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第19話 建浴
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建浴(けんよく):めっき液の調整のことである。
(゚∀゚)o彡゚とうさん、とうさん。
「ユウ、倒産を煽るような言い方するんじゃないよ」
「煽ってない。ちゃかしてんだよ、ソウ」
「もっと悪いだろ!」
会社が倒産するかもしれないということに、危機感を持っているのはここではソウ一人だ。他の人間はこの状況を楽しんでいるようにしか見えない。それなら俺だってそっち側にいたほうが、なんか得のような気がして。
「別に食べるものには困らないしね」
家事手伝いという名の料理長を務めるミヨシは言う。海で魚は捕り放題、コメはここ数十年続けて豊作で、常に古米がだぶついている。おかげで格安で取り引きされている。
森の中には果物のなる樹木が多く、それを採取して市で売ればそれなりのお金になる。果物以外でも、ナツメ、シイノミ、グミ、クルミなどの換金性の高い実(もちろん食べることもできる)も豊富にある。キイチゴ、ヤマブドウ、ヤマモモなどはジャムや果実酒になる。
要するに、ここはさほど働かなくても食べるのに困らない場所なのだ。神々に愛された土地なのである。
「ずっと昔はそうじゃなかったのよ。初めてここに入植した人たちは、食うや食わずの生活をしていたらしいぞ」
そう言ったのはハルミだ。ハルミは剣士の見習いとして、週に3回修練場に通っている。現在は、身体を鍛えるのが務めであるらしい。まだ実際に剣をとって戦うという段階ではないそうだ。筋トレと素振りの日課を楽しそうにこなしている。ある意味変態である。
「それがどうして、こんな豊かな土地になったんだ?」
「それはもちろん、ミノウ様がここの魔王として君臨するようになったからよ」
ほらきた。忘れたころにやってくるこの異世界感。
「ミノウ様って?」
「ユウったらもう……あ、そうか。記憶喪失、っていう設定だったな」
「そう、俺も忘れがちだけどそういう設、ってごらぁぁぁぁ! ハルミが設定とか言うな!」
「今から1,400年ぐらい前、ここは誰の支配も受けない自由村だったのよ。人口も少なくたいした物産もないから、どの魔王からも無視されていたの。それがある日、鉄鉱石の鉱山が見つかって、良質な鉄がわんさか眠っていることが分かったの」
「鉄を作るための燃料である木はだけはもともとふんだんにあったから、それで炭を焼いて鉄が作られるようになった。そしたらそれを目当てに、北の魔王・イズナ様と西の魔王・ヤマト様との間で戦争が起きた。500年ほど続いたその戦争を止めたのがミノウ様だ。ふたりの間に入って説得しているうちに、なぜかちゃっかりここを支配しちゃった。そのときからずっと地を治めているのだ」
ちゃっかり支配とか、ミノウさんって結構腹黒い?
「それがどうして豊かな土地になったんだ?」
「なんかね、ミノウ様ってとても運の良い魔王様らしいのよ。その支配下になるだけで、土地は肥え、海や森は豊かになり、水は豊富、気候は温暖で、場所によっては温泉も湧くという」
とミヨシの弁である。至れり尽くせりかよ。運の良い冒険者ってのはよくある話だけどこのすば。魔王の運が良くてどうするよ。勇者様の立場がないじゃないか。とても退治できそうにない魔王だ。てか退治しちゃいけないのか。ここの守り神的存在のようだな。
まあ、どのみち俺には関係のない話ではあるがな(←フラグ)。
「それで鉱山が近くにあるのか。産出するのは鉄だけじゃないんだろ?」
「そうね。白金もふんだんにでているし陶器を焼く粘土もあるのよ。でもあのクロムにはちょっとまいったわね。鉄を掘っていたらクロムが含まれていることに気づいたまでは良かったんだけど、それを取りだそうとしたら猛毒だったという。でも、それを無害化できたらすごいことになるわね」
「ああ、使い道ができることまでがセットだけどな。だが、クロムの使い道は俺が考える。いくらでも必要になるだろう」
早くそちらもやりたいものだが、まずはめっきだ。まず、ニッケルめっきラインを立ち上げないといけない。
「アチラ、金めっきで流す電流は、確かdm2(デシ平方メートル)辺りで0.2アンペアだったな?」
「はい、そうです。そういえば、その試験はしませんでしたね」
「流す電流量を変えても悪い結果しかでたことがないとソウが言ってたんだ。それならめっき時間だけで管理してやろうと思ってな。本音を言えば、俺が電気のことは苦手なんで余り手を加えたくなかったんだけどな」
「ユウさんにも苦手なものがあったんですね」
「電気はビリビリするからなんか嫌。苦手なものは他にもいくらでもあるぞ。特に、肉体労働はな」
「ああ、なるほど。だから机上の天才と」
「ニッケルの場合は、金より一桁は上の電流が必要になると記憶し……と思うんだ」
「え? そうなんですか。じゃあ2アンペアぐらいですか?」
「そうだな、最初はそのぐらいで行ってみるか。じゃあ建浴だ。お湯の温度は上がっているな?」
「は、もう50度になってます」
「OK。じゃあ、ここに硫酸ニッケルの粉末を投入して、ひのきのぼうでぐるぐるぐるぐる。なかなか溶けないもんだな、ぐるぐるぐるぐる。疲れた、アチラ交代」
「もうですか! 了解です、力仕事はお任せください。ぐるぐるぐるぐる」
「ホウ酸も入れるぞ、どぼどぼ」
「ぐるぐるぐるぐるぐる」
「硫酸ニッケルも追加して」
「ぐるぐるぐるぐるぐる」
「なかなか溶けないな。もっと硫酸を入れてみよう、どぼどぼっとな」
「ぐるぐるぐるぐるぐる」
そんなこんなで小1時間が経過した。
「だいたい溶けたからこんなもんだろう。アチラ、じゃあ、鉄カゴに入ったニッケルチップを槽の中に浸けてくれ」
「はーい。用意してあります。どぼんちょ、っと」
「よし、これでちょうど良いタイミングで」
「タイミング?」
「晩ご飯の時間だ!!」
「そっちですか?!」
食べ終わるころにはめっき浴も安定しているだろう、とかそんな言い訳を残しつつ、食堂へと猛ダッシュするふたりなのでありました。食べ盛りはつらいぜ。
(゚∀゚)o彡゚とうさん、とうさん。
「ユウ、倒産を煽るような言い方するんじゃないよ」
「煽ってない。ちゃかしてんだよ、ソウ」
「もっと悪いだろ!」
会社が倒産するかもしれないということに、危機感を持っているのはここではソウ一人だ。他の人間はこの状況を楽しんでいるようにしか見えない。それなら俺だってそっち側にいたほうが、なんか得のような気がして。
「別に食べるものには困らないしね」
家事手伝いという名の料理長を務めるミヨシは言う。海で魚は捕り放題、コメはここ数十年続けて豊作で、常に古米がだぶついている。おかげで格安で取り引きされている。
森の中には果物のなる樹木が多く、それを採取して市で売ればそれなりのお金になる。果物以外でも、ナツメ、シイノミ、グミ、クルミなどの換金性の高い実(もちろん食べることもできる)も豊富にある。キイチゴ、ヤマブドウ、ヤマモモなどはジャムや果実酒になる。
要するに、ここはさほど働かなくても食べるのに困らない場所なのだ。神々に愛された土地なのである。
「ずっと昔はそうじゃなかったのよ。初めてここに入植した人たちは、食うや食わずの生活をしていたらしいぞ」
そう言ったのはハルミだ。ハルミは剣士の見習いとして、週に3回修練場に通っている。現在は、身体を鍛えるのが務めであるらしい。まだ実際に剣をとって戦うという段階ではないそうだ。筋トレと素振りの日課を楽しそうにこなしている。ある意味変態である。
「それがどうして、こんな豊かな土地になったんだ?」
「それはもちろん、ミノウ様がここの魔王として君臨するようになったからよ」
ほらきた。忘れたころにやってくるこの異世界感。
「ミノウ様って?」
「ユウったらもう……あ、そうか。記憶喪失、っていう設定だったな」
「そう、俺も忘れがちだけどそういう設、ってごらぁぁぁぁ! ハルミが設定とか言うな!」
「今から1,400年ぐらい前、ここは誰の支配も受けない自由村だったのよ。人口も少なくたいした物産もないから、どの魔王からも無視されていたの。それがある日、鉄鉱石の鉱山が見つかって、良質な鉄がわんさか眠っていることが分かったの」
「鉄を作るための燃料である木はだけはもともとふんだんにあったから、それで炭を焼いて鉄が作られるようになった。そしたらそれを目当てに、北の魔王・イズナ様と西の魔王・ヤマト様との間で戦争が起きた。500年ほど続いたその戦争を止めたのがミノウ様だ。ふたりの間に入って説得しているうちに、なぜかちゃっかりここを支配しちゃった。そのときからずっと地を治めているのだ」
ちゃっかり支配とか、ミノウさんって結構腹黒い?
「それがどうして豊かな土地になったんだ?」
「なんかね、ミノウ様ってとても運の良い魔王様らしいのよ。その支配下になるだけで、土地は肥え、海や森は豊かになり、水は豊富、気候は温暖で、場所によっては温泉も湧くという」
とミヨシの弁である。至れり尽くせりかよ。運の良い冒険者ってのはよくある話だけどこのすば。魔王の運が良くてどうするよ。勇者様の立場がないじゃないか。とても退治できそうにない魔王だ。てか退治しちゃいけないのか。ここの守り神的存在のようだな。
まあ、どのみち俺には関係のない話ではあるがな(←フラグ)。
「それで鉱山が近くにあるのか。産出するのは鉄だけじゃないんだろ?」
「そうね。白金もふんだんにでているし陶器を焼く粘土もあるのよ。でもあのクロムにはちょっとまいったわね。鉄を掘っていたらクロムが含まれていることに気づいたまでは良かったんだけど、それを取りだそうとしたら猛毒だったという。でも、それを無害化できたらすごいことになるわね」
「ああ、使い道ができることまでがセットだけどな。だが、クロムの使い道は俺が考える。いくらでも必要になるだろう」
早くそちらもやりたいものだが、まずはめっきだ。まず、ニッケルめっきラインを立ち上げないといけない。
「アチラ、金めっきで流す電流は、確かdm2(デシ平方メートル)辺りで0.2アンペアだったな?」
「はい、そうです。そういえば、その試験はしませんでしたね」
「流す電流量を変えても悪い結果しかでたことがないとソウが言ってたんだ。それならめっき時間だけで管理してやろうと思ってな。本音を言えば、俺が電気のことは苦手なんで余り手を加えたくなかったんだけどな」
「ユウさんにも苦手なものがあったんですね」
「電気はビリビリするからなんか嫌。苦手なものは他にもいくらでもあるぞ。特に、肉体労働はな」
「ああ、なるほど。だから机上の天才と」
「ニッケルの場合は、金より一桁は上の電流が必要になると記憶し……と思うんだ」
「え? そうなんですか。じゃあ2アンペアぐらいですか?」
「そうだな、最初はそのぐらいで行ってみるか。じゃあ建浴だ。お湯の温度は上がっているな?」
「は、もう50度になってます」
「OK。じゃあ、ここに硫酸ニッケルの粉末を投入して、ひのきのぼうでぐるぐるぐるぐる。なかなか溶けないもんだな、ぐるぐるぐるぐる。疲れた、アチラ交代」
「もうですか! 了解です、力仕事はお任せください。ぐるぐるぐるぐる」
「ホウ酸も入れるぞ、どぼどぼ」
「ぐるぐるぐるぐるぐる」
「硫酸ニッケルも追加して」
「ぐるぐるぐるぐるぐる」
「なかなか溶けないな。もっと硫酸を入れてみよう、どぼどぼっとな」
「ぐるぐるぐるぐるぐる」
そんなこんなで小1時間が経過した。
「だいたい溶けたからこんなもんだろう。アチラ、じゃあ、鉄カゴに入ったニッケルチップを槽の中に浸けてくれ」
「はーい。用意してあります。どぼんちょ、っと」
「よし、これでちょうど良いタイミングで」
「タイミング?」
「晩ご飯の時間だ!!」
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