異世界でカイゼン

soue kitakaze

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第208話 ハルミの暴走と溶岩流

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 わぁぁぁぁっと走り出したまでは良かったが(いや、良くはないが)、土地勘もなく地図も持たないハルミは、素っ裸で雪の積もった道なき道を走っているうちにますます興奮してきていた。

 そのために、途中でなにかにぶつかりそうになると、そのたびにミノオウハルを振るった(避けろよ)。

 自分の行く先を遮るものは、木でも岩でも見境なく切り刻んで押し通ったのである。まさしく、グジョウの洞窟内でやったアレと同じである。

 固い岩盤を切り開き、飛び散る岩までも砕き、邪魔な木は避けるよりも切り倒し、土は耕し草は吹き飛ばす。

 ハルミの前に道はない。ハルミの後ろに道はできる。ああ、自然よ。ハルミの前にブロックとなれ。ってどこの高村光太郎だよ、気の毒な自然さんたち。

 道なきところに道を作るハルミは、ある意味ブルドーザーである。ドリルジャンボ(穿孔機)である。サンダーバードのジェット・モグラである。

 ハルミの走った跡にはぐねぐねとした道ができていた。なにかの種を植えたら良く育ちそうである。

 暴走すると、まっすぐ走ることにできない女である。頭の中がフラクタル構造なのであろう。

 グジョウではその暴走が偶然にも好結果(下界との道ができた)を産んだのであるが、いつもいつも結果オーライなんていくわけがない。

 わけがないのだが、この女には妙な運がある。関ヶ原のときも、グジョウダンジョンのときも。

 そして今回も、である。

 そのときハルミは、何者かによる恐ろしい咆吼を聞いた。

 それは走り続けるハルミの足さえも止めてしまうほどの音量であった。そしてすぐにそれは、振動までもが加わって地面を揺さぶった。

 地震である。魂まで揺さぶるような大音響と共に、まっすぐ立っていることさえ難しいほどの揺れがその一帯を襲った。

 どぉぉぉぉぉぉん。という心胆寒からしめるほどの音に、怯えない生き物はいない。

 森の中から、木の上から、雪の中からさえも様々な生き物が飛び出してきた。暗闇を恐れるはずの鳥でさえも、あわてて飛び立っていった。

 ハルミが見上げると、山の向こう側が赤く染まって見えた。

「な、なんだあれは?」

 あまりのことに足を止めたハルミは、しばし呆然とその光景を見ていた。そしてようやく気がついた。

「山が、山が燃えている? 噴火したのか? あの方向であれだけの高い山ということは、オンタケか? そうだ! ユウは? ユウはどうした? あいつはなにをしている!?」

 いや、お前がなにをしているのだ。

「ああ、そうか。私は、私は」

 今日1日の出来事が、走馬灯のように脳裏を駆け巡る。ハルミはようやく正気に返った。そうか、分かった。すぐに助けに行くぞ。

 ……正気には返ったのだ。しかし、正しく思い出したとは言えない。

 都合の悪いことはすべて記憶から消してしまい、自分が刀以外なにも身に着けていないことさえも、忘却することにしたようである。

 その想いはひとつであった。ユウを助けなければ!!

 いや、自分が放り出してきたくせに?

 そう思うやいなや、いま来た道を戻るべくハルミは再びダッシュをした。
 その間にも地鳴りは続いており、間断なく小さな振動も起こっている。

 走りながら振り返ったハルミは、そのとき初めて身震いをした。自分の走る後ろから、ときおり黄色い稲光を放ちながら真っ黒な雲が迫って来ていたのだ。いまでいうところの火砕流である。

「おっ、おいっ。そんなバカな。オンタケからここまでは相当の距離があるはずなのに、あんな近くに溶岩か? い、急がなければユウが危ない!!」

 いや、一番危ないのお前だから。それとあれ、溶岩じゃなくて火砕流な。

 そんな作者のツッコみなどお構いなしにハルミは走った。素っ裸で雪の中を走った。火砕流のおかげか背中はちょっと温かい。

 とか言っている場合ではない。火砕流の中の温度は1,000度を超える。下には溶岩も混じっているだろう。ちょっとでも触れたらそれは死を意味する。ハルミはいろんな意味で必死で走った。

 そしてようやくあの洞窟が見えた。入り口ではかの仙人が手招きをしていた。

「せ、せ、仙人様ぁぁぁ。溶岩が火山で噴火がこちらにすぐそこにもうユウはどこに熱いですけど寒いです」

 ぽかっ!

「痛い! なにをするんですか」
「お主はもうちょっと落ち着いて行動をするという修行が必要だ。勝手に飛び出して行って、戻ってきたと思ったら話がトンチンカンだぞ」

「は、はい、すみません! だけど、いまはそんなことを言っている場合では」
「まあ、いいからこの中に入れ。あれはオンタケの噴火だ。いまさら慌てたところで、あんなもの人の力ではなんともならん」

「はい、それはそうですけど、でも」
「ユウという少年の治療は終わっている。まもなく目を覚ますであろう。ついていてやってくれ」

「は、はい。はぁはぁはぁ。そう、します」

 さすがのハルミも、すでに体力切れ寸前であった。それは無理もない。ソリでコケたあと、ユウを担いでここまで歩いてきて、その間に魔物を10匹も退治して経験値を稼ぎ、その後クドウと一戦交え? さらに外に飛び出して目一杯走り、そして目一杯走って戻ってきたのである。

 なんという体力の無駄遣い!!

「仙人様。私は溶岩がこちらに流れてくるのを見ました。もうすぐそこまで迫っているようでした」
「それはお前が怯えているからそう見えたんだよ。オンタケからここまではかなり距離がある、そんなすぐには流れて来ない」

 だから火砕流だといっておるだろ定期。火砕流は時速100kmの速度で移動するのだ。飛び出すな、遠くに見えても火砕流は近い。by作者。

「そ、そう。そうでしたか」
「だが、ここは谷になっている。溶岩の量によってはこちらに流れてくる可能性は高いだろうな」

「それなのに仙人様は、その落ち着きよう。素晴らしいです。私も見習わねばなりません」
「お前はその前に、なにか着た方が良いと思うのだが。それとも、それはやはり趣味なのか?」

 ひぃぃぃぃぃぃ。と指摘されて改めて、自分が素っ裸だということを思い出したハルミであった。

 じつはすでに目が覚めていたユウは、その肢体をたっぷりと鑑賞していた、ということは黙っていてあげましょう。

 あたふたと自分が脱ぎ捨てた衣服を着ようとしたとき、2回目の大噴火が起こった。

 どぉぉぉぉがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!

「ま、また噴火、ですか」
「ああ、今度のはさっきよりでかかったな。ここは危険だ。奥に移動しよう。ハルミは、まず服を……それよりその男を担いでこっちに来い」
「はい。おい、ユウ。まだ痛むかもしれないが、持ち上げるぞ」

 あ、いや、俺はもう起きている……とは言えなくなったユウであった。

 ハルミにだっこされたために、その見事な膨らみが目の前にあったのである。それどころか、強く抱かれたために、自分の顔がその巨乳に押しつけられていたからである。

 も、もう少し、気を失っているフリをしていようかな?

 その決心を非難できる男性はひとりもいないであろう(個人の感想です)。他力本願のぱふぱふ状態である。迫り来る溶岩流の危機の中で、ひとりユウだけが至福の時間であった。もへぇ。

 ハルミはユウを抱きかかえ、クドウ仙人の後をついて行った。細く削られた道を歩き、階段を10段ほど上がったところ、それが仙人の住居であった。

「こ、ここが仙人様のお住まいなのですか?」
「ああ、40平米の2LDKだ。なかなかのものであろう?」
「あ、ああ、はい。それはもう、なんというか、よ、良いお住まいですね」

 家具も道具らしいものもほとんどなかった。ベッドらしきふわふわの物体がひとつあるだけで、あとは、ほぼすべて本であった。

「これはベッド? なのですか?」
「ああ、そうだ。そこに浮いているのは雲だ」
「え? 蜘蛛ですか?」

「馬鹿たれ。そんなベタベタしたとこで寝られるか。雲だ、クラウドだ。週に1回くらい、空から収穫しておるのだ」
「雲を、収穫ですか? 空に浮かんでいるものをそんなナツメの実みたいに」

「修行すればできるようになるぞ。お前もやりたいか?」
「私はむしろ切りたいというか」
「雲を切ってどうする!! あ、そういえば、お前は不思議な技能で俺の服をずたずたにしてくれたな。おかげで歩きにくくてしょうがないぞ」

「そ、そそそその節は、大変なご迷惑を」
「まあ、あのときは俺も悪かったからまあいいだろう。ユウが弁償してくれるそうだしな」

「それにしても、食事とかはどうしてるんですか?」
「日に1食。カスミを食べている」
「カスミ? それは鳥の名前でしょうか。聞いたことはないですが」

「カスミとは霞のことだ。霧だと思えば良い。どこかの駆逐艦のことではない。俺がここに住んでいるのは良質なカスミがたくさん取れるからだよ。特に朝の早摘みカスミは素晴らしいぞ」
「霧のことですか。そんなものが、食べられるのですか」

「修行次第ではな。ところでお前のその不思議な剣だが、それは魔剣なのか?」
「はい、そうです。これは私が切りたいと思ったものを、離れた場所からでも切ってくれるミノオウハルというニホン刀です」

「ニホン刀というものか。それが魔剣なのか。見せてもらっても良いか?」
「あ、いや、それは……はい、どうぞ」

 ハルミはこれを手にして以来、ただの1度も他人に渡したことはない。寝るときも入浴のときでさえも手放さないぐらいなのだ。

 しかしクドウ仙人には、最初に失礼なことをしてしまった上に、いまはユウの命を助けてもらった恩人である。
 しかも仙人様なのだから悪いようにはすまい。断ることはできなかった。ミノオウハルをそっと手渡した。

「ほぉぉぉぁぁぁぁぁ。これはこれは、素晴らしい出来だ。すごいものだな。まるで十束の剣の再来ではないか!。ハルミ、これはお前が作ったのか?」

「いえ、作ったのはここで寝ているユウ……、おい、ユウ。なんで私の胸に吸い付いているのだ? お前、いつから起きていた!?」

 あれ? バレた? 目の前に乳首があったら吸うよな? 山があったら登るみたいに。ハルミが話に夢中になっているうちに、と思ってちゅうちゅうしていたら、すぐにバレてしまった。えへ。

「最初の地震が起きたときから」
「お、おまえっ、は最初、から、この、この……」

 怒るべきだと思いながらも、いままで自分がユウにした暴挙を思い出すと、怒るに怒れないハルミであった。

「バレちゃあしょうがない。ついでにもにもにもにもに。ハルミ、乳でかくなってね?」
「なってるわ!!!」

 といいながらユウを地面に投げ捨てた。怒るに怒れないとは、いったい?

「どわぁぁぁぁぁぁ。痛い痛い痛い。お前、俺をもっと大事に扱え!! まだケガは完治したわけじゃないんだぞ!!」
「やかましい! 吸った上に揉みしだきやがって。そのぐらいで済んだことを感謝しやがれ!」

「なんと?! これをユウが作ったのか。いったいどうやって作ったのだ?」
「仙人様は、そちらに夢中ですか?!」

 仙人にとって、ユウとハルミのいちゃこらは興味の対象ではなかった。しかし、ミノオウハルにはぞっこんとなったようである。

 そのとき3回目の噴火が起きた。そしていままでで最高の揺れを記録した(と思われる)。

 どぉぉぉぉがぉぉぉぉぉぉぉばぁぁぁぁぁぁぁごごごごごごっ。

 洞窟が悲鳴を上げたようだった。固い岩盤が歪み、細かい破片が飛び散った。地鳴りが続いた。揺れも収まる気配さえなかった。ぐわんぐわんぐわん。

「わぁ、わぁぁぁ。仙人様。こここ、ここは、大丈夫なんですよね?」
「ああ、おそらくは」
「そうか、それは良かった」

「1時間は持つだろう」
「はぁぁぁぁぁ!!??」
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