異世界でカイゼン

soue kitakaze

文字の大きさ
27 / 336

第27話 これ、めっきですよ?

しおりを挟む
「その品質で良いのでしたら、その値段でこちらはかまいません」

 そう言いながら俺はもうひとつのブレード・ソードを台車から取り出す。

 この剣は、作りそのものは素人の俺から見てもちゃちなものだ。

 ドレミ伯から預かった剣と比べるまでもなく、明らかに量産品という雑な加工しかされていない。材料だけは鋼を使っているが、刃もろくに立っておらず焼き入れも甘い。鞘にさえ入っていない。

 10本でいくらといった、まとめ販売するような大量生産品である。それを

「見てください」

 と言っているわけである。恐れ多くも貴族様を相手に。

 よっこいせっと、力を入れてそのブロード・ソードをテーブルの上に置く。重いのではない。俺に力が弱いのだ。ほっとけや。

 これが並のしろものなら、貴族の怒りを覚悟するところであるが、もちろん、そんなことにはならない。

「こ、これは、なんと美しい」
「おおっ、これは珍しい。純金製のブレード・ソードですか。小刀レベルならともかく、これだけのサイズを金で作るとは、それだけでものすごい値段になりますな。これは売り物ですか?」

「手に取って見ていただいてかまいませんよ」

 興味津々で手を伸ばしたのは、伯爵のほうだった。純金でこのサイズのものなら、飾るには適さなくてもへそくりには有効だ。

 鞘をかぶせてカモフラージュしておけば、徴税から逃れることもできそうだ。

 つまり剣にではなく、金の価値に目が眩んだのだ。そして手に取ってみる。

 これなら相当な量の金が……あれ? やけに軽いぞ?

 金は鉄の2.5倍の比重がある。若い頃から剣に親しんできた貴族だからこそ、持っただけでその異常さが分かった。この重さで純金はあり得ない。

 なにか、混ざり物がしてあるのだろうと伯爵は思った。見た目は純金そのものだが、まったくのインチキ刀に違いない。
 子供まで使って俺をだまそうという魂胆か? まったく見下げたやつらだ。伯爵の表情が険しくなる。

「こんなもので、私をだませるとでも思ったのか?」

 その声には意図的に怒りが込められている。純金と思わせておいて、混ざり物の入った剣を高値で売りつけようとしたのだろうと、ドレミ伯はそう思ったからだ。

 いくらめっき技術が高くても、そんな工房との取り引きなどできるはずはない。ドレミ家は400年に亘ってこの地に根付いている旧家だ。ご先祖様の顔に泥を塗るようなまねは断じてできない。
 もちろん、だまされるなど貴族の恥だ。

「これを見て、どう思われましたか?」
「私をだますつもりなのか、と言ったのだ。こんなまがい物で」
「と、言われますと?」

「まだとぼけるのか。こんなもの純金であるはずがない。私も若いころから自ら剣を振るって剣と共に暮らしてきた貴族だ。なめてもらっちゃ困る」

 俺はにんまりとしてこう言った。

「その通りです!」
「それなのに、この剣……え?」

「私は、一度もこれが純金などとは言っていません」
「うっ。そ、それは、そうだが。しかし、そう思わせるような素振りをしていたではないか…………ん? まさか。まさかこれ?」

「お察しの通りです。それは普通のブレード・ソードに金めっきを施したものです」

 えええええっっ!!!??!??

 その声は部屋の外にまで響いていたであろう。その驚き度合いは、俺にとって最大限の賛辞である。

 ふっふっふっふふのふ。どうだ貴族よ驚いたかと、表情で言ってみたが、通じるはずはないのであった。

 その代わり、隣にいたじじに思い切り頭をどつかれた。痛ったぁぁぁ。この野郎なにすんだとじじいを見たら、もうお前の出番は終わりだ、と帰ってきた。

 くそ、おいしいとこを持って行くつもりだな、そうは行くか。俺をそこにいてただ頭をどつかれているだけのフラットとかいう小僧と一緒にするなよ。

「そうです、金めっきです。剣はまだ商品になる前の加工途中品ですが、材質は同じ鋼です」

「金めっき……だと。そうなのか、これが。ほんとに……。信じられない。この光沢はまるで純金ではないか。そうだ、証拠は、証拠はあるのか? ただ金によく似た金属を混ぜただけではないのか」

「そんなすごい技術があったら、めっきなんて商売しませんよ」
「そ、それはそうかも知れないが」
「これはすごい、僕、これが欲しい!」

 正直な少年だ。これで、さっきの剣で満足することはなくなったな。計算通りである、むひひひひ。

「お前は黙ってなさい。しかしこれが金めっき。とても信じられない。こちらの剣だって相当なものだと思ったが、これはもう完全に純金の輝きではないか」
「それが、当工房が開発した新技術です」
「うぅむ。しかし……。うぅむ」

 開発したのは俺だけどな。しかし、簡単に信じられないという気持ちは分かる。

「お疑いなら、それを削ってみたらどうですか?」

 ざまあみろじじいめ。口出ししてやったぞ。

「削る? これをか?」
「はい。めっきなんて表面にうっすら付いているだけのものです。ほんの少しヤスリでも掛けてやれば下地がでてきます。その断面を見てもらえばはっきりします」

「そ、それはそうだが。なんというか」
「ああ、そう、それは、なんというか」

「「もったいない!」」

 じじいとドレミ伯がハモった。お前らは前世で双子の兄弟か。

 もったいないってなんだよ、下地はただの格安品。その上にうっすら金めっきが付いているだけだぞ? それを削るぐらいのことが、なんでもったいないんだよ。

「いや、ここまでキレイだと。なんていうか、そう」
「ワシもそう思う。ほとんど純金の輝きを持つこれを削るなんて」

「「もったいない!!」」

 あぁもう、まだそれかよ。お前らはさだまさしか。目を覚ましやがれ。

「あのこれ、ただの金めっきですよ?」
「「分かっとるわ!」」

 あーそーですかー。もしかして分かってないのかと思ったから、言ってみただけなのに。そんなに怒らなくたっていいだろ。すねたろか。

「失礼します」

 そこに、お茶のお代わりを持ってミヨシが入ってきた。

 ミヨシは弾けるような作り笑顔で、ドギマギするフラットの前からコーヒーカップを下げて、今度は温かいお茶を置いた。

 そしてそれを全員分繰り返したあと、テーブル中央にあった大皿にシイの実を補充した。

 そのまま流れるような一連の動作で、俺には、はいこれ、と言って手のひらサイズの砥石を渡した。

 ……なんで俺には砥石?!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝
ファンタジー
毒舌を売りにして芸能界で活躍できる様になった。 元々はアイドルとしてデビューしたが、ヒラヒラの衣装や可愛い仕草も得意じゃ無かった。 バラエティーの仕事を貰って、毒舌でキャラを作ったらこれがハマり役で世間からのウケも良くとんとん拍子で有名人になれた。 だが、自宅に帰ると玄関に見知らぬ男性が立っていて私に近づくと静かにナイフで私を刺した。 アイドル時代のファンかも知れない。 突然の事で、怖くて動けない私は何度も刺されて意識を失った。 主人公の時田香澄は殺されてしまう。 気がつくとダンジョンの最下層にポイズンキラーとい魔物に転生する。 自分の現象を知りショックを受けるが、その部屋の主であるリトラの助言により地上を目指す。 ダンジョンの中で進化を繰り返して強くなり、人間の冒険者達が襲われている所に出くわす。 魔物でありながら、擬態を使って人間としても生きる姿や魔王種への進化を試みたり、数え切れないほどの激動の魔物人生が始まる。

武装法人二階堂商会 ―― 企業買収(M&A)で異世界を支配する!

Innocentblue
ファンタジー
日本で企業買収の最前線を駆け抜けてきた敏腕社長・二階堂漣司。 裏切りにより命を落としたはずの彼が目を覚ましたのは、 剣と魔法が支配する異世界の戦場だった。 与えられたスキルは《企業買収(M&A)》。 兵士も村も土地も国家さえも、株式として評価・買収・支配できる異能の力。 「ならば、この世界そのものを買い叩く」 漣司は《武装法人二階堂商会》を設立。 冷徹な参謀にして最強の魔導士リュシア、獣人傭兵団、裏社会の戦力―― すべてを子会社として編成し、経済と武力を融合した前代未聞の経営戦争へと踏み出す。 弱小の村を救済し、都市と契約を結び、裏切り者を切り捨て、敵対勢力を力で買収する。 交渉は戦争、戦争は経営。 数字が命運を決め、契約が国境を塗り替える。 やがて商会は、都市国家・ギルド・貴族・宗教勢力すら巻き込み、 世界の価値そのものを再定義する巨大企業へと変貌していく。 これは、剣ではなく契約で世界を制圧する男の物語。 奪うのではない。支配するのでもない。 価値を見抜き、価値を操り、世界に値札を付ける―― 救済か、支配か。正義か、合理か。 その境界線を踏み越えながら、蓮司は異世界そのものを経営していく。 異世界×経済×武力が激突する、知略と覇道の武装経営ファンタジー。 「この世界には、村があり、町があり、国家がある。 ――全部まとめて、俺が買い叩く」

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~

Ss侍
ファンタジー
 "私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。  動けない、何もできない、そもそも身体がない。  自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。 ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。  それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

正しい聖女さまのつくりかた

みるくてぃー
ファンタジー
王家で育てられた(自称)平民少女が、学園で起こすハチャメチャ学園(ラブ?)コメディ。 同じ年の第二王女をはじめ、優しい兄姉(第一王女と王子)に見守られながら成長していく。 一般常識が一切通用しない少女に友人達は振り回されてばかり、「アリスちゃんメイドを目指すのになぜダンスや淑女教育が必要なの!?」 そこには人知れず王妃と王女達によるとある計画が進められていた! 果たしてアリスは無事に立派なメイドになれるのか!? たぶん無理かなぁ……。 聖女シリーズ第一弾「正しい聖女さまのつくりかた」

鬼死回生~酒呑童子の異世界転生冒険記~

今田勝手
ファンタジー
平安時代の日本で魑魅魍魎を束ねた最強の鬼「酒呑童子」。 大江山で討伐されたその鬼は、死の間際「人に生まれ変わりたい」と願った。 目が覚めた彼が見たのは、平安京とは全く異なる世界で……。 これは、鬼が人間を目指す更生の物語である、のかもしれない。 ※本作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ネオページ」でも同時連載中です。

異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。 ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。 仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。

神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由

瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。 神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

処理中です...