異世界でカイゼン

soue kitakaze

文字の大きさ
315 / 336

第315話 久しぶりのタケウチ工房

しおりを挟む
 あれがこうだから、こうなってああなって、あぁ面倒くさい。かりかりこり、あっ、これは違うけしけしけし、あぁ面倒くさい。でもってこれがこうなってと。よし1個できた。

 ヒマなのである。魔王もスクナもいないと、俺はとてもヒマなのだということに気がついた。

「あたしがいるけどね」
「ハタ坊はネタが少ない」
「僕は友達が少ない、みたいに言わないで」

 オウミがいないから、サツマガラスの信頼性試験ができない。ミノウがいないから、ネコウサ水晶の成分分析ができない。不純物の有無を確認したかったのに。よって、俺が必要とする試験は止まっている。

 試験ができなきゃ、基本、俺のすることはなにもないのだ。

 ないのだが。それよりも問題なのは、ヒマであることをタケウチの連中に気がつかれてしまったことである。そしてこんなハメになった。

「あの、ユウさん。こういう試験をやったのですけど、いつもの解析を」
「いつもの、じゃねぇよ! お前らの試験は禁止って言っておいただろ」

「それはずいぶん前の話ですよね。でもって、これとこれもお願いしたいのですけど」
「いや、俺は忙しいんだ。計算なんかしているヒマは」

「さっきから、ずっとぼーっとしているだけのようですけど?」
「ユウ。食事が終わったのなら、ここ片付けるからどいてちょうだい。計算ならあっちの事務室でやってね」

 あ、はい。とミヨシに残飯を見るような目で食堂を追い出された。しぶしぶ事務所に移動する。アチラはデータを書いた紙だけを置いていった。俺にやれということかよ!

 ……他にできる人はいないけどな。それにしたって、いまさらめっきなんか試験すること……たくさんあるようだ。あぁ仕事熱心なやつって嫌いだ。

 ……誰かツッコめ!?

 ダメだ。いつもの調子が出ない。魔王がいないと、これほど不自由なものなのか。

 移動するにも自分で歩かないといけないし(ハタ坊にはまだタケウチでの転送ポイントができていない)、ボケてもツッコんでくれる相手がいない(ハタ坊にはお笑いの才能がない)。ましてや、率先してボケてくれるやつらもいない(ハタ坊には以下略)。

「なんか、すごくどうでもいいことでディスられてる気がするんだが」

 タケウチの連中もハタ坊も、基本真面目なのだ。

 ということで、俺の知らないうちにできていた事務室とやらの空き机を借りて、そこで嫌々時間つぶしという名の計算をしているのである。

 なんで所長である俺専用の机ぐらいがないのかと。そんなことは思っても口に出してはいけないのである。

 ここは俺の会社じゃないのだから。食堂で俺のために飯が出てくるのはなんとなくであり、俺がここにいて良い理由もなんとなくである。

 俺はシキ研の所長なのだ。だからそっちに行けば、なにかしらの場所が用意されているはずである。一度も行ったことがないので知らんけど。

 しかし、シキ研の知り合いはエースとレンチョン、それにベータぐらいである。

 彼らはいずれも俺の部下ではない。むしろ上役である。あとの有象無象はぜんぜん知らないやつらである。

 そんなところに、ひとりで行けるものか! コミュ障なめるな!

 ということでタケウチに引きこもって、ひたすら計算ずくめの日々を送っているのであるこんちくしお。

 シキ研の所長とはいったい……?

 イズモ太守とはいったい……?

 もう俺、ここに必要なくね?

 そんな思いがふつふつとわいてくるこの頃である。ああ、久しぶりのこの感覚。実際のところ、タケウチではもう俺がすることはほとんどない。

 計算の話ではない。カイゼンの話である。金めっきもニホン刀も包丁各種も、高い生産性を示している。作れば作るだけ儲かるという商品なのだ。

 ここでイズモの銑鉄も使うようにしたことで、材料の供給にも余裕ができた。

 当面はこのままで、人員や設備の増強によって生産拡大をしてゆけばいい。

 一方、シキ研ではまだ難問がいくつも残っている。イテコマシやソロバンなどはなんとか軌道に乗ったが、これからできてくる小麦や甜菜、それらを使ったパンやケーキを作らないといけない。

 シマズの紅ガラスやネコウサ水晶の使い道も考える必要がある。ヤサカまでの道路建設は、エース(やレンチョン)にまかせておけば良いが、イリヒメの研究には目を光らせ置かないといけない。

 あの女、金だけやって放置すると、なにをしでかすか分かったものじゃない。ハルミとは違う意味で。

 シマズから砂糖がふんだんに手に入ったから、ちょこれいとの開発も進めたい。そこはウエモンの手が空き次第ということになる。ウエモンはタケウチの社員だけどな。

 それともうひとつ。ニホンのグルメの代名詞でもある、あれもぜひ作って食べたい!!

 ……俺がいなきゃ、これらのこと全部なかったことになるなぁ。

 仕方ない。もう少し頑張るか。いまは計算しかすることないけど、かりかりかり、あぁ面倒くさい。

 ところで、識の魔法を授かったアチラであるが、傍目にはいままで通りの仕事をしているようである。めっき液をなめて金濃度や不純物の有り無しを判断している。

 なんでそんなことができるのか、やれと指示した俺でさえも疑問に思うほどの、ものすごいスキルである。クロムの還元は俺が禁止したので、当面はお休みである。

 まあ、あれは初級魔法だから、アチラでなくても誰か適任者がそのうちできるであろう。一月分の在庫もあることだし、代行者を急ぐ必要はなさそうだ。

 問題はアチラが魔法をかけると、原子番号が動いてしまうという疑惑のことだが、これもアチラのレベルが上がって、もっとn数が増えないことには判断がつかない。
 そのときは、アチラをいまの作業から外す必要があるだろう。それまで待機(現状維持)である。

 もし工程で問題があれば相談があれば乗ってやるぞと言っておいたら、この計算がやってきたのである。
 試験は止めろという指示が、それによって上書きされたのであろう。口は災いの元である。

 鉄作りに至っては、作業者が知らないやつばかりになっててワロタ。

 ゼンシンはしばらく仏像作りに注力させることになっているし、ヤッサンは忙しすぎて話しかけるいとまもない。銑鉄やステンレス作りのノウハウはすでに完成しており、これも改良の必要はなさそうである。ただし接着鉄だけはいまだにゼンシン以外にはできないらしい。

 現場はみな生産に追われている。

 急用があれば無理にでも話しかけることもできるだろうが、最近どう? なんて世間話をしてよさそうな雰囲気ではなかった。あそこはすごく暑いし人が多いし俺は入りたくない場所である。

 そんなこんなで3枚目の計算が終わったところで、なんか来た。

「ユウ。すぐに来て欲しいノだ」
「ええっ。俺はいま忙しいんだけど」
「計算をしているようにしか見えないノだ?」

「いや、計算しているから忙しいと」
「お主が計算しているときは、他にやることがないときヨ。すぐ来るヨ」

 こいつら、俺のことすっかり把握してやがる。計算するよりはマシだろうと、俺はその提案に乗ることにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝
ファンタジー
毒舌を売りにして芸能界で活躍できる様になった。 元々はアイドルとしてデビューしたが、ヒラヒラの衣装や可愛い仕草も得意じゃ無かった。 バラエティーの仕事を貰って、毒舌でキャラを作ったらこれがハマり役で世間からのウケも良くとんとん拍子で有名人になれた。 だが、自宅に帰ると玄関に見知らぬ男性が立っていて私に近づくと静かにナイフで私を刺した。 アイドル時代のファンかも知れない。 突然の事で、怖くて動けない私は何度も刺されて意識を失った。 主人公の時田香澄は殺されてしまう。 気がつくとダンジョンの最下層にポイズンキラーとい魔物に転生する。 自分の現象を知りショックを受けるが、その部屋の主であるリトラの助言により地上を目指す。 ダンジョンの中で進化を繰り返して強くなり、人間の冒険者達が襲われている所に出くわす。 魔物でありながら、擬態を使って人間としても生きる姿や魔王種への進化を試みたり、数え切れないほどの激動の魔物人生が始まる。

武装法人二階堂商会 ―― 企業買収(M&A)で異世界を支配する!

Innocentblue
ファンタジー
日本で企業買収の最前線を駆け抜けてきた敏腕社長・二階堂漣司。 裏切りにより命を落としたはずの彼が目を覚ましたのは、 剣と魔法が支配する異世界の戦場だった。 与えられたスキルは《企業買収(M&A)》。 兵士も村も土地も国家さえも、株式として評価・買収・支配できる異能の力。 「ならば、この世界そのものを買い叩く」 漣司は《武装法人二階堂商会》を設立。 冷徹な参謀にして最強の魔導士リュシア、獣人傭兵団、裏社会の戦力―― すべてを子会社として編成し、経済と武力を融合した前代未聞の経営戦争へと踏み出す。 弱小の村を救済し、都市と契約を結び、裏切り者を切り捨て、敵対勢力を力で買収する。 交渉は戦争、戦争は経営。 数字が命運を決め、契約が国境を塗り替える。 やがて商会は、都市国家・ギルド・貴族・宗教勢力すら巻き込み、 世界の価値そのものを再定義する巨大企業へと変貌していく。 これは、剣ではなく契約で世界を制圧する男の物語。 奪うのではない。支配するのでもない。 価値を見抜き、価値を操り、世界に値札を付ける―― 救済か、支配か。正義か、合理か。 その境界線を踏み越えながら、蓮司は異世界そのものを経営していく。 異世界×経済×武力が激突する、知略と覇道の武装経営ファンタジー。 「この世界には、村があり、町があり、国家がある。 ――全部まとめて、俺が買い叩く」

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~

Ss侍
ファンタジー
 "私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。  動けない、何もできない、そもそも身体がない。  自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。 ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。  それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

正しい聖女さまのつくりかた

みるくてぃー
ファンタジー
王家で育てられた(自称)平民少女が、学園で起こすハチャメチャ学園(ラブ?)コメディ。 同じ年の第二王女をはじめ、優しい兄姉(第一王女と王子)に見守られながら成長していく。 一般常識が一切通用しない少女に友人達は振り回されてばかり、「アリスちゃんメイドを目指すのになぜダンスや淑女教育が必要なの!?」 そこには人知れず王妃と王女達によるとある計画が進められていた! 果たしてアリスは無事に立派なメイドになれるのか!? たぶん無理かなぁ……。 聖女シリーズ第一弾「正しい聖女さまのつくりかた」

鬼死回生~酒呑童子の異世界転生冒険記~

今田勝手
ファンタジー
平安時代の日本で魑魅魍魎を束ねた最強の鬼「酒呑童子」。 大江山で討伐されたその鬼は、死の間際「人に生まれ変わりたい」と願った。 目が覚めた彼が見たのは、平安京とは全く異なる世界で……。 これは、鬼が人間を目指す更生の物語である、のかもしれない。 ※本作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ネオページ」でも同時連載中です。

異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。 ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。 仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。

神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由

瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。 神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

処理中です...