異世界でカイゼン

soue kitakaze

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第24話 なめろ!

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 なんでミヨシがあんなに怒ったのか、理由がさっぱり分からないまま屋上から降りてきたユウ・シキミです。

 ちょっとモヤモヤは晴れたけど、腑に落ちない感はむしろ増えているという複雑怪奇な心情です。

「あ、ユウさん。ニッケルめっきが終わってこれから金めっき工程に入りま……どうかしたんですか?」
「あ、いや、ちょっと背中が神経痛で」
「その年で神経痛?!」
「いや、ちょっと痛めただけだ、それよりそのニッケルめっき品をちょっとだけ見せてくれないか」

 アチラからニッケルめっきされたブレード・ソードを受け取って、もう一度しげしげと見つめる。ふむ、キレイだ。なんの問題もないように見える。どうしてこれでうまくいかない……ん?

 こんなキレイで良かったのか? 俺はニッケルめっきに光沢があるとは知らなかった。刀職人さんは模造刀をニッケルで作る場合、サッカリンを光沢剤として入れると言っていた。

 ニッケルめっき浴の調整をやったのは俺とアチラだ。添加物などは一切入れていない。それでどうしてこんな光沢が出てしまうのだろう。

 キレイだからええやろと思い込んでいたが、ニッケルめっきはしょせんは下地だ。
 下地に光沢がある必要はないのだ。もし、この光沢が邪魔をしているのだとしたら?

 ニッケルめっきは浴を酸性にしないといけない。だが、もともと硫酸ニッケルやホウ酸を入れているのだから、酸性になっていることは間違いない。

 分からないのは、このめっき浴がどのくらい酸性になっているかということだ。

 pH測定器はもちろんない。リトマス試験紙でさえもないらしい。その状態でpHをどうやって測ればいいのだろう。

 硫酸もけっこうな量を入れたので、酸性にはなっているはずだ。だが、その度合いが分からない。その度合いは、もしかしたら大事なのではないだろうか?

「ユウさん、どうしました? なにか問題でも?」

 あ、剣を見ながらつい自分の世界に閉じこもってしまった。まあ、よくあることだけど。

「あ、ああ。問題ない。じゃあ金めっきをやってくれ。金めっき浴につけたら40分は時間が開くよな? その間にやって欲しいことがあるんだ」
「はい、分かりました。すぐ戻ってきますので、ちょっと待っていてください」

 アチラは、前処理をして金めっき浴に刀を浸漬させると、ニッケルめっき浴のところにやってきた。

 このニッケルめっき浴はかなりpHは低いはずだ。硫酸を入れてるんだから当然であろう。

 しかし、その「程度」が分からない。pHを測定するものがないからだ。そこで浮かんだのが、使えるものはアチラでも使えという鬼のようなアイデアだ。

「アチラ、業務命令がある」
「え? あ、はい」

 そんなきらきらした目で見るなよ。俺もちょっと悪いなとは思いながら言ってんだから。

「なめてみろ」
「えっ?」

 思ってた反応とちょっと違うが、まあ良い。

「なめろ、って言ったんだよ」
「……いいんですか?」

 お前はいったい何を聞いてるんだ? 良いも悪いもリモコン次第、違う、俺の命令だぞ。

「俺がやれと言ってるんだ、良いに決まってるだろ」
「は、はい。ユウさんの、め、命令なら従います、よ?」

 なんだ、最後のよ? は。なんでお前がドギマギしてんだよ。その上目使いも止めろ。
 そんな大げさなことじゃ……ちょ、ちょっと待てアチラ。なんでしゃがんだ?

 その上、なんで俺の作務衣のズボンに指をかけるんだ??

「ま、待て待てこら。何をしようとしてるんだ、お前は」
「え? だって、なめるんですよね? では失礼して」

「失礼しすぎだぁぁ!!! そうじゃねぇよ、なめるのは液だ、え・き」
「は、はい、どうぞ思う存分だしてください」

「そうじゃねぇぇぇぇぇ!!! 俺のデリケートゾーンになにしてくれとんねん!!」

 俺は生まれて初めて、思い切り人をどついた。頭をごすんと一発。鈍い音がした。殴った俺の手も痛かった。
 加減する余裕がなかったのだ。どう聞いたらそんな間違いができるんだよ!

「あいぃ痛ったぁぁぁぁぁぁぁ。ユウさん、そ、そっちもやるんですか?」
「やらねぇよ!! そっちってどっちだよ!! いいから、早くめっき液をなめろっての」

「え? めっき? 液ってめっきの?」
「他にナニがあるんだよ!! ……あるけど、考えるのは嫌だ。こんな話、誰かに聞かれたらえらいことに……ミヨシ!? そこでなにをしてる?」

ミヨシ「なかまになりたそうにそっちをみてる」

 ミヨシは俺の前方の扉から、顔を2/3だけだして覗くようにこっちを見ていた。
 あの角度だと、しゃがんだアチラが俺の股間に、あぁぁもう、こんな描写するの嫌だ。

「ミヨシ、そんなとこから見てんじゃねょ!! 違うからな、これはただのアチラの勘違いで、俺はそんなんじゃ」

ミヨシ「ユウが攻めでアチラが受けと、メモメモ」

 くだらないことをメモすんじゃねぇぇぇぇ!!

 ちょっとこっちに来たまえ、とミヨシもこちらに呼んだ。そしてニッケルめっき槽の前でふたりして正座をさせた。

 そうして、なにがどう勘違いなのかをこんこんと説教した。俺にはその気はないということもがんがんと説明(説教)した。まったく勘違いにも程があるだろ。

「ということだ、分かったな!」
「「はい」」

 ミヨシのちょっと残念そうな顔が気になったが、誤解が解けたのならそれで良い。

 これ以上誤解されないように、ヒマそうなミヨシにはしばらく付き合ってもらうことにした。3人いればそんな誤解はされまい。

 では仕事の続きだ。アチラ「めっき浴」をなめてみろ。ほんのちょっとで良いぞ。

「はい。ぺろ。うえぇ、苦くてまずいっす」
「酸っぱくないか?」
「そういえばちょっと酸っぱいような」
「ちょっとかぁ」

 よし、じゃあ、硫酸をもっと足そう。しゃばだばしゃばだば。

「これでどうだ?」
「苦がぁぁいまずぅい」

 ふむ、あんまり変わらんようだ。硫酸じゃだめなのかな。ニッケルを溶かすのに使われちゃうのだろうか。

「もすこし酸味を足したいんだがなぁ」

 そしたらミヨシが言った。

「めっき液に酸味っておかしい。レモンじゃないんだから笑」

 あははは、そうだよね。pHじゃ通じないから、酸味って言い方を……。おい、ミヨシ、いまなんて言った??

「え? 酸味って言うからレモンかなって」
「それだぁぁぁぁぁぁ!!」
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