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第284話 シロトリとスクナ
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「ああ、ようやく金縛りが解けたと思ったら、畳とちゃぶ台のある部屋。ふすまの代わりに鉄格子か。これが世に言うところの説教部屋ってやつね」
「違うと思うモん?」
ここはハクサン家の座敷牢である。
「とりあえず野蛮なことにはならないようだし、まったりして過ごしましょうよ。ネコウサ、何故かお茶が用意されていることだし飲もう。ずずっ」
「ずずっモん」
「お茶はいいけど、お茶菓子はないのかしら。気が利かないわね。爆裂コーンなら持ってるけど、これは餌付けに必要だから食べないほうがよさそう。そうだネコウサ、ちょっとユウさんがどこにいるか探して来て。そこにハタ坊がいるはずだから、ついでに呼んで来て」
「分かったモん」
「スクナ、呼んだか?」
「うん。ハタ坊。ユウご飯、持ってるよね」
「ユウの心配より、そっちが先かよ!」
「ユウさんになにかあったのなら、ハタ坊がそんなのんびりしてないでしょ。爆裂コーンでもいいけどない? お茶菓子が欲しいのよずずっ」
「やれやれ、するどい子だな。どっちもあるよ。ユウご飯は1枚。爆裂コーンは1袋でいいだろ」
「あ、ネコウサの分もお願い」
「こんなやつにやらなくていいだろ!」
「イッコウイッコウイッコウ!?」
「……分かったよ。そんな可哀想な可愛い顔をするなよ。ほれ、お前にもやる。だけど、スクナいいのか?」
「ん? なにが? ずずっ」
「こいつに有機物を食わせると」
「さっき食べちゃったからいまさら一緒でしょう」
「それもそうか。じゃあ、お前にも1袋やるよ」
「ありがとうモん! ぱりぱりずずっ」
「それでユウさんはまだ寝てる?」
「ああ、当分起きる気配はないな」
「そうか。しばらくは安静にしておきましょう」
「さっきの話では、イリヒメは関わってないようだったが実際はどうなんだろう」
「そうとは限らない、と私は思う。シロトリさんはイリヒメが悪い人じゃないと言っただけだし、そもそもあの人たちのことだからウソを言ったかもしれないし」
「そうか。いいや、ややこしい話はお前らにまかせた。なにかあったらまたこいつを使いに出してくれ。あたしたちはここから3つ隣の部屋にいる」
「うん、分かった。この座敷牢ってそんなにたくさんあるの?」
「いや、牢になっているのはここだけだ。ユウは普通に布団を敷いてもらって寝てる」
「はぁ?! なにその田舎に遊びに来た孫を迎えるじーさん家?!」
「どうにも悪いことをしている感じじゃないんだよなぁ」
「そうね。ユウさんを警戒しているのなら、地下牢とかにでも入れそうなものなのに」
「ユウをそんなところに入れたら、1時間で死ぬけどな。じゃ、あたしは戻る」
それもそうだ。あの人、体力だけは人一倍ないからなぁ。でもそれならどうして私だけここに入れられたのだろう?
「ぱくぱくぱく。うまいうまい。人間はいつもこんなうまいもの食べてるモん?」
「それ、ユウさんの発明品よ」
「イッコウ!?」
「あっ。ネコウサ、隠れて」
「イッコウ」
人がやって来た。シロトリさんだ。
「どうですか、居心地は」
「ええ、悪くないですわよ。おいしいお茶をありがとう」
「お茶菓子まで出した覚えはないのですが」
「ロックとお菓子は淑女の嗜みです。いつも持ち歩いているのですよ」
「そんな嗜み聞いたことがありませんが。それより、少しお話がしたいのですが」
「私に?」
「ええ、イズモ公はまだお休みになっておられるもので」
「あんたたちがやったんでしょうが」
「すみません。まさか、イズモ公があそこまで真実に近づいているなんて思いもしなかったもので、咄嗟に応援を呼んでしまいました」
え? 真実に近かったの?!
「やっぱり、イリヒメが?!」
「あ、いえ。イリヒメの件は本当です。イリヒメ様は今回の件には関わってはおりません。私たちが利用しただけなのです」
「それを話してくれるのね?」
「はいそうです。少し長くなりますが、よろしいでしょうか」
「読者が退屈しない程度にお願い。最近アクセスが落ちているもので」
「いや、それを私に言われても?!」
「ミノ国とヒダ国の決算は、両方とも我がハクサン家が担当している、というお話はご存じですよね」
「ええ、ユウさんから聞いたわ。それが?」
「そもそも魔王になられたミノウ様が、そういうのが苦手だったもので、ハクサン家が代行していたのですが」
「だそうですね。それが今回の不正行為と関係あるのですか?」
「……さすがスクナさん、はっきり言いますね。あのイズモ公に重用されるわけです」
「いやぁ、それほどでも」
「謙遜はなしですか。それなら私もぶっちゃけます。ミノ国に比べるとヒダ国はとても貧乏な領地なのです」
「まあ、それはなんとなく知ってたけど」
「人口はミノの1/10ほどしかありません」
「そんなに少ないのね」
そういえば飛騨って高山ぐらいしか知らないなぁ。
「GDPに至っては1/12以下です」
美濃地方のGDPは約7.2兆円。飛騨地方は約6000億円。リアルの話です。まめち。
「はぁ、そんなに差がある……え? GDPって、シロトリさん、あなたまさか?!」
「はい、私もスクナさんやイズモ公と同じ、カミカクシです。私がいたのは江戸時代というそうですけどね」
「そんなに昔の人……いや、私が、どうしてそれだと、いったい?」
「やはりそうだったのですね。その落ち着いた話しぶりに知識の豊富さ。6歳ではあり得ないと思っていました。イズモ公のカミカクシは有名ですけど」
バレちゃったか。
「でもシロトリさんは、先祖代々ここに仕えているって」
「仕えていましたよ。私と入れ替わった人は」
「そうか。シロトリさんもユウさんと同じ」
「はい、私はホシミヤという魔人に転位させられました。その話はいずれまたにしますが、ヒダはもともと裕福な領地ではないのです」
「はい、それは分かりました。でも、それがいったいどうして?」
「それはミノ国の決算までヒダ国が請け負うことになったことで、発生しました」
「発生した?」
「ええ。ヒダ国の納税額はミノ国に比べるとびっくりすぐほど少ないのです。GDPの差どころではありません。ミノ国は魔王様がおられるので減額されているにもかかわらず、です。しかもその差は、年ごとにどんどん開いていきました。そして5年前」
「5年前?」
「ミノウ様が行方不明になりまして」
「ええ?!」
「代行としてカエデという魔人がミノ国の決算をやって提出していただきました。それを貰ってこちらのと合わせて報告しようとしたのですが」
「ふむふむ」
「そのとき、重鎮のひとりが気がついたのです。ミノ国の数字を書き換えてその一部をヒダ国のものにしてしまえば、ヒダの国威が上がるではないか、ということに。どうせ魔王はいないのだし、ミノ国なんてこんなに利益が出ているのだから少しぐらい良いだろう、とね」
「国威というのが上がったとして、ヒダ国にどんな得が?」
「まあ、なにもありませんね」
どどどどどっ。
「な、ないの? ないのになんでそんなことするのよ!?」
「気分の問題というか、ハクサン家のプライドの問題というか」
「たったそれだけのために?」
「そうです。そのことに、私も今年まで気がつきませんでした。税金は、ミノ国とヒダ国の分をハクサン家が一旦預かって、合わせて納付していました。だから総額では変わりないのです。ミノ国とヒダ国との比率が変わるだけです。だから不正とは言っても、脱税したわけでも私腹を肥やしたわけでもありません」
「あーそうか。なるほど。自責の念に駆られるほどの行為ではなかったのね」
「ええ。しかしそれを5年も続けて来て、本来の決算額との差は徐々に大きくなっていました。そこに、あのミノウ紙です」
「その人は困ったでしょうね」
「それが公になったのが、決算書提出1日前の重鎮会議の日です」
「わぁぁ。それは酷い」
「ええ、もうその段階で打つ手などあるはずがありません。正直に言おうにも、いつからどのくらいの違いがあったのか、それをはっきりさせなければなりません。しかし、それを1日で調べるなんて無理ゲーです」
「ちょくちょく江戸時代にはないあっちの言葉が出てくるわね」
「気にしないでください。それでまずは詳細を調べよう。その間は、適当な言い訳をして提出を引き延ばそう。という話になりました」
「そのために、イッコウに無実の罪を着せたのね」
「そういうことです。イッコウ一揆というのは、年に1回、イッコウが里帰りする性質のことを、冗談半分で呼んでいた内輪だけの造語でした。その言葉を使って、イッコウが反乱を起こしたと装ったのです。あ、これは私のアイデアです」
「どうして自慢気?!」
「失礼しました。調べてゆくと、不正決算の最初は、先ほど言いましたように5年前でした。思ったより最近だったのです。それなら? なにも正直に報告して、まだ幼い領主様に頭を下げさせることはないな、とそう考えました。つじつまさえ合わせてしまえば良いのです」
「どうやってつじつまを合わせるの?」
「それは簡単です。今年、ヒダの収入が急激に伸びれば良いのです」
「不正をやらずにそんな急に伸びるなんて……それがイッコウの1割?」
「理解が早いですね。そうです。前にお話しましたが、イッコウは非常に高価な商品です。イッコウの総飼育数は220匹。その1割を臨時で売ってしまえば、なんとかこちらの決算はつじつまが合う。その分、来年は余計に苦労することになりますが、それはこれからの1年を使って考えようと」
「先延ばししているようにしか思えないけど」
「それは否定できません。でも領主様に頭を下げさせるぐらいなら、来年は重鎮たちの個人資産を処分してでも、ということで意見が一致しました」
「ふぅん。その忠誠心には頭が下がるわ」
「もともとナガタキ様のあずかり知らぬことですからね。その尻拭いだけをさせるわけにはいきません」
「ナガタキ様が知らなかったのは本当だったのね。それでイッコウを1割だけ売ることにしたと。でもそれだと不自然さが残るから、実は毎年1割は戻って来ないのだ、という話をでっちあげた」
「タモリさんみたいに先に言わないでください。でも、そうです。イッコウは毎年1割減っている。それは仕方のないことだ。しかし、今年は管理を厳しくしてそれを防いだ。……実は逃げられてますけどね。そういう建前です。そうすることで、イッコウの1割の分だけ、ヒダ国の収入は増えることになる……はずだったのです」
「でも、イッコウが毎年集団脱走? するのって有名なんじゃ?」
「オオクニ様にさえ分からなければ良いのですよ」
「ああ、そうか。あんな遠くの地まで伝わるほどの話じゃないか」
それに「あの」オオクニさんだからなぁ。
ふむ。筋道は通っている。ような気がする。だけど、ひとつだけ解せないことがある。
「お分かりいただけましたか?」
「そこまではね。ひとつ聞いていいかしら」
「なんでしょうか」
「イッコウってそんなに簡単に売れるものなの?」
「違うと思うモん?」
ここはハクサン家の座敷牢である。
「とりあえず野蛮なことにはならないようだし、まったりして過ごしましょうよ。ネコウサ、何故かお茶が用意されていることだし飲もう。ずずっ」
「ずずっモん」
「お茶はいいけど、お茶菓子はないのかしら。気が利かないわね。爆裂コーンなら持ってるけど、これは餌付けに必要だから食べないほうがよさそう。そうだネコウサ、ちょっとユウさんがどこにいるか探して来て。そこにハタ坊がいるはずだから、ついでに呼んで来て」
「分かったモん」
「スクナ、呼んだか?」
「うん。ハタ坊。ユウご飯、持ってるよね」
「ユウの心配より、そっちが先かよ!」
「ユウさんになにかあったのなら、ハタ坊がそんなのんびりしてないでしょ。爆裂コーンでもいいけどない? お茶菓子が欲しいのよずずっ」
「やれやれ、するどい子だな。どっちもあるよ。ユウご飯は1枚。爆裂コーンは1袋でいいだろ」
「あ、ネコウサの分もお願い」
「こんなやつにやらなくていいだろ!」
「イッコウイッコウイッコウ!?」
「……分かったよ。そんな可哀想な可愛い顔をするなよ。ほれ、お前にもやる。だけど、スクナいいのか?」
「ん? なにが? ずずっ」
「こいつに有機物を食わせると」
「さっき食べちゃったからいまさら一緒でしょう」
「それもそうか。じゃあ、お前にも1袋やるよ」
「ありがとうモん! ぱりぱりずずっ」
「それでユウさんはまだ寝てる?」
「ああ、当分起きる気配はないな」
「そうか。しばらくは安静にしておきましょう」
「さっきの話では、イリヒメは関わってないようだったが実際はどうなんだろう」
「そうとは限らない、と私は思う。シロトリさんはイリヒメが悪い人じゃないと言っただけだし、そもそもあの人たちのことだからウソを言ったかもしれないし」
「そうか。いいや、ややこしい話はお前らにまかせた。なにかあったらまたこいつを使いに出してくれ。あたしたちはここから3つ隣の部屋にいる」
「うん、分かった。この座敷牢ってそんなにたくさんあるの?」
「いや、牢になっているのはここだけだ。ユウは普通に布団を敷いてもらって寝てる」
「はぁ?! なにその田舎に遊びに来た孫を迎えるじーさん家?!」
「どうにも悪いことをしている感じじゃないんだよなぁ」
「そうね。ユウさんを警戒しているのなら、地下牢とかにでも入れそうなものなのに」
「ユウをそんなところに入れたら、1時間で死ぬけどな。じゃ、あたしは戻る」
それもそうだ。あの人、体力だけは人一倍ないからなぁ。でもそれならどうして私だけここに入れられたのだろう?
「ぱくぱくぱく。うまいうまい。人間はいつもこんなうまいもの食べてるモん?」
「それ、ユウさんの発明品よ」
「イッコウ!?」
「あっ。ネコウサ、隠れて」
「イッコウ」
人がやって来た。シロトリさんだ。
「どうですか、居心地は」
「ええ、悪くないですわよ。おいしいお茶をありがとう」
「お茶菓子まで出した覚えはないのですが」
「ロックとお菓子は淑女の嗜みです。いつも持ち歩いているのですよ」
「そんな嗜み聞いたことがありませんが。それより、少しお話がしたいのですが」
「私に?」
「ええ、イズモ公はまだお休みになっておられるもので」
「あんたたちがやったんでしょうが」
「すみません。まさか、イズモ公があそこまで真実に近づいているなんて思いもしなかったもので、咄嗟に応援を呼んでしまいました」
え? 真実に近かったの?!
「やっぱり、イリヒメが?!」
「あ、いえ。イリヒメの件は本当です。イリヒメ様は今回の件には関わってはおりません。私たちが利用しただけなのです」
「それを話してくれるのね?」
「はいそうです。少し長くなりますが、よろしいでしょうか」
「読者が退屈しない程度にお願い。最近アクセスが落ちているもので」
「いや、それを私に言われても?!」
「ミノ国とヒダ国の決算は、両方とも我がハクサン家が担当している、というお話はご存じですよね」
「ええ、ユウさんから聞いたわ。それが?」
「そもそも魔王になられたミノウ様が、そういうのが苦手だったもので、ハクサン家が代行していたのですが」
「だそうですね。それが今回の不正行為と関係あるのですか?」
「……さすがスクナさん、はっきり言いますね。あのイズモ公に重用されるわけです」
「いやぁ、それほどでも」
「謙遜はなしですか。それなら私もぶっちゃけます。ミノ国に比べるとヒダ国はとても貧乏な領地なのです」
「まあ、それはなんとなく知ってたけど」
「人口はミノの1/10ほどしかありません」
「そんなに少ないのね」
そういえば飛騨って高山ぐらいしか知らないなぁ。
「GDPに至っては1/12以下です」
美濃地方のGDPは約7.2兆円。飛騨地方は約6000億円。リアルの話です。まめち。
「はぁ、そんなに差がある……え? GDPって、シロトリさん、あなたまさか?!」
「はい、私もスクナさんやイズモ公と同じ、カミカクシです。私がいたのは江戸時代というそうですけどね」
「そんなに昔の人……いや、私が、どうしてそれだと、いったい?」
「やはりそうだったのですね。その落ち着いた話しぶりに知識の豊富さ。6歳ではあり得ないと思っていました。イズモ公のカミカクシは有名ですけど」
バレちゃったか。
「でもシロトリさんは、先祖代々ここに仕えているって」
「仕えていましたよ。私と入れ替わった人は」
「そうか。シロトリさんもユウさんと同じ」
「はい、私はホシミヤという魔人に転位させられました。その話はいずれまたにしますが、ヒダはもともと裕福な領地ではないのです」
「はい、それは分かりました。でも、それがいったいどうして?」
「それはミノ国の決算までヒダ国が請け負うことになったことで、発生しました」
「発生した?」
「ええ。ヒダ国の納税額はミノ国に比べるとびっくりすぐほど少ないのです。GDPの差どころではありません。ミノ国は魔王様がおられるので減額されているにもかかわらず、です。しかもその差は、年ごとにどんどん開いていきました。そして5年前」
「5年前?」
「ミノウ様が行方不明になりまして」
「ええ?!」
「代行としてカエデという魔人がミノ国の決算をやって提出していただきました。それを貰ってこちらのと合わせて報告しようとしたのですが」
「ふむふむ」
「そのとき、重鎮のひとりが気がついたのです。ミノ国の数字を書き換えてその一部をヒダ国のものにしてしまえば、ヒダの国威が上がるではないか、ということに。どうせ魔王はいないのだし、ミノ国なんてこんなに利益が出ているのだから少しぐらい良いだろう、とね」
「国威というのが上がったとして、ヒダ国にどんな得が?」
「まあ、なにもありませんね」
どどどどどっ。
「な、ないの? ないのになんでそんなことするのよ!?」
「気分の問題というか、ハクサン家のプライドの問題というか」
「たったそれだけのために?」
「そうです。そのことに、私も今年まで気がつきませんでした。税金は、ミノ国とヒダ国の分をハクサン家が一旦預かって、合わせて納付していました。だから総額では変わりないのです。ミノ国とヒダ国との比率が変わるだけです。だから不正とは言っても、脱税したわけでも私腹を肥やしたわけでもありません」
「あーそうか。なるほど。自責の念に駆られるほどの行為ではなかったのね」
「ええ。しかしそれを5年も続けて来て、本来の決算額との差は徐々に大きくなっていました。そこに、あのミノウ紙です」
「その人は困ったでしょうね」
「それが公になったのが、決算書提出1日前の重鎮会議の日です」
「わぁぁ。それは酷い」
「ええ、もうその段階で打つ手などあるはずがありません。正直に言おうにも、いつからどのくらいの違いがあったのか、それをはっきりさせなければなりません。しかし、それを1日で調べるなんて無理ゲーです」
「ちょくちょく江戸時代にはないあっちの言葉が出てくるわね」
「気にしないでください。それでまずは詳細を調べよう。その間は、適当な言い訳をして提出を引き延ばそう。という話になりました」
「そのために、イッコウに無実の罪を着せたのね」
「そういうことです。イッコウ一揆というのは、年に1回、イッコウが里帰りする性質のことを、冗談半分で呼んでいた内輪だけの造語でした。その言葉を使って、イッコウが反乱を起こしたと装ったのです。あ、これは私のアイデアです」
「どうして自慢気?!」
「失礼しました。調べてゆくと、不正決算の最初は、先ほど言いましたように5年前でした。思ったより最近だったのです。それなら? なにも正直に報告して、まだ幼い領主様に頭を下げさせることはないな、とそう考えました。つじつまさえ合わせてしまえば良いのです」
「どうやってつじつまを合わせるの?」
「それは簡単です。今年、ヒダの収入が急激に伸びれば良いのです」
「不正をやらずにそんな急に伸びるなんて……それがイッコウの1割?」
「理解が早いですね。そうです。前にお話しましたが、イッコウは非常に高価な商品です。イッコウの総飼育数は220匹。その1割を臨時で売ってしまえば、なんとかこちらの決算はつじつまが合う。その分、来年は余計に苦労することになりますが、それはこれからの1年を使って考えようと」
「先延ばししているようにしか思えないけど」
「それは否定できません。でも領主様に頭を下げさせるぐらいなら、来年は重鎮たちの個人資産を処分してでも、ということで意見が一致しました」
「ふぅん。その忠誠心には頭が下がるわ」
「もともとナガタキ様のあずかり知らぬことですからね。その尻拭いだけをさせるわけにはいきません」
「ナガタキ様が知らなかったのは本当だったのね。それでイッコウを1割だけ売ることにしたと。でもそれだと不自然さが残るから、実は毎年1割は戻って来ないのだ、という話をでっちあげた」
「タモリさんみたいに先に言わないでください。でも、そうです。イッコウは毎年1割減っている。それは仕方のないことだ。しかし、今年は管理を厳しくしてそれを防いだ。……実は逃げられてますけどね。そういう建前です。そうすることで、イッコウの1割の分だけ、ヒダ国の収入は増えることになる……はずだったのです」
「でも、イッコウが毎年集団脱走? するのって有名なんじゃ?」
「オオクニ様にさえ分からなければ良いのですよ」
「ああ、そうか。あんな遠くの地まで伝わるほどの話じゃないか」
それに「あの」オオクニさんだからなぁ。
ふむ。筋道は通っている。ような気がする。だけど、ひとつだけ解せないことがある。
「お分かりいただけましたか?」
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