異世界でカイゼン

soue kitakaze

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第87話 撃退の準備はできた!

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 どんどこ、どこどこ、がったんこ。どんどこ、どこどこ、がったんこ。ああ、ケツが痛い。

「どうした、ユウ?」
「まだ着かないのかなぁ。ケツが割れそう」
「それは最初っから割れているって定期」

 俺たちは馬車に揺られている。しかし俺は断言する。これは馬車ではない。

 馬車を引いているのがでっかいウサギだからである。これはでかウサ車というべきである。馬と違ってウサギははねる。月を見てはねる。ぴょんぴょんする。
 心がぴょんぴょんする分にはごちうさだが、リアルでぴょんぴょんするたびに、がったんこという振動が来るのだ。それがきつい。

 俺の心はぴょんぴょんしないが、がったんこのたびに車が揺れて俺のケツの肉がぽろぽろ落ちて行く。そんな夢を見そうだ。ミスタさんのキモチがよく分かる。ああ。ケツの肉がゴミのようだ。

 普段は馬を使うらしいが、馬よりもこちらのほうが早いので、急ぐときにはこのでかウサギが使われるのだそうだ。そんなに急がなくてもいいのになぁ。

 それにしても。

 どうしてサスペンションぐらいつけなかったのか、と俺は問いたい。小1時間は問い詰めたい。ケツが痛い。韻を踏んだつもり。

「あとどのくらいかかるんだろ? ハルミは平気か?」
「私はケツの肉が厚いから、ってなにを言わせるんじゃぁぁ!!」

 自分で勝手に言っておいて勝手にキレるな。

「あと1時間ほどで着きますよ。なんですか、そのさすぺんしょん、というのは?」

 同じ馬車に同乗して、前の助手席にいる執事のレクサスである。

「クッションのようなものだ。この車にはなんでそれが装備されてないんだ?」
「ああ、クッションならついてますよ。でも、道の状態が悪いのでミナミ(でかウサギのこと)だと多少は揺れますね。もうしばらくご辛抱ください」

 多少じゃないしご辛抱なんかしたくないし。これでもサスペンションがついているのか。舗装されていない石畳の道を、でかウサギで走るなんてこと自体が無謀じゃないかと思うのだが。ああ、ケツが痛い。

 どんなのがついているのかあとでチェックしてやろう。これは改善ネタになるかもしれない。タケウチは優秀な鉄が作れるからな。板バネもできるだろう。

 幸い、俺のケツ肉がまだ残っているうちに目的地に着いた。関ヶ原である。

 山あいにできた盆地。伊吹山地と養老山地の間の断層が作ったぼう漠の大地・関ヶ原。20万からの軍勢が自在に駆け回ることのできるただっぴろい草原である。

 日本列島は、この辺りでハルミのウエストのようにきゅっとくびれている。

 その狭いエリアに、豊富な水蒸気を持ったシベリア寒気団が日本海から敦賀湾を通って吹き抜けるとき、途中で琵琶湖の水までも巻き込んで湿度を増やし、この地に大雪を降らせるのだ。だからここは豪雪地帯としても有名だ。

 ここは気候的にも日本列島を分断する場所なのである。いつもの豆知識。

「お疲れ様でした。着きました。侯爵様がお待ちです」

 案内されたのはどでかい3階建ての一軒家だった。戦場に一軒家? ここが本陣であるらしい。

「よくおいでくださいました。ユウさん、ハルミ殿。お疲れでしょう。まずはゆっくり休んでください。2階におふたりの部屋を用意してあります」
「それはありがとう。でもその前に、現状がどうなっているのかをざっくりいいので教えてもらえないか?」

 取るものもとりあえず、俺はそう提案した。ケツは痛いが特に疲れてはいない。ハルミなんか元気そのものだ。早く情報を手に入れないと、俺とミノウの動きが取れないのだ。

「分かりました。それではここの3階に行きましょう。そこから敵の様子がよく見えます」

 階段をてこてこ上がり、最上階に着く。そもそも高台に立てられた陣である。そこからさらに3階まで上がると、草原が一望のもとに見渡せる。

「よくこんな場所にこんな都合の良い建物? がありましたね。地元の商家とかを接収したのですか?」
「ああ、ハルミ殿はご存じありませんでしたか。ここは当家が即興で建てたんです」

 はい?

「トヨタ家の技術なら、このぐらい3日で建てられますよ。あらかじめ加工した材木を運んで、現場で組み立てるだけですからね」

 トヨタ家パネェッす。あれ? どこかで聞いたような話だな。

「まさかそれ、釘や接着剤を一切使わないでっていう」
「おや、ユウさんはご存じでしたか。その通りです。建築は私の担当ではありませんので詳細は分かりませんが、どこかの会社が開発した技術を当家が買い取ったらしいですよ。おかげでこの程度の家であれば、すぐに建てられるようになりました」

 俺の前のユウの仕事じゃねぇか。まあ、良かったな。ちゃんと有効性を認めてくれるところがあったようだぞ。
 しかし、これだけの豪邸を、この程度とか3日で建てられるとか、なんだか桁の違う人と話している感じが拭えない。

「これで、もっとよく見ることができますよ」

 そう言って渡されたのが単眼鏡(手持ちサイズの望遠鏡)であった。まだ双眼鏡を作れる技術はないのだろう。倍率も3倍でしかない。しかし、これで相手の陣地らしきところは丸見えになる。

 あちらがなになにで、こちらがそれそれ。そしてあれがナニでこれがそれ。うむ、とても分かりやすい説明である。

 自分で見た感じだが、あちら陣営もこちらの部隊ものんびりしたものだ。これから戦争するぞって感じがまったくしない。まだ準備中だからなのかな?

(ユウ! 大変だ、イズナがいるヨ!)
(戦場まで来たんだ。そりゃあいるだろ)
(おちついている場合じゃないのだ。やつはここに乗り込んでくるつもりだヨ)

(げげげ。いきなり戦争になるのか?)
(それは違う。魔王は戦争には加担しないヨ)
(へぇ? でもイズナ軍が侵攻してきてんだろ?)
(戦争してるのは領主たちだヨ。ただし、イズナが了承しないと他国に軍は出せないのだヨ。だから便宜上イズナ軍と呼ばれているだけで、イズナ自身は戦争はしないヨ)

(なんだそうなのか。じゃあ願ったり叶ったりだ。すぐに来そうか?)
(あと10分ぐらいだと思う。急いだほうがいいヨ)

「まだ、敵さんが攻めてくる様子はないよね、侯爵」
「そうですね。進軍がすごく遅いのが今回のイズナ軍の特徴なのです。いつもはもっと素早いのですが、今回はどうにも理解できない動きが多いのですよ」

「いま、いつもはって言った?」
「はい。もともとエチ国ととオワリ国は犬猿の仲なのです。もう1,000年に亘って戦いを続けています」

「エチ国? ってどこ?」
「エチゼン、エッチュウ、エチゴのすべてを束ねる面積ではニホン最大の国です。その支配者・タキ家がトヨタ家と犬猿の仲なのです」

 寿命の長い犬と猿だこと。

「私もすでに十数回は戦火を交えています。ただ、今回は何故かいつもはスルーするミノ国に攻め込もうとしています。それも不可解なところです」

(それはお前のせいだな、ミノウ?)
(そ、そうかもしれないが、そうかもしれないのだヨ)
(言い訳になってねぇぞ)

「万が一、ミノ国をエチ国に取られるようなことがありますと、オワリ国は大変危険なことになります。その点で、オワリ国とミノ国との利害が一致しました」

「様子はだいたい分かった。とりあえず敵の動きがないのなら、俺たちは部屋で待機していることにする」

「はい、そうしてください。なにか動きがありましたらすぐに呼びに行かせます。それから、こちらの見習い兵士・アイシンをお世話がかりにつけますので、なんなりと申しつけてください」

「はい、私がアイシンです。こちらにご滞在になる間は、私がお世話をさせていただきます。よろしくお願いします」

 アイシン。11才の見習い剣士。トヨタの分家であるアイシン家の跡取り息子であるらしい。

(よし、部屋に入ったらイズナと決戦だ。分かってるな、ミノウ)
(ドキドキハラハラ、どきどきはらはら、ヨ)
(緊張しているのはよく分かった。俺も支援するから頑張れ)
(たのんだヨ)

 そして通された部屋がまた無駄に広い。そして奥の間とふたつに分かれていた。流しも台所もトイレも風呂までついている。どえらい待遇だこと。俺たちにそんな価値があるのだろうか。

 まさかとは思うが、エースは俺が魔王を使役していることに気づいてるんじゃないだろうな?

「こちらはユウ様のお部屋となります。そしてすぐ奥が護衛騎士のハルミ様の部屋です」
「待てこら! 俺とハルミとの間には扉さえないじゃないか。これじゃお互いが丸見えだぞ」
「ええと。でもこれは、旦那様からの指示でして。その」

「ユウ、アイシンを困らせるな。私は護衛だ。扉などがあってはいざというとき守ることはできん。これが当たり前のことだぞ」

 ええ? そうなの?! 着替えとか入浴とかその他いろいろなうれしい楽しい大好きイベントが盛りだくさんで丸見えで良いのか。

(そこはお主が配慮するのであろうヨ)
(配慮か。ふむ。そうか配慮することにしよう(のぞかないとは言ってない)」

「そ、それじゃアイシン殿はもう下がってくれ。しばらくはゆっくりもしたいし、荷ほどきなども必要だ」
「かしこまりました。私は隣の部屋にいますので、なにかありましたら、このベルを鳴らして呼んでください」

「分かった。ありがとう」

 そう言ってアイシンを下がらせたあと、ミノウが姿を現して3人で打ち合わせである。

「ミノウ、なにはともあれすぐに謝れ。イズナにしゃべるスキを与えないぐらいの勢いで謝れ。ここでいきなり魔王同士のケンカになったらシャレにならんからな」
「わ、わ、分かったのだ。まずは謝るのだな」
「イズナがどのくらい怒っているのか分からんが、そうやってまずは矛先を反らす。そうしているうちに、対策を俺が考える」

「私はなにをすれば良い?」
「ハルミはお茶とお菓子の準備だ。栗きんとんは持ってきたな?」
「ああ、ある。あれをここで使うのか。ひとり分でいいよな?」

「ハルミは自分で食べたいのだろうが、接待が優先だぞ?」
「わ、分かってるって、なにをいまさらあははは」

 誤魔化すのヘタか。

 栗きんとんはミノ国の名産である。秋の季節にしか作られない貴重品だ。生産量も少ない。

 俺のいた世界と違って砂糖が添加されていないせいもあって、素朴な味わいだが栗の味がたっぷりあってうまい。ただ、日持ちしないのがこのお菓子の唯一の欠点だ。そういう意味では、イズナがすぐに来てくれるのはありがたいことだ。

 さて。イズナ迎撃(接待)の準備はできた。さぁ、いつでも来い?!
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