
(スクナはどうだ?)
(もちろん、できるよ)
(やるならいまゾヨ。お主らにはもう中級ぐらいの能力が備わっている。だがまだ強度が足りない。だからふたりで一緒に覚醒魔法を放て。きっと良いことがある)
「「ほいっとな!!」」
決断だけは早いウエモンである。そしてスクナもそれに従った。イズナがそう伝えるやいなや、ふたりは同時に覚醒魔法を放った。
そのとき、ゼンシンにとっては見慣れた光景が発生した。しかし、ヨシジには青天の霹靂とも言うべき衝撃であった。
じゅわ~んと湿った音がして、バチッバツッという猛烈な音を伴った真っ白の火花が飛び散ったのである。
「え? ま、まさか。まさか、この窯で、こんなことが!? いまなにが起こったんだ!?」
「沸き花、と僕たちのところでは呼んでいますが」
「ゼンシンは知っているのか?! まさしく、その通り沸き花だ。だ、だけど、あれはもっと遥かに高い温度でないと出ないものなのに。こんな窯で? こんな温度で? どうして?」
「えっへん。それは私が魔法をかけたからよ」
「えっへん。私もかけたのよ」
たたらを踏みながら自慢気なふたり。あっけにとられるヨシジ。あっちゃーそれを言っちゃったのか、という表情のゼンシン。三者三様の異世界模様。
「魔法だと? 鉄作りにどうして魔法をかける必要がある? どんな魔法をかけたら沸き花なんかが出るんだ。それとも、これは似ているだけで別の現象なのか」
「僕の経験では、これで銑鉄ができているはずです」
「銑鉄だと! ゼンシン、ミノ国ではこれが普通なのか? こんな方法で銑鉄を作っているのか? こんな温度でこんな窯で銑鉄ができるのか?」
「同じこと2回言ってますけど。いえ、ミノ国全部ではないと思います。これもユウさんの発明なのです」
「またあの子……いや、あの人か。ほんとにそれができるのなら、これは大発見だ。鉄の歴史が変わるぞ」
「ええっ?」
「いや、それよりもまずはできた鉄の確認だ。回収しよう。スクエモンたち、もうたたらは止めていいぞ」
「「はーい」」
覚醒魔法は、その物体が持つ本来の姿を呼び戻す魔法である。そのために、過剰に酸化された物質に使うと還元機能を持つ。それを溶けた鉄にかけると、リンやイオウなどの酸化物が還元され、気体となって放散してゆく。そのことを発見したのがユウであった。
その結果、鉄の不純物は激減するのである。ただし、その効果は原子量の小さい(気化しやすい)物質だけが対象であり、チタンやニッケルなどの金属には及ばない。
「大将、ちょっとこれを見てくれませんか」
「ん? おお、なんと大きい塊だ。これは全部銑鉄のようジャの。こんなものがまだ残っていたのか?」
キスキは、さきほど1週間かかりで作った鉄の回収忘れだと思った。それは5Kgほどの塊であった。
「いえ、ついさきほど小型たたらで作ったものです」
「さきほど? あの小型たたらでこれができるはずがあるまい。どこかに落ちていたのであろう?」
「いえ、違います。ほんとに、できたんです。できちゃったんです」
「そうだよ、キスキ。これ、私たちが作ったんだから」
「ウエモンか。これをお主らが作ったとな? いったいどうやって?」
そしてゼンシンとヨシジから詳しい話を聞くと、すぐ現場に向かった。
「ふむ。窯に異常はないようジャ。それに細かい破片も見当たらない。魔法をかけるとこんなことができるのか?」
「そうみたいです。あのユウ……太守様の発明だとかで」
「太守様の!! そうなのか! そういうことができるから太守様なのか? 関係あるのかそれが?」
「魔法かけたのは私だけどね」
「私もだけどね」
「そうだ、この子たちが魔法をかけたとき、あの沸き花が出たんですよ。それもものすごい勢いで」
「ほぉぉ。沸き花までもか!! いったいどんな魔法をかけたのジャ?」
「それは私の得意とするぎょわわわわぁぁぁぁぁぁ」
「ウエモン、それ以上は言ってはいけないゾヨ。これはとうきょときょきょかきょきょで守られたユウの権利だゾヨ」
「そうか、それはすまなんだ。イズナは知っておったのか」
「ワシもミノウに聞いて初めて知った。あの地では、これを使ったニホン刀や包丁をじゃかすか作っているゾヨ」
「そうなノだ。ユウはミノ国で革命を起こしているノだ。これを食べてみるノだ」
「なんだこれは? 焦げた板みたいジャの。ぽりぽり、おおっ!! なんと芳ばしくて甘くてしょっぱくてもっとくれジャ」
「慌てるでないノだ。それがポテチなノだ。それからこれもどうぞ」
「ふむ。これは柔らかいのか固いのか。ぽに、おっ。これも塩辛さの中に甘い香りと不思議な食感。これもいくらでも食べられるなぽにぽに」
「それが爆裂コーンなノだ。それにこれも食べてみるノだ」
「次々とでてくるのジャな。なんだこれは。薄いせんべいを重ねたような、さくっ、おおおっ。これもうまい!! なんという芳醇な味わい。適度の歯ごたえがまた嬉しい。さくさくさく。これはおかずが欲しくなるのジャ」
「それがユウご飯なノだ。全部、ユウの発明なノだ」
「鉄、だけではなかったのかさくさくさく」
「それだけのことを、こちらに来てからたったの3ヶ月で発明したのですか!?」
「それだけじゃないゾヨ。やたら切れ味のすごいダマク・ラカス包丁に鉄を斬るニホン刀、1秒でカバノキに穴を開けるドリル、それにみんなが楽しむイテコマシ」
(オウミヨシやミノオウハルの話はしても良いだろうか?)
(良くないノだ。ユウに怒られるのは間違いないノだ)
「良く分からん単語も出てきたが、ユウどのがすごいのは分かった。太守様に選ばれたのもそういうのと無縁ではないのジャろう。しかし、いまの問題はこの鉄だ。中を割って詳しく調べてみたいの」
「あ、それなら僕にもやらせてください」
「よし、ゼンシンもヨシジも来い。加工場のほうへ行ってそこで割ろう」
加工場とは、できた鉄を依頼者の注文に応じて加工する場所である。ここでは軟鉄もたくさん作っているので、針金や釘、延べ板なども商品ラインナップである。
加熱するための窯もある。ゼンシンにはなじみの風景である。
「その塊をこの岩の上に乗せて、ゼンシン、打ってみるか」
「はい」
ゼンシンが渡されたハンマーで力を込めてたたき割ると、それは3つに別れた。
「待て、その一番大きいのはちょっと見た目が違うぞ」
「ああ、これは接着鉄ですね」
断面を他の破片で叩いて音を確認したゼンシンが言った。
「なんだ接着鉄って?」
「ニホン刀を作るとき、これを錬鉄と軟鉄の間に入れるんですよ。そうするとびっくりするほど良くくっつくんです」
「「はぁぁ?!」」
「これがなかなかとれなくて苦労するんですけど、すごいです。全体の量の半分が接着鉄なんて」
「良く分からん。他のふたつはどうジャ」
「どちらも普通の銑鉄に見えますね」
「ふむ。そうじゃな。これなら上質の銑鉄ジャ。あの小型たたらで、しかもたった3時間で銑鉄ができるとは驚きじゃ」
「ねぇ、ゼンシン。その接着鉄ってさ、固いの?」
「うん、ウエモン。ものすごく固いよ。だけど熱をかけるとすぐ溶けて回りの鉄に馴染むんだ。それで接着鉄と呼んでいる」
「ということは、固いけど加工はわりと簡単、ということですね」
「スクナ、その通りだよ。これがたくさんとれたらもっと使いたいことがたくさんあるんだけど、現状ではニホン刀用に使うのが精一杯なんだ」
「「それでドリルを作ろうよ!」」
「は?」
「ここでなら、それたくさん作れるでしょ? ドリルに持ってこいじゃない?」
そういえばそうか。確かにドリルにこれは向いている。この塊は1Kgあるかないかだが、こんな簡単にできるのならここで量産できるかも知れない。
「キスキさん、ヨシジさん。ぶしつけなことをお願いしてもいいですか?」
「なんジャ?」
「これで鉄の棒を作りたいのです。この鉄を僕にいただけませんか。それとその窯とカナヅチも貸してください?」
「費用ならユウが出すから大丈夫だよ」
「ぼったくってやっても良いよ?」
「これは試験用ジャからな。費用は気にせんで良い。なにをするのか分からんがやってみるが良い」
「「「ありがとうございます!!!」」」
ゼンシンは加熱窯で接着鉄を加熱しながら、カナヅチで棒状に加工をする。
かんこんかんこら、ぺしぺし、かんこんこん。くるくるこんこんかん。
「どうすると、ただのカナヅチで丸い鉄棒が打てるんですかね?」
「器用、というのを通り越しておると思うのジャが」
ゼンシンにとってはさほど特別なことではない。打てる鉄とカナヅチがあれば、どんな形にだって加工する自信があるのだ。ただの丸い鉄棒など朝飯前である。
「よし、こんなもんだろ。本当ならここで磨きを入れるんだが、テストということでこれでやってみろ」
「「おかのした!!」」
「それじゃあ、私がここで固定しながら回転させるからね」
「鉄棒の位置を動かさないようにしてね。私はまっすぐこれでひっかくだけだから簡単よ。スクナのほうがずっと難しいね」
「うん。これも修行だと思ってやってみるね」
スクナは、できた鉄棒の片方に布を巻き、そこをVブロックの溝部分に置いた。そして鉄棒を固定するために上からV溝の上に三角ブロックを乗せて自分の体重をかける。
これで鉄棒の片方はそれなりに固定されたことになる。
「これで準備は完了よ。スクナ、回転させて」
「うん、オウミ様に習った流動魔法で、えええいっやぁ!!」
最初はカクカクした動きだった鉄棒は、スクナの魔法がかかるにつれてスムーズな動きに変わっていった。そして回転が安定した頃合いを見て、ウエモンが魔バイトをその上に走らせる。
すぅぅぅぅというスカしっ屁のような音とともに、回転している鉄はウエモンの魔鉄によってらせん状に削られた。
(もっと上品な表現はないノか)
「ふぅ。なんとかうまくいったな」
「はぁはぁ、疲れた。まだ細かい動作は苦手だよ。でも、できたよね?」
「うんうん、できている。たいしたものだよ。僕が手で回したときに比べれば、遥かにキレイな螺旋形状になっている。これならすごく良く斬れるドリルになる。すごいよ、ふたりとも」
「よし、じゃあ、スクナ、いつものあれな」
「うん、アレね。分かった。せぇのっ」
「「ドリルすんのかーい」」
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