異世界でカイゼン

soue kitakaze

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第107話 必要なのは強力粉

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「ユウ、これからステンレスを作り始めるけどよいノか」
「ああ、いいよ。作ってくれ」
「ほい、なノだ」

「ユウ。これからニホン刀を打つけどいいだろ?」
「ああ、いいよ。ヤッサン。やってくれ」

「ユウ。これからニッケルめっきするけど」
「もう分かったから! 勝手にやっていいから」

「ユウ、これから魚釣りに行くけど」
「勝手に行けばいいだろうが!!」

「ユウ、これからご飯」
「勝手にやれって言ってるだろ!! あ、あれ? ごごごごご飯?」

「むかっ。どうして私が怒鳴られないといけないのよ! もう知らない! ユウなんかしばらくご飯抜きだからね!!」

「あぁん、すみませんすみませんすみませんほんとすみません。ミヨシさぁぁぁん。間違えたんですって。ごめんなさいすみませんかんにんしてや申し訳ないすみません。だって、みんながよってたかって聞きに来るんだもん、おちおち寝ていられなくて」

「ふふふ、分かってるわよ。いまのはほんの冗談よ。はい、マグロの刺身と味噌汁にウナギのひつまぶしね。それにお新香と刺身醤油ね。お櫃で置いておくから好きなだけ自分でよそって食べてね」

「いつもすみませんデス」
「そう思うのなら出てきたら?」
「それはちょっと……」
「そうか。じゃ、食べ終わったら呼んでね」

 ミヨシの優しさが身に染みるこの頃です。ああ、ひつまぶしがうまい。

 ちなみに、櫃(ひつ)まぶしである。うなぎを細かく刻んで、お櫃に混ぜ込んだ昔のまかない食である。

 ウナギにタレをつけた後に炙ってからご飯に混ぜ込むので、うな丼よりもタレがくどくなく食べやすい。うなぎの最もうまい食べ方である(個人の感想です)。
 暇つぶしではないのでご注意を。

「ばくばくばくばく。ああ、うまい。仕事してなくてもご飯が食べられる幸せ。もう、俺はこれだけで一生終わろうかな。それで別に不満はないし。でもな……」

 実はちょっと退屈してきているのだ。帰ってきた最初の日に熱を出して寝込み、それから3日ほどは熱が下がらず、身体がだるくて寝込んだ。

 ばくばくばくもぐもぐばく。

 そのうちに、イズナの言っていたエチ国の技術者って人が来たらしいが、俺はまだ会ってもいない。会いたくもないから放っている。

 もともと知らない人にほいほい会える人間ではないのだ。年期の入った人見知りをなめるな。それがやる気をなくしているのだからなおさらである。
 人と会わずに生きていけるのなら、悪魔に魂を1時間くらいならレンタルしてやってもいいぐらいである。

「それはあまりに安いトレードなノだ?」

 しかし熱も下がって3日目。ここにはインターネットもなければテレビもない。書籍はあるけど雑誌はない。グラビアなんかとんでもない。ナツメはあってもケーキはない。あるわけねぇ。おらが村には技術がねぇ。

 ないないづくしでニートにはとても厳しい世界である。

 ……暇つぶしに外に出ようっと。

 俺は食べ尽くした(食欲だけは落ちない不思議)食器を乗せたトレーを持って食堂に向かう。トレーは流しに置いておけば後はミヨシが片付けてくれ。

「こらっ!!」

 おおっ、びっくりした。なんだいまのは、誰の声だ?

「こらっ!! 自分が食べた分くらは自分で洗う……って誰?」
「お前こそ誰?」
「いやいや、私が聞いているのだ。お前は誰だ?!」
「いやいやいや。聞いているのは俺のほうだ。お前こそ誰だよ?!」
「いやいやいやいや。お前言うな。年下の分際でその口の利き方はなんだ!」

 いやの数だだんだん増えて行く定期。

 なんだか面倒なのにつかまってしまった。年下って俺は……12才でした。だけど、いままでその年齢扱いはされたことがない。収入以外はなこんちくしお。

「メガネっ娘。長髪お前はもしかして、エチ国から派遣されたやつか?」
「誰がメガネっ娘だ。それからお前って呼ぶなと……あれ、なんで私を知っている?」
「知らないよ。想像しただけだ。おーい、誰かいないかー。ミヨシーー。ハルミーー?」

「はーい。あら、やっと出てきたのね、ユウ。あら、モナカさんはもうお代わりはいりませんか」
「ああ、どうも、ご馳走さまでした。おいしかったです。それで、この小僧さんはいったい?」

 誰が小僧だよ。

 小僧だけどな!

「ちょっと病気を抉らせちゃって療養中だったので紹介が遅れたわね。ユウ、こちらはモナカさん。エチ国から派遣されてきた農業技術者よ。専門は微生物だって。それからモナカさん。こちらは研究所の所長のユウよ。仲良くしてあげてね」

「しょしょじょしょじょじぃ?」

 だれが証城寺の狸だ。袋に詰めてポンと蹴ったろか。

「混ざってる混ざってるノだ」

「しょ、所長様であられましたかのでありますえうかえでふじこ」

 落ち着け。あと、ふじこだけを後からとってつけるな。

「こっここ、これは失礼なことを言いました。私はモナカ。24才独身のピチピチ研究員です。このたびはお招きに預かり恐悦死語とにざんぞんです」

 だから落ち着け。

「分かればよろしい。モナカか。まだ研究所が完成してないので、しばらくは……あれ? すでになにかやってるのか?」
「ええ、いまはイズナ様のお手伝いのためにウエモンさんのお手伝いをしながら裏の空き地に畑を作っておりますですはいですよ」

「ややこしいから普通にしゃべれ。畑ということは小麦用だな。それは専門なのか?」
「専門ではありませんが、毎年冬には実家のお手伝いでやっている仕事です。やり方は心得ております。こちらは雪が降らないので楽ですね」

「その小麦なんだが、俺の要望を言ってもいいか?」
「はい、なんなりとご命令ください」

 なんか体育会系なやつだな。こういうの苦手なんだが。

「俺が必要としているのは、コシの強い小麦なんだだ。ぜひ、それを開発してもらいたい」
「コシの強い小麦ですか? それは強力粉という意味ではなくて?」
「そう、強力粉だと思えば良い。タンパク質の含有量の高い小麦を作ってくれ。薄力粉も別件で必要だが、とりあえず優先は強力粉だと思ってくれ」

「分かりました、それならちょうどいい品種があります。エチ国の研究所で20年前に開発された種で」
「待て待て待て。なんでそんな昔なんだよ」
「作ってはみたものの、使い道がなくて棚の隅でホコリをかぶっていた20年前の研究資料がありまして」

「そんなものを見たのか」
「ええ、その資料バインダーに挟まっていた走り書きのメモ用紙に書いてありました」

「資料じゃなくてメモ用紙かよ! なんでそんなものを読んだんだ?」
「研究室にある資料は片っ端から読んでしまって暇だったもので……」

 あ、あらそ。それは、その。よくやった。

「お、おかげで強力粉が作れるわけだな」
「はい。それではその種籾を取り寄せて、栽培にかかりましょう」
「え? そんな古いものが保存してあるのか?
「はい、充分乾燥させておけば何年でも持ちますから。ただ、発芽率は落ちているので、最初は収量が落ちますけど」

「そうか。今年はまだテストを開始する年だから、とにかく収穫できれば良い。そのぐらいのつもりでやってくれ」
「おかのした」

 誰だよ、おかしな言葉を流行らせたやつ!!

(ふふふ。ユウったらやる気が出てきたじゃない。もう復活ね)
(こやつになにもするな、というほうが拷問なノだよ)
(面倒くさいやつゾヨ)
(我らはもう慣れてしまったヨ)
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