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第62話 黙っていようっと
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「ミノウ様!! 言う通りにしたら本当に斬れました。これが、これが抜刀術なんですね。ご指導ありがとございます!」
「いや、その、まだ我の説明は終わってなかったのにヨ……」
抜刀術というのは、刀を抜く、振りかぶる、斬りつける。その3動作を1回でやる剣技である。だからそれは熟練の技であるはずだ。
あるはずなのに、この女はまったく。
「ま、まあいいヨ。すっごい驚いたけど。ただ、細かいことを言えば太刀筋が少し下に傾いていたヨ。もう少し刀を振る訓練を積んだほうが良いヨ」
「はい。ミノウ様! 私はまだまだ甘いのですね。ではこれから朝まで切り続けま 痛ったぁぁぁぁぁ」
斬れた鉄の棒で、なぐってやった。ごっちん、という気持ちのいい音がした。
「ユウ、なにをするんだ、せっかく気分が盛り上がってきたところなの痛い痛い痛いって。分かったから、そんなものでこんこん殴るな。私は女だぞ!」
「勝手に盛り上がるなっての! 貴重なニホン刀をダメにするつもりか。そんなに何度も斬ったら刀が保つわけがないだろ」
「うぅぅぅ。そうか分かった、素振りだけにしておく、あ痛たたたた」
「それもほどほどにしておけよ。明日の試技がなにより大事なんだ。終わったあとにいくらでもやればいいだろ」
「……そうだったな。ところでミノウ様、傾いてたというのはどういう風にでしょうか。教えていただけますか」
「うむ、刃先が太刀筋より少し下を向いていたヨ。まだ、その刀を持つ柄と刃の角度が身についてないのだろう。これは、たくさん振って身体で覚えるしかないヨ。精進しなさい」
ラケット競技でも同じことが言える。競技のベテランなら、いちいち目で確認しなくてもグリップを握った瞬間にラケット面がどこを向いているか分かるものだ。ハルミにはまだそれができていないということだろう。
これは、日本刀で充分な練習をさせなかった俺の失態か。
黙っていようっと。
「分かりました。じゃあ、明日の朝ま……今日の夜までは振り続けることにします。ミノウ様は見ていてくれますか?」
「うむ、付き合ってやるヨ。角度には充分な注意を払って振るように。足の運びや振るタイミングは申し分なかったヨ)
ハルミはうれしそうだ。ミノウさん、大人気ですな。よろしくです。
「ところで、ゼンシン。どうだその刀は。明日の試技に使えそうか?」
「はい、叩いた時の音にも異常ありません。クラックはないようです。刃こぼれもないし曲がってもいませんし、新品同様です。明日は問題なく使えます」
「それはよかった。それにしても見事だったな」
「本当に素晴らしい剣技でしたね。しかし僕には完璧な太刀筋に見えました。あれでもまだズレているのですね」
「いや、鉄を斬ったハルミも見事だが、これを作ったゼンシンとヤッサンも見事だ。お礼を言うよ。よくここまでのニホン刀を作ってくれた」
「あ、いや、それはそれほどでも。別に、ぼ、僕は。その、はい、いえ」
お前は褒められ慣れていない小学生か。
「次は、お前が打った刀を見てみたいものだな」
「はい。ヤッサンにもそう言われたのですが。でも……」
「でも?」
「いいのですか? 僕なんかにそんな大切な技を教えてしまったらヤッサンの立場が」
「悪くなるとでも言うのか?」
「はい。ヤッサンはこの国に100人はいないと言われる国指定の一級刀工技術者です。その貴重な技術を僕なんかが受け継いだら」
「ゼンシンは、もう少し自信を持っていいぞ。今回のお前の働きは称賛に値するんだ。お前がいなければ、あのニホン刀はできていなかった。ヤッサンがいくら優れた刀工であっても、いままでのように鉄がなまくらではあんなニホン刀はできない。お前はこの工房の救いの神なんだよ」
「そ、そんな、偶然ですよ。だって、そんなの、僕、だけがやったわけじゃ、ないですし、ユウさんに、言われた通りの、偶然が偶然を」
お前の褒められ慣れてなさはよく分かったから。そうだ。ここはアレを言い出すチャンスじゃないか。
「ということでだな」
「そんな、僕なんか はい?」
「お前を、タケウチで正規の丁稚として採用す 痛てててて、こら耳を引っ張るな!」
「それをお前が言うな!! それは社長であるワシの権限だろうが」
痛たたたた。だからって耳を引っ張ることはないだろが。子供じゃねぇんだぞ。……見た目は子供だけども!
「もっと先の話だと思っていたが、そういうわけだ。ゼンシン。この工房に来てくれるか?」
「は、はい。それは願ってもいないことです。前の工場では、僕はただの作業者でしたし、よくサボるしいなくなるしで、居場所がなかったんです。だからここへもあっさりと出されました」
「ゼンシンは単純作業を続けるということに向いてないんだよ。だが、お前の職人としての才覚は本物だ、それをこの工房でいかし痛てててててて」
だからユウは黙ってろっての。いいじゃないかじじい、ゼンシンはワシが育てた! どこかの監督みたいに言ってんじゃねぇ、育てたのはヤッサンであろうが。ぐぬぬぬぬぬぬぬ。
さあ、いよいよ明日だ。タケウチ工房の運命はそこで決まる(と、ユウだけが真剣にそう思っている)。
「いや、その、まだ我の説明は終わってなかったのにヨ……」
抜刀術というのは、刀を抜く、振りかぶる、斬りつける。その3動作を1回でやる剣技である。だからそれは熟練の技であるはずだ。
あるはずなのに、この女はまったく。
「ま、まあいいヨ。すっごい驚いたけど。ただ、細かいことを言えば太刀筋が少し下に傾いていたヨ。もう少し刀を振る訓練を積んだほうが良いヨ」
「はい。ミノウ様! 私はまだまだ甘いのですね。ではこれから朝まで切り続けま 痛ったぁぁぁぁぁ」
斬れた鉄の棒で、なぐってやった。ごっちん、という気持ちのいい音がした。
「ユウ、なにをするんだ、せっかく気分が盛り上がってきたところなの痛い痛い痛いって。分かったから、そんなものでこんこん殴るな。私は女だぞ!」
「勝手に盛り上がるなっての! 貴重なニホン刀をダメにするつもりか。そんなに何度も斬ったら刀が保つわけがないだろ」
「うぅぅぅ。そうか分かった、素振りだけにしておく、あ痛たたたた」
「それもほどほどにしておけよ。明日の試技がなにより大事なんだ。終わったあとにいくらでもやればいいだろ」
「……そうだったな。ところでミノウ様、傾いてたというのはどういう風にでしょうか。教えていただけますか」
「うむ、刃先が太刀筋より少し下を向いていたヨ。まだ、その刀を持つ柄と刃の角度が身についてないのだろう。これは、たくさん振って身体で覚えるしかないヨ。精進しなさい」
ラケット競技でも同じことが言える。競技のベテランなら、いちいち目で確認しなくてもグリップを握った瞬間にラケット面がどこを向いているか分かるものだ。ハルミにはまだそれができていないということだろう。
これは、日本刀で充分な練習をさせなかった俺の失態か。
黙っていようっと。
「分かりました。じゃあ、明日の朝ま……今日の夜までは振り続けることにします。ミノウ様は見ていてくれますか?」
「うむ、付き合ってやるヨ。角度には充分な注意を払って振るように。足の運びや振るタイミングは申し分なかったヨ)
ハルミはうれしそうだ。ミノウさん、大人気ですな。よろしくです。
「ところで、ゼンシン。どうだその刀は。明日の試技に使えそうか?」
「はい、叩いた時の音にも異常ありません。クラックはないようです。刃こぼれもないし曲がってもいませんし、新品同様です。明日は問題なく使えます」
「それはよかった。それにしても見事だったな」
「本当に素晴らしい剣技でしたね。しかし僕には完璧な太刀筋に見えました。あれでもまだズレているのですね」
「いや、鉄を斬ったハルミも見事だが、これを作ったゼンシンとヤッサンも見事だ。お礼を言うよ。よくここまでのニホン刀を作ってくれた」
「あ、いや、それはそれほどでも。別に、ぼ、僕は。その、はい、いえ」
お前は褒められ慣れていない小学生か。
「次は、お前が打った刀を見てみたいものだな」
「はい。ヤッサンにもそう言われたのですが。でも……」
「でも?」
「いいのですか? 僕なんかにそんな大切な技を教えてしまったらヤッサンの立場が」
「悪くなるとでも言うのか?」
「はい。ヤッサンはこの国に100人はいないと言われる国指定の一級刀工技術者です。その貴重な技術を僕なんかが受け継いだら」
「ゼンシンは、もう少し自信を持っていいぞ。今回のお前の働きは称賛に値するんだ。お前がいなければ、あのニホン刀はできていなかった。ヤッサンがいくら優れた刀工であっても、いままでのように鉄がなまくらではあんなニホン刀はできない。お前はこの工房の救いの神なんだよ」
「そ、そんな、偶然ですよ。だって、そんなの、僕、だけがやったわけじゃ、ないですし、ユウさんに、言われた通りの、偶然が偶然を」
お前の褒められ慣れてなさはよく分かったから。そうだ。ここはアレを言い出すチャンスじゃないか。
「ということでだな」
「そんな、僕なんか はい?」
「お前を、タケウチで正規の丁稚として採用す 痛てててて、こら耳を引っ張るな!」
「それをお前が言うな!! それは社長であるワシの権限だろうが」
痛たたたた。だからって耳を引っ張ることはないだろが。子供じゃねぇんだぞ。……見た目は子供だけども!
「もっと先の話だと思っていたが、そういうわけだ。ゼンシン。この工房に来てくれるか?」
「は、はい。それは願ってもいないことです。前の工場では、僕はただの作業者でしたし、よくサボるしいなくなるしで、居場所がなかったんです。だからここへもあっさりと出されました」
「ゼンシンは単純作業を続けるということに向いてないんだよ。だが、お前の職人としての才覚は本物だ、それをこの工房でいかし痛てててててて」
だからユウは黙ってろっての。いいじゃないかじじい、ゼンシンはワシが育てた! どこかの監督みたいに言ってんじゃねぇ、育てたのはヤッサンであろうが。ぐぬぬぬぬぬぬぬ。
さあ、いよいよ明日だ。タケウチ工房の運命はそこで決まる(と、ユウだけが真剣にそう思っている)。
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