異世界でカイゼン

soue kitakaze

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第247話 チーム・スクエモン再び

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「カイゼンってなにをするもの?」
「いまより良くすることだよ?」

「「「ふーん」」」

 全然信じてやがれへん。というか、まるで理解できていないようだ。ってかスクナまでそっち側かよ!!

 どいつもこいつも、いまやっているやり方が最良だと思ってやがる。なんの根拠もないくせに。この辺は前の世界となにも変わりはないな。まあ、そういうものだろう。

 口でいくら説明したところで、俺に見えてる未来は誰にも見えないのだ。

 だから、やってみせるしかないのだ。やってみせれば、それが架空のものではなく現実だということが分かってもらえる。そうすると、反対意見など出なくなるのだ。

 だがその前に。

「それがどうしたのか?」

 この空気をなんとかしないとな。やらせてもらえないのでは、どうしようもない。

「それにはこちらも準備が必要だ。ちょっとミノ国に戻って必要なものを作ってくる。半日ほど待っててくれ。ハタ坊、イズモ国のサバエさん家経由でタケウチ工房まで俺を転送してくれ。あとの者はここで待機だ」
「ええっ。私も一緒に行くよ!!」

「物作りに入ると、スクナの出番はないんだ。ここで待っててくれ」
「だって、執事はいつも主人と一緒にいないとダメでしょ。ユウさんがなにをするのか私は見ていたい」

「うっ。そ、そうか。分かった、じゃあ一緒に来い。ハルミとアシナは?」
「朝からうちの者たちと剣術の稽古をしているぞ」
「それもある意味交流だな。あいつららしい。そっちは放っておこう。じゃ、ハタ坊、転送頼む」
「最初はサバエさん家だな、ほいきた。ひょいっ」


「ウエモン、ちょっとドリルを3本ほど貰うぞ」
「まいどありー。伝票は、シキ研に回しとくぞ」
「お、おう。そうしてくれ。それと、砂糖が手に入った。明日にでもシキ研に転送するから、ちょこれいとの開発の続きをやってくれ」

「がしがしがしがし」
「う、嬉しいんだよな、それ?」
「うん、がしがし……あ、でもそうなるとおっかさんとはもう……」

「おっかさん? サバエさんか。そうだな。今のうちにお別れを言っておけ。じゃ、俺は急ぐぅえぇぇぇっ」
「ちょっと待て」
「くび、首を掴むな!! どうしたんだよぜぇぜぇ」
「そんな簡単に言うな」

「そ、そうか。じゃあ、お別れを。言って。おけ。じゃあぐわぁぁぁ」
「待てというに!」
「だから首を絞めるな!! 俺を殺す気か」
「分割して言っても同じだろが。誰か代わりをここに連れてこい。でないとおっかさん可哀想」

「連れてこい、ってもな。もうシキ研にはこちらに割ける人材はいない。それに所長は俺だ」
「車掌は僕だ?」
「運転手は君だやかましいわ! 誰が電車ごっこしてんだよ! ここはオオクニに見させるから、後のことは心配すんな」

「大丈夫よウエモン。サバエさん家はイズモ太守であるユウさんの拠点でもあるから、いずれここにはソロバンの製造工程が全部集まるのよ。そうなれば人も増えるし仕事も増える。サバエさんも寂しがっている場合じゃなくなるよ」

「そ、そうか。スクナがそう言うなら、いい」

 俺よりもスクナの言葉には従うというのはどういうこっちゃ定期。俺はウエモンに近づきそっと頭をなでてやる。

「お前も良く頑張った。イズナがいるとはいえ、スクナがいなくなるとここにお前ひとりだ。どのみち、いつかはタケウチに帰らないといけないんだ」
「うん、がしがし」

 まあ、帰るのはそんなに急がなくてもいいけどなと言って、あと32回足を踏まれて俺はイズモを後にした。
 ちょっと足がシビれた。


 そしてタケウチ工房である。

「ちょっと、ヤッサン。お仕事を頼みたいのだが」
「ああ。ユウか。久しぶりだな。だが、いまは無理だ。このダマク・ラカス包丁の研ぎが急ぎ仕事なんだ。大口の注文で生産が間に合わなくてな。納期に間に合わせないと大変なことになるんだ」
「そうか。忙しいのは良いことだ。分かった、邪魔したな」

「おーい、ゼンシン、ちょっとお願いしたいことが」
「あ、ちょ、ちょっと待ってください。いま、小窯で試験をしながら銑鉄の生産をやっていて、ややこしいんです。すみません」

「おーい。アチラ。ちょっと頼み……」
「アチラ。そちらの準備はできたか。もう始めないと間に合わないぞ」
「はい。コウセイさん、もう少し待ってください。まだちょっと酸味が足りなくて」
「おぉい。ミヨシ。カボスの切り身はまだか?!」
「はぁい、いま持ってくーー」

 うん、入る隙間がないね。てか、久しぶりに帰ってきたのになぁ。

 なんか寂しい。

 あ、そうか。俺の本来の場所はシキ研だった! あっちには新しい窯も加工工具もあるって話だったな。ちょっと行って……行って……。

 知っているやつが全然いない……。そんなとこ行きたくない。こっちのがマシだ。

 誰かいないかなー。ちょっと食堂へ行ってみよう。ナツメがあったら食べよう。

「さくさくさく。うまいノだ」
「オウミ、お前かよ!!」
「おや、ユウ。お帰りヨ、さくさくさく」
「ミノウ、お前もか!!」

 魔王がふたり。仲良くナツメを切って食べているのんきな絵。おや?

「そのおそろいのエプロンはどうしたんだ?」
「これはミヨシの手作りなノだ。なかなか調子が良いのだ」
「そうなのだヨ。おかげでナツメの汁で服が汚れなくなったヨ」

「服? 水着のことか……ってあっお前ら、なんだそのメイド服は?!」

「ハタ坊の衣装に合わせて作ってもらったノだ。似合うであろう?」
「わははは。これを着ていると、なんかモテるのだヨうはうは」

 魔王がモテるって喜ぶなよ。あ、でも、魔王の条件って人に人気があること、だったっけ。ということは、理にかなっているのか。ものすごくどうでもいいけど。

「そうか、似合っているじゃないか。ところで俺もナツメくれよ」
「ほい、ノだ。まだまだたくさんあるノだ」

「あぁ、懐かしい味。ミノウ様のナツメはおいしいですね」
「しゃくしゃく。うん、うまいな。ナツメはミノ産が一番だな。ハタ坊は初めてだろ。食べてみろよ」

「あ、うん。じゃあ、いただきます。さくっ。あ、ほんとだ。おいしい! 甘みがたっぷりでほどよい酸味もあって、しゃくしゃくした歯ごたえも良いね。これ、アイヅでも作れないかなぁ」
「作れるヨ?」

「え? ほんとに?」
「森さえあれば、ここの木を持っていって植えるといいヨ。数ヶ月で実がなるヨ」
「え? そんなに早く?! アイヅって冬は寒いけど、夏は暑いよ。気候的に大丈夫なのかしら?」
「大丈夫だヨ。耐候性の強い魔木だから。ただ乾燥には弱いから気をつけるのだヨ。あとは挿し木で増やせるヨ」

 魔木だったのか、これ?! あ、そりゃそうだ。ミノウの、なんだっけ? 核兵器……じゃなくて、あ、核融合だ。そんな魔法で作られた木だったな。

「ええ、ほんとにいいの!! それなら帰るときに、何本か分けてもらうね。いくら払えば良い?」
「10本ぐらいならタダで良いヨ。別に金はかかってないからヨ」

「わぁぁ、ありがとう!! ミノウさん、大好き!」
「そ、そう、そうか。それは、よか、よかよあったほにょヨ」

 ミノウが照れとる。珍しい絵だなしゃくしゃく。たまにこうしてゆっくりナツメを囓るのもいいなぁ……ってそれどころじゃない!!

「おい、眷属たち! お前らの中で、金属加工とか得意なやつはいないか?」
「「「いるわけないでしょノだヨ」」」

 3人分を1回で済ませやがった?!

 でも、それはそうだ。そもそも魔王だの神だのが、人間のする活動に適合するわけもないか。

「がしがし」
「やはり、ここはゼンシンの作業が終わるのを待って」
「がしがしがし」
「疲れてるのか足が痛いな。アチラの作業のほうが先に終わるかな」
「がしがしがしがし」
「案外ミヨシのほうがいいかも、ってこのくだり懐かしいな、おい!!」

「がしが。あ? それ、私にやらせろ」
「お前はいつの間に帰ってたんだ。サバエさんにはちゃんと挨拶してきたか?」
「してきたゾヨ。泣いて見送ってくれたゾヨ」

「そ、そうか。それならいいけど。さてと、俺はヤッサンの仕事でも見てくれいだだだだだだ」
「ぐりぐりぐり」
「ちょっ、おまっ! それ、ドリルじゃねぇか!! そんなものを俺の足に刺すな!」

「キレイに穴が開くかなって」
「開けるんじゃねぇよ! 靴が履けなくなるだろ! 分かったよ、お前にやってもらうよ。でも、できるんか?」
「なにをすればいいのか、言ってくれればできる」

 自信満々か。そういえば、ウエモンは腕はいいとスクナが言ってたっけ? ダメ元でやらせてみるか。

「ウエモン、私も手伝うよ」
「そうか。またチーム・スクエモンの活躍になるな。それじゃ、こっちに来てくれ。おーい、ゼンシン。旋盤とボール盤を使わせて貰っていいか?」
「はーい、どうぞー。その端っこにあるやつは試験用なので自由に使ってもらっていいです。僕はまだしばらく手を離せないので、ご自由にどーぞー」

「ということだ。ウエモンはボール盤も旋盤も慣れているよな」
「うん」
「作って欲しいのは、こういうやつだ」

 俺は手書き図面を見せる。三角に尖らせた砥石に、鉄棒が刺さっているものである。

「なにこれ?」
「これを使ってガラスの細密加工をするんだ。できるか?」
「ふぅん。じゃあ、最初に砥石を小さくしたものを作らないといけないね?」
「その通り。勘が良いな。まず1cm×3cmぐらいの円柱型砥石を作ってくれ。その先端にこのドリルで穴を開けて、そこに鉄棒を突き刺して固定する。そしたら先端をこんなふうに尖せてもらいたい」

「ふんふん。このバイトなら簡単にできそうだ」

 あっ!? そうだ。砥石を削るのに俺は砥石を使うことを考えていた。そうすると両方削れることになるが、それはまあ仕方ない。結果的に尖った砥石ができればいいのだから。

 しかし、ウエモンにはどんな固いもので削ってしまう例のバイトがあったのだ。となると、これは最初からウエモンの仕事だったじゃないか。

 ぽかっ、俺のうっかりさん。てへっ。

「???」
「あ、いや、なんでもない。自分を叱ってた。それをとりあえず10本ほど作ってくれ」
「分かった。慣れるまで寸法はちょっと自信ないが」
「ああ、砥石の寸法はそれほど精密である必要はない。どうせ削れて行くものだ。だいたいでいい」
「分かった。しかし」

「なんか質問か?」
「これでどうやってガラスを削れるのか、分からない」
「私も分からない」

 ウエモンに依頼したのは、ハンドグラインダー用の砥石である。ハンドグラインダーとは歯医者が歯を削るとき、ウイーンと音を立てるアレである。誰もが嫌な思いをしたことのあるアレである。

 フィギュアやガレキ作りが趣味の人なら誰でも知っているであろうアレである。リューターという商品名のほうが有名かも知れない。

 その先端に先の尖った砥石を取り付け、それでガラスを削ってもらおうという作戦なのである。それによって、いまよりは遥かに微細な加工ができるはずだ。
 俺の知っているサツマ切子ができるはずである。

 あの工房での作品は、残念ながら単なる土産物レベルであった。だから高値では売れないのだ。そのために経営が成り立たなかったのだ。

 しかし、個々の研磨技術は素晴らしかった。あんな真っ平らな砥石を使って、どうしてこんな模様が削れるのかと、俺には不思議でならなかった。

 透明なガラスに、赤や青などの鮮やかな色を付着させ(これが企業秘密らしい)、色の層厚の何分の1かだけ削って透かしを作る。それが切子の技術だ。
 削り過ぎれば透明になってしまい、削り足りなければただの色つきガラスのままである。

 その削り代をコントロールする技術はとても素晴らしいものであった。しかしそれだけの高等技術を使っても、できあがったものはただの民芸品なのである。

 その最大の原因は、あの砥石にあると俺は思ったのである。それでリューターを使うことを考えたのである。

 さて、砥石のほうはチーム・スクエモンにまかせるとして、次は本体のほうである。

 さて、どうしたものか。

「またノープランなノか?!」
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