異世界でカイゼン

soue kitakaze

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第85話 護衛はハルミ

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「ハルミを護衛として連れて行く」

 と言った瞬間に、部屋中が怒号だかなんだかにあふれた。

 待て待て、そんなのダメだろ! 私は? ハルミはまだ14だぞ。私は? 女の子をそんな危険なところに行かせられるか。私は? しかし護衛のできるものは他にはおらん。私は? 護衛ならミノ軍から人を出してもらえばいいでしょうが。私は? ハルミが行くならワシも行く。私は? ハルミはもう立派な大人の剣士ですよ。私は?

 うん、ひとりしつこいのがいますね。あとじじい、お前ははいらん。

「これは決定事項だ。ハルミ、それでいいな?」
「分かった。まかせておけ!」

 わくわくが止まらないハルミであった。こういうの好きね。

「私は?」
「しつこいのはお前か。ミヨシは留守番だ」
「ユウの意地悪!!」
「意地悪で言ってるんじゃない。お前がいなかったら、誰が飯を作る? 誰が食料を買い出しに行く? 決算書は誰が作る? ウエモンの指導は誰がする?」

「じゃあ私も行けばいいじゃない」
「ウエモンも混ざってんじゃねぇよ! お前には大切な仕事をまかせなければならないんだ」
「え?」

「ちょこれいと作りだ。だいたいの作り方は書いておくので、それを参考にしながら開発をしてもらいたい。ちょこれいとができないと」
「できないと?」
「この国はイズナに蹂躙される(かもしれない)」
「えぇぇぇぇ!! そうなの?」

「そうだ、それだけ重要な仕事だ。いまとなってはお前にしかできないことだ。俺がいない間にそれを進めておいてくれ。それまで、俺が持ちこたえさせるから」
「そ、そうなのね。分かった。がんばる」

 ちょろくて助かった。

「私は?」
「じじいは黙ってろ! 裏声でしゃべんな、気持ち悪い!!」

「タケウチ工房には、日々の仕事がある。せっかく仕事が軌道に乗りかけてるんだ。それを止めてはならない。その作業に直接関わっていないのはハルミだけだ。それ以外の人を連れて行くわけにはいかないんだよ」

「あの、ひとつだけいいですか? ユウさん」
「ゼンシンか。なんだ?」
「魔王のおふたりも一緒に行かれるのですよね?」

「ああ、そのことか。心配するな、オウミは置いて行く。覚醒魔法要員だ」
「待つノだ、ごらぁぁ! 我ももちろん行くノだ。そんな面白そうなところにミノウだけ連れて行くなんてひどきゅぅぅぅぅぅ」

「お前がいないと、鉄に覚醒魔法がかけられないんだよ。鉄ができないと包丁も日本刀も生産が止まってしまう。ゼンシンはそれを心配してるんだ」
「そんなものミノウでもできるノだ。アチラ……はまだ無理か。ミノウを置いてゆけばいいノだ。そんな難しい魔法ではないノだ。お主の眷属になったのは我のほうが先なノだぞ。先輩を差し置いてミノウだけ」

「すまんオウミ。お前にはミヨシの慰め役もやってもらわないといけないんだ。そうしないと、みんなが餓死しかねない。それはミノウにはできないことだ」
「うぅぐっ」

(それに、イズナをなだめるのはミノウにしかできないって話だったろ?)
(うぐぐぐぐぐ。そうであったノだ。分かったノだ……)

「それから俺がいない間、実験計画法は一切禁止とする。通常の試験ならやってもいい」
(俺が帰ってきたときに、計算するものばかりが大量にあったらぐれてやるからな)

「そういうことで、いいだろ? エースさん」
「こちらはそれでかまいません。また、ハルミ殿の美しい剣技が見られるとは、戦時ではありますが楽しみができました」
「あぁそれなんだが、伯爵」
「なんでしょうか、タケウチ社長」

「ハルミは、剣技は優れているとはいってもまだ元服前の14才じゃ。今回はユウの警護のみに使う、ということを約束してくださらんか」
「つまり、戦闘には出すな、ということですね」
「待ってくれ! 私はこれでも剣で身を立てることを望んでいる者だ。元服も間近だし、ミノ国からいつ招集されてもおかしくはない年齢だ。そのような配慮は遠慮したい」

「ハルミ殿の腕前はもう充分承知しております。しかし、今回はユウさんたってのご指名です。こちらはユウさんやタケウチ工房さんにお願いして来ていただく立場ですから、この申し出を無為にするわけにはいきません。ですから、ユウさんの護衛という立場で来ていただけますか」
「そ、そう、いうことなら。分かった。そうする」

 うむ。エースにとってはハルミもちょろいのだなぁ。まるで四角い仁鶴がまーるく収めたみたいに収まった。

「そうそう、ハルミ」
「ん? なんだ?」
「刀は2本、持って行けよ」
「2本? ああ、ということは」
「そうだ。いつも使っているニホン刀と、脇差しとしてのミノオウハル。その2本だ」

 にやっと笑ってハルミは同意した。

「刀を2本持つのですか?」

 不思議そうに聞いたのはレクサスだった。

「ああ、俺のいた国ではそれが普通なんだ。戦闘のときメインで使う刀と脇差しという短い刀を2本腰に差す。脇差しは、万が一メインの刀が失われたときや格闘戦になったときのために使うものだ。こちらにはあまりそういう文化はないようだな」

「ないですね。しかしあんな強い刀、2本も必要ですか?」
「強くても折れないわけじゃない。手放してしまう場合もあるし、盗まれることもある。そんな非常時に使う刀なんだよ」

「予備という意味なら、ニホン刀を最初から2本持つというのはどうでしょうか?」
「長いのを2本持つと、移動のときに邪魔になるからな。脇差しはいざというときの保険のようなものだ」

(本命が脇差しだってことは黙っておくんだぞ、ハルミ)
(分かってるよ、ユウ。うししししし)

「なるほど、それは理にかなっていますね。ウチの自警団の装備も見直してみようかな。それではユウさん、報酬のお話ですが」

「その前に確認をさせてくれ。俺とハルミの宿泊や移動などの費用はすべてそちら持ちでいいよな?」

 レクサスが答えた。

「はい、それはもちろんでございます。それと、おふたりの身の回りのお世話係として、見習い剣士をひとりつけます」

「それは助かる。あ、そういえば、関ヶ原までの移動はどうやってやるんだ? まさか歩きじゃないよな。俺は馬なんか乗れないぞ?」
「おふたりには専用の馬車を用意しますので、ご心配なく。馬車なら関ヶ原まで5時間ほどの距離です。ゆったり乗っていていただければすぐに着きます」

「それはよかった。では、報酬の話をしてくれ」
「はい、報酬に関しましては、当家からとミノ国からと、両方から支払われることになっています。ミノ国側の報酬はこちらでは分かりかねますのでその関係者に聞いてください」

 ほんとは知っているくせに、教える気はないよということだな。腹黒いやっちゃ。

「当家からの報酬につきましては」
「ちょっと待ちなさい、レクサス。ユウさんになにか腹案でもあるのではないか? それを聞いてからにしたらどうだ」

 レクサスはちょっとだけ不審な顔をした。こういうときに口を出すことは少ない当主なのだろう。

 話しをしかけていたのにわざわざ止めた。どうしてだろう? 俺は特別なことを考えていたわけではない。エースはいったい俺になにを見たのか。それとも何かを言わせたいのか?

 おかげでいきなりこちらにターンが回ってきた。困ったな、アドリブには弱いのにいきなり振られてしまった。報酬なんてそっちで勝手に決めてくれればいい。本人に聞くなって話だ。

 確かに報酬を寄こせと言ったのは俺だが。あぁ、面倒くさいこと言っちゃったな。株がもらえないと聞かされた直後だったので、つい言ってしま……待てよ? 株か。株がダメならこんなのはどうだろう?

「通常の報酬に関しては、一切をそちらにまかせる。ただし、成功報酬をひとつ追加してくれないか」
「成功報酬、ですか。それはどのような?」

「いまのタケウチ工房の横に、トヨタ家の費用で研究所を建ててもらいたい。そしてその責任者に俺が就任する」

 はぁぁぁぁぁ???!! ノだヨ。

 驚いたのはお前らだけかよ!

「そこでユウさんはなにをするおつもりですか?」

 なんでエースは嬉しそうなんだ? まさか読まれてたか? そんなことができたらそれこそ魔王だ。

 だってこれ、たったいま思いついたんだからな。言った本人でさえびっくりするぐらい、いままで思いもしなかった案だからな(注:作者もだったりして)。

 それにしても、いつもならツッコミを入れてくれるはずのウチの連中……はみんな口開けたまま天井を拝んでる? なにしてんだよ。たまにくる回覧板でも待ってるのか。

「そこは俺専用で、新商品の開発研究だけを行う施設にしてもらいたい。そこで開発した商品は、トヨタ産業とタケウチ工房とで生産してもらう。そのための研究所だ。どうだ?」

 これで俺の居場所、というものができる。思いつきにしてはナイスだ。もうアパートとか保証人とか考えなくて済む。なにより、俺のカイゼン力をいくらでも発揮できる場所ができるんだ。自分で言っててわくわくが止まらねぇ。

「し、しかし。それはあまりにも急なお話すぎて」
「レクサス、いまの段階では詳細まで詰める必要はないだろう。ユウさんの希望だけをこの胸に納めておけばいい」

 その通り。分かってらっしゃるエースさん。研究所の規模とか雇う人員とか年間の開発費用とか、そんな具体的な話はあとから詰めればいいことだ。社員など俺ひとりでもいい。

 いまはただ、このコンセプトを受け入れられるかどうか、俺はそれを聞きたいのだ。

「ユウさんは、いつもこちらの度肝を抜くお方だ。まさかそんな条件が出るなんて思ってもみませんでしたよ。しかし、それは大変興味深い申し出です。この戦争が片付き次第、具体的なお話をしましょう」

「とっ、とっ、ととととと?」

 じじいがなんか言おうとしている。とっ、はもういいからとっととしゃべれ。

「とっとっと言われますと、つ、つ、つまり、その話はあり得るということですか?」
「そう考えてもらってかまいません。研究所の規模や予算は応相談ということになりますが、この地にトヨタの第3研究所を作ることは、じつは我々にとっても悲願だったのです」

 あれ? 悲願とか言ってるよ、この人。やっぱり俺は言わされたのか?

「タケウチ工房の買収の話も、じつは根底にそれがあったのです。ここはびっくりするぐらい敷地が広い。山地でありながら平らな部分だけでもイルカ池の10倍はあるでしょう。現在はその1%ぐらいしか使っていませんね。しかも、敷地内の山には滝があって、そこで発電までしている。エネルギーがふんだんにあることがどれほど稀少なメリットであることか、失礼ながらお分かりになっていないかと思います。じつにもったいないのですよ」

 あれれあれ。今度は急に語り出したぞ、イルカ池ってあれか。農業用水のために作ったでっかいため池のことだろう。こっちにも同じ池があるとはね。

(ここは電気は余ってるって言ってたな。ニホン中がそうなのかと思ったが、そういうわけではないのか?)
(当たり前なのだヨ。我が手間暇かけて作ったのだからヨ)
(そうだったな。もしかして、発電所が稼働してるところは、こことオウミの領地ぐらいなものか?)
(そういうわけでもないが、珍しいことは確かだヨ。水力発電には落差と豊富な水量のある滝が必要だから。そんな土地はめったにはないであろうヨ)

「いやいや伯爵。ワシには分かってはいたよ。いたんだが先立つものがなかっただけでな。この地は本当に恵まれている。エネルギーにも資源にも、そして人材にもな」
「これは失礼しました、タケウチ社長。口が過ぎました。その資源とエネルギーそして人材に、当家の資金を加えれば鬼に金棒ではありませんか」

 乗っ取られなければ、だけどな。しかしそこはじじいがうまくやるだろう。孫娘のことでさえなければ、頼りになるじじいだ。

 これでちょこれいとの開発にも弾みがつきそうだ。ウエモン、頑張れよ。

(ウエモンとちょこれいと工場かヨ)
(誰がうまいこと言えと)

「うむ、そういうことならワシらもできる限りの協力を約束しよう」
「ありがとうございます。でもその前にユウさん」
「ん?」

「トヨタ第3研究所の設立条件は、イズナ軍の撃退、ということでよろしいか?」
「いや、イズナ軍の撤退、ということにしてもらう」

「どう違うのでしょう?」

 この執事さんは、分かっているくせにわざとこちらに言わせようとするときがあるんだよなぁ。胡散臭いなぁ、この人。

「イズナの目的が領地ではないのなら、なにも敵を撃退する必要はないってことさ。二度と侵攻などする気が起きない程度に痛めつけた上で、撤退してもらえばいいんだろ?」

「どう違うのか私にはさっぱりだけど?」
「ハルミは分からなくていいから。お前は俺の護衛だけすればいい」
「そうか、そうする」

 うん、自分の分を守る。いい剣士である。

「分かりました。イズナ軍の撤退。その条件をのみましょう。ユウさん、よろしくお願いします」

 即断即決である。これはエースの信条か、トヨタ家の家風か。まあどちらでもいい。おかげでちょっとやる気が出た。

「それではさっそく準備に取りかかろう。今日1日だけ、引き継ぎの時間をくれ。いろいろ指示しておかないといけないことがある」
「分かりました。それでは明日の朝10時に迎えの馬車を寄こします」


(あのぉところで。我はどうすれば良いのだヨ?)
(それは次話に明らかになる)
(気を持たせるヒキなノだ)

(もしかして、またコピペではないノか?)
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