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第67話 工房で自生する植物
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「おいソウ。ほんとにひと月で600万を作っちゃったぞ、あいつ」
「売り上げは800万を越えてますけど、社長。私もびっくりしてます」
「まあ、ワシの孫娘が優秀だったからだけどな」
「孫娘自慢はもういいですから」
「600万作るなんて冗談半分に聞いていたのに、ほんとに作ったちゃった」
「社長、ちょっとこれは見直さないと行けません」
「ソウ、なにをだ?」
「ユウはすごい人だってことですよ」
「うっぐっ」
「失敗したらいなかったことにしようとか、言ってましたよね?」
「いや、それは、その。だな。あれは軽い冗談」
「僕にとっても恩人ですよ。ハルミと婚約破棄しなくて済んだんです」
「そ、それはそうだ。この工房にとっても恩人だ、ただ」
「ああ、そうですね」
「「「「あの態度が生意気なんだよなぁ」」」」
どうやらそこは衆目の一致するところであるらしい。
そんな実情を知らず、俺はひとりで考えている。
タケウチ工房にはこのイベントで、しめて865万の収入が入った。原料などは在庫を使っているので、経費をさっぴいても750万以上の利益である。ここから600万を銀行に返したとしても、当座の運営費はまかなえる。遅配が続いていた給料も払えるだろう。
それだけではない。あのニホン刀は量産はできないにしても、月に10本ぐらいはは作れるはずだ。すでに侯爵によって1本200万という値段がついているのだから、それを利用して高値で売ることができる。月額1,500万以上にはなるだろう。
そこに現在生産を止めているステンレスやダマク・ラカス包丁作りも開始すれば、さらに上乗せ可能だ。そのうち金めっきも動き出すだろう。
もう当面、仕事も資金も心配はなくなった。タケウチ工房は安泰だ。
さて……そうなると、俺の出番はもうない。いよいよそのときが来た、のかな。俺がタケウチを出て行くときだ。
それにはそうだ、まずは住む場所だ。アパートを探さなきゃあぁぁ痛ってえなぁもう。なにすんだよ! っておまえらか。ふたりしてツッコみを入れるなよ。
(お主はなにをとっちらかっているノだ)
(そうだそうだ。まだまだやることはいくらでもあるのだ。勝手に仕事を終わらせるなヨ)
……おまえらっていいやつだな。
(いやいやいや、そんな、ことは言ってないノだ。なんの話なノだ)
(お主の殊勝なとこなんか初めてみたヨ)
いや、慰めてくれなくてもいいよってことだ。仕事が終われば次に行く。それがカイゼン屋というやつだ。
俺はこちらに来たばかりのときに、ソウからタケウチ工房を助けてくれと言われてここで仕事を始めた。この世界に馴染むのには少し苦労もしたが、おまえらのおかげでその依頼には充分応えることができた。それが今日終わったんだ。もう開放してもらってもいいだろ?
(開放してもらいたかったノか? このまま行ってしまうつもりなノか?)
(まだ我との眷属契約は残っているヨ。そんなことできないのだヨ)
おまえらはなにを言ってんだ。俺がおまえらを手放すわけがないだろが。ただで使える元素分析機器と経時劣化試験機だぞ? これだけあればこの世界では最強だ、わはははははは!!
(こ、こ、この男、こういうやつだったノだ。我もまだ分かっていなかったノだ)
(まったくだ。我を慕うゼンシンを置いて、ここから離れるなんてことできるわけないのだヨ)
(それは我とて同じだ。ミヨシを置いてどこかへなんか行けるはずが)
はいはい、分かったから。じゃあ、行くぞ。
((ちっとも分かっていないだろ!!!))
俺がここを離れるのには、今日がちょうどいい機会なのだ。一仕事が済んだ。もうタケウチ工房でやり残したことはない。今晩はいつものように賑やかに飲み会となるだろう。
そこでついでに俺の送別会もしてくれればいい。俺は参加しないけどな。
(いつもの冗談のように聞こえないノだが)
(我はお主と知り合ってまだ日が浅いのだが、こんなことを本気で言うやつは見たことがないヨ。これまでさんざん苦労してきて、これから楽ができるという場面ではないのか。めでたしめでたしの場面ではないのかヨ?)
そうなのかな。そうかもしれないな。だけど、それじゃ俺はこれからいったいなんになる?
(て、哲学のことを聞かれても困るノだ)
そんな大げさなもんじゃない。ただの穀潰しだよ。
(それはお主次第であろう?)
俺は作業はできない。体力もない。暑さにも寒さにも弱い。根気もない。寝るのも早いし長い。問題が片付いたいま、穀潰し以外のなにものでもなかろう?
(そんなことを考えていたノか?)
いつも考えているよ。
(お主がしたことは地を馴らして耕し種を植えたということなノだ。これからおいしい収穫ではないか。なぜそこまで待とうとは思わんノだ?)
(そうそう、おいしい果実を食べてからで……あ、そうだ! ユウヨ!!!)
神妙に聞いていれば当然でかい声だしやがって。びっくりさせんなよ。なんだ、どうした?
(我の入っていた果実のことだが)
ああ、あれか。毒はないようだが食べるには適さないってミヨシが言ってたな。実はいくつか取ったが、食べずにその辺に放置してあるらしいぞ。
(お主、知らないのか。我がどうしてあんなことに入っていたのか)
(間抜けだからなノだ?)
(やかましい! おまえが言うなぼかすかぼかぼか)
(やったなこのやろう、自分の失敗を棚に上げおってどかすかどかすか)
止めろ! うっとおしい。また羽根をつまむぞ。それでその実がどうしたって?
(ぼかぼか、あ、そうなのだ。我も噂で聞いただけだったのだが、それを調査するためにちょっと中に入ったみたのだヨ)
(それで、閉じ込められたお馬鹿さんなノだ。わははは)
(やかましいっての、ぼかすかぼぼか)
(止めろって言われたのにまだやるのかヨ、このこのきゅぅぅぅぅ)
今、大事な話してんだ。大人しくしろ!
((はーい))
で、その噂でなにを聞いたんだ?
(あれな、ちょこれいとの原料なのだヨ)
なぬっ?!
そのひと言は俺の魂を貫いた。ここから去って行くべきだという決心を、一時的に棚上げしても良いと思えるほどに。
ちょこれいとの原料って、あれは、カカオの実ってことか?
(あ、そうそう。そんな名前だったヨ)
(でも、カカオって日本には自生してないだろ。確か熱帯の植物だったはずだが)
(あの工房は常に一定温度に設定されているのだヨ。冬でも30度くらいは常にある)
(ああ、そういえば電気も点けっぱなしだったな。もったいないよな、あれ。止めさせないといけないと思ってたんだ)
(いや、別にもったいなくはないヨ)
(電気が無駄じゃないか!)
(どのみち余ったら捨てるだけの電気だヨ。山にある滝を使って発電しているが他に使うところはないのだヨ。水量は豊富だし安定しているし。発電所を作ったの我だし。使いっぱなしで問題ない)
異世界パネエ……なんだと? ミノウが作った? 発電所を? そんなことができるのか???
(変電所だって作ったヨ。理屈さえ分かればできるのだヨ。水量のあるところじゃないと無理だけど。そういえばオウミのとこにも作ってやったのだヨ)
(ああ。作ってもらったノだ。あれはとても良いものなノだ。感謝しているノだ)
おまえら絶対仲が良いだろ。
しかし、電気が安定供給できるのなら、いずれは家電も作れるってことか? テレビやビデオを大量生産したら儲かるかな。なんかわくわくしてきただオラ。
(だから放っておくと自然に30度くらいになってしまうのだヨ。だけど、それは人には暑すぎるようなので、他の部屋では外気を入れたりして温度を下げる工夫しているようだヨ)
(あ、そういえば、めっき室も30度って言ってたな。あれはそう設定しているのではなくて、そうなっちゃってるってことか)
(そうなのだヨ。その気温がどうやらあの植物に適しているようだ。誰が種を持ち込んだのかは分からんが、いつの間にかあそこで増殖していたのだヨ)
家電のことはさておき。ここは食べる分には申し分のないところだ。魚もコメも安い。木の実や果物もたくさんある。
ただ。
お菓子がないのだ。せんべいの類いはあっても、砂糖をふんだんに使ったケーキなどのお菓子が皆無なのである。
砂糖自体は、ミヨシがちょくちょく料理に使っているのを見るので、値段は高いがある程度手に入るようだ。それでお菓子がないというのはずっと疑問であった。というか不満であった。
ここの文化は、俺より先にこの世界に来た連中によって持ち込まれたものが多い。ただ、それには大きな片寄りがある。
金めっきはあるのにニッケルめっきがない、なんてのはその一例だ。おそらくそいつが、金めっきしか知らなかったのであろう。その知識の片寄りが、そのままこの世界の文化となっているのだ。
お菓子にしてもそうだ。せんべいやナッツ、あられはあるのに、ケーキもチョコレートもシュークリームもない。砂糖をお菓子に使うという概念がないかのようだ。
そこに降ってわいたようにもたらされたチョコレート原料の存在。しかもそれが、工房内に自生しているだと? これは見過ごすわけにはいくまい。
ということで、もう少しここのお世話になることにした。だってチョコレート、食べたいじゃん?
(なあ、オウミよ。どうにも分からんヨ。この男は欲深いのか無欲なのか。どっちだ?)
(ミノウは分からんノか。こいつは自分のやりたいことだけには貪欲だが、そうじゃないことには無欲というか無関心というか、そんな感じなノだ)
(あの社長もそこは見損なっていたようだヨ。もうちょっとであっさりここを出て行かれるとこだったヨ)
(ああ、ここまで淡泊とは思っていなかったノだろう。『あいつの性格はつかんだ』とか自慢していたが、思い上がりも甚だしいノだ)
((あとで、説教してやろうな))
(まだしばらくは我らがフォローせんといかんようだヨ)
(とりあえずは、チョコレート作りで引き留めに成功したノだ。ミノウGJである)
(我はただ食べたかったのだヨ。それで中に入ったらあの芳しい匂いに酔ってしまった。我らにはちょっと危険な食べ物だヨ)
(中に入ったりするからだ。よほどたくさん食べなきゃ大丈夫なノだ)
(それはそうかもしれない。食べられるのを楽しみにしておくヨ)
(ところでミノウ。今思い出したノだが)
(ん? なんだ?)
(噂によると、イズナが攻めて来るらしいノだ)
(へぇぇ。どこに?)
(ここに決まっておるノだ!)
(へぇ……へ? マジでか?!!!!)
(お主、イズナとなにか約束をしていなかったノか?)
(約束……したっけ? カカオ酔いでなにもかも忘れてしもたヨ)
(なんかそのことで怒っているようなノだ)
(え? もしかして攻めてくるってのは我のせいなのか?)
(間違いなくそうなノだ。謝ってこいよ)
(うぅぅぅ。検討するヨ)
(いや、検討じゃなくてだな)
(うぅぅ。検討する)
「売り上げは800万を越えてますけど、社長。私もびっくりしてます」
「まあ、ワシの孫娘が優秀だったからだけどな」
「孫娘自慢はもういいですから」
「600万作るなんて冗談半分に聞いていたのに、ほんとに作ったちゃった」
「社長、ちょっとこれは見直さないと行けません」
「ソウ、なにをだ?」
「ユウはすごい人だってことですよ」
「うっぐっ」
「失敗したらいなかったことにしようとか、言ってましたよね?」
「いや、それは、その。だな。あれは軽い冗談」
「僕にとっても恩人ですよ。ハルミと婚約破棄しなくて済んだんです」
「そ、それはそうだ。この工房にとっても恩人だ、ただ」
「ああ、そうですね」
「「「「あの態度が生意気なんだよなぁ」」」」
どうやらそこは衆目の一致するところであるらしい。
そんな実情を知らず、俺はひとりで考えている。
タケウチ工房にはこのイベントで、しめて865万の収入が入った。原料などは在庫を使っているので、経費をさっぴいても750万以上の利益である。ここから600万を銀行に返したとしても、当座の運営費はまかなえる。遅配が続いていた給料も払えるだろう。
それだけではない。あのニホン刀は量産はできないにしても、月に10本ぐらいはは作れるはずだ。すでに侯爵によって1本200万という値段がついているのだから、それを利用して高値で売ることができる。月額1,500万以上にはなるだろう。
そこに現在生産を止めているステンレスやダマク・ラカス包丁作りも開始すれば、さらに上乗せ可能だ。そのうち金めっきも動き出すだろう。
もう当面、仕事も資金も心配はなくなった。タケウチ工房は安泰だ。
さて……そうなると、俺の出番はもうない。いよいよそのときが来た、のかな。俺がタケウチを出て行くときだ。
それにはそうだ、まずは住む場所だ。アパートを探さなきゃあぁぁ痛ってえなぁもう。なにすんだよ! っておまえらか。ふたりしてツッコみを入れるなよ。
(お主はなにをとっちらかっているノだ)
(そうだそうだ。まだまだやることはいくらでもあるのだ。勝手に仕事を終わらせるなヨ)
……おまえらっていいやつだな。
(いやいやいや、そんな、ことは言ってないノだ。なんの話なノだ)
(お主の殊勝なとこなんか初めてみたヨ)
いや、慰めてくれなくてもいいよってことだ。仕事が終われば次に行く。それがカイゼン屋というやつだ。
俺はこちらに来たばかりのときに、ソウからタケウチ工房を助けてくれと言われてここで仕事を始めた。この世界に馴染むのには少し苦労もしたが、おまえらのおかげでその依頼には充分応えることができた。それが今日終わったんだ。もう開放してもらってもいいだろ?
(開放してもらいたかったノか? このまま行ってしまうつもりなノか?)
(まだ我との眷属契約は残っているヨ。そんなことできないのだヨ)
おまえらはなにを言ってんだ。俺がおまえらを手放すわけがないだろが。ただで使える元素分析機器と経時劣化試験機だぞ? これだけあればこの世界では最強だ、わはははははは!!
(こ、こ、この男、こういうやつだったノだ。我もまだ分かっていなかったノだ)
(まったくだ。我を慕うゼンシンを置いて、ここから離れるなんてことできるわけないのだヨ)
(それは我とて同じだ。ミヨシを置いてどこかへなんか行けるはずが)
はいはい、分かったから。じゃあ、行くぞ。
((ちっとも分かっていないだろ!!!))
俺がここを離れるのには、今日がちょうどいい機会なのだ。一仕事が済んだ。もうタケウチ工房でやり残したことはない。今晩はいつものように賑やかに飲み会となるだろう。
そこでついでに俺の送別会もしてくれればいい。俺は参加しないけどな。
(いつもの冗談のように聞こえないノだが)
(我はお主と知り合ってまだ日が浅いのだが、こんなことを本気で言うやつは見たことがないヨ。これまでさんざん苦労してきて、これから楽ができるという場面ではないのか。めでたしめでたしの場面ではないのかヨ?)
そうなのかな。そうかもしれないな。だけど、それじゃ俺はこれからいったいなんになる?
(て、哲学のことを聞かれても困るノだ)
そんな大げさなもんじゃない。ただの穀潰しだよ。
(それはお主次第であろう?)
俺は作業はできない。体力もない。暑さにも寒さにも弱い。根気もない。寝るのも早いし長い。問題が片付いたいま、穀潰し以外のなにものでもなかろう?
(そんなことを考えていたノか?)
いつも考えているよ。
(お主がしたことは地を馴らして耕し種を植えたということなノだ。これからおいしい収穫ではないか。なぜそこまで待とうとは思わんノだ?)
(そうそう、おいしい果実を食べてからで……あ、そうだ! ユウヨ!!!)
神妙に聞いていれば当然でかい声だしやがって。びっくりさせんなよ。なんだ、どうした?
(我の入っていた果実のことだが)
ああ、あれか。毒はないようだが食べるには適さないってミヨシが言ってたな。実はいくつか取ったが、食べずにその辺に放置してあるらしいぞ。
(お主、知らないのか。我がどうしてあんなことに入っていたのか)
(間抜けだからなノだ?)
(やかましい! おまえが言うなぼかすかぼかぼか)
(やったなこのやろう、自分の失敗を棚に上げおってどかすかどかすか)
止めろ! うっとおしい。また羽根をつまむぞ。それでその実がどうしたって?
(ぼかぼか、あ、そうなのだ。我も噂で聞いただけだったのだが、それを調査するためにちょっと中に入ったみたのだヨ)
(それで、閉じ込められたお馬鹿さんなノだ。わははは)
(やかましいっての、ぼかすかぼぼか)
(止めろって言われたのにまだやるのかヨ、このこのきゅぅぅぅぅ)
今、大事な話してんだ。大人しくしろ!
((はーい))
で、その噂でなにを聞いたんだ?
(あれな、ちょこれいとの原料なのだヨ)
なぬっ?!
そのひと言は俺の魂を貫いた。ここから去って行くべきだという決心を、一時的に棚上げしても良いと思えるほどに。
ちょこれいとの原料って、あれは、カカオの実ってことか?
(あ、そうそう。そんな名前だったヨ)
(でも、カカオって日本には自生してないだろ。確か熱帯の植物だったはずだが)
(あの工房は常に一定温度に設定されているのだヨ。冬でも30度くらいは常にある)
(ああ、そういえば電気も点けっぱなしだったな。もったいないよな、あれ。止めさせないといけないと思ってたんだ)
(いや、別にもったいなくはないヨ)
(電気が無駄じゃないか!)
(どのみち余ったら捨てるだけの電気だヨ。山にある滝を使って発電しているが他に使うところはないのだヨ。水量は豊富だし安定しているし。発電所を作ったの我だし。使いっぱなしで問題ない)
異世界パネエ……なんだと? ミノウが作った? 発電所を? そんなことができるのか???
(変電所だって作ったヨ。理屈さえ分かればできるのだヨ。水量のあるところじゃないと無理だけど。そういえばオウミのとこにも作ってやったのだヨ)
(ああ。作ってもらったノだ。あれはとても良いものなノだ。感謝しているノだ)
おまえら絶対仲が良いだろ。
しかし、電気が安定供給できるのなら、いずれは家電も作れるってことか? テレビやビデオを大量生産したら儲かるかな。なんかわくわくしてきただオラ。
(だから放っておくと自然に30度くらいになってしまうのだヨ。だけど、それは人には暑すぎるようなので、他の部屋では外気を入れたりして温度を下げる工夫しているようだヨ)
(あ、そういえば、めっき室も30度って言ってたな。あれはそう設定しているのではなくて、そうなっちゃってるってことか)
(そうなのだヨ。その気温がどうやらあの植物に適しているようだ。誰が種を持ち込んだのかは分からんが、いつの間にかあそこで増殖していたのだヨ)
家電のことはさておき。ここは食べる分には申し分のないところだ。魚もコメも安い。木の実や果物もたくさんある。
ただ。
お菓子がないのだ。せんべいの類いはあっても、砂糖をふんだんに使ったケーキなどのお菓子が皆無なのである。
砂糖自体は、ミヨシがちょくちょく料理に使っているのを見るので、値段は高いがある程度手に入るようだ。それでお菓子がないというのはずっと疑問であった。というか不満であった。
ここの文化は、俺より先にこの世界に来た連中によって持ち込まれたものが多い。ただ、それには大きな片寄りがある。
金めっきはあるのにニッケルめっきがない、なんてのはその一例だ。おそらくそいつが、金めっきしか知らなかったのであろう。その知識の片寄りが、そのままこの世界の文化となっているのだ。
お菓子にしてもそうだ。せんべいやナッツ、あられはあるのに、ケーキもチョコレートもシュークリームもない。砂糖をお菓子に使うという概念がないかのようだ。
そこに降ってわいたようにもたらされたチョコレート原料の存在。しかもそれが、工房内に自生しているだと? これは見過ごすわけにはいくまい。
ということで、もう少しここのお世話になることにした。だってチョコレート、食べたいじゃん?
(なあ、オウミよ。どうにも分からんヨ。この男は欲深いのか無欲なのか。どっちだ?)
(ミノウは分からんノか。こいつは自分のやりたいことだけには貪欲だが、そうじゃないことには無欲というか無関心というか、そんな感じなノだ)
(あの社長もそこは見損なっていたようだヨ。もうちょっとであっさりここを出て行かれるとこだったヨ)
(ああ、ここまで淡泊とは思っていなかったノだろう。『あいつの性格はつかんだ』とか自慢していたが、思い上がりも甚だしいノだ)
((あとで、説教してやろうな))
(まだしばらくは我らがフォローせんといかんようだヨ)
(とりあえずは、チョコレート作りで引き留めに成功したノだ。ミノウGJである)
(我はただ食べたかったのだヨ。それで中に入ったらあの芳しい匂いに酔ってしまった。我らにはちょっと危険な食べ物だヨ)
(中に入ったりするからだ。よほどたくさん食べなきゃ大丈夫なノだ)
(それはそうかもしれない。食べられるのを楽しみにしておくヨ)
(ところでミノウ。今思い出したノだが)
(ん? なんだ?)
(噂によると、イズナが攻めて来るらしいノだ)
(へぇぇ。どこに?)
(ここに決まっておるノだ!)
(へぇ……へ? マジでか?!!!!)
(お主、イズナとなにか約束をしていなかったノか?)
(約束……したっけ? カカオ酔いでなにもかも忘れてしもたヨ)
(なんかそのことで怒っているようなノだ)
(え? もしかして攻めてくるってのは我のせいなのか?)
(間違いなくそうなノだ。謝ってこいよ)
(うぅぅぅ。検討するヨ)
(いや、検討じゃなくてだな)
(うぅぅ。検討する)
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