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第89話 いずこへ??
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結局イズナは、俺たちが持ってきたありったけの栗きんとんを食べ尽くし、
「ばくばくばく、うまいうまいうまい」
お茶を飲み干し、
「ぐびぐびぐびびびび」
お土産にナツメを27個(つまりは持てるだけ)もらって帰って行った。
「じゃ、我は陣地に戻って経過を見守るゾヨ。まあ、がんばりたまえわはははは」
来たときと違って、やけに陽気なイズナであった。そのぐらい心配していた……というよりも遊び相手がいなくなって退屈していたのではないだろうか。
長生きする魔王にとって退屈は最大の敵であると、俺はオウミとミノウを見てよく知っている。
こいつらは好奇心の塊だ。元の世界の現代日本人を上回る新しいもの好きだ。それだけに誰とも話ができない無為な時間を、とてもとても恐れるのである。
しかし、誰かの眷属にでもならない限り、魔王と対等に話せる人間などほとんどいない。それこそ賢者か大魔術師レベルぐらいなものだろう。
そういう人間は数が少なく、しかも決まってなんらかのしがらみ(国の重鎮だったり軍隊を率いていたり)を持っているものばかりだ。
そういう相手では、魔王もおいそれと本性を見せるわけにはいかない。ざっくばらんに話すというわけにもいかない。本音を語り合うこともできない。ボケもツッコみもできないのだ。
俺が特殊なのは、そうしたしがらみを一切持たずに魔王と話ができるという点だ。だからこそ、こいつらは俺に懐いてくれているのだろう。
イズナはエチ軍の情報を隠すこともなく明かしてくれた。それもおそらく退屈のなせる技だ。イズナはまだ知らない。ハルミの剣技とその魔刀の力を。
だから、イズナはエチ軍のほうが圧倒的に有利だと見ている。それなら戦力を均衡させるのに、多少の情報漏洩はかまわないと思ったのだろう。
そうやってイズナは戦争を見て楽しんでいる。楽しみだから長引かせたいのだ。エチ国の人間が血気盛んなのは、イズナがそう仕向けているからもあるのではないか。
自分が抑えていると言うのは表向きの言い訳でに過ぎなくて、戦争となればイズナはおおっぴらに国の外にでられるからではないか。退屈しのぎができるのだ。それが本当の狙いに違いない。
俺はそう判断していた。
となると。もう二度と侵攻するという気持ちを起きさせないためには、エチ軍を痛い目に合わせるだけでは足りないということになる。
イズナが栗きんとんを平らげるほどの甘党であることや、ハルミがそれを作ることができると軽率な勘違いしたことも考えるべきであろう。そして一番重要なのはイズナに退屈させないことだ。
イズナは食べ物で釣れ……いや、懐柔できる。
「お主、なんか悪い顔になっているのだヨ?」
やかましいよ。その通りだよ。懐柔したら、あとは退屈をさせないように……どうすればいいだろう?
俺にはあと1回分召喚魔法が残っているが、これ以上俺は眷属などいらない。それ以外でイズナを領地から自由にしてやれる方法はないものだろうか。
まあ、それはこの戦争が片付いてからゆっくり考えることにしよう。
とりあえずは、明日にも見せるハルミの剣技で度肝を抜いてやろう。
「ユウ。接待は、成功だよな?」
「あ、ああ。成功だと言ってかまわないだろう。慣れない仕事させてすまなかった、ハルミ」
「それはかまわないけど、全部食べられちゃった……」
「栗きんとんぐらいでしょんぼりするな。いまにもっとうまいものを食べさせてやるから」
「それは、本当なのかヨ?!」
お前にじゃねぇよ! ミノウはこっそりご相伴にあずかっていたじゃないか。
「そうか。私にはあれ以上のものというのが想像できんが、楽しみにしておく」
そして例によって夜の9時にはぐっすらこんと眠りに落ちた俺は、ハルミの着替えも入浴ものぞくこともなく、次の日の朝を迎えたのであるこんちくしお。快晴である。
「おはようございます。ユウさん。ハルミ殿。イズナ軍が動き始めました。食事が終わったら見に来てください。アイシンに案内させます」
「いやもう食事はほとんど終わっている。すぐにでかけよう。どこか敵を見渡せる場所はないか? この屋上では先頭の部隊しか見えなかった」
朝9時に起きて、俺たちはすぐ屋上に向かったのだ。そのときには敵軍に特に変化は見られなかった。そして用意された朝食を食べているときにエースがやってきた。
「よろしいのですか? 敵部隊まではまだかなり距離がありますので。ゆっくり食べ終わってからでも充分です。そんなに急がなくてもよろしいかと。それに、ユウさんやハルミ殿をあまり危険な場所にお連れするわけには」
「侯爵様、かまわない。ユウの言う通りしてくれ。敵の、それも戦車の部隊が見渡せるところに案内してもらいたいのだが」
「戦車部隊でしたら、現在3カ所に分散しているようです。左翼に15台。中央に35台。右翼ははっきり分かりませんがおそらく10台前後を配備しているようです。そのうちの左翼と中央はあの丘に立てばほぼすべて見えると思いますが?」
「もぐもぐもぐ、この柿もうまいな。よし、じゃあその丘まで案内してくれ。それと、俺たちのすることは、しばらくは静観していてくれもぐもぐ」
「え? ええ。ユウさんがそうおっしゃるなら案内はします。ただ、あの戦車はとても危険な相手です。動き始めたら近づく前にこちらから打って出る予定をしています。そのときはすぐに避難してください」
「あ、うん。そうだね」
と気のない返事を送って、合計50台ほどの戦車が見渡せるという丘に向かう。エース軍が打って出る必要はおそらくないだろうなぁ。
「必ずですよ!」
「あ、うん、そうだね」
(すごい温度差があるようなのだヨ)
丘の頂上の少し手前で単眼鏡を使って敵を観察する。さすがに戦車を横一列に並べていてはくれない。こちらに4台。あちらに7台といった具合にある程度は分散させている。
突入するときにはどこか一カ所に集めるのだろうけど、それをどこにするか、まだ決めていないようだ。
「イズナがこちらのことをどう伝えたか、だな」
単眼鏡はひとつだけだ。当然、それは俺が持っている。ハルミは裸眼で見ている。しかしである。
「でも、警戒しているようには見えないぞ。あ、あの男、ズボンのファスナーが開いている」
「視力いいなお前は! そんなもんは見なくてよろしい」
「裸眼で3.0以上あるからな。見なくてもいいものまで見えてしまうのだ。100m先のアリが動いていても視認できるぞ」
「お前はブッシュマンか。それはすごいが自慢はもういい。ファスナーごとぶった切ってやれ」
「どのみち、私の目に見える部分の無機物だったら斬れちゃうだろう。気の毒にな」
「敵に同情することはないぞ。しかし、戦車を何台か壊せば向こうも異変に気づくだろう。ハルミの恐ろしいほどの能力にもな。そのときにどんな対策をとってくるのか。そこが最後の勝負どころとなるだろう」
「そ、そ、そうだな。なんかわくわくするするな」
「ファスナーを壊すのが?」
「そんなわけあるかっ!」
そのときは俺の指示に従えよ。それからまだ気持ちは抑えろ。などなど細かい指示を与えつつしばらく観察を続ける。時間は10時を回った頃だろうか。先頭車両が動き出した。
「あ、ユウ。動いたぞ」
「動いたな。これで後ろが続いてくれば、全体がよく見えるようになるのだが。そろそろやれそうか?」
「いけると思う。もう私は出ちゃって良いのでひゃにゃいか?」
カンでんじゃねぇよ。緊張してんのか興奮してんのか。この分だと保たない。ハルミが。
もういいや、やらせよう。ニホン刀を振るだけだ。弾が減ることも銃口が過熱して撃てなくなる心配もないのだ。よく考えると恐ろしい武器だな、これ。
「よし、ハルミ。刀は2本とも持ったな?」
「ああ、ちゃんと両方とも腰に差してある」
「周りの連中には、長いほうを振ったと思わせたいんだ。だからミノオウハルは使ったら毎回すぐに鞘に戻せ。お前の剣技ならいつ抜いたかなんて誰にも分からんはずだ」
「分かってるよ。これは魔刀だからな、秘密にしておくのだろ?」
「その通りだ。じゃあゴーだ。撃つタイミングはお前にまかせる」
よっしゃぁぁぁ! という気合いを残してハルミは猛ダッシュで丘の頂上まで走って行った。そのときエースがやってきた。
「戦車部隊が動き始めました。危険です。お戻りください!」
「侯爵。もう少し見ててくれ」
「はい、しかし、私にも責任が」
「まだ、相手の攻撃は届かない距離だ。大丈夫だ」
「ええ、でもあの戦車、見た目よりも足が速いのです。そろそろ退却を」
向かい風が吹いている。敵陣の先頭までの距離はおよそ5km。そんな高台にハルミは立っている。
長い髪をあえて結ばず、風に流れるままにしているのは、女性であることをアピールするためだ。
女性ならば敵は撃ってこないだろうとか、そんな姑息なことを考えているわけではない。これは伝説を作るための工夫だ。
弓の射程などせいぜい100mに過ぎない。弩を使ったところでせいぜい400m程度だ。そしてたいがいの魔法も、射程はそれらとほとんど変わらない。
ハルミの立っているのはそういう場所である。お互いにどんな攻撃も届くはずのない距離。しかし目で見ることはできる距離。小さな雲がちぎれたりくっついたりしながら空を泳いで行く。
その丘に仁王立する少女。そこから少女は飛ぶ斬撃を放つのだ。これが伝説にならずしてなにが伝説になりうるというのだ。
敵陣ではハルミの仁王立を「異変」と捉えていた。敵陣での会話である。
「おい、すっげぇ美女があんなとこに立っているぞ」
「おおぉ。乳もでっかいなぁ。俺の好みだ。嫁にしてえなぁでへへ」
「お前の女房にチクってやるぞ」
「それだけは勘弁な。しかし、いい女だなぁ。乳もでかいし腰はきゅっと締まっているし」
「後ろを向いてケツを見せてもらいたいものだな」
「ああ、あの乳を好きなだけ揉みしだきてぇ」
うん。まるでグラビアアイドル扱いですね。
「見世ものにすんなぁぁ!!!」
ハルミの魂の叫びである。しかし、それは決して表には出してはいけないのだ。これから伝説を作るのだから、と何度も言い聞かせてある。
伝説に必要なものは、神秘性とインパクトだ。ツッコんだらその瞬間に神秘性は失われる。だからなにを言われても我慢するのだぞ。
いい乳していることには同意する。それどころかケツだって最高だぞ?
ぶげっぶ。。。。
振り向きざまにハルミが投げた石が俺の顔面を直撃した。すぐ隣に侯爵がいるというのに、こういうときはえらく正確だないだだだだだ。
「だ、大丈夫ですか? ユウさん。アイシン、すぐ回復魔法を」
「だ、だ、大丈夫だ。それより侯爵、見逃さないほうがいいぞ。これからそう何度も見られることのない、ハルミの渾身の魔法が炸裂するからないででで」
「えええっ? ハルミ殿は魔法使いだったのですか」
違いますよ。でも、そういうことにしておかないと説明がめんどくさいんだもん。
「隠していたけど、その通りだ。それで一気にケリをつける」
「しかし、この距離で届く魔法なんて魔王ぐらいにしか使えない超級魔法だけですよ。それに、あの戦車には魔法防御がかけられています。それを打ち破るほどの魔法なんていったらやはり魔王の」
侯爵の話が終わらないうちに、ハルミが動いた。
それは音もなく始まった。敵兵士たちがエロエロの目で見つめる中、かの少女は腰に当てた手を下から上に振り抜いたのだ。その刹那。
戦車がすこんっという音を立た。魔法防御はあくまで魔法に対する防御だ。ハルミの魔刀は、魔力でもって刀を飛ばし物理攻撃でもって相手を斬る。そういうたぐいのものだ。魔法防御では防げない。
その戦車は3人乗りであった。うちふたりはミナミの世話役である運転手。残りのひとりは進行方向を決めるなどの指揮者である。
ミナミは戦車の中で回し車を回している。それが動力だ。それを安定して走らせるためにエサをやったり水を与えたり、ときには脅かしたりするのが運転手の仕事である。
指揮者は戦車の中でもやや高い位置に座っているために、異変をすぐに察知した。のぞき穴の位置が勝手にずれて行ったからである。
「あれれ? あれれ? あれぇ?」
などと言っているうちに、戦車の上半分が取り残されるように後ろにずれて下がり、下半分だけが前に進んでいた。指揮者は戦車の上半分と運命を共にした。ぎゃーー。
頭の上が突然に明るくなって運転手も驚いたが、一番驚いたのはミナミたちであった。妙な音と突然の光に彼らはパニックとなり、戦車から飛び出し逃げてしまった。
ハルミの飛ぶ斬撃は、戦車を上下ふたつに分断したのだった。
かくして戦車は沈黙した。あっけにとられるふたりの世話係……運転手を残して。
ハルミは確かに手応えを感じていた。
(す、すごい。練習のときよりもずっと遠いのに。本当に見えさえすれば切れるんだなこの刀は。このずしりとした手応えの分だけ戦車が斬れている。ああ、快感だ。もっともっと、もっと斬りたい、もっと)
最初の一撃でハルミが斬ったった戦車は4台であった。それを見て、俺は声をかける。
「その調子だ。見える限りの戦車をぶった切ってしまえ!」
ハルミはやや硬直した顔をこちらに向けて頷き、再度ミノオウハルを振った。
2回目は7台。3回目は11台。戦車が沈黙してゆく。そのうち、敵も気がついた。あの少女がなにかを振るたびに、こちらの戦車が「斬れてゆく」ことに。
しかし、そんなことが起こるとは思っていなかった彼らには、とるべき手段がとっさには思いつかない。
魔法防御をかけてあるはずなのに、どうしてこんな簡単にやられたんだ。そもそも鉄がこんなキレイに斬れるはずがないだろ。ほんとにあんな遠くから魔法を撃っているのか。どんな魔法だ。修理はできないのか。ミナミを捕まえろ。
などなど、現状分析さえできずにうろたえるだけであった。ただただ、疑問符のオンパレードである。
そうこうしているうちに、4回目は15台。6回目は9台と戦車は沈黙をしてゆく。すでに中央と左翼の戦車部隊は壊滅状態であると言って良いだろう。
「なんでだよ。どうしてだ。どうして戦車だけが斬れてくんだ?! どんな魔法を使ったらそんなことができるんだ」
「隊長。それよりも、これでは進軍できません。ミナミは逃げるしもともと飼育係……運転手は戦闘の役には立ちませんし」
「まだ右翼の戦車は無事だな。その戦車はなにがなんでも守れ。魔法使いを動員して結界を張れ。魔法だけじゃなく物理攻撃にも耐性のあるやつだ」
「しかしそれをやりますと」
「いいからやれ!! あの戦車を全部失ったら我が国は滅びるぞ!?」
「は、はい!!」
7回目は2台。8回目も2台。これで中央と左翼の戦車は完全に排除した。
よくやった。もういいぞ、ハルミは戻ってこい。一旦下がって次は左翼を狙うために移動す……ハルミ? ハルミさん?
おーい、いずこへ??
もどってこーい。おーいこらぁぁ。そっちじゃないぞーー。なんで勝手に敵陣地に向かって走ってゆくんだよ!? お前はアホかぁぁ!?!
そのとき、エースが大声を出して言った。
「ものども!! ハルミ殿を守……。ハルミ殿に続けぇぇぇl!! 敵を一気に殲滅するぞ! 進めぇぇぇやぁぁぁぁ」
守るって言いかけて、続けと言い直した?! なんのこっちゃ。あれ、俺はいったいどうすれば? 俺を守るハルミがいなくなっちゃったら俺はどうすればはれほれひれはれ???
「ユウさん。あとはこちらにまかせてください。アイシン。ユウさんの保護を命じる。安全なところまで下がって待機せよ」
「ええっ、そんな僕だって」
「アイシン、命令だ!」
「……はい。分かりました。それではユウ様、この馬に乗ってください。安全なところまで護衛します」
「あ、ああ、すまん。よろしく頼む」
こうなったら俺はもう戦場では足手まといに過ぎない。一足先に撤退である。ただ、撤退するときの護衛がハルミからアイシンに変わってしまっただけだ。だけどもう少し見ていたかったなぁ。
ぱっからぽっからぺっこら。アイシンと俺を乗せた馬が走る。あれ?
「アイシン、例のお屋敷に行くんじゃないのか?」
「いえ、あそこは危険です。もっと東の桃配山にあるお屋敷までお連れします」
「あそこがそんなに危険なのか? どうしてだ?」
「いま、ハルミ様が暴走……あ、いや、先陣を切ったことで、侯爵は決戦時と見ました。それで全軍を敵の左翼に向けたんです」
「気を使わなくていい。あれは明らかにハルミの暴走だ」
「はい。相手は戦車こそ失いましたが、敵の兵士には被害がでていないようです。つまりは、こちらの倍の戦力がまだあるということです」
ああ、そうだった。俺は戦車のことしか考えていなかった。あれさえ潰せば勝てると思い込んでいた。
だが、現実はそうじゃなかった。ものすごく不利だった戦いが、不利になったに過ぎなかったのだ。
「侯爵が全軍を左翼に向けると、あの屋敷は敵の主力に対してまるで無防備になります。敵が陣を建て直して落ち着きを取り戻したら、まっさきに攻撃対象になるでしょう。それでユウ様を逃がせと、僕に命令したのです」
ほぇぇぇ。俺ってばとっても危険なとこにいたのね。のんびりした戦いだと思っていたのに、じつはそんな危険な場所であったとは。
渡り終えたあとで、じつは下は断崖絶壁だったと知らされた綱渡りの人みたいに、いまさらながらにビビる俺なのであった。
「アイシン、もうひとつ聞いてもいいか?」
「はい、なんでしょうか?」
「なんでエース……侯爵はハルミを守るといいかけて、続けと言い直したんだろう?」
「ああ、あれは志気を高めるためですね」
「志気を高める? あれでどうやって?」
「つまり、ハルミ殿が暴走したので仕方なく応援を出すのではなく、最初からそういう計画であったと兵士たちにそう思わせたかったんです」
「なんでまた、そんなことを?」
「ハルミ様の剣技もあの暴走も、侯爵にとっては予定外でした。もちろん私にとってもです。でもそれを後追いで承認したと思わせたのでは、兵士たちに戸惑いが生じます。そんな行き当たりばったりな指導者について行って良いものだろうか、という疑惑がわくのです」
「それは、確かにそうだな」
「それで、あれは最初から俺の計画通りなのだ、というフリを侯爵はしたのです。そうすることで、志気を落とさず敵に当たることができるのです」
ああ、なんてややこしい世界。俺には無理だ。もう戦争に関わるのは止めよう。
「自分の動揺などは心の奥底にしまい込んで、いかにも最初から予定通りの作戦であると、そう兵士たちに思わせたのです。あのタイミングでのあのとっさの判断。私にはとてもマネができません。すばらしい近衛大将です」
「ほえぇ。侯爵がすごいのはよく分かったが、それは戦いに勝っての話だよな」
「それはその通りです。屋敷についたら戦場が見えます。もう少しつかまっていてください」
そんな頃。エチ国の左翼では、大変なことが起こっていた。
「ばくばくばく、うまいうまいうまい」
お茶を飲み干し、
「ぐびぐびぐびびびび」
お土産にナツメを27個(つまりは持てるだけ)もらって帰って行った。
「じゃ、我は陣地に戻って経過を見守るゾヨ。まあ、がんばりたまえわはははは」
来たときと違って、やけに陽気なイズナであった。そのぐらい心配していた……というよりも遊び相手がいなくなって退屈していたのではないだろうか。
長生きする魔王にとって退屈は最大の敵であると、俺はオウミとミノウを見てよく知っている。
こいつらは好奇心の塊だ。元の世界の現代日本人を上回る新しいもの好きだ。それだけに誰とも話ができない無為な時間を、とてもとても恐れるのである。
しかし、誰かの眷属にでもならない限り、魔王と対等に話せる人間などほとんどいない。それこそ賢者か大魔術師レベルぐらいなものだろう。
そういう人間は数が少なく、しかも決まってなんらかのしがらみ(国の重鎮だったり軍隊を率いていたり)を持っているものばかりだ。
そういう相手では、魔王もおいそれと本性を見せるわけにはいかない。ざっくばらんに話すというわけにもいかない。本音を語り合うこともできない。ボケもツッコみもできないのだ。
俺が特殊なのは、そうしたしがらみを一切持たずに魔王と話ができるという点だ。だからこそ、こいつらは俺に懐いてくれているのだろう。
イズナはエチ軍の情報を隠すこともなく明かしてくれた。それもおそらく退屈のなせる技だ。イズナはまだ知らない。ハルミの剣技とその魔刀の力を。
だから、イズナはエチ軍のほうが圧倒的に有利だと見ている。それなら戦力を均衡させるのに、多少の情報漏洩はかまわないと思ったのだろう。
そうやってイズナは戦争を見て楽しんでいる。楽しみだから長引かせたいのだ。エチ国の人間が血気盛んなのは、イズナがそう仕向けているからもあるのではないか。
自分が抑えていると言うのは表向きの言い訳でに過ぎなくて、戦争となればイズナはおおっぴらに国の外にでられるからではないか。退屈しのぎができるのだ。それが本当の狙いに違いない。
俺はそう判断していた。
となると。もう二度と侵攻するという気持ちを起きさせないためには、エチ軍を痛い目に合わせるだけでは足りないということになる。
イズナが栗きんとんを平らげるほどの甘党であることや、ハルミがそれを作ることができると軽率な勘違いしたことも考えるべきであろう。そして一番重要なのはイズナに退屈させないことだ。
イズナは食べ物で釣れ……いや、懐柔できる。
「お主、なんか悪い顔になっているのだヨ?」
やかましいよ。その通りだよ。懐柔したら、あとは退屈をさせないように……どうすればいいだろう?
俺にはあと1回分召喚魔法が残っているが、これ以上俺は眷属などいらない。それ以外でイズナを領地から自由にしてやれる方法はないものだろうか。
まあ、それはこの戦争が片付いてからゆっくり考えることにしよう。
とりあえずは、明日にも見せるハルミの剣技で度肝を抜いてやろう。
「ユウ。接待は、成功だよな?」
「あ、ああ。成功だと言ってかまわないだろう。慣れない仕事させてすまなかった、ハルミ」
「それはかまわないけど、全部食べられちゃった……」
「栗きんとんぐらいでしょんぼりするな。いまにもっとうまいものを食べさせてやるから」
「それは、本当なのかヨ?!」
お前にじゃねぇよ! ミノウはこっそりご相伴にあずかっていたじゃないか。
「そうか。私にはあれ以上のものというのが想像できんが、楽しみにしておく」
そして例によって夜の9時にはぐっすらこんと眠りに落ちた俺は、ハルミの着替えも入浴ものぞくこともなく、次の日の朝を迎えたのであるこんちくしお。快晴である。
「おはようございます。ユウさん。ハルミ殿。イズナ軍が動き始めました。食事が終わったら見に来てください。アイシンに案内させます」
「いやもう食事はほとんど終わっている。すぐにでかけよう。どこか敵を見渡せる場所はないか? この屋上では先頭の部隊しか見えなかった」
朝9時に起きて、俺たちはすぐ屋上に向かったのだ。そのときには敵軍に特に変化は見られなかった。そして用意された朝食を食べているときにエースがやってきた。
「よろしいのですか? 敵部隊まではまだかなり距離がありますので。ゆっくり食べ終わってからでも充分です。そんなに急がなくてもよろしいかと。それに、ユウさんやハルミ殿をあまり危険な場所にお連れするわけには」
「侯爵様、かまわない。ユウの言う通りしてくれ。敵の、それも戦車の部隊が見渡せるところに案内してもらいたいのだが」
「戦車部隊でしたら、現在3カ所に分散しているようです。左翼に15台。中央に35台。右翼ははっきり分かりませんがおそらく10台前後を配備しているようです。そのうちの左翼と中央はあの丘に立てばほぼすべて見えると思いますが?」
「もぐもぐもぐ、この柿もうまいな。よし、じゃあその丘まで案内してくれ。それと、俺たちのすることは、しばらくは静観していてくれもぐもぐ」
「え? ええ。ユウさんがそうおっしゃるなら案内はします。ただ、あの戦車はとても危険な相手です。動き始めたら近づく前にこちらから打って出る予定をしています。そのときはすぐに避難してください」
「あ、うん。そうだね」
と気のない返事を送って、合計50台ほどの戦車が見渡せるという丘に向かう。エース軍が打って出る必要はおそらくないだろうなぁ。
「必ずですよ!」
「あ、うん、そうだね」
(すごい温度差があるようなのだヨ)
丘の頂上の少し手前で単眼鏡を使って敵を観察する。さすがに戦車を横一列に並べていてはくれない。こちらに4台。あちらに7台といった具合にある程度は分散させている。
突入するときにはどこか一カ所に集めるのだろうけど、それをどこにするか、まだ決めていないようだ。
「イズナがこちらのことをどう伝えたか、だな」
単眼鏡はひとつだけだ。当然、それは俺が持っている。ハルミは裸眼で見ている。しかしである。
「でも、警戒しているようには見えないぞ。あ、あの男、ズボンのファスナーが開いている」
「視力いいなお前は! そんなもんは見なくてよろしい」
「裸眼で3.0以上あるからな。見なくてもいいものまで見えてしまうのだ。100m先のアリが動いていても視認できるぞ」
「お前はブッシュマンか。それはすごいが自慢はもういい。ファスナーごとぶった切ってやれ」
「どのみち、私の目に見える部分の無機物だったら斬れちゃうだろう。気の毒にな」
「敵に同情することはないぞ。しかし、戦車を何台か壊せば向こうも異変に気づくだろう。ハルミの恐ろしいほどの能力にもな。そのときにどんな対策をとってくるのか。そこが最後の勝負どころとなるだろう」
「そ、そ、そうだな。なんかわくわくするするな」
「ファスナーを壊すのが?」
「そんなわけあるかっ!」
そのときは俺の指示に従えよ。それからまだ気持ちは抑えろ。などなど細かい指示を与えつつしばらく観察を続ける。時間は10時を回った頃だろうか。先頭車両が動き出した。
「あ、ユウ。動いたぞ」
「動いたな。これで後ろが続いてくれば、全体がよく見えるようになるのだが。そろそろやれそうか?」
「いけると思う。もう私は出ちゃって良いのでひゃにゃいか?」
カンでんじゃねぇよ。緊張してんのか興奮してんのか。この分だと保たない。ハルミが。
もういいや、やらせよう。ニホン刀を振るだけだ。弾が減ることも銃口が過熱して撃てなくなる心配もないのだ。よく考えると恐ろしい武器だな、これ。
「よし、ハルミ。刀は2本とも持ったな?」
「ああ、ちゃんと両方とも腰に差してある」
「周りの連中には、長いほうを振ったと思わせたいんだ。だからミノオウハルは使ったら毎回すぐに鞘に戻せ。お前の剣技ならいつ抜いたかなんて誰にも分からんはずだ」
「分かってるよ。これは魔刀だからな、秘密にしておくのだろ?」
「その通りだ。じゃあゴーだ。撃つタイミングはお前にまかせる」
よっしゃぁぁぁ! という気合いを残してハルミは猛ダッシュで丘の頂上まで走って行った。そのときエースがやってきた。
「戦車部隊が動き始めました。危険です。お戻りください!」
「侯爵。もう少し見ててくれ」
「はい、しかし、私にも責任が」
「まだ、相手の攻撃は届かない距離だ。大丈夫だ」
「ええ、でもあの戦車、見た目よりも足が速いのです。そろそろ退却を」
向かい風が吹いている。敵陣の先頭までの距離はおよそ5km。そんな高台にハルミは立っている。
長い髪をあえて結ばず、風に流れるままにしているのは、女性であることをアピールするためだ。
女性ならば敵は撃ってこないだろうとか、そんな姑息なことを考えているわけではない。これは伝説を作るための工夫だ。
弓の射程などせいぜい100mに過ぎない。弩を使ったところでせいぜい400m程度だ。そしてたいがいの魔法も、射程はそれらとほとんど変わらない。
ハルミの立っているのはそういう場所である。お互いにどんな攻撃も届くはずのない距離。しかし目で見ることはできる距離。小さな雲がちぎれたりくっついたりしながら空を泳いで行く。
その丘に仁王立する少女。そこから少女は飛ぶ斬撃を放つのだ。これが伝説にならずしてなにが伝説になりうるというのだ。
敵陣ではハルミの仁王立を「異変」と捉えていた。敵陣での会話である。
「おい、すっげぇ美女があんなとこに立っているぞ」
「おおぉ。乳もでっかいなぁ。俺の好みだ。嫁にしてえなぁでへへ」
「お前の女房にチクってやるぞ」
「それだけは勘弁な。しかし、いい女だなぁ。乳もでかいし腰はきゅっと締まっているし」
「後ろを向いてケツを見せてもらいたいものだな」
「ああ、あの乳を好きなだけ揉みしだきてぇ」
うん。まるでグラビアアイドル扱いですね。
「見世ものにすんなぁぁ!!!」
ハルミの魂の叫びである。しかし、それは決して表には出してはいけないのだ。これから伝説を作るのだから、と何度も言い聞かせてある。
伝説に必要なものは、神秘性とインパクトだ。ツッコんだらその瞬間に神秘性は失われる。だからなにを言われても我慢するのだぞ。
いい乳していることには同意する。それどころかケツだって最高だぞ?
ぶげっぶ。。。。
振り向きざまにハルミが投げた石が俺の顔面を直撃した。すぐ隣に侯爵がいるというのに、こういうときはえらく正確だないだだだだだ。
「だ、大丈夫ですか? ユウさん。アイシン、すぐ回復魔法を」
「だ、だ、大丈夫だ。それより侯爵、見逃さないほうがいいぞ。これからそう何度も見られることのない、ハルミの渾身の魔法が炸裂するからないででで」
「えええっ? ハルミ殿は魔法使いだったのですか」
違いますよ。でも、そういうことにしておかないと説明がめんどくさいんだもん。
「隠していたけど、その通りだ。それで一気にケリをつける」
「しかし、この距離で届く魔法なんて魔王ぐらいにしか使えない超級魔法だけですよ。それに、あの戦車には魔法防御がかけられています。それを打ち破るほどの魔法なんていったらやはり魔王の」
侯爵の話が終わらないうちに、ハルミが動いた。
それは音もなく始まった。敵兵士たちがエロエロの目で見つめる中、かの少女は腰に当てた手を下から上に振り抜いたのだ。その刹那。
戦車がすこんっという音を立た。魔法防御はあくまで魔法に対する防御だ。ハルミの魔刀は、魔力でもって刀を飛ばし物理攻撃でもって相手を斬る。そういうたぐいのものだ。魔法防御では防げない。
その戦車は3人乗りであった。うちふたりはミナミの世話役である運転手。残りのひとりは進行方向を決めるなどの指揮者である。
ミナミは戦車の中で回し車を回している。それが動力だ。それを安定して走らせるためにエサをやったり水を与えたり、ときには脅かしたりするのが運転手の仕事である。
指揮者は戦車の中でもやや高い位置に座っているために、異変をすぐに察知した。のぞき穴の位置が勝手にずれて行ったからである。
「あれれ? あれれ? あれぇ?」
などと言っているうちに、戦車の上半分が取り残されるように後ろにずれて下がり、下半分だけが前に進んでいた。指揮者は戦車の上半分と運命を共にした。ぎゃーー。
頭の上が突然に明るくなって運転手も驚いたが、一番驚いたのはミナミたちであった。妙な音と突然の光に彼らはパニックとなり、戦車から飛び出し逃げてしまった。
ハルミの飛ぶ斬撃は、戦車を上下ふたつに分断したのだった。
かくして戦車は沈黙した。あっけにとられるふたりの世話係……運転手を残して。
ハルミは確かに手応えを感じていた。
(す、すごい。練習のときよりもずっと遠いのに。本当に見えさえすれば切れるんだなこの刀は。このずしりとした手応えの分だけ戦車が斬れている。ああ、快感だ。もっともっと、もっと斬りたい、もっと)
最初の一撃でハルミが斬ったった戦車は4台であった。それを見て、俺は声をかける。
「その調子だ。見える限りの戦車をぶった切ってしまえ!」
ハルミはやや硬直した顔をこちらに向けて頷き、再度ミノオウハルを振った。
2回目は7台。3回目は11台。戦車が沈黙してゆく。そのうち、敵も気がついた。あの少女がなにかを振るたびに、こちらの戦車が「斬れてゆく」ことに。
しかし、そんなことが起こるとは思っていなかった彼らには、とるべき手段がとっさには思いつかない。
魔法防御をかけてあるはずなのに、どうしてこんな簡単にやられたんだ。そもそも鉄がこんなキレイに斬れるはずがないだろ。ほんとにあんな遠くから魔法を撃っているのか。どんな魔法だ。修理はできないのか。ミナミを捕まえろ。
などなど、現状分析さえできずにうろたえるだけであった。ただただ、疑問符のオンパレードである。
そうこうしているうちに、4回目は15台。6回目は9台と戦車は沈黙をしてゆく。すでに中央と左翼の戦車部隊は壊滅状態であると言って良いだろう。
「なんでだよ。どうしてだ。どうして戦車だけが斬れてくんだ?! どんな魔法を使ったらそんなことができるんだ」
「隊長。それよりも、これでは進軍できません。ミナミは逃げるしもともと飼育係……運転手は戦闘の役には立ちませんし」
「まだ右翼の戦車は無事だな。その戦車はなにがなんでも守れ。魔法使いを動員して結界を張れ。魔法だけじゃなく物理攻撃にも耐性のあるやつだ」
「しかしそれをやりますと」
「いいからやれ!! あの戦車を全部失ったら我が国は滅びるぞ!?」
「は、はい!!」
7回目は2台。8回目も2台。これで中央と左翼の戦車は完全に排除した。
よくやった。もういいぞ、ハルミは戻ってこい。一旦下がって次は左翼を狙うために移動す……ハルミ? ハルミさん?
おーい、いずこへ??
もどってこーい。おーいこらぁぁ。そっちじゃないぞーー。なんで勝手に敵陣地に向かって走ってゆくんだよ!? お前はアホかぁぁ!?!
そのとき、エースが大声を出して言った。
「ものども!! ハルミ殿を守……。ハルミ殿に続けぇぇぇl!! 敵を一気に殲滅するぞ! 進めぇぇぇやぁぁぁぁ」
守るって言いかけて、続けと言い直した?! なんのこっちゃ。あれ、俺はいったいどうすれば? 俺を守るハルミがいなくなっちゃったら俺はどうすればはれほれひれはれ???
「ユウさん。あとはこちらにまかせてください。アイシン。ユウさんの保護を命じる。安全なところまで下がって待機せよ」
「ええっ、そんな僕だって」
「アイシン、命令だ!」
「……はい。分かりました。それではユウ様、この馬に乗ってください。安全なところまで護衛します」
「あ、ああ、すまん。よろしく頼む」
こうなったら俺はもう戦場では足手まといに過ぎない。一足先に撤退である。ただ、撤退するときの護衛がハルミからアイシンに変わってしまっただけだ。だけどもう少し見ていたかったなぁ。
ぱっからぽっからぺっこら。アイシンと俺を乗せた馬が走る。あれ?
「アイシン、例のお屋敷に行くんじゃないのか?」
「いえ、あそこは危険です。もっと東の桃配山にあるお屋敷までお連れします」
「あそこがそんなに危険なのか? どうしてだ?」
「いま、ハルミ様が暴走……あ、いや、先陣を切ったことで、侯爵は決戦時と見ました。それで全軍を敵の左翼に向けたんです」
「気を使わなくていい。あれは明らかにハルミの暴走だ」
「はい。相手は戦車こそ失いましたが、敵の兵士には被害がでていないようです。つまりは、こちらの倍の戦力がまだあるということです」
ああ、そうだった。俺は戦車のことしか考えていなかった。あれさえ潰せば勝てると思い込んでいた。
だが、現実はそうじゃなかった。ものすごく不利だった戦いが、不利になったに過ぎなかったのだ。
「侯爵が全軍を左翼に向けると、あの屋敷は敵の主力に対してまるで無防備になります。敵が陣を建て直して落ち着きを取り戻したら、まっさきに攻撃対象になるでしょう。それでユウ様を逃がせと、僕に命令したのです」
ほぇぇぇ。俺ってばとっても危険なとこにいたのね。のんびりした戦いだと思っていたのに、じつはそんな危険な場所であったとは。
渡り終えたあとで、じつは下は断崖絶壁だったと知らされた綱渡りの人みたいに、いまさらながらにビビる俺なのであった。
「アイシン、もうひとつ聞いてもいいか?」
「はい、なんでしょうか?」
「なんでエース……侯爵はハルミを守るといいかけて、続けと言い直したんだろう?」
「ああ、あれは志気を高めるためですね」
「志気を高める? あれでどうやって?」
「つまり、ハルミ殿が暴走したので仕方なく応援を出すのではなく、最初からそういう計画であったと兵士たちにそう思わせたかったんです」
「なんでまた、そんなことを?」
「ハルミ様の剣技もあの暴走も、侯爵にとっては予定外でした。もちろん私にとってもです。でもそれを後追いで承認したと思わせたのでは、兵士たちに戸惑いが生じます。そんな行き当たりばったりな指導者について行って良いものだろうか、という疑惑がわくのです」
「それは、確かにそうだな」
「それで、あれは最初から俺の計画通りなのだ、というフリを侯爵はしたのです。そうすることで、志気を落とさず敵に当たることができるのです」
ああ、なんてややこしい世界。俺には無理だ。もう戦争に関わるのは止めよう。
「自分の動揺などは心の奥底にしまい込んで、いかにも最初から予定通りの作戦であると、そう兵士たちに思わせたのです。あのタイミングでのあのとっさの判断。私にはとてもマネができません。すばらしい近衛大将です」
「ほえぇ。侯爵がすごいのはよく分かったが、それは戦いに勝っての話だよな」
「それはその通りです。屋敷についたら戦場が見えます。もう少しつかまっていてください」
そんな頃。エチ国の左翼では、大変なことが起こっていた。
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